元歌い手悪役令嬢、うっかりラスボスに懐かれる

蔵崎とら

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うちはうち、よそはよそ

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 自分の思う幸せが、他人の幸せとは限らない。
 自分にとって些細な事でも、他人にとっては大きな幸せかもしれない。
 他人にとって他愛ないものでも、自分にとってはかけがえのないものかもしれない。
 自分のことなんて自分にしかわからない。
 要するに、うちはうち、よそはよそ。

 私だったら悪魔に魂を売ったところで結局無駄になって幽閉されるだなんて、知ってるなら教えてよ! と思うけれど、彼だったらどうだろう?
 そんな目には遭いたくない人なのか、それでもいいからあの子が欲しいとほんの数%に賭けてみたい人なのか、まったくもって分からない。
 音楽の趣味だけで言えば同じ魂でも分け合いました? ってくらい気が合うのだけど、その他のことは何も知らないのだ。
 言うべきか言わざるべきか、とても悩ましい。
 ただ理由もなく悪魔に目を付けられるとかなら話は別なんだけど、恋愛が絡むからなぁ。
 あの子を好きになると危険だよ、なんて、場合によっては「あの子を好きにならないで」って言ってるようにも聞こえる気がするし、人の恋路を邪魔しているみたいになりそうじゃん。
 そもそもルーシャ・マキオンはそれで人生失敗するんだよ? フランシス・ヴィージンガーの邪魔をするのもクリストハルト・クロウリーの邪魔をするのもほとんど一緒でしょ。
 フランシス・ヴィージンガーはともかく、ほんの少しでも仲良くしてくれたクリストハルト様に嫌な思いをさせるのは避けたいのだ。
 どの道私は忘れられるのだから、嫌な思いをさせたあと忘れられるよりも何事もなく忘れられたほうがいい。
 ……なんて、私がゴリゴリに悩んでいる目の前で、クリストハルト様はマキオンパールで作ったマラカスをシャンシャン鳴らしている。

「思ってたのと違う音がする。綺麗だね、これ」
「いい音ですよね」
「うん。マラカスっていうかどちらかというと鈴? クリスマスソングを思い出す」
「確かに!」

 現在二人でマキオンパールを収穫した日の夜、そして現在地は宿の食堂。
 クリストハルト様は一人で静かに食べたいからと言って食事を部屋に持っていくつもりらしい。なので私は今その手伝いをしている。
 他の人も手伝おうとしていたのだが、クリストハルト様が全て断っていたので、今は二人きりである。
 クリストハルト様がこの宿に来てから思ったけれど、彼はのらりくらりと躱すのが上手い。
 公爵家の三男様をこうも簡単に一人にするわけないじゃん、食事の用意なんか彼の手を煩わせるわけないじゃん、と思っていたはずなのにいつの間にか二人きりなんだもん。おかしいよな、いろいろと。
 まぁでも、二人きりなら都合がいいんだよな。
 なんて思いながら、私は彼のマキオンパールマラカスに合わせてクリスマスソングを口ずさんだのだった。

 それから約1週間後のこと。
 私とクリストハルト様は一旦別行動になる。理由は私がお茶会に呼ばれているから。
 今回私が呼ばれているお茶会はさほど身分の高くないご令嬢達が集まるお茶会だった。若い貴族の集まりといえば将来の伴侶探しが目的になることも多い中、このお茶会の参加者は女子のみ。男を抜きにして情報収集をする会という位置づけらしい。
 領地に引っ込んで極力お茶会だの夜会だのには参加しないことにしているはずなのに、なぜそのお茶会に私が参加することになっているのかという疑問だが、両親がどうしても行けとしつこいので行かざるを得ない。
 まぁでも漫画にも女だらけのお茶会でルーシャ・マキオンがヒロインをいびり散らかすシーンはあったし、原作者がそのシーンを描きたかったからっていうそれだけの理由かもしれない。
 現状フランシス・ヴィージンガーの浮気に関して気が付いていないはずのルーシャ・マキオンがなぜこのお茶会でヒロインをいびるのか。それはこのお茶会の直前に、親切な誰かからのタレコミがあるから。
 あなたの婚約者を狙っている生意気な女がいますよ、って。
 その一言が、私……いや、ルーシャ・マキオンの世界を一変させる一言だった。
 それまでは普通の女の子だったのに、そこからは自分の世界に入り込もうとする邪魔な女を排除するためだけに生きる可哀想な女に成り下がってしまった。
 可哀想なルーシャ・マキオン。でも、私はそうはならない。
 なぜなら今の私の世界には、フランシス・ヴィージンガーさえも必要ではないから。勝手に持って行ってくれて構わないから。

「じゃあ、行ってらっしゃいルーシャ」
「行ってきます、クリストハルト様」

 まさかクリストハルト様に見送られてお茶会に行くことになろうとは。
 ちなみにクリストハルト様は私が出た後に一度家に帰るらしい。本当はもっと、次に私たちが会うであろう夜会の日までここにいるつもりだったのだが、急用が出来てしまったとかで。
 そんなに長くいるつもりだったのかよ、と口を衝いて出そうになったが、必死で飲み込んだ。のどに詰まるかと思った。
 私はクリストハルト様に向けて笑顔で手を振って、馬車に乗り込んだ。
 結局悪魔に魂を売っちゃう件に関しては何も言えずじまいだった。

「……あの、ルーシャ・マキオン様ですよね」

 そうしてお茶会の会場に着いた瞬間、綺麗な女の子にこそこそと声を掛けられたのだ。

「あちらの方が、あなたの婚約者を狙っているようなのです」

 なんて、心配そうな表情を取り繕っているが、あなたの取り巻きじみた人たちがくすくすしているのもお見通しなんですよね。
 人の不幸は蜜の味ってやつなのだろう。嫌だ嫌だ。これだから貴族っつーのは面倒で嫌だ。




 
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