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本編第四部「黄金色の夢の結末」
1 叶う事なら永遠に ※R18
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――夜が深まった刻、離れ家の寝台の上。
覆いが下ろされた白い天蓋が薄明りに照らされている姿は、まるで大きな眉のようだ。その白い繭の内側で揺らめく、ふたつの影がふたつ。
「あっ、あぁっ……」
リヤスーダの男の物で後孔を深くまで拓かれ、密着した腰をゆらりと揺すられる度にキュリオの口からは快楽だけが溶けだした甘い声音が上がる。
しなやかな線で形作られたやや鋭角なくびれのある引き締まった腰を、大きな褐色の掌がやんわりと撫で上げた。続いて、わき腹や胸へと滑らされた剣ダコの目立つ太い指先が、華奢なあばらや胸の尖りをなぞり、淡く上気した頬へと這わされる。
「ん、あ……っ、はぁ……っ」
優しく労りに満ちた触れ方にキュリオは無防備な姿を晒して溺れ、シーツの上を優美な手がもどかし気に彷徨う。
「心地いいか……? キュリオ」
「んっ、いい……、あ……、んんっ」
強かに腰を押し付けながら上体を屈ませて、リヤスーダが低く囁き柔く唇で耳を食むと、大きく震えるしなやかで美しい裸身。寝台の上に広がる長い黒髪を背に、褐色の肌をした男に組み敷かれる彼は殊更に白く際立って見えた。
「んっ、はっ……、リヤぁ……っ」
優美な手が、心臓の辺りに滑らされる。厚い胸板の下にある脈打つ熱源を確かめるようにして、肌の上を忙しなく彷徨う白い指先。
「君のが、あっ、私からっ、溢れるまで、……し、……して、くれ……」
慈愛を込めて微笑みながら、切なげで甘い声音で囁かれた懇願。余裕の表情すら見せていたリヤスーダが、目を見開き息を詰めて体を硬直させた。
「んあっ…、はぁっ……リヤ、お願いだ。……早く……」
骨太な腰を太腿で挟んで締め付け腰を揺らし、熱い吐息の絡む喘ぎ声を男の耳へと注ぎ込む。涼やかな翡翠の瞳を潤ませて、泣き出す前の子供にも似て弱々しく不安気な表情で愛しい相手の情を乞う。清廉さを失わないながらも余りに率直で、露骨なまでに淫らな懇願だった。
先程から既に行為により上気していたリヤスーダの顔が、更に濃い興奮を示す朱に染まっていく。
「ぐ、ぬっ……!」
白い細腰を褐色の武骨な手で両側から強く掴み、緩やかだった腰の動きが激しい物に変えていく。
「あっ、うっ! ……あああああっ!」
突き破らんばかりの強い律動に加えて、与えられる快楽によって熱を持ち濡れそぼっていた男の徴へも手荒く急いた愛撫を施されて、キュリオは高く悲鳴を上げ身を仰け反らせて身悶えし、何度も小刻みに痙攣しながら達した。
「煽るなっ!」
「あっ、リヤ……っ! ああっ――」
――散々に煽ってリヤスーダの理性を引き千切り、手酷く抱かれ続けたキュリオは、仕舞には顔を青ざめさせてぐったりと力尽きていた。また抑えられなかったかと項垂れながらもリヤスーダは起き上がれないでいる彼の細身を軽々と抱え上げて浴室へと向かう。そうして体を清めるなどして甲斐甲斐しく世話を焼いた後。
「――まったく、無茶をさせる……」
浴室に居る間にシーツの取り替えられた寝台の上へ、キュリオをそっと横たえたリヤスーダは、やれやれと頭を振って言った。体格の差もあり、傷付けず苦痛が無い様にと手順を念入りに踏んだところで、過ぎた行為は抱かれる側にとって負担が大きい。
「……すまないね……。君を強く感じたくて……、我慢、できなかった……」
リヤスーダは、彼に負担を掛けまいと穏やかな行為で終わらせようと努めていたが、キュリオは時折不意打ちで、リヤスーダを煽って強い欲情を引きずり出し、激しい行為に持ち込ませるのだ。
そういうときには常の彼は浮かべる事のない、不安気で弱々しい表情を見せる。
