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新たな出会い
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親切に婚約者の浮気相手を教えてくれたご令嬢に適当な愛想笑いで返して、私は会場に入る。
あのご令嬢と近くでクスクスしていたご令嬢たちは私がヒロインに喧嘩を売るところが見たいのだろう。
漫画ではそうなるわけだし。
だがしかし、私はそんな面倒なことを起こすつもりはない。
そもそも婚約者に対してなんの感情もないのだから。常に半ギレで話しかけてくる人間なんか相手が誰であろうと嫌でしょ。
もはや好意どころか情すらも湧いていない。そんなやつが浮気をしていようとどうでもいい。
そんなわけで、私は適当な隅っこの席に腰を下ろした。
さっきのご令嬢たちがあからさまにガッカリした顔をしていたけれど、そんなこと私の知ったことではない。
他人のプライベートをエンタメにしようとしてんじゃないよ。
「はぁ」
小さな小さなため息を零しながら、目の前に用意されていたお茶に口をつける。
そして、お菓子はどれをいただこうかしら、なんてテーブルの上を眺めていた時のこと。
ふと視界の隅になにかがちらりと映った。
何気なく、そのなにかのほうへと視界を向けると、そこには可愛い可愛いアクセサリーがあった。
隣の席に座っている人の指輪だ。よく見たらバッグにも付いている。
「可愛いですね、それ」
「え! ありがとうございます」
可愛いアクセサリーの持ち主は照れたように笑っている。
もう少し近くで見せてもらえば、なんとその可愛いアクセサリーはとても精巧なつまみ細工だった。
「これ、布で出来てるんです」
「あなたが作ったのですか?」
「はい」
すっげー! と騒ぎそうになる気持ちを抑えながら、いろんな角度から見せてもらう。
いやマジで可愛い。この世界にもつまみ細工があったのか。
「あ、でも、布ですし、安っぽい物なんですけど」
「そんなことありませんよ。こんなに細かくて綺麗なアクセサリー、初めて見ました」
「嬉しいです、そんなこと言ってもらえたの、初めてです」
アクセサリーをガン見していて気が付かなかったけれど、どうやら彼女は緊張しているらしい。
「そうだ、改めまして私ルーシャ・マキオンと申します」
「あ、えっと、私はマリカ・オーバンと申します」
私のほうから名乗らなければいけないのに! と小さな声で漏らしている。
オーバン家と言えば確か元は豪商でわりと最近爵位を賜った家だったはず。先代だったかな?
オーバン家も我が家も同じ男爵家ではあるが、あちらは新興貴族だから家格は我が家のほうが上、的な。
まぁでもそんなことよりつまみ細工だよ。
「それにしても、本当に細かいですよね、これ」
「そうなんです」
「すごーいかわいーい」
おっといけない、ちょっと素が出ちゃった。
「これは、どこかで買えるんですか?」
「うちの店の片隅に置いてるので、そこで」
「片隅!? こんなに可愛いのに!?」
「最近商品に採用されたばかりなので」
こんなに可愛くて綺麗なんだから大々的に売り出せばいいのに。
「実は、他の貴族のご令嬢たちには不人気なのです。だから、こんなに褒めてくださったのはマキオン様が初めてです」
「あ、ルーシャで大丈夫です。ご令嬢たちは大きな宝石こそ美しいと思ってますものねぇ……」
宝石のサイズでマウントを取り合うような奴らだもんな。宝石至上主義というか。
うちのマキオンパールも宝石に分類されていたらもっと高く売れるのだろうけど、あれは宝石じゃなくてビーズだからなぁ。
「えっと、あの、ルーシャ様、マキオン家というと、マキオンパールの……?」
「そうですマキオンパールの」
「あの! 失礼を承知でお聞きしたいのですが、お安く買えるマキオンパールなどはあったりしないのでしょうか?」
お安く買えるというと、B級品的なことだろうか? と、そこまで考えたところでふと思い出した。
そういえばここに来る前、馬車に乗るまでの間クリストハルト様と遊んでいたのでバッグの中にマキオンパールマラカスミニが入ってる。
「お安いのでいいならこういうのがあります」
「わぁ!」
マキオンパールマラカスミニを見せると、マリカさんの瞳が輝いた。
「そちらはおいくらで買えますか? このアクセサリー、売り上げがまだまだだから予算を割いてもらえなくて! でもこれにマキオンパールを付けると絶対に可愛くなると思いまして」
「無料ですね」
「そんなバカな!」
マキオンパールの現物を見た瞬間マリカさんのテンションが爆上がりしたんだけども。
「いや無料なんですよこれ。拾ったやつなんで」
「ひ、拾った……?」
「うちの領地の子どもたちにとっては無料で手に入るおもちゃですし」
「羨ましい!」
キラキラとした瞳でマキオンパールマラカスミニを見るマリカさんを見ながら思う。
このつまみ細工アクセサリーは絶対に人気が出る、と。
そこからの私達の会話はもう明らかに商談だった。
「とりあえずこれをお譲りするので、使ってみてもらえませんか?」
「おゆ、え、おいくらで」
「これは拾ったものですし、もちろん無料で。大きさもまちまちだし歪なものも混じってるので使いにくいかもしれませんが」
「そ、そんな」
「ここでお隣の席に座ったのも何かの縁ですし」
そう言って笑えば、マリカさんもはにかんでくれた。可愛い。ヒロインより可愛いんじゃない?
