【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi

文字の大きさ
15 / 58

第15話 ケネスの真実の愛探しのお手伝い

しおりを挟む
実際には、王女が留学を切り上げて国を出ていったのは一か月後だった。

色々と手続きに時間がかかったらしい。



だが、学園にはそれきり姿を現さなかったので、噂は減っていった。



ただし、私とケネスの婚約破棄だけは事実として残った。あと、ケネスの「真実の愛を探しに」は有名になってしまった。





自邸では、母が不機嫌そうにしていた。



「今更、めぼしい縁談はないわ」



大体が決まった後だそうである。



私は思い出して、マンダヴィル辺境伯の息子ウィリアムのことを言ってみた。



「結婚してくれると言っていました」



母を余計怒らせたらしい。



「嫡子以外はお断りよ」



ウィリアム、嫡子じゃなかったのね。



「最悪、従兄弟のグレアムに結婚を打診してみましょう」



従兄弟のグレアムは、十歳ほど年上だった。



親戚にはなるらしく、何回か、王都に来たとき顔を合わせたことがある。



身分は伯爵家だが大変裕福だそうで、ごつい感じはするが、子どもには優しい大人だった。

最後に会ったのがいつだったか全く覚えていないが、多分十歳かそこらだったと思う。私が十歳とか十二歳の頃、彼は二十歳とか二十二歳なわけで、恋人だとか夫だとかそういう対象として見たことがなかった。



彼には婚約者がいたのだが、婚約者の兄がもっと格の高い家の跡取りになってしまったそうである。財産も相当ある家らしい。自家を捨てて、他家の養子に入ることになったのだが、そうなると婚約者の女性が婿養子をもらわねばならなくなり、バイゴッド家の跡取りのグレアムでは具合が悪くなってしまったため、破談になったそうだ。



「わかりにくい……」



私は頭を抱えたが、母はすまして、「それは、良かったこと」などと言っていた。



婚約が、パズルの駒をはめる作業みたいに思えてきたが、嫁ぎ損ねるよりマシらしい。



「グレアムは大喜びで承諾すると思うわ」



本当なのかなと思ったが、何しろ破談はつい最近で、嫁を探す時間がなかったはずだし、公爵家の娘なら文句はあるまいとのこと。



「でも、ケネスの方は難しくなるでしょうね。何しろ、公爵家の娘を裏切ったのだから」



その口調と言ったら!



母は、オズボーン家にも怒り心頭だった。ケネスが婚約破棄を宣言したのだから、当たり前かもしれない。



だが、事情が事情である。



ケネスが婚約破棄を宣言しなかったら、アマンダ王女の手による訳の分からない断罪劇が敢行されて、私の不倫が証人付きで公表されるところだったので、私としてはケネスに感謝したいくらいだった。



「あなたに不倫をする可能性なんか、絶対ないことはみんな知っているでしょう!」



メガネっ子ですしね……。



オズボーン家は、父を介して婚約の復帰を求めて来たらしいが、父も今は少し時間をおこうと返事をしたらしい。

実際には、母の機嫌が直るのを待とうと言う意味なのではないかと思ったのだけど。



「あんなに平然と婚約破棄を公言するだなんて! 公爵家を何だと思っているのかしら? うちの娘のどこが気に入らないのかしら? 失礼な!」



気に入らないのよ。でなければ、お茶くらいには誘ってくれたでしょうし、デートや散歩やオペラを一緒に見に行ってくれたり、ダンスパーティもエスコートしてくれたことでしょう。



ケネスは何一つしてくれなかった。



母は、そんな細かいことは知らなかったろうが、知ったらプライドを傷つけられて、もっと怒るだろう。



「オズボーン侯爵家は覚えておくといいわ」



何やら不穏なことをつぶやいて、再婚約は猛スピードで進んだ。



二週間後には、グレアムから快諾すると言う返事が返って来た。



結婚は卒業後になるが時期は問わない、知っている間柄だが、一度正式に顔合わせをしようと言うことになった。



知っていると言う程、知らないと思うのだけど。だって、最後に会ったのが十年くらい前ではないかしら。









「そんなわけで、今度はバイゴッド家の婚約者になるみたいですわ」



「ずいぶん簡単に決まるね」



三人はさすがにこの早業には驚いたらしい。

三人と言うのは、食堂でいつものように一緒に話していたルシンダとアーノルド、それにこの頃は毎日のように加わってくるウィリアムのことになる。もう婚約者がいないからか、ウィリアムは、以前より親し気になったような気がする。これでいいのかしら?



