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プロローグ
さよなら
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神社につくまでの間一言も口を聞かず、気まずくなる。
話しかけようとしても、仏頂面の七実には話しかけづらかった。
神社についても、まだ紅月は来ていなかった。
(そういえば、七実に押し切られて連れてきちゃったけど・・・一人でこい、とは言われてないから大丈夫だよね?)
「・・・ねぇ、蓮也。私のせいよね?」
唐突に七実が口を開く。
「えっ、何が?」
「私のせいでしょ?こんな所に来るなんて。」
うまく話が掴めない。
「私が、手術を拒んだからよね。
だから、鬼に願ったんでしょ?“約束”、してしまったんでしょ?」
「な、んで、それを・・・。」
袖をぐいっと捲られる。
何かあるのかと目を凝らすと、赤い幾何学模様が肌を走っている。
「そこから、鬼の妖力を感じるの。
何言ってるか分からないかもしれないけど・・・」
「この赤い模様のこと?」
七実は少し驚いた表情を見せたが、頷く。
「鬼と関わりがあるのは確かよね?」
「ここで黙っても意味ないしな・・・一応説明するよ。」
自分のワガママで鬼と契約を結んだこと
実際に叶ったから、代償を払うこと
その代償は自らを差し出すこと
「じゃあその妖力は、自分のものだと示すためのものってこと?」
七実の声がワナワナと震えている。
(あ、怒ってる。)
「さ、さぁ?そんなふうには思えないけど・・・」
「なにか感じたりした?」
うーん、と思い返す。
「あ、手首の痣を治してもらった時に、こう、暖かかった。」
「痣?」
言ってからしまった!と思った。
「痣?どういうこと?怪我したの?怪我させられたの?手首の痣なんて、そう自然に出来るものじゃないわよね?転んだとか、ぶつけたとかじゃ出来ないわよね?だれ?誰にやられたの?その契約した鬼?封印しなきゃ・・・蓮也を傷付けるような奴は封印しなきゃ・・・」
七実は蓮也のことを大事に思うが故に過保護である。簡単に言えばブラコンだ。
完全にスイッチが入ってしまった。
「いやいやいや!紅月さんは助けてくれて、治してくれたから!それは別の鬼だから!」
「その、蓮也を誑かした不届き者は紅月って言うのね?」
「だから、紅月さんには終始良くしてもらってるから!落ち着いて!」
七実の動きが止まり、ほっとする。
「落ち着いたか?」
「ならどうして家から出る時、あんな暗い顔をしていたの?」
ズキッ、と胸が痛む。
「それは・・・もう七実達とは会えないかもしれないから・・・」
七実はあげかけていた腰をおろす。
「ねぇ蓮也・・・本当に行ってしまうの?」
震えた声で尋ねられる。
「約束、だからな。」
「私が・・・私がちゃんと手術を受ければ、蓮也は代償を背負わなくてもよかったのに・・・」
ボロボロと泣き出す。
「・・・わた、しは産まれてから、ずっと、陰陽師としてくんれん、されてきたの。」
はっ?と言いそうになるのを抑えて、黙って話を聞く。
「安倍の一族と、芦屋の一族の架け橋となるべく、初代真淵家の当主として、恥じないように生きてきたの・・・」
(紅月さんが言っていたあの話、マジだったのか。てか、七実が当主?父さんとかは・・・あ、あくまでも間じゃないとだめってこと?)
「霊力が強すぎて、悪霊に寄り付かれやすい蓮也を守るために必死で、自分のこと、気付かなかった・・・!」
色々と聞きたいことが出来たが、取り敢えず最後まで話を聞く。
「私ね、どうしても足を切りたくなかったの。
私は、守るために生きてきたの。守られる立場には、なりたくなかったの。
仮に足を切っても、もう既に転移は始まってて、生きられる確証がなかった。だから、苦しむ姿を見せながら生きていたくなんてなかったの・・・それならいっそ死んでしまった方が・・・」
黙っていられず、思わず七実を抱きしめる。
「れ、蓮也!?」
七実が驚いているが、そんなの気にしてる余裕はない。
「寂しいこと言うなよ。
七実が俺の事を大事に思ってくれていて、守ってくれようとしてるのはよく知ってるし、今の話聞いていてもよく分かったよ?
