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半ギレ来訪
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お茶会から数日後、マリカさんは本当に招待状を送ってくれた。
ご丁寧にお手紙を添えて。
手紙には最高の素材を準備します、と書かれていて、その準備に少し時間がかかるとも書かれていた。
結果、私が彼女の元に行けそうなのは、例の夜会の後になりそうだった。
もしも、もしもその時点でまだクリストハルト様が私を友人だと思ってくれていれば、クリストハルト様も連れて行きたい。
一緒に唐揚げとポテト食べたい。
……一緒に唐揚げとポテト食べたかったな。なんで私たちはあの物語の登場人物として生まれてきてしまったのだろう。モブだったら良かったのに。
「なんだその招待状は」
私の手にあった招待状を目にした父に声を掛けられた。
「オーバン家のご令嬢から、領地へ招待していただきました」
「オーバン家? あぁ、あの新興貴族か」
「未来の取引先です」
「は?」
普段私を小ばかにしている節がある父には、私が吐いた言葉の意味が分からなかったようだ。
それもそうだろう。だって私が唐突に取引先を見付けてくるなんて思ってもみなかっただろうから。
そもそも私だってそんなことするつもりではなかった。話の流れで営業みたいになっただけで、そのつもりで彼女に近付いたわけでもないのだ。
そしてこの流されただけの営業が、のちの大口契約へと繋がるのだが、この時の我々は知る由もない。
それからしばらく経った頃、何の前触れもなくフランシス・ヴィージンガーが我が家へやってきた。
相変わらずの半ギレで。いつものことなので今更なんとも思わないけれど。
「今度の夜会に着ていくドレスはあるのか?」
半ギレでドレスの心配された。
「はい。もうほとんど準備も終えています」
さほど裕福な家ではないが、ドレスが全く買えないほど貧乏でもない。……まぁ高いドレスは買えないけれど。
そして一応広告塔になるようにと、私のドレスには沢山のマキオンパールが縫い付けられる。
その縫い付け作業は私の仕事なのである。
「一応婚約者である俺になんの相談もないのか?」
常に半ギレのくせに相談出来るとでも?
「……そうですね」
「色を合わせるとか、そういうことを考えないのか?」
「……えーと、そう、ですね」
色を合わせようにも髪色が正反対なのでお前に似合う色は私に似合わないし私に似合う色はお前に似合わないんだ。
なんて考えていると、フランシス・ヴィージンガーは半ギレ顔のままで大きな大きなため息を零した。
「お前は本当に可愛げがないな。にこりとも笑わない」
常に半ギレの人間相手に笑える奴とかいる? この世に存在する? 存在するなら連れてきてもらってもいい?
しかも近々その婚約も破棄されるんだよ?
自分でも分かっているだろう。現に今だってコイツの頭の中には「それに比べてあの子は」みたいな感じで私とヒロインを比べているはずだ。
なんだったら今ここで婚約破棄してもらったって構わないんだけどね、私としては。
「笑えない病気か何かなのか?」
最低にもほどがあるわ。
コイツ、本当に少女漫画の登場人物か? ヒロインの相手役か?
「そうかもしれませんね」
愛想笑いすら浮かべずに言い放てば、フランシス・ヴィージンガーは半ギレ顔のまま大きな舌打ちをした。
舌打ちしたいのはこっちなんですけどー! と言わなかっただけマシだと思えよクソ野郎。
話にならないと言いたげな顔をして、フランシス・ヴィージンガーは帰っていった。あれは一体何をしに来たのだろう?
