【完結・加筆修正中】横暴領主が平民狩人の俺に執着してくるんだけど、どうしたらいいと思う?

ゆらり

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番外編「とある狩人を愛した、横暴領主の話」

30 なんとも臆病なことだ

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 ――釣りをした日を境に、ラズラウディアは以前よりもシタンに依存するようになった。

 城で彼が食事をする際には、必ず自分も同席してともに食事を摂るようにした。最初は迎えに行くときだけは馬に乗せて連れて来ていたが、帰りも馬に乗せて送っていくようになった。

 そうして、少しでも彼に触れている時間を増やしたかったからだ。

「んっ、くっつくなよぉ……」
「馬から落ちないようにしているだけだ」
「だからってこんな、んっ……、なんで口付けてくるんだよ……」
「静かにしていろ」

 馬に乗っている際には、片腕を腹に回すのでは物足りなくなり、両手で抱きすくめるようにして密着するようになった。煩わし気な態度を取られはするものの、そうすることで彼と声を交わせるのが楽しい。じゃれ付かれている方にとっては、恐らくでなくいい迷惑だろうが……。

 小屋の前で馬から下りたシタンに、「ほかの者に肌を許すなよ」と、釘を刺すも「……あんたに抱かれてたら、他なんて行ける訳ないだろ……。痕付け過ぎなんだよ」と、渋い顔で愚痴をこぼされた。

 服で隠れてはいるが、シタンの肌には淫らな鬱血が無数につけられている。抱く度にきつく口付けて残しているので、消える暇がない。あきらかに行為で付けられたと分かる赤い痕だらけの肌で、ラズラウディア以外と行為に及ぼうなどという酔狂な真似などできはすまい。

「……ふ。それならば丁度良い。もっと痕をつけてやろう」
「なっ、なんてこと言ってんだよアンタ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶシタンを抱き寄せて、深く唇を奪う。

「んぐ、んんっ……!」

 胸板に手を突っ張って抵抗するのも束の間で、くったりと脱力して舌を絡め返してくる彼の媚態に煽られそうになるが、軽く舌を吸い上げて口付けを終えた。

「はっ、あ、ううっ、こんなの、……城だけにしてくれよぉ……」 
「城でならば、いくらでもいいということだな」
「ばっ、なっ、なんでそうなるんだよぉ! アンタ、盛り過ぎだっ!」

 怒りながら小屋へと逃げ込んでいく背中を見送り、小さく笑う。まるで恋人同士のやり取りのようだ。搾取される者と搾取する者の関係のはずだが、そう感じてしまうのは都合のいい思い込みだろうか。

 こうしたやり取りや、行為の端々で、シタンは少しずつ……単に快楽に流されているのではなく、恥じらいや戸惑いといった感情をのぞかせるようになった。肌を重ねて抱き締めれば、しっかりと抱き返してくるようになって、口付けや愛撫にも、素直に感じ入る。

 今、彼の瞳には、理不尽な扱いに対する苛立ちや怒りは見られない。なんというのだろうか、獣が毛を逆立てて怯えているような気配が薄れて、懐いてきているような……そんな雰囲気を匂わせているのだ。

 いつか、心を許してくれるようになれば、……どんなにかよいか。いっそ、『ラズ』であることを告げてしまえば……、もしかしたらシタンは受け入れてくれるのかもしれない。

 馬に乗って独り城へと戻る道すがら、ずっとそんなことを考えていた。

 未だに、彼に正体を知られるのが怖い。ラズとして、シタンから嫌悪の目を向けられてしまうのが怖い。「愛している」と、想いを伝えたくもあるが、拒まれてしまった場合に、自分自身が彼になにをしでかすか分からないという意味でも怖い。

 生みの親を領主の地位から引きずり下ろし追放までして、それに成り代わった男が、たった一人の狩人に恐れを感じている。なんとも臆病なことだ。

 ――不安定な恋の前では、辺境伯であっても一人の矮小な男でしかないのだろう。

 馬の背に揺られながら、ラズラウディアは自らの臆病さに対して静かに自嘲した。
 
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