だけどさ、俺たち双子だよ?俺だって七実のこと大事に思ってるし、守りたい。俺なんかじゃ力不足だってことは分かってるけど、少しでも力になりたかった。」
抱きしめた肩越しに、さらに泣いているのが伝わる。
「俺は、何とかして七実を助けたかったんだ。結果として、こんな風に七実を泣かせてしまって・・・
俺は自分が不甲斐ない。」
「ぞんなごと、ない、もん!
私が、意地はらなければ、蓮也が後悔することもなかったんだもん!」
「それは違うよ、
俺は、俺個人として七実にもう一度笑って欲しかったんだ。諦めた顔じゃなくて、生き生きとした、生きるのが楽しくてしょうがないっていう顔が、見たかったんだ。
きっと、俺がもっと真剣に説得すれば、七実だって納得して手術を受けてくれたと思うんだ。でもそれじゃ嫌で、俺の中では、生きる希望に満ちて、笑ってくれることに意味があった。
・・・俺のエゴなんだよ。
だけど、そんなふうに泣かせたいわけじゃなかったんだ・・・」
スンスンと鼻をすする音が聞こえる。
「その、蓮也の優しい心に、紅月っていう不届き者がつけ込んだってわけね。」
「いや、だから違うって。」
けど、通常運転の七実に戻って安心した。
「あのさ、色々と聞きたいことがあるんだけど・・・」
「うん、色々口滑らせたわよね。」
「じゃあ、説明お願い。」
曰く、安倍晴明の一族の当主の孫娘である陰陽師と、芦屋道満の一族の当主の息子である陰陽師が恋に落ちたが親族から猛反発を受け、あわや駆け落ちかとなった時に、その一族の当主(筆頭陰陽師と言うらしい)が《ならば、安倍にも芦屋にも属さない家を作れ》と言われ出来たのが真淵家らしい。言わずもがな、その恋に落ちたのは両親だ(どちらの当主も割と子煩悩で、盆正月は帰ってこいと言われているらしい)。
そして、蓮也と七実が双子として生まれた。だが、蓮也はシャレにならないくらい霊力が強く、命に危険が及ぶほどだったと言う。
「鳩尾の辺にある痣っぽいのはその封印したものよ。」
「初めて知った。てっきり、小さい頃にぶつけてあとになってるのかと。」
「そんな幾何学模様にならないでしょ・・・。
あと、命の危険って言うのは、悪霊や悪鬼が寄ってきてしまうって事ね。」
それで、生まれた子供を当主にするという約束もあったため、比較的マシ(とはいえかなり霊力は強かったらしいが)だった七実が当主になったらしい。
「そういえば陰陽師って何やるの?」
「お祓いとかがメインだけど、相手によっては荒事になるわね。」
「えっ、例えば?」
「悪鬼とか、祟り神とか、現世に迷い込んだ冥界の魑魅魍魎とか?」
すごくファンタジーである。まぁ、蓮也も一応何度か遭ったことはあるが。
「すげー・・・!陰陽師、俺もやってみたかった・・・!」
自分でも目が輝いているのがわかる。
「でも祟り神って神様だよな?大丈夫なのかそれ。」
「神は付けど、堕ちたら所詮妖よ。でも、かなり手強いわ。・・・私が発症したのは祟り神の穢れが一因なのよね。」
思わず固まる。・・・なんて?