「……大丈夫?」
どこかで立ち聞きしていたらしい弟に声を掛けられた。
「どういう意味での『大丈夫』なのかが分からないけれど、大丈夫なんじゃないかしら」
「いや、愛想尽かされない? って意味の大丈夫?」
「尽かされるもなにも、初めから皆無」
「うわぁ」
弟、ドン引きである。
「一つだけ聞きたいのだけど、もしも私が怒った顔していたとしたら、その私に愛想笑いなんか出来る?」
「出来ない」
そうよねぇ。私の感覚がおかしいんじゃなくて常に半ギレのあっちがおかしいのよねぇ。
「なんで私が愛想笑いなんかすると思えるんだろう?」
「あっちのほうが身分が上だからじゃない? へこへこされ慣れてるんだよ」
「あはは、なるほど」
いい性格してるな、我が弟。
「あの男より、この前来てた男のほうがいいんじゃない?」
フランシス・ヴィージンガーよりクリストハルト・クロウリーがいいってのは前世から知ってるんだけどさぁ。
「この前来てた人は公爵家の人だし、私とでは身分が違い過ぎるもの」
「ふーん」
公爵家の人間と男爵家の人間が結婚など出来るはずがない。そんなこと常識なはずなのに、弟は納得していない様子で唇を尖らせている。
「でもあの人、貴族の相手と結婚しなかったら平民になるんでしょ?」
知ってたのか。
「まぁ、そうでしょうけれど」
「そうなれば身分が違い過ぎるってこともないんじゃない?」
「そんな簡単な話ではないと思う」
だってクリストハルト・クロウリーだよ? あの顔面と血筋があるんだもん、男爵家の女と結婚するくらいなら私が! って名乗り出てくるご令嬢なんかごまんといるはずだ。
「それに、そもそもあの人は私を好きになんかならない」
あの人だって近いうちにヒロインを好きになる。そして私を忘れるのだから。
「ふーん……。まぁ……その辺は、俺には分からないけど、なんか姉さんが可哀想になってきた」
「……なんかありがとう」
「俺がしっかりしてれば、姉さんはあんなのと結婚しなくて済むのかな」
「あの、なんか、もうやめて」
「なんで? だって」
「いやもうその気遣いが嬉しくてなんか泣きそうだからやめて」
「えぇ……」
弟、ドン引きだった。
でも気遣いが嬉しいのは本当だから許してほしい。あとこっそりちんちくりんだとか思っててごめん。
ご丁寧にお手紙を添えて。
手紙には最高の素材を準備します、と書かれていて、その準備に少し時間がかかるとも書かれていた。
結果、私が彼女の元に行けそうなのは、例の夜会の後になりそうだった。
もしも、もしもその時点でまだクリストハルト様が私を友人だと思ってくれていれば、クリストハルト様も連れて行きたい。
一緒に唐揚げとポテト食べたい。
……一緒に唐揚げとポテト食べたかったな。なんで私たちはあの物語の登場人物として生まれてきてしまったのだろう。モブだったら良かったのに。
「なんだその招待状は」
私の手にあった招待状を目にした父に声を掛けられた。
「オーバン家のご令嬢から、領地へ招待していただきました」
「オーバン家? あぁ、あの新興貴族か」
「未来の取引先です」
「は?」
普段私を小ばかにしている節がある父には、私が吐いた言葉の意味が分からなかったようだ。
それもそうだろう。だって私が唐突に取引先を見付けてくるなんて思ってもみなかっただろうから。
そもそも私だってそんなことするつもりではなかった。話の流れで営業みたいになっただけで、そのつもりで彼女に近付いたわけでもないのだ。
そしてこの流されただけの営業が、のちの大口契約へと繋がるのだが、この時の我々は知る由もない。
それからしばらく経った頃、何の前触れもなくフランシス・ヴィージンガーが我が家へやってきた。
相変わらずの半ギレで。いつものことなので今更なんとも思わないけれど。
「今度の夜会に着ていくドレスはあるのか?」
半ギレでドレスの心配された。
「はい。もうほとんど準備も終えています」
さほど裕福な家ではないが、ドレスが全く買えないほど貧乏でもない。……まぁ高いドレスは買えないけれど。
そして一応広告塔になるようにと、私のドレスには沢山のマキオンパールが縫い付けられる。
その縫い付け作業は私の仕事なのである。
「一応婚約者である俺になんの相談もないのか?」
常に半ギレのくせに相談出来るとでも?
