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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

22 やはり、シタンが欲しい

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 残さず粥を平らげて麦酒を飲み干してようやく、シタンはこちらの視線に気付いて不眉根を寄せた。

「な、なんだよ……」
「あれほど手酷く抱いたというのに、随分と逞しいと思ってな」
「腹、減ってたんだからしょうがないだろぉ……。馬鹿にするなよ。そりゃ、がっついてたけどさ……」

 居た堪れないとでも言いた気に視線を横に逸らして文句を言い、ちらとこちらを横目で睨んでくる。その下唇を少し突き出したいじけ顔には憎めない愛嬌ばかりが溢れていて、思わず口元が綻んでしまった。

「ふっ……、はは! 馬鹿になどしていない」

 楽し気な笑い声が、部屋の中に響く。

 それが自分の笑い声だと、一瞬ではあるが気付けなかった。こうして声を上げて笑ったのは、かなり久しぶりのことだ。……シタンと過ごした子供の頃以来だろう。

 胸に刺さり続けていた棘のようなものがほろりと抜け落ちて、傷が癒え温かいもので心の中が満たされていく思いがした。彼との幸せな日々が蘇ってくるようだ。

 シタンは驚きに目を見開いたかと思うと、たちまち真っ赤に染まった顔を両手で覆い、「うう……」と、小さく呻いた。笑われたのが恥ずかしかったのだろうか。それとも私の笑った姿になにか別の思うところがあったのだろうか。憎しみではない感情を抱いてくれたのなら嬉しいことだ。

 侍従は既に卓上を片し始めている。そろそろ寝台へ戻してやらねばならない。立ち上がり、顔を隠したまま恥じらっているらしいシタンに足音も立てずに近付く。

「シタン」
「なっ、なんだよっ!」

 名を呼べば素直に返事をして顔を上げてくれた。赤らんだ顔と、潤んだ瞳が晒される。その色気に惹かれ、手を伸ばし指先で優しく顎を捕らえて顔を上向かせ、唇を軽く重ねる。

「ひゃっ!」

 珍妙な悲鳴が上がり、顔が更に赤くなる。寝台に寝かせようと再び抱き上げても抵抗されない。それどころか赤面したまま大人しく腕に収まっている長躯は、先ほどよりも体温が高くなっていた。初心な反応に再び笑いが込み上げてくる。静かに寝台へ運んでいき寝かせ終えると、侍従が素早く掛け布を整えた。

「また明日の夜に来る」

 寝室を出る間際に背後から「もうくるなよ! この変態……っ」と、困惑を含んだ力のない声で暴言がぶつけられたが、それにすら笑えてしまう。寒々しいばかりだった城の空気が、彼がいることで明るく温かいものに変わっていく気がした。

 ――やはり、シタンが欲しい。

 憎まれ恐れられようとも、この手で触れて熱を分かち合い、愛でる相手は彼以外にはいらない。幾度でも求め、奥深くにまで想いを刻み付けて、いつか彼の全てを手に入れよう。

 深く強く、そう思ったのだった。
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