【完結】不本意ながら、結婚することになりまして

buchi

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第8話 お昼ごはんデート再び

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「彼女を刺激するのは止めた方がいいですよ」

「なんだよ、それ」

宇津木さんとは、喰いまくり、言いたいことを言いあい、その後割り勘の額でもめてバラバラに帰った。

「役に立たん女だ」

翌週、俺はもちろん俺の庭に行った。

座敷童が来ていたらしい。縁側に仏花みたいのが供えてあった。
まだ、新しい。俺は仏壇ではない。ムカッとした。

せめてセンスのある花を供えて欲しい。更にマイナス評価が付いた。

刺激するなと言われたけど、ムカつくものはムカつく。

僕はその花束に、「無断侵入お断り」と書いた紙を張り付けて放置した。


翌週、行くと花束はなかった。

「フフン」

と、俺は言った。
花が勝手に縁側から逃げ出すことはないだろう。

何のことはない。

最初からこうすればよかったのだ。

他人に遠慮して、色々遠回りをすることなんかなかったんだ。


だが、次の月曜日に出社したら、宇津木さんがビルのエントランスで待っていた。

「真壁さん」

話しかけられて、ビックリした。

「なんですか? 用ですか?」

俺は出来るだけ嫌そうな顔をして、彼女を眺めた。
彼女の方もすごく嫌そうな顔をしていた。

「待ってたんですよ」

「僕をですか?」

彼女はうなずいた。

「なんか用事でもあったんですか?」

「まあ、出勤してるんならいいです。昼休み、ビアンコで待ってます」

「え?」

デートのお約束? それは、心外だな?

「なんか馬鹿なこと、考えてんでしょう。違うわよ。用事があんのよ。でなきゃ待ってたりしないわよ」

いきなり彼女が毒づいた。

「必ず来てくださいよ? 困ったことになるからね」

そう言うとさっさと離れて行ってしまった。



「なんなのよ? あの子」

ボンヤリ後姿を見送っていると、後ろから三宅が近付いてきていて聞いた。

三宅は僕より3つ先輩で、社内の付き合いを嫌がると出世に差し支えるなどとアドバイスしてくれる大きなお世話な大先輩だ。

「知らないですね」

「いやあ、真壁、隅に置けないね。お前ももう三十だもんな、ラストチャンスだ」

お前に、お前呼ばわりはされたくない。それに、なんで、まだ三十歳なのにラストチャンスなんだ。

「なんか、用事ありそうでしたけどね。なんなんでしょうね」

俺は途方に暮れたように言った。

「行くの?」

三宅先輩は顔をのぞき込んだ。

「行きませんよ。何の用だかわからないし」



しかし、俺はビアンコに行った。

俺は心配性である。

何が心配だったって、二人分の席を、あの昼時はめちゃ混みするビアンコで確保する心痛に(たとえ確保しているのがあの宇津木だろうが)耐えられなかったのである。

あと、ビアンコの席を確保してくれるなら、好都合だ。コンビニ飯は悪くないが、ビアンコの方がいい。毎日だって通いたい。だけど、性根を据えて頑張らないと入れない。

「早くしなさいよ」

座ったらすぐ文句を言われた。

「なんでだよ」

俺は目を光らせた。

職場では一応、温厚で通っているが、どうでもいい場合は、割と強硬なタイプだ。
ケンカもするときゃする。まあ、勝てないケンカには手を出さない主義でもある。

彼女はため息をついて、嫌そうな顔をして、何か言いかけたが、先に店員からAランチかBか聞かれたので、Aを二つ勝手に発注した。Bはコーヒーとドルチェが付いてくる。長話は嫌だ。

「で?」

「あなた何かしたでしょう? 潤夏ちゃん、自殺未遂しましたよ」

「え?」

俺は目が点になった。

「自殺未遂?」

宇津木さんは、横を向いてうなずいた。

「へえー?」

あの座敷童が死んだというなら、それは喜ばしい。未遂か。ちと残念だ。

「でも未遂かよ。じゃあ、また、湧いて出てくんのかな?」

宇津木さんはジト目になった。

「未遂やるヤツは何回でもするのよ。知り合いで自殺未遂した人は潤夏ちゃんだけだから、他の人のことは実は知らないけど」

「酷い言い方じゃね?」

僕はピザを受け取りながら感想を述べた。

「真壁さんもひどくない?」

「でも、仕方ないだろ? 俺、関係ないし。宇津木さんは知り合いだろ」

「ううん。真壁さんのせいだって言っているらしいよ」

「え?」

今度のえ?は本気のえ?だった。

「俺、全然関係ないでしょ?」

「なんか、好きな人に拒否されたって、言ってるらしいよ」

好きな人?

「は? 誰? それ」

思わず声が大きくなって、ビアンコの客全員がこっちを向いた。

「誰のことだよ?」

俺は宇津木さんにささやいた。

「真壁さんのことよ」

決ってんでしょと言わんばかりの表情だ。

「なわけないだろ。大体、名前知らんだろ?」

そこで、俺は可能性に気がついた。宇津木さんがバラしたんだ。

「あっ、お前、名前を教え……」

「違います!」

ドンとテーブルを宇津木さんが叩いた。皿の上のピザが踊り、またもや、ビアンコ全員がこっちを向いた。

「……そんな真似、するわけないでしょう。そんなことしたら、私まで標的になるから」

宇津木さんがささやき返した。

標的……

僕は、宇津木さんを眺めた。新種の生物でも眺めている気持ちになった。

「潤夏ちゃんは、信じちゃうんです。自分の妄想を……」

妄想……

「夢かな? 彼女は自分を迎えに来てくれる恋人を待っているんです」

「二十八歳の売れ残りのくせに女子高生のカッコしてか?」
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