【完結・加筆修正中】横暴領主が平民狩人の俺に執着してくるんだけど、どうしたらいいと思う?

ゆらり

文字の大きさ
20 / 110

20 寂しいという気持ちは

しおりを挟む
 
 頬や唇を、誰かの指先が撫でていく。

「……シタン」

 ――陽光がまぶしい。朝だ。

「シタン」

 低い男の声で、名前を呼ばれる。領主の声だ。

「ん……」

 一瞬、親友に呼ばれたかと思った。ラズの声は、こんなに低くない。柔らかくて高くて、澄んでいた。それなのに、不思議とラズの声に近い感じがする。

「まだ眠いのか」
「うん……」

 眠いどころか、体がだるい。

 あらぬところは熱を持っているし、脚腰が痛む。「無理をさせたな」と、言いながらそっと撫でてくる領主の手が心地良くて、頬を押し付けて甘えてしまう。

 「もう暫く……、いや……好きなだけ横になっていると良い」

 陽の光から逃れて、反対側へ寝返りを打つ。いつもひっ詰めて結わえている長い銀髪が解かれていて顔に掛かるが、それを領主がさらりと梳いて除けてくれた。言うこと成すこといちいち優しくて照れ臭くなる。

「朝餉はもう暫く後で支度させよう。ではな……」

 頭を撫でながら告げられて、唇に深く口付けられた。

「……んんっ」

 小さく水音を立てて、舌を一度だけ絡めたのみでそれは終わってしまい、領主の気配が離れていく。寝台は温かいが、独りにされるとなんだか寂しい。

 ……寂しいって、なんだ?

 唐突に湧いて出た気持ちに、疑問を抱く。

 気紛れの、対価を払うための行為だったはずだ。いつかは飽きられて終わるだろう。寂しいなんて、恋人でもあるまいにそんな風に思うのは間違いだ。脅され強姦までされた恨みや恐怖は、自分でもどうかと思うほどに早々と薄れているが、現実は変わっていない。

「あいつは、俺なんかなんとも思っていない……。ただの慰みだろ……」

 口に出してみると残酷で冷たい響きだった。

 ずきりと胸が痛んで喉の奥が強く締め付けられる。子供のように泣いて叫びたくなるような、切なくて悲しい気分だ。終わりを迎える日が怖くなってきた。

 目まぐるしい自分自身の心の移り変わりに、なんとも言えない苦いものを感じた。……慰みにされた挙句に、心まで引きずられて不自由になっている。慰みだと思われているなら、俺だってそう思ってやろう。誰があんな……、卑怯な男なんかに心を傾けたりなんかするか。
 
 意志を固めた直後、夕べの交わりの最中の、白くて綺麗で、とてつもなく色っぽい領主の姿が脳裏にちらついてシタンは少しだけ、ほんの少しだけだが尻が疼いてしまった。

 ――なんとも思わないでいられるほど、淡泊な夜ではなかったのは確かだ。

「はぁ……」

 窓の外は青空が広がっていて気持ちの良い朝だというのに、辛気臭いため息が漏れてしまった。

 ……なににしても、近いうちに飽きられて自由になったとして、しばらく誰も抱けないし、間違っても抱かれたりはしないだろう。あの深くて甘い交わりを知った後では、大抵の交わりは味気なくて虚しいに違いない。

 こんな気分になったのは、初めてのような気がする。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

カワウソの僕、異世界を無双する

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕 いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい! お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡ ★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。 カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり! BLランキング最高位16位♡ なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡ イラスト*榮木キサ様

処理中です...