「……そうですね」
「色を合わせるとか、そういうことを考えないのか?」
「……えーと、そう、ですね」
色を合わせようにも髪色が正反対なのでお前に似合う色は私に似合わないし私に似合う色はお前に似合わないんだ。
なんて考えていると、フランシス・ヴィージンガーは半ギレ顔のままで大きな大きなため息を零した。
「お前は本当に可愛げがないな。にこりとも笑わない」
常に半ギレの人間相手に笑える奴とかいる? この世に存在する? 存在するなら連れてきてもらってもいい?
しかも近々その婚約も破棄されるんだよ?
自分でも分かっているだろう。現に今だってコイツの頭の中には「それに比べてあの子は」みたいな感じで私とヒロインを比べているはずだ。
なんだったら今ここで婚約破棄してもらったって構わないんだけどね、私としては。
「笑えない病気か何かなのか?」
最低にもほどがあるわ。
コイツ、本当に少女漫画の登場人物か? ヒロインの相手役か?
「そうかもしれませんね」
愛想笑いすら浮かべずに言い放てば、フランシス・ヴィージンガーは半ギレ顔のまま大きな舌打ちをした。
舌打ちしたいのはこっちなんですけどー! と言わなかっただけマシだと思えよクソ野郎。
話にならないと言いたげな顔をして、フランシス・ヴィージンガーは帰っていった。あれは一体何をしに来たのだろう?
「……大丈夫?」
どこかで立ち聞きしていたらしい弟に声を掛けられた。
「どういう意味での『大丈夫』なのかが分からないけれど、大丈夫なんじゃないかしら」
「いや、愛想尽かされない? って意味の大丈夫?」
「尽かされるもなにも、初めから皆無」
「うわぁ」
弟、ドン引きである。
「一つだけ聞きたいのだけど、もしも私が怒った顔していたとしたら、その私に愛想笑いなんか出来る?」
「出来ない」
そうよねぇ。私の感覚がおかしいんじゃなくて常に半ギレのあっちがおかしいのよねぇ。
「なんで私が愛想笑いなんかすると思えるんだろう?」
「あっちのほうが身分が上だからじゃない? へこへこされ慣れてるんだよ」
「あはは、なるほど」
いい性格してるな、我が弟。
「あの男より、この前来てた男のほうがいいんじゃない?」
フランシス・ヴィージンガーよりクリストハルト・クロウリーがいいってのは前世から知ってるんだけどさぁ。
「この前来てた人は公爵家の人だし、私とでは身分が違い過ぎるもの」
「ふーん」
公爵家の人間と男爵家の人間が結婚など出来るはずがない。そんなこと常識なはずなのに、弟は納得していない様子で唇を尖らせている。
「でもあの人、貴族の相手と結婚しなかったら平民になるんでしょ?」
知ってたのか。
「まぁ、そうでしょうけれど」
「そうなれば身分が違い過ぎるってこともないんじゃない?」
「そんな簡単な話ではないと思う」
だってクリストハルト・クロウリーだよ? あの顔面と血筋があるんだもん、男爵家の女と結婚するくらいなら私が! って名乗り出てくるご令嬢なんかごまんといるはずだ。
「それに、そもそもあの人は私を好きになんかならない」
あの人だって近いうちにヒロインを好きになる。そして私を忘れるのだから。
「ふーん……。まぁ……その辺は、俺には分からないけど、なんか姉さんが可哀想になってきた」
「……なんかありがとう」
「俺がしっかりしてれば、姉さんはあんなのと結婚しなくて済むのかな」
「あの、なんか、もうやめて」
「なんで? だって」
「いやもうその気遣いが嬉しくてなんか泣きそうだからやめて」
「えぇ……」
弟、ドン引きだった。
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