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第26話 アンナの求婚
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「やめなさい、アンナ!」
義母が絶叫したが、義姉は止まらなかった。
「ロジャー様!」
彼女は隣の書斎に飛び込んで行って、叫んだ。
「私、ロジャー様が好きです! そんなことをお考えになっていただなんて、今まで知りませんでした!」
私たちは全員、フェアファックス夫人まで、外聞も何もなく、隣の部屋に隠れていたはずなのに、ドアを大開きのままにして、一斉に書斎を覗き込んだ。
ドアをガン開けしたのは義姉である。これは見ないといけない。
ロジャー様は……ものすごく、心底嫌そうな顔をしていた。
父は……仰天して、そして珍獣を見るかのような目つきで義姉を見ていた。
「ロジャー様、私のことをもったいないなどと、おっしゃってくださって、心から感謝いたします」
義姉の顔は輝いていた。
「でも、もったいなくなんかございません。私はロジャー様と結婚したい。侯爵夫人になりたいのです!」
ロジャー様の顔は曇っていた。
何回か注意しようかと思ったことはあるが、あまり関係も意味もなさそうなので一度も言ったことはなかったが、ロジャー様は三男である。侯爵位は長男が継ぐ。ロジャー様と結婚しても、侯爵夫人にはなれない。
常識じゃなかったのかしら。
さすがにここまで勘違いしたままだと、気になってきた。
もっとも、この修羅場では説明順位としては下位になると思う。しかし、ロジャー様は、なんらかの説明責任を感じたらしい。
「いや、僕と結婚しても侯爵夫人にはなれないから」
ロジャー様がものすごく気が乗らない様子で訂正した。
「え?」
義姉は本気で驚いていた。
「なぜですか?」
「なぜですかって……」
ロジャー様は猛烈に気まずそうだった。
「侯爵家に生まれた以上は、侯爵になるでしょう!」
ならない。
「それだと、ネズミ算式に侯爵家が増えるでしょう。領地はどうなると言うのです?」
まったく渋々ながらロジャー様が説明を始めたが、義姉は訳がわからないと言う顔をしている。
「領地、分けるんじゃないんですか? 違うんですか?」
このたわけ者。聞いていてイライラしてきたが、フェアファックス夫人は顔を真っ赤にして笑いを押し殺している。
成績が悪いはずだ。それ以前の問題だ。常識がないわ。
「その説明はいらないだろう。アンナ、なぜ出て来たのだ」
相当、この質問にイライラさせられたらしい父が割って入った。
「隣の部屋に戻りなさい」
「いいえ! お父様!」
義姉は叫んだ。
「ロジャー様がこうまでおっしゃっているのです。ぜひ、私との結婚をお許しください」
「僕は、結婚したいと言っているわけではないのですが、オースティン嬢」
「いいえ! 私、あなたが今まで冷たかった理由がわかりませんでした!」
わからなかったのか。すごい。
でも、冷たいとは感じていたのね。
「自分が出来過ぎだなんてこと、考えたこともありませんでした」
実を言うと、義姉が出来過ぎなんて、私も考えたことがなかった。学園中の誰も、それは思ったこともないだろう。
ツッコミどころが多過ぎる会話だわ。
「私はロジャー様で、全然大丈夫です。喜んで結婚します!」
「いや、僕は……」
「アンナ嬢、引っ込みなさい。オースティン夫人」
父が大声を張り上げた。
「あなたの娘だが、何か勘違いをしているね。私はこの娘の父親ではない。なぜ、こんな勘違いをしているのだ。あなたが教えたのか」
お前が悪いと言った顔で、父は義母の顔を見た。
私は呆気に取られた。呆気に取られたというか、これは青天の霹靂だった。
「アンナ様は、義姉ではない……?」
義母が絶叫したが、義姉は止まらなかった。
「ロジャー様!」
彼女は隣の書斎に飛び込んで行って、叫んだ。
「私、ロジャー様が好きです! そんなことをお考えになっていただなんて、今まで知りませんでした!」
私たちは全員、フェアファックス夫人まで、外聞も何もなく、隣の部屋に隠れていたはずなのに、ドアを大開きのままにして、一斉に書斎を覗き込んだ。
ドアをガン開けしたのは義姉である。これは見ないといけない。
ロジャー様は……ものすごく、心底嫌そうな顔をしていた。
父は……仰天して、そして珍獣を見るかのような目つきで義姉を見ていた。
「ロジャー様、私のことをもったいないなどと、おっしゃってくださって、心から感謝いたします」
義姉の顔は輝いていた。
「でも、もったいなくなんかございません。私はロジャー様と結婚したい。侯爵夫人になりたいのです!」
ロジャー様の顔は曇っていた。
何回か注意しようかと思ったことはあるが、あまり関係も意味もなさそうなので一度も言ったことはなかったが、ロジャー様は三男である。侯爵位は長男が継ぐ。ロジャー様と結婚しても、侯爵夫人にはなれない。
常識じゃなかったのかしら。
さすがにここまで勘違いしたままだと、気になってきた。
もっとも、この修羅場では説明順位としては下位になると思う。しかし、ロジャー様は、なんらかの説明責任を感じたらしい。
「いや、僕と結婚しても侯爵夫人にはなれないから」
ロジャー様がものすごく気が乗らない様子で訂正した。
「え?」
義姉は本気で驚いていた。
「なぜですか?」
「なぜですかって……」
ロジャー様は猛烈に気まずそうだった。
「侯爵家に生まれた以上は、侯爵になるでしょう!」
ならない。
「それだと、ネズミ算式に侯爵家が増えるでしょう。領地はどうなると言うのです?」
まったく渋々ながらロジャー様が説明を始めたが、義姉は訳がわからないと言う顔をしている。
「領地、分けるんじゃないんですか? 違うんですか?」
このたわけ者。聞いていてイライラしてきたが、フェアファックス夫人は顔を真っ赤にして笑いを押し殺している。
成績が悪いはずだ。それ以前の問題だ。常識がないわ。
「その説明はいらないだろう。アンナ、なぜ出て来たのだ」
相当、この質問にイライラさせられたらしい父が割って入った。
「隣の部屋に戻りなさい」
「いいえ! お父様!」
義姉は叫んだ。
「ロジャー様がこうまでおっしゃっているのです。ぜひ、私との結婚をお許しください」
「僕は、結婚したいと言っているわけではないのですが、オースティン嬢」
「いいえ! 私、あなたが今まで冷たかった理由がわかりませんでした!」
わからなかったのか。すごい。
でも、冷たいとは感じていたのね。
「自分が出来過ぎだなんてこと、考えたこともありませんでした」
実を言うと、義姉が出来過ぎなんて、私も考えたことがなかった。学園中の誰も、それは思ったこともないだろう。
ツッコミどころが多過ぎる会話だわ。
「私はロジャー様で、全然大丈夫です。喜んで結婚します!」
「いや、僕は……」
「アンナ嬢、引っ込みなさい。オースティン夫人」
父が大声を張り上げた。
「あなたの娘だが、何か勘違いをしているね。私はこの娘の父親ではない。なぜ、こんな勘違いをしているのだ。あなたが教えたのか」
お前が悪いと言った顔で、父は義母の顔を見た。
私は呆気に取られた。呆気に取られたというか、これは青天の霹靂だった。
「アンナ様は、義姉ではない……?」
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