「穢れはちゃんと払い切ったつもりだったんだけど、払いきれてなかったみたいでね。穢れは厄を引き寄せるから・・・」
「七実はそんな危ないことをしてたのか?」
今度は蓮也が声を震わせる番だった。
「えっ、蓮也?」
「俺はそんなことも知らずに、ただ守られてたのか・・・?」
「えっ、ちょっ、蓮也、しっかりしてよ。」
「俺が・・・俺が不甲斐ないせいで、七実が危険な目に?」
「蓮也!?何言ってるのよ!私は仕事に行っただけよ!穢れ払いきれなかったのは私のミスよ!」
「俺が、ちゃんと知ろうとしていれば・・・
元を正せば、俺のせいじゃないか・・・」
途方もない自己嫌悪に陥る。なぜ、なぜ、なぜ・・・。
「蓮也、それは違うわよ!私は、望んでこの陰陽師という仕事に従事しているの!」
顔を上げると、七実が怒っている。
「確かに最初はなんで?と思ったわ。でも、母さんは私に《当主とかそういうことは気にしなくていい、辞めてもいい》って言ったの。いつでも辞めていいって、言われてるのよ。
でも辞めずに陰陽師を続けてる。それは、私がやりたいからにほかならないわ。
当主だからとか、蓮也を守るためとか、そのためだけじゃない。私がやりたいからやってるの。
だから、そんな事言わないで。
私、当主になれてよかったと思ってるのよ?」
「ホントに・・・?」
力強く頷かれたら、疑いようがなかった。
「ホントよ。私が穢れを受けたときの仕事も、自分でとった仕事なの。」
「あんまり、無理しないでくれ・・・俺が言える立場じゃないけど。」
これから気をつける、と言われて安心する。
それから、ただ二人で月を眺め、時が来るのを待った。
「ごめんごめん、お待たせ!だいぶ待たせちゃったよね?」
急に声がして、ばっと振り向けば、紅月が立っている。今までとは全く違い、キッチリと漫画で見るような陰陽師の服を着ていて、額にはしっかりと角が生えている。
「きぃさまかァァァァァァァァあ!!!!!!」
七実が紅月に飛びかかろうとしたため、慌てて止める。
「七実、ステイ!」
・・・何故か犬に命令するみたいになってしまった。げせぬ。
そして妹よ、何故それで止まる。
(いや、止まってくれてよかったんだけど!)
「えっ、あっ、妹ちゃん?
どうも、蓮也にはお世話になってます、紅月と申します。」
「あっ、どうもご丁寧に・・・って、何普通に挨拶してきてんの!?」
「おお、キレのいいノリツッコミ。」
(あれ?なんで俺、漫才見てるんだ?)
「改めて、私は紅月。蓮也と契約を交わした、正真正銘の鬼だよ。」
紅月が、七実にしっかりと挨拶する。
「ちゃんとご家族にも挨拶した方が良かったね。不安にさせちゃったかもしれない。」
「私は、認めないわ。」
七実がキッ!と紅月を睨む。
「蓮也を連れてくなんて認めないわよ!」
困った顔の紅月を見て、七実を止めることにする。
「七実、これは俺が紅月さんと約束したことなんだ。」
七実はイヤイヤと首を振る。
「だって・・・だって原因は私なのよ?私が代わりだっていいじゃない!」
「最終段階の、確定の契約までしたから変えるのは無理だね。」
紅月にバッサリ切られる。
「随分丁寧に契約したのね・・・。」
「きちんと、省略せずに契約したからね。もちろん、私が裏切ることも出来ないよ。」
「それならまだいいわね。」
陰陽師と鬼にしかわからない会話なのだろうか。少なくとも、蓮也には理解できない。
「でも、それでも蓮也ともう会えないなんて嫌よ!」
胸が詰まる。
それは蓮也だって同じだ。ずっと、一緒に笑って過ごしたい。でも、それを口に出すと、決意が揺らいでしまう。
(どうしよう・・・
あっ、そうだ!)
ポケットを探れば、直ぐにお守りが見つかる。
それを七実の手を取って握らせる。
「また、七実に会えますように。」
握らせた手を包んで、祈る。
自分の、願望も大いにある。
そっと手を離せば、七実は泣きそうな、それでも嬉しそうな顔でお守りを見つめていた。
月が、欠け始めた。
「蓮也、そろそろ時間だ。」
紅月の足元に幾何学模様が走り、赤く光り出す。
名残惜しさと申し訳なさを押し殺して、紅月のもとへ行く。
「蓮也!!」
「ごめん、行かなきゃ。」
「・・・うん、分かってるわよ・・・
だからこれ、持って行きなさい!」
小包を投げ渡される。
「それ、きっと蓮也の役に立つわ!