「もっと、時間がかかるんだと思っていたよ」



「お母さまが決めてしまうのよ」



「僕は、候補に入れてもらえなかったのかな?」



ウィリアムが、突然とんでもないことを言い出した。

そう言えばそんな冗談を言っていたことがあった。私は、思い出して言った。



「母が学園で誰かいないの?って聞くので、一応、あなたがそんなことを言ってくれてたので、母に伝えてみたの」



ウィリアムが、急に真剣な表情になったので、私は驚いた。

ちょっと顔が赤らんでいる。その上、ルシンダとアーノルドも、真顔になった。



三人は真剣に聞いている。それなのに、こんな回答でいいのかどうか緊張したが、事実は事実なので返事した。



「嫡子じゃないとダメなんだって」



妙な緊張は一瞬にして崩れ去り、三人がため息を一斉に吐いたので私はなんだか居心地の悪さを感じた。



しばらくしてルシンダが聞いた。



「ねえねえ、そのグレアム様ってどんな方?」



「子どもの頃会ったきりだから、よくわからないの。優しい人だったわ。でも、顔は、ええと……ごつい方かしらね」



「……男前と言うわけではないのね?」



ルシンダが念を押した。



「でも、私がこんな顔だから」



子孫には気の毒だが仕方ない。母の実家の王家は代々美女ばかりを娶っているはずなのだが、一向に顔面偏差値が上がらない一族なのだ。



その時、ケネスが通りかかった。







「ねえ、ケネスの方は新しい婚約者は決まったの?」



ルシンダが聞いてきた。



「知らないわ。なんでも、オズボーン家から打診はあったみたいだけど、母が断ったみたいだったわ。真実の愛を探しているって、言ってたしねえ?」



私が知るはずがないじゃない。他人の家の事情なんか知りようがない。他人……もはやケネスは、形だけの婚約者ですらないのですもの。



「あれは、アマンダ王女を断るための口実じゃなかったの?」



アーノルドが疑問に思ったのか言いだした。



「わからないわ。でも、アマンダ王女はもういないから、真実の愛を探しているなんて言わなくていいのに、まだ言い続けているから、探しているんでしょうよ。架空の夢をね」



ルシンダが多少嘲笑的に言った。







気の毒なケネスは一人で食事をとっていた。



彼はイケメンで騎士らしい体つきのいい男なのに、あんな騒ぎになってしまっては、誰からも声がかからないかもしれなかった。



「大丈夫よ。心配は要らないわ。侯爵家の跡取りですもの。いろんな女性たちから声がかかると思いますわ。貴族階級は一枚岩じゃないわ。いろんな家がありますもの。でも、昔からの家は遠慮するかもしれないけれど」



ルシンダは私の代わりに怒っている。

彼女は私の友達なもので、ケネスに対する言い方が相当厳しい。



確かに唐突な婚約破棄宣言は、貴族階級のありとあらゆる法則を横紙破りにぶち抜く大規則違反になる。せめて、密室ですればよかったのに。取り返しがつかない。



彼の意志だったかどうかすら、今となってはわからなくなってきた。確かに私と結婚するのは嫌かも知れなかったが、あんなパーティの席上で公表したくはなかっただろうと思う。そこまでバカではない。多分、アマンダ王女に強要されたのだ。



私はケネスが気の毒になってきた。



私の家の都合で、こんなに不細工で身分ばかり高くて(しかもやたらにプライドの高い面倒な義母付きの)意に染まぬ婚約を強いられ、挙句にまたもや他人の都合で、婚約破棄劇を開催せざるを得なかったのだ。



「ねえ、かわいそうに、私たちで誰か探してあげましょうよ。真実の愛を探しているそうだし。それに、うちの母がきっと声がかからないように何かしてると思うのよ」



「どういうこと?」



ルシンダとアーノルドとウィリアムは、それまで、ひとりで食事をしているケネスを見ていたが、驚いたように私の方に向き直った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

4人の女

猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。 うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。 このご婦人方には共通点がある。 かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。 『氷の貴公子』の異名を持つ男。 ジルベール・タレーラン公爵令息。 絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。 しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。 この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。 こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ

七瀬菜々
恋愛
 先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。  また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?  これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

処理中です...