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第三章 共生
36師走 もう一人のオメガ④
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真冬の寒さの中、真っ白いマフラーを首にぐるぐる巻き片手に保温されたコーヒーを持ちながらぶらぶらと小田原の町中を歩いていた。店から小田原城までのお堀のわきにベンチを見つけ、ゆっくりと腰をかける。
先ほどコンビニで買ったコーヒーはすでに冷め、どこにホットの要素があったのかと思うような冷たさだった。
「冷たい……」
わかってはいたものの……キャップを開け一口飲めば胃の中が一気に冷えていく。
「罰ゲームみたい」
神無月に嘘をついたバツかと紫苑は独りごちた。
カバンの中に隠し持った二人分のお弁当はその重量以上に重く、食べてもらえないおかずたちに責められている様であった。
グーっとなるお腹に手をやると、視線はカバンの中のお弁当に注がれた。
「今日は先に帰らないと、トイレの前にないってバレちゃう」
中身は捨てたことにしてお弁当箱は洗ってしまおう。そんなことを考えながら神無月のために作ったお弁当に手を伸ばした。
二つは食べられない。そんなに大食いではないのだ。でも神無月の為に作ったおかずは捨てられない。それ程に大切な男なのだ。
「いただきます」
お堀を見ながら箸を取り出した。白いご飯の上に乗っている海苔は小田原名物ワサビ海苔だ。少しだけツンとするほのかにわさびが香るこの海苔は、ほんの少しでご飯が何倍でもイケると神無月のお気に入りのご飯のお供だ。
ポロリ……涙が止まらない。
「わさびが辛いか。これ、使え……若いの」
しわがれた声が横から聞こえてきて、にゅっと伸びた手に握られたハンカチがしわしわで、つい声を出して笑っていた。手の主を見るとハンカチに負けず劣らず皺だらけの顔がにこにこと笑っている。
「ありが……とう……ございます」
「ずいぶん大きいお弁当だねぇ」
「食べませんか」
小さい方の弁当箱を渡した。
唐突に見ず知らずの人間にお弁当を勧められる。自分なら気持ち悪いと思うだろう。
「いただいても良いのかな」
何も言わずにこにこ笑う老人は、紫苑からお弁当を受け取るとゆっくりと蓋を開けた。
でんぶでハートが書いてある。
「柊……でんぶでハートとか馬鹿じゃないのか」
紫苑は切れ長の目に涙がどんどんたまっていくのを感じていた。
先ほどコンビニで買ったコーヒーはすでに冷め、どこにホットの要素があったのかと思うような冷たさだった。
「冷たい……」
わかってはいたものの……キャップを開け一口飲めば胃の中が一気に冷えていく。
「罰ゲームみたい」
神無月に嘘をついたバツかと紫苑は独りごちた。
カバンの中に隠し持った二人分のお弁当はその重量以上に重く、食べてもらえないおかずたちに責められている様であった。
グーっとなるお腹に手をやると、視線はカバンの中のお弁当に注がれた。
「今日は先に帰らないと、トイレの前にないってバレちゃう」
中身は捨てたことにしてお弁当箱は洗ってしまおう。そんなことを考えながら神無月のために作ったお弁当に手を伸ばした。
二つは食べられない。そんなに大食いではないのだ。でも神無月の為に作ったおかずは捨てられない。それ程に大切な男なのだ。
「いただきます」
お堀を見ながら箸を取り出した。白いご飯の上に乗っている海苔は小田原名物ワサビ海苔だ。少しだけツンとするほのかにわさびが香るこの海苔は、ほんの少しでご飯が何倍でもイケると神無月のお気に入りのご飯のお供だ。
ポロリ……涙が止まらない。
「わさびが辛いか。これ、使え……若いの」
しわがれた声が横から聞こえてきて、にゅっと伸びた手に握られたハンカチがしわしわで、つい声を出して笑っていた。手の主を見るとハンカチに負けず劣らず皺だらけの顔がにこにこと笑っている。
「ありが……とう……ございます」
「ずいぶん大きいお弁当だねぇ」
「食べませんか」
小さい方の弁当箱を渡した。
唐突に見ず知らずの人間にお弁当を勧められる。自分なら気持ち悪いと思うだろう。
「いただいても良いのかな」
何も言わずにこにこ笑う老人は、紫苑からお弁当を受け取るとゆっくりと蓋を開けた。
でんぶでハートが書いてある。
「柊……でんぶでハートとか馬鹿じゃないのか」
紫苑は切れ長の目に涙がどんどんたまっていくのを感じていた。
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