でも漫画にはこんな子いなかったしモブだよね。こんなに可愛いのに。
あのご令嬢と近くでクスクスしていたご令嬢たちは私がヒロインに喧嘩を売るところが見たいのだろう。
漫画ではそうなるわけだし。
だがしかし、私はそんな面倒なことを起こすつもりはない。
そもそも婚約者に対してなんの感情もないのだから。常に半ギレで話しかけてくる人間なんか相手が誰であろうと嫌でしょ。
もはや好意どころか情すらも湧いていない。そんなやつが浮気をしていようとどうでもいい。
そんなわけで、私は適当な隅っこの席に腰を下ろした。
さっきのご令嬢たちがあからさまにガッカリした顔をしていたけれど、そんなこと私の知ったことではない。
他人のプライベートをエンタメにしようとしてんじゃないよ。
「はぁ」
小さな小さなため息を零しながら、目の前に用意されていたお茶に口をつける。
そして、お菓子はどれをいただこうかしら、なんてテーブルの上を眺めていた時のこと。
ふと視界の隅になにかがちらりと映った。
何気なく、そのなにかのほうへと視界を向けると、そこには可愛い可愛いアクセサリーがあった。
隣の席に座っている人の指輪だ。よく見たらバッグにも付いている。
「可愛いですね、それ」
「え! ありがとうございます」
可愛いアクセサリーの持ち主は照れたように笑っている。
もう少し近くで見せてもらえば、なんとその可愛いアクセサリーはとても精巧なつまみ細工だった。
「これ、布で出来てるんです」
「あなたが作ったのですか?」
「はい」
すっげー! と騒ぎそうになる気持ちを抑えながら、いろんな角度から見せてもらう。
いやマジで可愛い。この世界にもつまみ細工があったのか。
「あ、でも、布ですし、安っぽい物なんですけど」
「そんなことありませんよ。こんなに細かくて綺麗なアクセサリー、初めて見ました」
「嬉しいです、そんなこと言ってもらえたの、初めてです」
アクセサリーをガン見していて気が付かなかったけれど、どうやら彼女は緊張しているらしい。
「そうだ、改めまして私ルーシャ・マキオンと申します」
「あ、えっと、私はマリカ・オーバンと申します」
私のほうから名乗らなければいけないのに! と小さな声で漏らしている。
オーバン家と言えば確か元は豪商でわりと最近爵位を賜った家だったはず。先代だったかな?
オーバン家も我が家も同じ男爵家ではあるが、あちらは新興貴族だから家格は我が家のほうが上、的な。
まぁでもそんなことよりつまみ細工だよ。
「それにしても、本当に細かいですよね、これ」
「そうなんです」
「すごーいかわいーい」
おっといけない、ちょっと素が出ちゃった。
「これは、どこかで買えるんですか?」
「うちの店の片隅に置いてるので、そこで」
「片隅!? こんなに可愛いのに!?」
「最近商品に採用されたばかりなので」
こんなに可愛くて綺麗なんだから大々的に売り出せばいいのに。
「実は、他の貴族のご令嬢たちには不人気なのです。だから、こんなに褒めてくださったのはマキオン様が初めてです」
「あ、ルーシャで大丈夫です。ご令嬢たちは大きな宝石こそ美しいと思ってますものねぇ……」
宝石のサイズでマウントを取り合うような奴らだもんな。宝石至上主義というか。
うちのマキオンパールも宝石に分類されていたらもっと高く売れるのだろうけど、あれは宝石じゃなくてビーズだからなぁ。
「えっと、あの、ルーシャ様、マキオン家というと、マキオンパールの……?」
「そうですマキオンパールの」
「あの! 失礼を承知でお聞きしたいのですが、お安く買えるマキオンパールなどはあったりしないのでしょうか?」
お安く買えるというと、B級品的なことだろうか? と、そこまで考えたところでふと思い出した。
そういえばここに来る前、馬車に乗るまでの間クリストハルト様と遊んでいたのでバッグの中にマキオンパールマラカスミニが入ってる。
「お安いのでいいならこういうのがあります」
「わぁ!」
マキオンパールマラカスミニを見せると、マリカさんの瞳が輝いた。
「そちらはおいくらで買えますか? このアクセサリー、売り上げがまだまだだから予算を割いてもらえなくて! でもこれにマキオンパールを付けると絶対に可愛くなると思いまして」
「無料ですね」
「そんなバカな!」
マキオンパールの現物を見た瞬間マリカさんのテンションが爆上がりしたんだけども。
「いや無料なんですよこれ。拾ったやつなんで」
「ひ、拾った……?」
「うちの領地の子どもたちにとっては無料で手に入るおもちゃですし」
「羨ましい!」
キラキラとした瞳でマキオンパールマラカスミニを見るマリカさんを見ながら思う。
このつまみ細工アクセサリーは絶対に人気が出る、と。
そこからの私達の会話はもう明らかに商談だった。
「とりあえずこれをお譲りするので、使ってみてもらえませんか?」
「おゆ、え、おいくらで」
「これは拾ったものですし、もちろん無料で。大きさもまちまちだし歪なものも混じってるので使いにくいかもしれませんが」
「そ、そんな」
「ここでお隣の席に座ったのも何かの縁ですし」
そう言って笑えば、マリカさんもはにかんでくれた。可愛い。ヒロインより可愛いんじゃない?
でも漫画にはこんな子いなかったしモブだよね。こんなに可愛いのに。
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