後、このお守り、大事にするから!
また会えるの、待ってるから!
だから、だから!」
蓮也はもう、泣き出していた。
七実も、また泣いている。
「元気にしてて!」
「そっちこそ!」
模様の上に乗って紅月の傍らに立てば、光は強くなる。
「後、紅月とやら!」
「?私か。」
「蓮也を傷つけたら許さないから!」
「!・・・任された。」
紅月は真剣な顔で頷く。
「あと、あと、蓮也の周りにいた友達とかは、みんな霊能者だから、心配しなくていいよ!」
(えっ、今それ言う!?そして初耳!あっ、説明すればわかってくれるみたいな、そういうこと!?)
「あと、それから、強い守護霊とかついてるから、大丈夫だよ!」
(ご先祖さまね。うん、強いのは知ってる。・・・とかって何!?)
「それから、父さんとか母さんには、私から説明しておくからね!」
「その時は、月読命のところに行ったと言うといい。
私の真名が冠する名は、天御使だ。」
七実がぽかんとしている。蓮也には意味がわからないが、陰陽師である七実には何か分かったのかもしれない。
『真淵七実の名において、月の御使いに願い奉る!私の兄をよろしくお願い申し上げる!』
『願いは、聞き遂げた。任されよ。』
すごく重い言葉をやり取りしたように見えた。
(七実の態度が変わった?アマノミツカイってすごいのか?)
空を見上げると、地球の影と満月が完全に重なり、月が紅くなった。
それと同時に視界が一気にホワイトアウトする。
「蓮也、私から離れないで。」
手を握られたため、握り返す。
七実の声が、遠くに聞こえる。
「・・・也!・・・っと、・・・・・・てるか・・・ね!」
(蓮也!ずっと、おぼえてるからね!)
「俺も、きっと忘れない!」
地面が消えて、七実の声も、聞こえなくなった。風の音も、冷たい外の空気も、感じなくなった。
プロローグ,Fin
話しかけようとしても、仏頂面の七実には話しかけづらかった。
神社についても、まだ紅月は来ていなかった。
(そういえば、七実に押し切られて連れてきちゃったけど・・・一人でこい、とは言われてないから大丈夫だよね?)
「・・・ねぇ、蓮也。私のせいよね?」
唐突に七実が口を開く。
「えっ、何が?」
「私のせいでしょ?こんな所に来るなんて。」
うまく話が掴めない。
「私が、手術を拒んだからよね。
だから、鬼に願ったんでしょ?“約束”、してしまったんでしょ?」
「な、んで、それを・・・。」
袖をぐいっと捲られる。
何かあるのかと目を凝らすと、赤い幾何学模様が肌を走っている。
「そこから、鬼の妖力を感じるの。
何言ってるか分からないかもしれないけど・・・」
「この赤い模様のこと?」
七実は少し驚いた表情を見せたが、頷く。
「鬼と関わりがあるのは確かよね?」
「ここで黙っても意味ないしな・・・一応説明するよ。」
自分のワガママで鬼と契約を結んだこと
実際に叶ったから、代償を払うこと
その代償は自らを差し出すこと
「じゃあその妖力は、自分のものだと示すためのものってこと?」
七実の声がワナワナと震えている。
(あ、怒ってる。)
「さ、さぁ?そんなふうには思えないけど・・・」
「なにか感じたりした?」
うーん、と思い返す。
「あ、手首の痣を治してもらった時に、こう、暖かかった。」
「痣?」
言ってからしまった!と思った。
「痣?どういうこと?怪我したの?怪我させられたの?手首の痣なんて、そう自然に出来るものじゃないわよね?転んだとか、ぶつけたとかじゃ出来ないわよね?だれ?誰にやられたの?その契約した鬼?封印しなきゃ・・・蓮也を傷付けるような奴は封印しなきゃ・・・」
七実は蓮也のことを大事に思うが故に過保護である。簡単に言えばブラコンだ。
完全にスイッチが入ってしまった。
