【完結】金の王は美貌の旅人を逃がさない

ゆらり

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本編第二部「金の王と不変の佳人」

4 無理をしないという我慢

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 ――艶やかで濃密な一夜が明け、陽が昇り始める早朝の頃。

 いつもならば鍛錬をするキュリオの姿が庭に見られるのだが、この日は見られなかった。

「抱き潰してしまったな。すまない」
「暫く眠れば癒えるから大丈夫だ。それに、私の与えられるのもを、何かしら君に与えたかったのだよ。強く求めてくれて嬉しかったよ」

 朝の柔らかな陽光に照らされた寝台の上。満ち足りた顔で微笑むキュリオの頭を、横に寝そべったヤスーダが心配顔で撫でていた。

「キュリオ、無理をして抱かれようとするなよ」

 諭すように言われたキュリオは、実に不安気な表情になる。
 
「良くなかったのかね」
「違う……。……良くなかったら抱き潰したりしない。良過ぎた」
「……ふむ、それなら問題は無いね。私はどうされても平気だから、我慢しないで好き抱いて欲しい」 

 呑気に微笑んで言った途端、リヤスーダの眉間に深い皺が寄る。そして、苛立ちもあらわな半目になったかと思うとキュリオの耳を掴んで引っ張った。

「いっ! 止してくれリヤっ、痛い……!」
「お前が苦しんでまで与える快楽などいらん!」
「……っ!や、止めっ……!」

 険しい顔で怒鳴りながらひとしきり引っ張って、昏々と説教を続けられた・ようやく手を離す頃には、さすがのキュリオも痛みのあまり耳を押さえて呻いていた。 

「うぅ……、弟君と同じ扱いを受けるとは思わなかったよ……。思ったよりも、痛い……」
「奴にやったよりは加減したつもりだがな」
 
 痛みに呻くキュリオの頭を、大きな手が優しく撫でる。

「痛いよりも、こっちの方が良いだろう」と、頬に手を滑らせて温めるように包み込むと、キュリオは目を細めて「ああ、そうだね」と言って小さく頷いた。

「出来る事なら、お前に苦しみや痛みなんて与えたくないんだ。俺はお前に負担を掛けないように我慢をする。お前も無茶をしないというをしろ。――分かったか?」
 
 イグルシアスに言うのとはまた違うが、まるで弟を窘めているような口調で、リヤスーダが言う。心地良さげに手のひらに頬を摺り寄せていたキュリオが、その言葉に目を丸くした。

「はは! お前のそういう顔は初めて見たな。面白い」

 彼にしては珍しい驚きの表情にリヤスーダが笑うと、彼はリヤスーダの手のひらに顔を半ば隠しながらこう言った。

「なんというか……、こんな風に叱られるとは思わなんだというか……。驚いた」

 手に隠れきれずに見えている側の耳や頬がほんのりと赤い。

「おかしい。酷く叱られたというのに何やら、嬉しくて、照れ臭いのはどうしてだろうね。ああ、君の言いたいことは何となく、わかったよ」
「何となくと言っている辺りが、いまいち信用できないぞお前」

 リヤスーダはもう片方の手を添えて、赤面しているキュリオの顔を自分の方へ向けさせた。 
 
「無茶はしない。……我慢をする」
 
 恥じらい頬を染めて微笑むキュリオの顔に、今度はリヤスーダが目を丸くした。房事には羞恥など欠片も見せなかった彼が、意外な場面で見せたその表情は、初々しささえ漂うものだった。

「こういう顔も初めて見たな」

 情事とは違う色味の朱に染められた肌に引き寄せられるように、軽い口付けを幾度も落とす。

「自分を大事にしろ。死ねないからなんだというのだ。お前だって痛いものは痛い、苦しいものは苦しいだろう。……俺はそんなお前を見たくはないんだ。……忘れないでくれよ。キュリオ……」
 
 甘く愛し気に囁き、深く口付けていく。

「ん……っ、はぁっ、んん……、リヤ、駄目だ……」

 暫し続いた口付けだったが、キュリオが身をよじり顔を背けたことで終わってしまう。

「駄目か? もう少しだけ、許してはくれないか」
「許したいところだが……、火が点いて収拾がつかなくなりそうだ。私は、さすがに体が痛いからもう一度今から眠りたいところであるし、君とて昼過ぎには勤めに戻るのだから、程々にしておかねばなるまいよ」

 苦笑と共に返されたのは、もっともな言葉だった。

「……これも我慢するところだな」
 
 リヤスーダが残念そうに眉根を下げ、それを見たキュリオは「そうだね」と言って楽し気に笑った。
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