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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

21 安堵

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 燻る感情を持て余しながら勤めに没頭し、気付けば夕刻になっていた。

 手を止めた頃合いを見計らったかのように、年老いた侍従が執務室へとやって来た。城に仕える者の中で最も年嵩の侍従は、幼い頃からラズラウディアに忠義を尽くしてくれた存在だ。人手が足りない場合を除いて、大抵のことは彼に任せている。

「――緩慢ではありますが、歩けるまでに復調なさいました。顔色も随分と良くおなりです。このあと夕餉を召し上がって頂く次第です」
「私も向かう」
「分りました。夕餉をご一緒なさいますか」
「顔を見るだけだ」
「承知致しました」

 ――夕餉を運ぶ老侍従を従えて寝室に入ると、寝台の上で半身を起こしている彼の姿があった。

「……なっ、なんでアンタまで……」

 途方に暮れた表情を浮かべていた顔が、嫌悪ともとれる形に歪む。侍従の報告通り確かに顔色は良くなっていたが、少しばかりやつれても見えた。

「私の城だ。どこに来ようと構うまい」

 不遜な物言いをすると、シタンが眉根を寄せて悔し気な顔をした。強姦された相手の顔など見たくないはずだ。どう思われようと仕方がないのだが、子供の頃は会えば必ず笑顔で迎えてくれた愛しい存在に、拒絶とも取れる態度を見せられるのは正直なところ堪える。

 苦い思いを感じながら、寝台に近付く。

 緩く右肩の辺りで結わえられている黒みを帯びた銀髪が、蝋燭の灯りに照らされて輝いている。体を拓いた後だからか、ただ座している姿でさえも密やかな艶が香るようだ。

 なにをされるのかと警戒し身構えるシタンの体を、侍従が掛け布を取り払うのと同時に素早く抱え上げた。

「な、なに、すんだよっ!」
「黙れ。椅子に座らせるだけだ」
「じ、自分で歩ける! お、おろせって! なんなんだよアンタ!」

  脚をばたつかせて抵抗された。落とすまいと二の腕に力を入れて抱き込んで動きを封じ、耳元で「腕よりも舌を斬られたいか」と低く囁けば「ひいっ!」という小さな悲鳴を上げて大人しくなった。残酷な言い方ではあったが、落としてしまうくらいなら脅してでも大人しくさせた方がいい。

 細心の注意を払いながら椅子に座らせておいて、対面の席に着く。侍従が手際良く二人分の麦酒を供し、シタンの前にだけ粥の入った深皿を置いた。

「どうぞ、熱いうちにお召し上がりください」

 侍従に促されて皿の中身を凝視し、「うまそ……」と呟いたあと、短く恵みの神への祈りを捧げて木匙きさじを手にした。

「はふ、んっ、うまっ!」

 育ち盛りの子どもじみた食欲を見せて、嬉しそうに湯気の立つ粥を食べ進めていく。次第に顔に血の気が戻り、頬が少し上気してさえいる。

 完全とまではいかないが、元気を取り戻した様子に安堵した。
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