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ドレスは乙女の戦闘服
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元々フランシス・ヴィージンガーに対する気持ちは無だった。
好きでも嫌いでもない、ただの無。
そう、別に嫌いではなかったのだ。だから、出会った当初は私だってまだ愛想笑いを浮かべたりもしていた。
それすらも出なくなったのは、他の誰でもないフランシス・ヴィージンガー本人の態度のせいだった。
人に笑えない病気だとか言っていたが、彼は私よりも笑っていない。
この婚約が死ぬほど嫌だったのだろうが、彼は私を見るやいなやしかめっ面を浮かべていた。
それからというもの会えば会うほどしかめっ面は激しさを増し、今では常に半ギレで会話もままならない。
さらに彼はもうヒロインに出会ってしまったから、私なんかより可愛いあの子との交流を深めたいという気持ちが大きくなっているのだろう。半ギレがガチギレになるのも時間の問題かもしれない。
いいけどね、別に。
奴がキレていようと優しかろうと最終的には婚約破棄するし。どちらかというとヒロインとフランシス・ヴィージンガーにはくっ付いてほしいと思っているから。
二人には前世の繋がりがあるんだもんね。
素敵じゃないの。来世でも会おうねって約束するなんて。私にはそんな相手いなかったから、憧れちゃうわ。
でも間に挟まりたくはなかったわ。
私さえ間に挟まっていなければ、奴が浮気者になることはなかったのにね。
そしてこんな面倒臭い思いしなくて良かったのにね。
なんて、やさぐれていた時のこと。
マリカさんからの贈り物が届いた。
招待状も貰ったし、その時にお手紙も添えてあったので次に会うまで彼女からの接触があるとは思っていなかったので少し驚いた。
「わぁ……!」
その贈り物を開けた瞬間、私の口から感嘆の声が勝手に飛び出した。
なぜなら、箱の中にはつまみ細工で出来た綺麗なコサージュが入っていたから。
それも猛烈に可愛いコサージュが。
大きな白いダリアがメインで濃い紫や薄い紫の桔梗が沢山、そして綺麗な組み紐の飾りに花びらが。
ありがたいことに先日プレゼントしたマキオンパールも使ってくれている。
『ルーシャ様を思い浮かべながら作ったら、今までで一番綺麗なものが出来ました。ですので、ルーシャ様に贈りたいと思います。髪飾りのほうは現在制作中です』
手紙にはそう書かれていた。
私をイメージしながら作ってくれたコサージュらしい。
私って、こんなイメージなのか。なんて思いながら、頬を緩ませる。
おそらくマキオンパールをタダで貰ってしまったという負い目があるからだろうけど、私のことを考えながら作ってくれたというのは嬉しかった。
前世もそうだったけれど、今世でも私のことを考えてくれる人なんてほとんどいないし。
今ならクリストハルト様がもしかしたら私のことをちょっとは考えてくれてるかもしれない。でもすぐに忘れられる予定だもの。
「そうだわ!」
このコサージュの色合いならば今準備しているドレスに付けても違和感はないかもしれない!
