元歌い手悪役令嬢、うっかりラスボスに懐かれる

蔵崎とら

文字の大きさ
6 / 31

貴族ってめんどくさい

しおりを挟む
 端的に言えばマジクソ趣味が合う。いやマジで。
 私が鼻歌を歌えば、その歌を知っているクリストハルト様が手を叩いてノってくれる。
 私が何を歌おうとノってくれるのだ。
 前世ではマイナーな歌を投稿すると、聞いてくれる人はもちろんいるんだけど、コメントで「知らないけど好きです」みたくなぜだかわざわざ「知らないけど」って枕詞的なものが引っ付いて来ていた。
 いや聞いてくれるだけでありがたいし好きですって言ってくれるのも嬉しいんだけどね。もちろん。でもその「知らない」にちょっとだけ、ふんわりと傷つくこともあったのだ。
 でも今はそれがない。私の好きな歌=クリストハルト様の知ってる歌だから。最高かよ。

「あ、着きました。ここが穴場です」

 広い大地に、沢山のガラスの百合が咲き誇る。
 ここは我が領ど真ん中の畑に規則正しく植えられたものとは違い、領の片隅で各々勝手に群生しているガラスの百合たち。
 風が吹くとお互いが擦れ合い、しゃらしゃらと綺麗な音がする。
 鈴の音や、風鈴の音のようで、どこか心が落ち着く音だ。

「綺麗だね……」
「そうでしょう」

 その音に、しばし二人で耳を傾けていた。

「君といると楽しいな」

 クリストハルト様がぽつりと零す。

「私も、楽しいです」

 最高かよと思っているくらい楽しいです。

「ずっとここに住み着いちゃおうかなぁ……」

 ……ガチの目をしている気がする。

「俺、もう少ししたら家を出るつもりでいるんだけど、どうやって生きていくかまだ考えてないんだよね」

 そういえば公爵家の生まれではあるけど三男だから爵位も失うって言ってたっけ。
 そういう場合どこかの貴族の入り婿になったりするもんだと思っていたが、彼には婚約者がいない。
 公爵家出身で、彫刻のように整った顔面、キラキラで繊細そうな銀髪に濃い紫色の瞳、すらりとした高身長……要はヒーローのライバル役として作られたキャラデザなわけで、どこからどう見ても超優良物件なのに。悪魔に魂を売る以外はね。超優良物件から突然の事故物件。

「婚約者はいらっしゃらないのですか?」
「いない。縁談は来てるけどなんとなく断ってる」
「断ってる……?」
「そう。この血筋のせいか寄ってくる人たちの目がギラギラしててね……」

 でしょうね。

「あ、そういえばルーシャは婚約者いるんだっけ」
「あー……一応」

 のちに破棄される予定だけども。

「あんまり乗り気ではない感じ?」

 私の返答が、あまりにも覇気のないものだったからか、クリストハルト様が首を傾げている。

「そうですねぇ、親が決めた婚約ですし。相手は私と話すとき常に半ギレですし」
「え、そうなの? 面倒だね?」
「正直面倒です。まぁでも相手は伯爵家の人だから私はどうすることも出来ず」
「血筋だの貴族だのって、面倒だねぇ」

 クリストハルト様は大きなため息を零しながらそう言った。
 それを聞きながら、私も小さなため息を零す。
 現状でも面倒なのに今後婚約破棄までされるんだからため息をつくくらい許してもらいたい。

「日本の庶民って楽だったのかも?」
「……うーん」

 私は育ってきた環境があまりにもクソだったから何とも言えない。

「いやまぁ楽ではなかったなぁ」
「私はネットカフェ難民とかやってたんで楽ではなかったですねぇ」
「あー……。だから、んー、人間関係に問題のない安定した企業で年収1000万弱稼げる庶民とかが楽だったのかも」
「具体的」
「年収1000万超えると税金上がるし損って同室の人が言ってた。入院中に」
「え、そうなんですね」

 この人と話してるとこの世界ではなんの役にも立たない無駄知識が増えてちょっと面白い。

「それはともかくとして、ここに住み着いてもルーシャがいなくなるなら無駄かなぁ? 里帰りとかしないよね……」
「そうですねぇ……」

 もしも……もしも、私が婚約破棄されてこの領地からも追い出されたら、またどこかで会ってくれますか?
 なんて、聞いてしまえたらいいのだけど。
 でも、私が婚約破棄されるころにはクリストハルト様だってヒロインに夢中なのだから、覚えていてもらうこともできないのだろう。
 それは寂しいけれど、そして彼が悪魔に魂を売って牢にぶち込まれるのも嫌だけれど、それが彼の意志なのだとしたら私が邪魔をするわけにはいかない。
 あの子に夢中になって悪魔に魂を売ったら幽閉されるよ、って説明をして、彼をヒロインから遠ざけることだって出来るはず。でも、それが彼にとっての最善なのかは、私には分からない。

「あ、真珠が落ちた」

 目の前にあったガラスの百合から、ぽとりとマキオンパールが落ちてきた。

「これは収穫するの?」
「ここにあるものは大きさがまちまちだから収穫しないんです。収穫するのは畑で栽培してるものだけで」
「じゃあ落ちたやつは放置?」
「放置することもあるし子どもたちが拾ったりしてますね。瓶に入れると綺麗な音がするので、マラカス的な感じでおもちゃにしたりとか、大きいのがあったら穴をあけてビーズにしたりとか」
「え、マラカス欲しい」
「じゃあ拾いましょうか」

 そう言って笑えば、クリストハルト様は楽しそうにマキオンパールを拾い始めたのだった。




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

気がついたら乙女ゲームの悪役令嬢でした、急いで逃げだしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 もっと早く記憶を取り戻させてくれてもいいじゃない!

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?

無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。 「いいんですか?その態度」

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

処理中です...