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貴族ってめんどくさい
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端的に言えばマジクソ趣味が合う。いやマジで。
私が鼻歌を歌えば、その歌を知っているクリストハルト様が手を叩いてノってくれる。
私が何を歌おうとノってくれるのだ。
前世ではマイナーな歌を投稿すると、聞いてくれる人はもちろんいるんだけど、コメントで「知らないけど好きです」みたくなぜだかわざわざ「知らないけど」って枕詞的なものが引っ付いて来ていた。
いや聞いてくれるだけでありがたいし好きですって言ってくれるのも嬉しいんだけどね。もちろん。でもその「知らない」にちょっとだけ、ふんわりと傷つくこともあったのだ。
でも今はそれがない。私の好きな歌=クリストハルト様の知ってる歌だから。最高かよ。
「あ、着きました。ここが穴場です」
広い大地に、沢山のガラスの百合が咲き誇る。
ここは我が領ど真ん中の畑に規則正しく植えられたものとは違い、領の片隅で各々勝手に群生しているガラスの百合たち。
風が吹くとお互いが擦れ合い、しゃらしゃらと綺麗な音がする。
鈴の音や、風鈴の音のようで、どこか心が落ち着く音だ。
「綺麗だね……」
「そうでしょう」
その音に、しばし二人で耳を傾けていた。
「君といると楽しいな」
クリストハルト様がぽつりと零す。
「私も、楽しいです」
最高かよと思っているくらい楽しいです。
「ずっとここに住み着いちゃおうかなぁ……」
……ガチの目をしている気がする。
「俺、もう少ししたら家を出るつもりでいるんだけど、どうやって生きていくかまだ考えてないんだよね」
そういえば公爵家の生まれではあるけど三男だから爵位も失うって言ってたっけ。
そういう場合どこかの貴族の入り婿になったりするもんだと思っていたが、彼には婚約者がいない。
公爵家出身で、彫刻のように整った顔面、キラキラで繊細そうな銀髪に濃い紫色の瞳、すらりとした高身長……要はヒーローのライバル役として作られたキャラデザなわけで、どこからどう見ても超優良物件なのに。悪魔に魂を売る以外はね。超優良物件から突然の事故物件。
「婚約者はいらっしゃらないのですか?」
「いない。縁談は来てるけどなんとなく断ってる」
「断ってる……?」
「そう。この血筋のせいか寄ってくる人たちの目がギラギラしててね……」
でしょうね。
「あ、そういえばルーシャは婚約者いるんだっけ」
「あー……一応」
のちに破棄される予定だけども。
「あんまり乗り気ではない感じ?」
私の返答が、あまりにも覇気のないものだったからか、クリストハルト様が首を傾げている。
「そうですねぇ、親が決めた婚約ですし。相手は私と話すとき常に半ギレですし」
「え、そうなの? 面倒だね?」
「正直面倒です。まぁでも相手は伯爵家の人だから私はどうすることも出来ず」
「血筋だの貴族だのって、面倒だねぇ」
クリストハルト様は大きなため息を零しながらそう言った。
それを聞きながら、私も小さなため息を零す。
現状でも面倒なのに今後婚約破棄までされるんだからため息をつくくらい許してもらいたい。
「日本の庶民って楽だったのかも?」
「……うーん」
私は育ってきた環境があまりにもクソだったから何とも言えない。
「いやまぁ楽ではなかったなぁ」
「私はネットカフェ難民とかやってたんで楽ではなかったですねぇ」
「あー……。だから、んー、人間関係に問題のない安定した企業で年収1000万弱稼げる庶民とかが楽だったのかも」
「具体的」
「年収1000万超えると税金上がるし損って同室の人が言ってた。入院中に」
「え、そうなんですね」
この人と話してるとこの世界ではなんの役にも立たない無駄知識が増えてちょっと面白い。
「それはともかくとして、ここに住み着いてもルーシャがいなくなるなら無駄かなぁ? 里帰りとかしないよね……」
「そうですねぇ……」
もしも……もしも、私が婚約破棄されてこの領地からも追い出されたら、またどこかで会ってくれますか?