「ねぇねぇ! これ付けたら可愛いと思わない!?」
私のドレスにせっせとマキオンパールを縫い付けてくれているお針子さんにコサージュを見せれば、彼女の瞳がマキオンパールをも凌駕する輝きに満ちた。
「なんですかその猛烈に可愛い飾りは!」
めちゃくちゃ興奮している。
彼女は我が領地でマキオンパールの収穫から加工までをこなしてくれるユイリア。35歳の美女。
私がお茶会だの夜会だのに出席する際はいつも彼女がこうしてマキオンパールの縫い付けを手伝ってくれているので、友人のような気軽さで話が出来るのだ。
「可愛いでしょ!」
「こんなに可愛い飾り、初めて見ました」
「先日のお茶会で知り合ったオーバン家のご令嬢に作ってもらったの」
「あれ、これマキオンパールですね?」
「そうそう。それをプレゼントしたお礼にって」
ユイリアは「はぁ~」とか「ほぇ~」とか、何とも言えない声を零しつつコサージュをあらゆる角度から眺めている。
「布で出来ているんですね」
「そう」
「大きな飾りですが、宝石が使われていない分嫌味ったらしくなくて、可愛くもあり美しくもある」
「うん」
「目立つところに付ければ、注目の的間違いなしですね!」
「そうよね!」
それからというもの、私とユイリアはああでもないこうでもないといいながら飾り付けを進めた。
元々沢山のマキオンパールを縫い付ける予定だったのだが、このコサージュがあるのならただ沢山縫い付けるだけでは面白くない。
折角なら洗練された美しさを目指さなければ。なんて言いながら。
そんな作業が楽しくて、その時だけは将来に対する不安が少しだけ消えていた。
ストレス発散……みたいなものだろう。
「出来たわ!」
私がこの世界で見た中で一番最強で最高に可愛いドレスが出来上がってしまった。
全体は淡い紫から濃い紫、そして黒へのグラデーション。
首から胸元にかけては紫のレースをあしらい、マリカさんから貰ったコサージュは左胸のあたりに。
上半身には小さなマキオンパールを散りばめて、腰には胸元のレースと同じ色のリボンを。
腰から膝あたりまでは中くらいのマキオンパール、そして裾には大きめのマキオンパールを散りばめた。
私もユイリアもしばし出来上がったドレスを見てうっとりしていた。
「ありがとう、ユイリア」
「はい?」
「私、このドレスを着るのが楽しみだわ」
「お礼はこのコサージュをくださったマリカ様に言うべきですよ」
「もちろんマリカさんにもお礼をするけど、ここまで仕上げてくれたのはあなたよ」
「……えへへ」
ユイリアは照れ臭そうに笑っていた。
しかし本当に本当に可愛いドレスが出来たな。
これを着るのは、クリストハルト様がヒロインに一目惚れをする夜会で、おそらく私にとってはあまりいい日とは言えないのだろうけど、ほんの少しだけでも楽しみが出来てよかった。
これがなかったら仮病に仮病を重ねて夜会をすっぽかす可能性もあったもんね。
でもきっとこのドレスが戦闘服になってくれるはずだから、私は頑張れる。……はず!
好きでも嫌いでもない、ただの無。
そう、別に嫌いではなかったのだ。だから、出会った当初は私だってまだ愛想笑いを浮かべたりもしていた。
それすらも出なくなったのは、他の誰でもないフランシス・ヴィージンガー本人の態度のせいだった。
人に笑えない病気だとか言っていたが、彼は私よりも笑っていない。
この婚約が死ぬほど嫌だったのだろうが、彼は私を見るやいなやしかめっ面を浮かべていた。
それからというもの会えば会うほどしかめっ面は激しさを増し、今では常に半ギレで会話もままならない。
さらに彼はもうヒロインに出会ってしまったから、私なんかより可愛いあの子との交流を深めたいという気持ちが大きくなっているのだろう。半ギレがガチギレになるのも時間の問題かもしれない。
いいけどね、別に。
奴がキレていようと優しかろうと最終的には婚約破棄するし。どちらかというとヒロインとフランシス・ヴィージンガーにはくっ付いてほしいと思っているから。
二人には前世の繋がりがあるんだもんね。
素敵じゃないの。来世でも会おうねって約束するなんて。私にはそんな相手いなかったから、憧れちゃうわ。
でも間に挟まりたくはなかったわ。
私さえ間に挟まっていなければ、奴が浮気者になることはなかったのにね。
そしてこんな面倒臭い思いしなくて良かったのにね。
なんて、やさぐれていた時のこと。
マリカさんからの贈り物が届いた。
招待状も貰ったし、その時にお手紙も添えてあったので次に会うまで彼女からの接触があるとは思っていなかったので少し驚いた。
「わぁ……!」
その贈り物を開けた瞬間、私の口から感嘆の声が勝手に飛び出した。
なぜなら、箱の中にはつまみ細工で出来た綺麗なコサージュが入っていたから。
それも猛烈に可愛いコサージュが。
大きな白いダリアがメインで濃い紫や薄い紫の桔梗が沢山、そして綺麗な組み紐の飾りに花びらが。
ありがたいことに先日プレゼントしたマキオンパールも使ってくれている。
『ルーシャ様を思い浮かべながら作ったら、今までで一番綺麗なものが出来ました。ですので、ルーシャ様に贈りたいと思います。髪飾りのほうは現在制作中です』
手紙にはそう書かれていた。
私をイメージしながら作ってくれたコサージュらしい。
私って、こんなイメージなのか。なんて思いながら、頬を緩ませる。
おそらくマキオンパールをタダで貰ってしまったという負い目があるからだろうけど、私のことを考えながら作ってくれたというのは嬉しかった。
前世もそうだったけれど、今世でも私のことを考えてくれる人なんてほとんどいないし。
今ならクリストハルト様がもしかしたら私のことをちょっとは考えてくれてるかもしれない。でもすぐに忘れられる予定だもの。
「そうだわ!」
このコサージュの色合いならば今準備しているドレスに付けても違和感はないかもしれない!