「いやいやいや!紅月さんは助けてくれて、治してくれたから!それは別の鬼だから!」
「その、蓮也を誑かした不届き者は紅月って言うのね?」
「だから、紅月さんには終始良くしてもらってるから!落ち着いて!」
七実の動きが止まり、ほっとする。
「落ち着いたか?」
「ならどうして家から出る時、あんな暗い顔をしていたの?」
ズキッ、と胸が痛む。
「それは・・・もう七実達とは会えないかもしれないから・・・」
七実はあげかけていた腰をおろす。
「ねぇ蓮也・・・本当に行ってしまうの?」
震えた声で尋ねられる。
「約束、だからな。」
「私が・・・私がちゃんと手術を受ければ、蓮也は代償を背負わなくてもよかったのに・・・」
ボロボロと泣き出す。
「・・・わた、しは産まれてから、ずっと、陰陽師としてくんれん、されてきたの。」
はっ?と言いそうになるのを抑えて、黙って話を聞く。
「安倍の一族と、芦屋の一族の架け橋となるべく、初代真淵家の当主として、恥じないように生きてきたの・・・」
(紅月さんが言っていたあの話、マジだったのか。てか、七実が当主?父さんとかは・・・あ、あくまでも間じゃないとだめってこと?)
「霊力が強すぎて、悪霊に寄り付かれやすい蓮也を守るために必死で、自分のこと、気付かなかった・・・!」
色々と聞きたいことが出来たが、取り敢えず最後まで話を聞く。
「私ね、どうしても足を切りたくなかったの。
私は、守るために生きてきたの。守られる立場には、なりたくなかったの。
仮に足を切っても、もう既に転移は始まってて、生きられる確証がなかった。だから、苦しむ姿を見せながら生きていたくなんてなかったの・・・それならいっそ死んでしまった方が・・・」
黙っていられず、思わず七実を抱きしめる。
「れ、蓮也!?」
七実が驚いているが、そんなの気にしてる余裕はない。
「寂しいこと言うなよ。
七実が俺の事を大事に思ってくれていて、守ってくれようとしてるのはよく知ってるし、今の話聞いていてもよく分かったよ?
だけどさ、俺たち双子だよ?俺だって七実のこと大事に思ってるし、守りたい。俺なんかじゃ力不足だってことは分かってるけど、少しでも力になりたかった。」
抱きしめた肩越しに、さらに泣いているのが伝わる。
「俺は、何とかして七実を助けたかったんだ。結果として、こんな風に七実を泣かせてしまって・・・
俺は自分が不甲斐ない。」
「ぞんなごと、ない、もん!
私が、意地はらなければ、蓮也が後悔することもなかったんだもん!」
「それは違うよ、
俺は、俺個人として七実にもう一度笑って欲しかったんだ。諦めた顔じゃなくて、生き生きとした、生きるのが楽しくてしょうがないっていう顔が、見たかったんだ。
きっと、俺がもっと真剣に説得すれば、七実だって納得して手術を受けてくれたと思うんだ。でもそれじゃ嫌で、俺の中では、生きる希望に満ちて、笑ってくれることに意味があった。
・・・俺のエゴなんだよ。
だけど、そんなふうに泣かせたいわけじゃなかったんだ・・・」
スンスンと鼻をすする音が聞こえる。
「その、蓮也の優しい心に、紅月っていう不届き者がつけ込んだってわけね。」
「いや、だから違うって。」
けど、通常運転の七実に戻って安心した。
「あのさ、色々と聞きたいことがあるんだけど・・・」
「うん、色々口滑らせたわよね。」
「じゃあ、説明お願い。」
曰く、安倍晴明の一族の当主の孫娘である陰陽師と、芦屋道満の一族の当主の息子である陰陽師が恋に落ちたが親族から猛反発を受け、あわや駆け落ちかとなった時に、その一族の当主(筆頭陰陽師と言うらしい)が《ならば、安倍にも芦屋にも属さない家を作れ》と言われ出来たのが真淵家らしい。言わずもがな、その恋に落ちたのは両親だ(どちらの当主も割と子煩悩で、盆正月は帰ってこいと言われているらしい)。