「仕方の無い奴だ」と呟きながら、寝台に上がってきたリヤスーダがキュリオをやんわりと抱き締めると、彼は肌蹴た夜着の合間から覗く胸板に頬を押し当てて、嬉し気に翡翠色の瞳を細める。
「ふふ……。温かい……」
愛する者の体温に包まれて、とろりと至福の笑みを浮かべる佳人の姿は、四半世紀を越えてもやはり変わらず若い青年の姿だ。
彼の艶やかな黒髪を撫でて触れるだけの口付けを落とした王の顔は、これまでの年月をはっきりと老いとして刻みながらも、生気に満ちた精悍さを保っていた。
薄灯りに照らされた肌には張りがあり、均整の取れた長躯は衰えもせず引き締まっていて崩れなどちらとも見えない。そして今や侵し難い王者の風格を備えた彼の自慢でもある、黄金の髪は、色変わりを見せる気配も無く輝いている。
だが、やはり、彼らが出逢った頃の若者然とした姿とはまた違うのも確かだ。
「こうして、抱き締めてくれるだけでも……、とても温かくて、幸せだ……」
「だったらもう、いい加減大人しくしてくれ。いくら俺だとて、そういつまでも無理が利く訳ではないのだからな。若くはないのだ」
頭を撫でながら、リヤスーダは溜息をつく。
「ん……、……それなら尚更、今のうちに、もっと望むままに、欲しいだけ私を酷く抱いて……、くれればいい……。君の温かさを、忘れない……よう、に……」
胸板に頬擦りをして甘えながら、半ば寝ぼけた不明瞭な声で碌でもない事を呟くキュリオ。やがて眠りに落ち、すぅすぅと安らかな寝息を立て始めた彼に、リヤスーダは苦笑するしかなかった。
「永遠に捕らえ続けてやると、言ってやりたいが……」
王の掌中に在る不変の美しい存在が本当は何を望み、何に憂いを覚えているかなど解り切った事だが、その望みを叶えて憂いを取り除く事が出来ないのもまた、分かっていた事だ。
「その様な嘘など、慰めにもならんだろうな。出来もせぬ誓いは要らぬであろう?」
黄金色の王は愛しい青年の唇や頬、額に口付けを落とし、瞳を閉じた事で幼ささえ漂わせている美貌を見つめて、眠る彼に向けて訊かせるつもりの無い問いを、微かな声音で呟いたのだった。
覆いが下ろされた白い天蓋が薄明りに照らされている姿は、まるで大きな眉のようだ。その白い繭の内側で揺らめく、ふたつの影がふたつ。
「あっ、あぁっ……」
リヤスーダの男の物で後孔を深くまで拓かれ、密着した腰をゆらりと揺すられる度にキュリオの口からは快楽だけが溶けだした甘い声音が上がる。
しなやかな線で形作られたやや鋭角なくびれのある引き締まった腰を、大きな褐色の掌がやんわりと撫で上げた。続いて、わき腹や胸へと滑らされた剣ダコの目立つ太い指先が、華奢なあばらや胸の尖りをなぞり、淡く上気した頬へと這わされる。
「ん、あ……っ、はぁ……っ」
優しく労りに満ちた触れ方にキュリオは無防備な姿を晒して溺れ、シーツの上を優美な手がもどかし気に彷徨う。
「心地いいか……? キュリオ」
「んっ、いい……、あ……、んんっ」
強かに腰を押し付けながら上体を屈ませて、リヤスーダが低く囁き柔く唇で耳を食むと、大きく震えるしなやかで美しい裸身。寝台の上に広がる長い黒髪を背に、褐色の肌をした男に組み敷かれる彼は殊更に白く際立って見えた。
「んっ、はっ……、リヤぁ……っ」
優美な手が、心臓の辺りに滑らされる。厚い胸板の下にある脈打つ熱源を確かめるようにして、肌の上を忙しなく彷徨う白い指先。
「君のが、あっ、私からっ、溢れるまで、……し、……して、くれ……」
慈愛を込めて微笑みながら、切なげで甘い声音で囁かれた懇願。余裕の表情すら見せていたリヤスーダが、目を見開き息を詰めて体を硬直させた。
「んあっ…、はぁっ……リヤ、お願いだ。……早く……」
骨太な腰を太腿で挟んで締め付け腰を揺らし、熱い吐息の絡む喘ぎ声を男の耳へと注ぎ込む。涼やかな翡翠の瞳を潤ませて、泣き出す前の子供にも似て弱々しく不安気な表情で愛しい相手の情を乞う。清廉さを失わないながらも余りに率直で、露骨なまでに淫らな懇願だった。