なんて、聞いてしまえたらいいのだけど。
でも、私が婚約破棄されるころにはクリストハルト様だってヒロインに夢中なのだから、覚えていてもらうこともできないのだろう。
それは寂しいけれど、そして彼が悪魔に魂を売って牢にぶち込まれるのも嫌だけれど、それが彼の意志なのだとしたら私が邪魔をするわけにはいかない。
あの子に夢中になって悪魔に魂を売ったら幽閉されるよ、って説明をして、彼をヒロインから遠ざけることだって出来るはず。でも、それが彼にとっての最善なのかは、私には分からない。
「あ、真珠が落ちた」
目の前にあったガラスの百合から、ぽとりとマキオンパールが落ちてきた。
「これは収穫するの?」
「ここにあるものは大きさがまちまちだから収穫しないんです。収穫するのは畑で栽培してるものだけで」
「じゃあ落ちたやつは放置?」
「放置することもあるし子どもたちが拾ったりしてますね。瓶に入れると綺麗な音がするので、マラカス的な感じでおもちゃにしたりとか、大きいのがあったら穴をあけてビーズにしたりとか」
「え、マラカス欲しい」
「じゃあ拾いましょうか」
そう言って笑えば、クリストハルト様は楽しそうにマキオンパールを拾い始めたのだった。
私が鼻歌を歌えば、その歌を知っているクリストハルト様が手を叩いてノってくれる。
私が何を歌おうとノってくれるのだ。
前世ではマイナーな歌を投稿すると、聞いてくれる人はもちろんいるんだけど、コメントで「知らないけど好きです」みたくなぜだかわざわざ「知らないけど」って枕詞的なものが引っ付いて来ていた。
いや聞いてくれるだけでありがたいし好きですって言ってくれるのも嬉しいんだけどね。もちろん。でもその「知らない」にちょっとだけ、ふんわりと傷つくこともあったのだ。
でも今はそれがない。私の好きな歌=クリストハルト様の知ってる歌だから。最高かよ。
「あ、着きました。ここが穴場です」
広い大地に、沢山のガラスの百合が咲き誇る。
ここは我が領ど真ん中の畑に規則正しく植えられたものとは違い、領の片隅で各々勝手に群生しているガラスの百合たち。
風が吹くとお互いが擦れ合い、しゃらしゃらと綺麗な音がする。
鈴の音や、風鈴の音のようで、どこか心が落ち着く音だ。
「綺麗だね……」
「そうでしょう」
その音に、しばし二人で耳を傾けていた。
「君といると楽しいな」
クリストハルト様がぽつりと零す。
「私も、楽しいです」
最高かよと思っているくらい楽しいです。
「ずっとここに住み着いちゃおうかなぁ……」
……ガチの目をしている気がする。
「俺、もう少ししたら家を出るつもりでいるんだけど、どうやって生きていくかまだ考えてないんだよね」
そういえば公爵家の生まれではあるけど三男だから爵位も失うって言ってたっけ。
そういう場合どこかの貴族の入り婿になったりするもんだと思っていたが、彼には婚約者がいない。
公爵家出身で、彫刻のように整った顔面、キラキラで繊細そうな銀髪に濃い紫色の瞳、すらりとした高身長……要はヒーローのライバル役として作られたキャラデザなわけで、どこからどう見ても超優良物件なのに。悪魔に魂を売る以外はね。超優良物件から突然の事故物件。
「婚約者はいらっしゃらないのですか?」
「いない。縁談は来てるけどなんとなく断ってる」
「断ってる……?」
「そう。この血筋のせいか寄ってくる人たちの目がギラギラしててね……」
でしょうね。
「あ、そういえばルーシャは婚約者いるんだっけ」
「あー……一応」
のちに破棄される予定だけども。
「あんまり乗り気ではない感じ?」
私の返答が、あまりにも覇気のないものだったからか、クリストハルト様が首を傾げている。
「そうですねぇ、親が決めた婚約ですし。相手は私と話すとき常に半ギレですし」
「え、そうなの? 面倒だね?」
「正直面倒です。まぁでも相手は伯爵家の人だから私はどうすることも出来ず」
「血筋だの貴族だのって、面倒だねぇ」
クリストハルト様は大きなため息を零しながらそう言った。
それを聞きながら、私も小さなため息を零す。
現状でも面倒なのに今後婚約破棄までされるんだからため息をつくくらい許してもらいたい。
「日本の庶民って楽だったのかも?」
「……うーん」
私は育ってきた環境があまりにもクソだったから何とも言えない。
「いやまぁ楽ではなかったなぁ」
「私はネットカフェ難民とかやってたんで楽ではなかったですねぇ」
「あー……。だから、んー、人間関係に問題のない安定した企業で年収1000万弱稼げる庶民とかが楽だったのかも」
「具体的」
「年収1000万超えると税金上がるし損って同室の人が言ってた。入院中に」
「え、そうなんですね」
この人と話してるとこの世界ではなんの役にも立たない無駄知識が増えてちょっと面白い。
「それはともかくとして、ここに住み着いてもルーシャがいなくなるなら無駄かなぁ? 里帰りとかしないよね……」
「そうですねぇ……」
もしも……もしも、私が婚約破棄されてこの領地からも追い出されたら、またどこかで会ってくれますか?
なんて、聞いてしまえたらいいのだけど。
でも、私が婚約破棄されるころにはクリストハルト様だってヒロインに夢中なのだから、覚えていてもらうこともできないのだろう。
それは寂しいけれど、そして彼が悪魔に魂を売って牢にぶち込まれるのも嫌だけれど、それが彼の意志なのだとしたら私が邪魔をするわけにはいかない。
あの子に夢中になって悪魔に魂を売ったら幽閉されるよ、って説明をして、彼をヒロインから遠ざけることだって出来るはず。でも、それが彼にとっての最善なのかは、私には分からない。
「あ、真珠が落ちた」
目の前にあったガラスの百合から、ぽとりとマキオンパールが落ちてきた。
「これは収穫するの?」
「ここにあるものは大きさがまちまちだから収穫しないんです。収穫するのは畑で栽培してるものだけで」
「じゃあ落ちたやつは放置?」
「放置することもあるし子どもたちが拾ったりしてますね。瓶に入れると綺麗な音がするので、マラカス的な感じでおもちゃにしたりとか、大きいのがあったら穴をあけてビーズにしたりとか」
「え、マラカス欲しい」
「じゃあ拾いましょうか」
そう言って笑えば、クリストハルト様は楽しそうにマキオンパールを拾い始めたのだった。
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