グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

文字の大きさ
15 / 86

第15話 暗殺者、募集中

しおりを挟む
 その夜は終わり、少佐は結局べろべろに酔った中佐を送って帰った。


 部屋に戻りひとりになってから、今日の少佐の言葉を繰り返した。

 
 一体、誰を殺す気なのか。

 まさか軍の内部抗争じゃないよね。


 聞いてしまった以上、私は、どうなるのだろう。その晩はなかなか寝られなかった。

 その日から三日間は休暇だったが、休んだ気がしなかった。
 ゆっくり寝て、以前に読んだ本を繰り返し読んだりしたが、どうも落ち着かなかった。
 出来るだけ、人に会わないようにしてしまった。誰にも会う予定はなかったが、基地は狭い。通りすがりに誰かに出会うことさえ避けたい気分だった。

 軍はどうやら例の卵と死体を全部片付けてしまったらしかった。
 軍のHPでそれは読んだ。尉階級以上宛に送られてくるメールにも、結構、詳細に事情が載っていた。知っておけということなのだろう。きっと、今頃、研究部は、例の気持ちの悪い卵の山に埋もれているのだろう。処分がなかなか難しいと、少佐が言っていたのを思い出した。


 三日目にようやく基地に行く気になった。

 明日から何かが始まるはずだ。情報を知りたい。準備もある。

 ジェレミーが私服でいつもの席に座っていた。マイカはもう制服で、兵站の担当者と一緒に倉庫に詰め込む物品のチェックをしていた。

 レッドの何人かが暇そうに私服でたまっていて、ここでアルコールを飲むことは禁止されているので、ジュースとスナックをかじっていた。

 そして、真ん中にはバルク少佐が退屈そうに、長い足を組んで座っていた。寝ているように見えた。


 私は、目立たないように手でジェレミーに合図を送り、誰もいないブルーのデスクに近寄っていこうとした。

「ノッチ、こっちへ来てくれ」

 明確なジェレミーの声が飛んだ。
 バルク少佐は寝ていなかった。彼の目は、ずっと私を捉えていたのだ。

「少佐、おはようございます」

 私は礼儀正しく挨拶した。

「では、少尉、ジェレミーと私とで今度の作戦を説明しよう」

 少佐はだるそうに言った。

「今度、第三の作戦がスタートする。そして、うまくいけば、それが最終の作戦となる予定だ」

「やつらを皆殺しにすることが、そんなに簡単なことでしょうか?」

「うん、皆殺しになんかしない。殺すのは、別のヤツだ。ジェレミー」

 ジェレミーが足元の箱を開けて見せた。

 狙撃銃が何本か入っていた。

 私は思わずにやりとした。安心したのだ。ジェレミーが噛んでいるなら、軍内部の要人暗殺ではない。それでさえなければ、何でも出来る。

 私が微笑んだのを見て、ジェレミーもつられて笑った。

「ノッチ、やる気か。これを見て笑うとは怖いな、あんたは」

「いや、使ってみないとわからない。試射できるかな?」

「ここではだめだ。外へ出よう」

 少佐が物憂げに言った。

「少佐は疲れているのじゃありませんか?」

 私は気になった。

「疲れていても、君の腕を検分させてもらうさ」

「少佐はずっと会議だったのだ」

 ジェレミーが説明した。

「少将にいじめられてたのさ。今度の計画のことでね」

 バルク少佐がゆっくり言った。

「私は一人で遂行するのですか?」

「いや、違う。荷物持ちと行くんだ。君は華奢すぎる」

「荷物持ち?」

 一緒に誰が行くのだろう。一人だといいなと思ってた。でも、ふつうは二人かな。

「荷物だけの問題なら、これなんか、今、使っているライフルと重量は代わらないはずですが」

「だめだ。危険だ」

「誰と行くんですか?」

 ギルかな? オスカーかな?

「私だ。その箱は全部持ってやる。どこまで射程が延ばせるかテストだ。その結果で実行日を決める」

 2時間後、準備を全部整えて、テストのための目的地に着いた。


 こんなひどいライフル射撃のテストはしたことが無かった。次から次から休みなしだ。少佐にはなにか目的があるらしい。

 三時間試射して、計十四本の銃の癖は、大体飲み込めた。だめなヤツはすぐ捨てた。ダメというか私に合わないやつだ。精度の悪いものも混ざっていた。私は伝説のスナイパーなんかじゃない。それに暗いのだ。光が足りない。実戦と同じ光度でと少佐は条件をつけた。むろん照明の設備があるのだが、少佐は使わせてくれなかった。

「一撃必殺ですか?」

「あたり前だ。」

「連射は必要なしですか?」

「外す気か?」

「どういう状況の下で狙撃するんですか」

 少佐は私を見た。

「七百メートルだと何発か外してるじゃないか」

「……………」

「もちっと当てられんか?」

 私は、銃を一本選んだ。

 きっちり置く。光学スコープをのぞく。的を狙う。七百メートル先なのだ。風の具合、空気のゆらめき、そんなもので状況が変わってしまう。そして撃つ。

「OK」

 少佐が確認した。

 もう一度、弾を詰める。撃つ。

「OK」

 少佐がスコープを覗いて判定を下す。これを繰り返した。

 五発全部を当てた。

 少佐はスコープをおろした。

「よし」

 少佐の声が満足そうだった。

「五百メートルにしてください」

「ダメだ。七百だ」

「確実ではありません」

「七百を確実に当てろ」

「ほかの人にしてください」

「だめだ」

 彼は簡単に答えた。全然妥協の余地がなかった。

「少尉で五人目なんだ。軍内部でスナイパーを探しまくっているんだ。もう二ヶ月だ。七百メートルを当てられたのは、たった一人、つまりあんただけなんだ。絶対に、絶対に必要なんだ」

「口径をでかくしましょう。パワーがあれば弾が安定する」

「そして、お前が吹っ飛ぶ。こんな華奢なスナイパーは避けたかったのだ。本来は、ギルくらいの体格が欲しい。君が腕がいいのは知っていた。だけど、華奢すぎるのだ」

「地面に固定するんだから、吹っ飛びっこないですよ」

「だめだ。ライフルしか使えないんだ。標的が丘の上に出てきたら、瞬時に我々も移動して狙い定めて一発で射止める」

「七百メートルって、決まっているのですか」

「相手が持っているGPSの守備範囲が、どうやら七百メートルらしいのだ。その範囲外から撃たないと、感づかれ逃げられてしまうだろうし、二度と地上に出て来なくなってしまうだろう。ワンチャンスなんだ」

 私は持っていた銃を置いた。

「この天候では無理がある。まあ、口径をどんなにでかくしても、おそらくこの光の量だと、七百メートルは限界を超えていると思います。確認することが光学スコープでもできない。うんと天気のいい日を選んでください。真昼間を。昼間なら当てられる」

「おれたちの都合なんてきいてくれない」

「その日を待つしかない。天気さえよければ、一発で当てられます」

「待つのか。待つのはつらいぞ。ずっと待機だ」

「それと、もう少し銃の研究をさせてください」

「何をするつもりだ?」

「精度の高い銃とスコープを探します」

 少佐は目をつぶってため息をついた。

「よし。しかたない」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!

らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。 高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。 冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演! リアには本人の知らない大きな秘密があります。 リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。 ひみつの姫君からタイトルを変更しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...