先程から既に行為により上気していたリヤスーダの顔が、更に濃い興奮を示す朱に染まっていく。
「ぐ、ぬっ……!」
白い細腰を褐色の武骨な手で両側から強く掴み、緩やかだった腰の動きが激しい物に変えていく。
「あっ、うっ! ……あああああっ!」
突き破らんばかりの強い律動に加えて、与えられる快楽によって熱を持ち濡れそぼっていた男の徴へも手荒く急いた愛撫を施されて、キュリオは高く悲鳴を上げ身を仰け反らせて身悶えし、何度も小刻みに痙攣しながら達した。
「煽るなっ!」
「あっ、リヤ……っ! ああっ――」
――散々に煽ってリヤスーダの理性を引き千切り、手酷く抱かれ続けたキュリオは、仕舞には顔を青ざめさせてぐったりと力尽きていた。また抑えられなかったかと項垂れながらもリヤスーダは起き上がれないでいる彼の細身を軽々と抱え上げて浴室へと向かう。そうして体を清めるなどして甲斐甲斐しく世話を焼いた後。
「――まったく、無茶をさせる……」
浴室に居る間にシーツの取り替えられた寝台の上へ、キュリオをそっと横たえたリヤスーダは、やれやれと頭を振って言った。体格の差もあり、傷付けず苦痛が無い様にと手順を念入りに踏んだところで、過ぎた行為は抱かれる側にとって負担が大きい。
「……すまないね……。君を強く感じたくて……、我慢、できなかった……」
リヤスーダは、彼に負担を掛けまいと穏やかな行為で終わらせようと努めていたが、キュリオは時折不意打ちで、リヤスーダを煽って強い欲情を引きずり出し、激しい行為に持ち込ませるのだ。
そういうときには常の彼は浮かべる事のない、不安気で弱々しい表情を見せる。
「仕方の無い奴だ」と呟きながら、寝台に上がってきたリヤスーダがキュリオをやんわりと抱き締めると、彼は肌蹴た夜着の合間から覗く胸板に頬を押し当てて、嬉し気に翡翠色の瞳を細める。
「ふふ……。温かい……」
愛する者の体温に包まれて、とろりと至福の笑みを浮かべる佳人の姿は、四半世紀を越えてもやはり変わらず若い青年の姿だ。
彼の艶やかな黒髪を撫でて触れるだけの口付けを落とした王の顔は、これまでの年月をはっきりと老いとして刻みながらも、生気に満ちた精悍さを保っていた。
薄灯りに照らされた肌には張りがあり、均整の取れた長躯は衰えもせず引き締まっていて崩れなどちらとも見えない。そして今や侵し難い王者の風格を備えた彼の自慢でもある、黄金の髪は、色変わりを見せる気配も無く輝いている。
だが、やはり、彼らが出逢った頃の若者然とした姿とはまた違うのも確かだ。
「こうして、抱き締めてくれるだけでも……、とても温かくて、幸せだ……」
「だったらもう、いい加減大人しくしてくれ。いくら俺だとて、そういつまでも無理が利く訳ではないのだからな。若くはないのだ」
頭を撫でながら、リヤスーダは溜息をつく。
「ん……、……それなら尚更、今のうちに、もっと望むままに、欲しいだけ私を酷く抱いて……、くれればいい……。君の温かさを、忘れない……よう、に……」
胸板に頬擦りをして甘えながら、半ば寝ぼけた不明瞭な声で碌でもない事を呟くキュリオ。やがて眠りに落ち、すぅすぅと安らかな寝息を立て始めた彼に、リヤスーダは苦笑するしかなかった。
「永遠に捕らえ続けてやると、言ってやりたいが……」
王の掌中に在る不変の美しい存在が本当は何を望み、何に憂いを覚えているかなど解り切った事だが、その望みを叶えて憂いを取り除く事が出来ないのもまた、分かっていた事だ。
「その様な嘘など、慰めにもならんだろうな。出来もせぬ誓いは要らぬであろう?」
黄金色の王は愛しい青年の唇や頬、額に口付けを落とし、瞳を閉じた事で幼ささえ漂わせている美貌を見つめて、眠る彼に向けて訊かせるつもりの無い問いを、微かな声音で呟いたのだった。
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