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第三章 共生
37師走 もう一人のオメガ⑤
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ベンチに腰かけて木漏れびを浴びながらハートのデンブをじっと眺めていた老人はガハハハハと笑い出した。
「随分と可愛い弁当じゃのう」
「ホントに、お恥ずかしい……」
真っ赤な顔に日が差し、冬の寒空に咲く季節外れの桜の様だった。
「ほぉ、お前さんはえらくきれいな男じゃの」
何でも知っている様な老人は紫苑を見てちゃかすでもなくそう言った。
「恥ずかしいんでやめて下さい……」
「ああそりゃすまんかった。でこの可愛い弁当は彼女が作ってくれたのか?」
口元を隠すように心の動揺も隠しながら大きく息を吸った。
「デンブ以外を僕が作って、朝のシャワーかなんかの時に内緒で恋人がハートのデンブ……乗せたんだと思います」
動揺を隠すように足を組んだ。中心に力が入って何となく涙が止まる。紫苑の儀式のようなものだった。
「可愛いことをするのぉ。君のマフラーの様に真っ白のワンピースが似合いそうなお嬢さんかな」
「いえ、180センチオーバーの……筋肉隆々の派手な黒シャツとスカジャンにジーンズがよく似合う、すごく優しくて傷付きやすい恋人です」
それでも何故かこの老人に噓は付きたくないという気持ちが、紫苑の中に明確な物としてあって一つ一つ言葉を選ぶように慎重に言葉を紡ぐ。
「恋人……か」
「はい」
「愛されとるんじゃのう」
こんなカミングアウトされても引かない老人に切れ長の細い目をこれでもかと見開き、桜の化身の様な男は口角を少しだけあげて悲しそうに笑った。
「噓ついてきちゃったんです」
「ほう」
話を聞いてくれるのだろうか、二度と会わないだろう老人だからか紫苑は素直な気持ちで口を開いた。
「傷つけちゃったんです」
「うむ」
やはり席を立つ気配はない。
「弁当を一緒に食べたかったんだろうなって、僕のびっくりする顔が見たかったんだろうなって思います……」
「君にも何か理由があったんじゃろて」
「理由?」
目線だけはハートのデンブから反らすことができなかった。
「君がこっちを食べたほうがいいのじゃないか?」
老人に紫苑の小さな方の弁当箱を差し出された。
ゆうに5分は考えていたが、神無月用の真っ白いご飯が詰まった弁当箱を老人に差し出すと自身の小ぶりのものと取り換えてもらった。
「素直じゃの」
「何となくお爺さん相手だとそんな気分になるみたいです」
「素直ついでに吐き出してしまってはどうだ」
のんびりとした口調はあえてわざとかと思うような言葉選びに、亡くなった祖父を重ねた。
「小さなころ死んでしまったお爺さんみたいです……」
「ならそう思ってみなさい」
ハートのデンブを一口分取ると、そのまま口の中に入れた。
「甘い……」
「随分と可愛い弁当じゃのう」
「ホントに、お恥ずかしい……」
真っ赤な顔に日が差し、冬の寒空に咲く季節外れの桜の様だった。
「ほぉ、お前さんはえらくきれいな男じゃの」
何でも知っている様な老人は紫苑を見てちゃかすでもなくそう言った。
「恥ずかしいんでやめて下さい……」
「ああそりゃすまんかった。でこの可愛い弁当は彼女が作ってくれたのか?」
口元を隠すように心の動揺も隠しながら大きく息を吸った。
「デンブ以外を僕が作って、朝のシャワーかなんかの時に内緒で恋人がハートのデンブ……乗せたんだと思います」
動揺を隠すように足を組んだ。中心に力が入って何となく涙が止まる。紫苑の儀式のようなものだった。
「可愛いことをするのぉ。君のマフラーの様に真っ白のワンピースが似合いそうなお嬢さんかな」
「いえ、180センチオーバーの……筋肉隆々の派手な黒シャツとスカジャンにジーンズがよく似合う、すごく優しくて傷付きやすい恋人です」
それでも何故かこの老人に噓は付きたくないという気持ちが、紫苑の中に明確な物としてあって一つ一つ言葉を選ぶように慎重に言葉を紡ぐ。
「恋人……か」
「はい」
「愛されとるんじゃのう」
こんなカミングアウトされても引かない老人に切れ長の細い目をこれでもかと見開き、桜の化身の様な男は口角を少しだけあげて悲しそうに笑った。
「噓ついてきちゃったんです」
「ほう」
話を聞いてくれるのだろうか、二度と会わないだろう老人だからか紫苑は素直な気持ちで口を開いた。
「傷つけちゃったんです」
「うむ」
やはり席を立つ気配はない。
「弁当を一緒に食べたかったんだろうなって、僕のびっくりする顔が見たかったんだろうなって思います……」
「君にも何か理由があったんじゃろて」
「理由?」
目線だけはハートのデンブから反らすことができなかった。
「君がこっちを食べたほうがいいのじゃないか?」
老人に紫苑の小さな方の弁当箱を差し出された。
ゆうに5分は考えていたが、神無月用の真っ白いご飯が詰まった弁当箱を老人に差し出すと自身の小ぶりのものと取り換えてもらった。
「素直じゃの」
「何となくお爺さん相手だとそんな気分になるみたいです」
「素直ついでに吐き出してしまってはどうだ」
のんびりとした口調はあえてわざとかと思うような言葉選びに、亡くなった祖父を重ねた。
「小さなころ死んでしまったお爺さんみたいです……」
「ならそう思ってみなさい」
ハートのデンブを一口分取ると、そのまま口の中に入れた。
「甘い……」
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