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一章・・・宵の森

憤怒の鬼

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水から引き上げられ、一瞬で身体や衣類を乾かされたあと、素早く怪我がないかチェックされる。

「ごめん、私がついていながらこんな・・・!

大丈夫?痛いところはない?怪我は?あの女狐になにかされてない?」

ガシッと肩を掴まれて、余裕のない表情でまくしたてられる。

「お、落ち着いてください紅月さん!俺はなんともないですよ!ほら!」

無事であることを示すためにくるりと回ってみせる。
ふと足首に違和感を覚えた。

(ん?痛くは無いけどなんか変だ・・・。)

「足首?足首だね?見せて。」

紅月に目ざとく気づかれ、パッと靴を脱がされる。

「わっ!?ちょ、紅月さん何を・・・」
「どうしたのこれ」



温度のない声で言われ、ヒュ、と息が詰まる。

(これは、相当怒っている。)

自分の足首を見ると、赤黒く水草のような痣が足首からふくらはぎにかけてはしっている。
決して逃がさないと、絡みついている。

「え、と・・・これは、その・・・。」
「新月、これは呪いなんだよ。自由を奪う、悪質な呪い。」

つ、と紅月の指が痣をなぞる。白く、長く、美しい手。けれど岩を砕くことも金属を曲げることも容易い、強い手。
その指先からは怒りが滲んでいて、思わず背筋がゾッとする。

「紅月さ・・・」
「私は、この類の呪いを解く術を持たないんだ。」
「えっ?」
「魔法はその場で、魔力で簡易的に構築されてる・・・簡単に言えば積み木細工のようなものだから、構築が甘ければ解呪ディスペルでどうとでもなる。その気になればその魔法を奪うことだって可能だ。
・・・でも、呪いは違う。呪いは刻みつけるものなんだ。」

ステータスを見るよう促され、逆らってはいけないと従う。



世界の図書館ワールドブックス”・・・


・個体名・・・新月 (真名)真淵 蓮也
・種族・・・神の眷属
職業クラス・・・未定

・体力・・・S9←new
・魔力・・・無制限
・パワー・・・S3←new
・技術・・・EX←new

スキル
     世界の図書館ワールドブックス
     全てのスキル使用許可スキルコンプリート
     水との親和
     暗闇との親和

加護
     大地の神アトランシスの加護
     月の鬼の加護
     水辺の神アクウァムの祝福
     武神の加護←new
     遊戯神の加護←new
     魔神の加護←new

呪い
     神々の妬み
     水辺の幻獣の妬み←new

称号
     大地の神の寵愛を受けし者←new
     水辺の神の愛し子←new
     月の鬼に溺愛されし者←new
     妬まれし者←new
     世界の生贄




(“水辺の幻獣の妬み”・・・きっとこれだ。前回みた時にはなかったし、なんか親切に“new”って書いてあったし。)
そっとタップして見る。



水辺の幻獣の妬み・・・“玄武”が新月に刻んだ束縛の呪い。ステータスが全体的に大幅に下がる。
大地の神アトランシスことツクヨミに執着するが故に、眷属である新月の存在を妬み、呪った。



「新月、見せてくれるね?」
「は、はい」

決してノーとは言わせない紅月の声色に、新月は頷くことしか出来ない。

「ふーん・・・そう。





身の程知らずの亀には躾が必要みたいだ。飼い主の責任も問わなきゃいけない。

さて、どう落とし前つけてもらおうかな。」

激しい怒気が、魔力となって吹き荒れる。
必死で魔力の流れを保たなければ気絶してしまいそうな程だ。

(怖い・・・紅月さんが怖い・・・。)

見たこともないほど怒る紅月の顔からは一切の表情が抜け落ちている。
新月はそれ以上紅月の顔を見ていられずに目を逸らす。

心臓が嫌な音を立てている。
(荒々しい魔力・・・こんな雑な魔力を散らす紅月さん、見たことない)


『出てこい、下臈げろう。』


(声に、魔力がこもってる・・・!これ、確か前にも・・・)

紅月と契約を交わした時を思い出す。

(ただ、あの時よりも圧倒的に言葉が“”!)


紅月の言葉が終わると同時に、湖から水辺の神アクウァムが引きずり出される。

「アクウァムさん!」

思わず叫ぶ。
無理矢理引きずり出されたからなのか、彼女は這い蹲った状態で、その表情は苦悶に満ちていた。

「新月を傷物にした落とし前はつけてもらうよ。」

紅月はいつの間に近づいたのか、彼女の髪を無造作に掴み上を向かせる。

「新月には刺激が強いだろうから。」

紅月は新月の方を見てニッコリと笑う。
それはそれは綺麗に。
それはそれは恐ろしく。

『少し向こうで遊んでおいで。』

待っての言葉も出ず、景色が一気に流れる。




「紅月さん!待って、俺の話を聞いてください!紅月さん!


紅月さーん!!!」


















































その声ははるか遠く、紅月は少し胸を痛める。

「ああ、新月にあんな、悲痛な声を出させてしまうなんて・・・」

水色の髪に目を戻す。あの申し訳なさそうな目はどこへやら、温度の感じられない目で見下す。

「さて、一体どういうつもりなのか・・・新月が貴様のことを気にしているようだからな、言い訳くらいは聞いてやろう。
せいぜい上手く命乞いをするがいい。」

キッ、と睨んだ女は叫ぶ。

「うっさいわこの年増!せっかく大地の神アトランシスから頼まれて加護を与えた子はどんな子かと楽しみに降臨したのに、いざ会ってみたらあんたがベタベタベタベタくっついてんじゃないのよ!気持ち悪いったらありゃしない!しかも何あれ猫かぶっちゃってさぁ!?きもいわ!
確かにね、坊やが傷ついてしまったのは私の責任だわ。ペットのバカ亀がした事だから私の監督不行届かんとくふゆきとどきよ。それは認めるわよええ。けどねぇ、あんたにだって問題があったでしょうよ!
なんで精神干渉系統に対する注意を教えておかなかったの!?あの動き方は一切精神干渉系統を知らない動き方だった!私がいたからよかったものの、あのままだったらどうなってたことか!
あんたどうせ武器の使い方ばっかり教えてたんでしょ!?攻撃の種類は物理だけじゃないってことまさか忘れてないよねぇ?大地の神アトランシスに保護を任されてんのに無責任なんじゃないの!?それとも何?“私が守ればいい”とでも思ってんの!?現にあんた、月光不足で弱ってたからってウトウトしてたせいで坊やは危ない目にあったのよ!」
「なんだと黙って聞いていれば!よく回る口だなぁ!?」
「あら私は言いたいことを言っただけよ。なんならまだ言い足りないわ。」
「黙れクソアマ!主君に少し頼られたからと言っていい気なってるみたいだが、私の方がずっと長くお仕えしているし信頼されている!」
「話が逸れてんのよ!あんたの主君に対する忠誠心なんか聞いてない!私は坊やの・・・新月くんのことを聞いてんの!

なんで精神干渉に対する訓練をしてあげなかったの!?」
「っ、私は・・・!」





To be Continued・・・・・・
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