そして、蓮也と七実が双子として生まれた。だが、蓮也はシャレにならないくらい霊力が強く、命に危険が及ぶほどだったと言う。
「鳩尾の辺にある痣っぽいのはその封印したものよ。」
「初めて知った。てっきり、小さい頃にぶつけてあとになってるのかと。」
「そんな幾何学模様にならないでしょ・・・。
あと、命の危険って言うのは、悪霊や悪鬼が寄ってきてしまうって事ね。」
それで、生まれた子供を当主にするという約束もあったため、比較的マシ(とはいえかなり霊力は強かったらしいが)だった七実が当主になったらしい。
「そういえば陰陽師って何やるの?」
「お祓いとかがメインだけど、相手によっては荒事になるわね。」
「えっ、例えば?」
「悪鬼とか、祟り神とか、現世に迷い込んだ冥界の魑魅魍魎とか?」
すごくファンタジーである。まぁ、蓮也も一応何度か遭ったことはあるが。
「すげー・・・!陰陽師、俺もやってみたかった・・・!」
自分でも目が輝いているのがわかる。
「でも祟り神って神様だよな?大丈夫なのかそれ。」
「神は付けど、堕ちたら所詮妖よ。でも、かなり手強いわ。・・・私が発症したのは祟り神の穢れが一因なのよね。」
思わず固まる。・・・なんて?
「穢れはちゃんと払い切ったつもりだったんだけど、払いきれてなかったみたいでね。穢れは厄を引き寄せるから・・・」
「七実はそんな危ないことをしてたのか?」
今度は蓮也が声を震わせる番だった。
「えっ、蓮也?」
「俺はそんなことも知らずに、ただ守られてたのか・・・?」
「えっ、ちょっ、蓮也、しっかりしてよ。」
「俺が・・・俺が不甲斐ないせいで、七実が危険な目に?」
「蓮也!?何言ってるのよ!私は仕事に行っただけよ!穢れ払いきれなかったのは私のミスよ!」
「俺が、ちゃんと知ろうとしていれば・・・
元を正せば、俺のせいじゃないか・・・」
途方もない自己嫌悪に陥る。なぜ、なぜ、なぜ・・・。
「蓮也、それは違うわよ!私は、望んでこの陰陽師という仕事に従事しているの!」
顔を上げると、七実が怒っている。
「確かに最初はなんで?と思ったわ。でも、母さんは私に《当主とかそういうことは気にしなくていい、辞めてもいい》って言ったの。いつでも辞めていいって、言われてるのよ。
でも辞めずに陰陽師を続けてる。それは、私がやりたいからにほかならないわ。
当主だからとか、蓮也を守るためとか、そのためだけじゃない。私がやりたいからやってるの。
だから、そんな事言わないで。
私、当主になれてよかったと思ってるのよ?」
「ホントに・・・?」
力強く頷かれたら、疑いようがなかった。
「ホントよ。私が穢れを受けたときの仕事も、自分でとった仕事なの。」
「あんまり、無理しないでくれ・・・俺が言える立場じゃないけど。」
これから気をつける、と言われて安心する。
それから、ただ二人で月を眺め、時が来るのを待った。
「ごめんごめん、お待たせ!だいぶ待たせちゃったよね?」
急に声がして、ばっと振り向けば、紅月が立っている。今までとは全く違い、キッチリと漫画で見るような陰陽師の服を着ていて、額にはしっかりと角が生えている。
「きぃさまかァァァァァァァァあ!!!!!!」
七実が紅月に飛びかかろうとしたため、慌てて止める。
「七実、ステイ!」
・・・何故か犬に命令するみたいになってしまった。げせぬ。
そして妹よ、何故それで止まる。
(いや、止まってくれてよかったんだけど!)
「えっ、あっ、妹ちゃん?
どうも、蓮也にはお世話になってます、紅月と申します。」
「あっ、どうもご丁寧に・・・って、何普通に挨拶してきてんの!?」
「おお、キレのいいノリツッコミ。」
(あれ?なんで俺、漫才見てるんだ?)