「ねぇねぇ! これ付けたら可愛いと思わない!?」
私のドレスにせっせとマキオンパールを縫い付けてくれているお針子さんにコサージュを見せれば、彼女の瞳がマキオンパールをも凌駕する輝きに満ちた。
「なんですかその猛烈に可愛い飾りは!」
めちゃくちゃ興奮している。
彼女は我が領地でマキオンパールの収穫から加工までをこなしてくれるユイリア。35歳の美女。
私がお茶会だの夜会だのに出席する際はいつも彼女がこうしてマキオンパールの縫い付けを手伝ってくれているので、友人のような気軽さで話が出来るのだ。
「可愛いでしょ!」
「こんなに可愛い飾り、初めて見ました」
「先日のお茶会で知り合ったオーバン家のご令嬢に作ってもらったの」
「あれ、これマキオンパールですね?」
「そうそう。それをプレゼントしたお礼にって」
ユイリアは「はぁ~」とか「ほぇ~」とか、何とも言えない声を零しつつコサージュをあらゆる角度から眺めている。
「布で出来ているんですね」
「そう」
「大きな飾りですが、宝石が使われていない分嫌味ったらしくなくて、可愛くもあり美しくもある」
「うん」
「目立つところに付ければ、注目の的間違いなしですね!」
「そうよね!」
それからというもの、私とユイリアはああでもないこうでもないといいながら飾り付けを進めた。
元々沢山のマキオンパールを縫い付ける予定だったのだが、このコサージュがあるのならただ沢山縫い付けるだけでは面白くない。
折角なら洗練された美しさを目指さなければ。なんて言いながら。
そんな作業が楽しくて、その時だけは将来に対する不安が少しだけ消えていた。
ストレス発散……みたいなものだろう。
「出来たわ!」
私がこの世界で見た中で一番最強で最高に可愛いドレスが出来上がってしまった。
全体は淡い紫から濃い紫、そして黒へのグラデーション。
首から胸元にかけては紫のレースをあしらい、マリカさんから貰ったコサージュは左胸のあたりに。
上半身には小さなマキオンパールを散りばめて、腰には胸元のレースと同じ色のリボンを。
腰から膝あたりまでは中くらいのマキオンパール、そして裾には大きめのマキオンパールを散りばめた。
私もユイリアもしばし出来上がったドレスを見てうっとりしていた。
「ありがとう、ユイリア」
「はい?」
「私、このドレスを着るのが楽しみだわ」
「お礼はこのコサージュをくださったマリカ様に言うべきですよ」
「もちろんマリカさんにもお礼をするけど、ここまで仕上げてくれたのはあなたよ」
「……えへへ」
ユイリアは照れ臭そうに笑っていた。
しかし本当に本当に可愛いドレスが出来たな。
これを着るのは、クリストハルト様がヒロインに一目惚れをする夜会で、おそらく私にとってはあまりいい日とは言えないのだろうけど、ほんの少しだけでも楽しみが出来てよかった。
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