「改めて、私は紅月。蓮也と契約を交わした、正真正銘の鬼だよ。」
紅月が、七実にしっかりと挨拶する。
「ちゃんとご家族にも挨拶した方が良かったね。不安にさせちゃったかもしれない。」
「私は、認めないわ。」
七実がキッ!と紅月を睨む。
「蓮也を連れてくなんて認めないわよ!」
困った顔の紅月を見て、七実を止めることにする。
「七実、これは俺が紅月さんと約束したことなんだ。」
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「だって・・・だって原因は私なのよ?私が代わりだっていいじゃない!」
「最終段階の、確定の契約までしたから変えるのは無理だね。」
紅月にバッサリ切られる。
「随分丁寧に契約したのね・・・。」
「きちんと、省略せずに契約したからね。もちろん、私が裏切ることも出来ないよ。」
「それならまだいいわね。」
陰陽師と鬼にしかわからない会話なのだろうか。少なくとも、蓮也には理解できない。
「でも、それでも蓮也ともう会えないなんて嫌よ!」
胸が詰まる。
それは蓮也だって同じだ。ずっと、一緒に笑って過ごしたい。でも、それを口に出すと、決意が揺らいでしまう。
(どうしよう・・・
あっ、そうだ!)
ポケットを探れば、直ぐにお守りが見つかる。
それを七実の手を取って握らせる。
「また、七実に会えますように。」
握らせた手を包んで、祈る。
自分の、願望も大いにある。
そっと手を離せば、七実は泣きそうな、それでも嬉しそうな顔でお守りを見つめていた。
月が、欠け始めた。
「蓮也、そろそろ時間だ。」
紅月の足元に幾何学模様が走り、赤く光り出す。
名残惜しさと申し訳なさを押し殺して、紅月のもとへ行く。
「蓮也!!」
「ごめん、行かなきゃ。」
「・・・うん、分かってるわよ・・・
だからこれ、持って行きなさい!」
小包を投げ渡される。
「それ、きっと蓮也の役に立つわ!
後、このお守り、大事にするから!
また会えるの、待ってるから!
だから、だから!」
蓮也はもう、泣き出していた。
七実も、また泣いている。
「元気にしてて!」
「そっちこそ!」
模様の上に乗って紅月の傍らに立てば、光は強くなる。
「後、紅月とやら!」
「?私か。」
「蓮也を傷つけたら許さないから!」
「!・・・任された。」
紅月は真剣な顔で頷く。
「あと、あと、蓮也の周りにいた友達とかは、みんな霊能者だから、心配しなくていいよ!」
(えっ、今それ言う!?そして初耳!あっ、説明すればわかってくれるみたいな、そういうこと!?)
「あと、それから、強い守護霊とかついてるから、大丈夫だよ!」
(ご先祖さまね。うん、強いのは知ってる。・・・とかって何!?)
「それから、父さんとか母さんには、私から説明しておくからね!」
「その時は、月読命のところに行ったと言うといい。
私の真名が冠する名は、天御使だ。」
七実がぽかんとしている。蓮也には意味がわからないが、陰陽師である七実には何か分かったのかもしれない。
『真淵七実の名において、月の御使いに願い奉る!私の兄をよろしくお願い申し上げる!』
『願いは、聞き遂げた。任されよ。』
すごく重い言葉をやり取りしたように見えた。
(七実の態度が変わった?アマノミツカイってすごいのか?)
空を見上げると、地球の影と満月が完全に重なり、月が紅くなった。
それと同時に視界が一気にホワイトアウトする。
「蓮也、私から離れないで。」
手を握られたため、握り返す。
七実の声が、遠くに聞こえる。
「・・・也!・・・っと、・・・・・・てるか・・・ね!」
(蓮也!ずっと、おぼえてるからね!)
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地面が消えて、七実の声も、聞こえなくなった。風の音も、冷たい外の空気も、感じなくなった。
プロローグ,Fin
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前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
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アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
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パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
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彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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