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第52話 アリス救出計画の条件
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「集めに集めた魔道具の中から、見事に白の魔女、つまりローザ嬢は、アリス嬢と同じ地図を見つけ出しました。あとは、黒の騎士に戦ってもらえば簡単です。どうせ、三百年も生きてきた老婆たちです。筋力ゼロ、戦闘力ゼロのヘロヘロに決まってます」
「だが、相手は魔法を使うだろう?」
「もちろん! ふつうの人間なら、たちまち心をとらえられます。本当に不思議で強力な魔法です。心を支配されたら、相手の思うがままですね!」
「だからどうして、そんな危険な場所にアレクを!」
王妃の声が大きくなり始めた。
レオ殿下は抑えて抑えて、みたいな手振りをしている。
「だからこそ殿下です。殿下は、不世出の黒の魔法使い。白の魔法の武器である幻覚、幻聴なんか、気づきもしないでしょう」
「そうなの? アレク?」
王妃が、今度はアレクに向かって叫んだ。
アレクはつぶやくように言った。
「幻覚とか幻聴があるはずだったの?」
ローザとアリスは冷めた目で王太子を見ていた。
知っている。感性がないどころか、鉄壁のゼロ。指輪がなければ、あるいはローザの手を握っていなければ、魔女も門も城も完全スルーだったろう。
「ねっ? お聞きください。こちらの王子様には、まるでシャッター下ろしたみたいに、白の魔法が効かないんです。あとに残るのは力技だけですよ。私には全部わかっていました! 完璧な計画です」
レオ殿下は、自説の正しさを証明出来て嬉しそうだった。
王と王妃も、事情は大体理解できたようだった。つまり、アレクとローザのチームの魔法力とやらは相当に強力で、息子に危険はなかったらしいと。
しかし、同時に完全にレオ殿下の魔法話には興味を失ってしまった。
これ以上詳細を聞く必要はないからと断って、そのうしろをローゼンマイヤー先生が揉み手をしながら付き従って行った。
国王も王妃も、遅咲きの彼らの幸せに影を落とすような真似はしないだろう。
魔法の城だなんて、呆れはしたが、それより行方不明だったアリスが帰って来て幸せそうにしているレオ殿下に、最後にチラリと王妃が笑みを見せたのが印象に残った。
アレクとローザは外に出ると、どちらからともなく、レオ殿下の話は嘘だと結論づけた。
「絶対、出たとこ勝負だったと思う」
「そう! だって、装備品の中で役に立ったの、缶詰だけだった」
「だよなあ。わかってりゃ、もう少し別な武器を用意できそうなもんだよ」
「しかも、計画がせっかち過ぎた。もうちょっと、私たちにちゃんと説明してくれたらよかったのに。もうちょっと頭を使うべきだと思うわ!」
ローザがプンスカ怒って意見を述べた。
頭を使うべきとか、お前が言うか?とアレクは思った。
「なんで、門を見つけても近寄るなと、あれほどエドワードに言われてたのに近づいた?」
「行かずにはいられなかったのよ」
ローザは反論した。
「レオ殿下はわかっていたと思うわ。私は白の魔女。あの誘いには逆らえなかった」
アレクは目を光らせた。やっとレオ殿下の本当の罠に気が付いたからだ。
叔父は、魔力の強いローザなら、あの城の魔女たちに必ず引き込まれると知っていたのだろう。
アリスが言っていた。魔力のない者は招かれないと。ローザの魔力は、あの魔女たちにとって、とても魅力的だったろう。
そして、もしそのことをアレクが知っていたら、絶対に彼はローザがあの門に近寄ることを止めただろう。力ずくで。
今になって、不安と恐怖で胸がチリチリした。
叔父は計ったのだ。アレクに真実を教えたら、アリスを救えないからだ。だから、何も説明せずに二人を門に近寄らせた。魔法の城にアレクを入れるために。魔女と戦わせるために。
アレクは唇を噛んだ。
そしてさらにもうひとつ。
あの時、門に行きたがるローザを見捨てて宿に帰れば、彼はあの魔法の城を見ることはなかった。
ババア魔女と戦うこともなかったろう。
だが、アレクはローザを見捨てなかった。
そんなことは絶対に、絶対になかった。なぜなら、アレクは……
「あー、バカバカしい」
アレクは声に出してそう言い、ローザをびっくりさせた。
「全部、叔父上に乗せられただけか。俺も陛下も」
両親はレオ殿下の説明に満足して帰って行った。
そう。レオ殿下の説明の通り、アレクだけは何があっても安全だった。
彼は白の魔法に気が付かない。影響を受けないから完全に安全だ。魔女と戦う羽目に陥っても、最悪、殴れば済んだ話だ。魔女は物理攻撃に弱い。
でも、ローザは違う。
アレクが彼女を見捨てたら、ローザは……アリスの二の舞いだった。あの世界にとらわれて、二度と会えなくなる。行方不明になる。今更不安でドキドキしてきた。
「そのようでございますね」
珍しく渋い顔をしたエドワードが現れた。
もし、あの時、見捨ててしまっていたら、アレクはローザを失うことになる。エドワードにもわかってきた。
アレクがローザを見捨てないことが前提だった。見捨てたら、アリス救出計画は失敗だ。
レオ殿下は、アレクがローザを見捨てないと知ったのだろう、多分、あの親善パーティで確信したのだ。
「意外にそこは読みの深いお方でございました。しかし、今後は、魔法にも魔女にも関心をお持ちにならないかもしれません。アリス様を取り戻されたのですから」
「真実の愛ね!」
そこまで深読みしなかったローザが嬉しそうに言った。
「すてきだわ。うらやましいわ!」
「ローザ様」
エドワードは、すっかり元のもの柔らかで穏やかな側近の顔に戻って、にこやかにローザに向かって言葉をかけた。
「真実の愛は珍しいものではございませんよ?」
ローザはキョトンとした顔をした。
「相手を思いやる心、大事にする心、それがあれば良いのです。意外に身近にあるものでございます」
「でも、ロマンチックだと思いましたの! 失った恋人を何年も想い続けるなんて」
ローザは両手を組んで、目を空に泳がせてうれしそうに言った。
「たまたまそんな形で証明されただけでございましょう。きっと、ローザ様も、そのような方にすぐに巡り会えますとも」
エドワードは今度はアレクの顔を見つめてにっこり笑った。
「人に向かってバカとか、バカとか、バカとか言わないで、尊敬していることもキチンと伝えさえすれば、きっと上手くいきますとも」
「ですって! アレク様!」
ローザがアレクに向かって、ちょっと嬉しそうに気恥ずかしそうに言った。
「だから、側近の紹介の話、よろしくお願いします。忘れないでね!」
「だが、相手は魔法を使うだろう?」
「もちろん! ふつうの人間なら、たちまち心をとらえられます。本当に不思議で強力な魔法です。心を支配されたら、相手の思うがままですね!」
「だからどうして、そんな危険な場所にアレクを!」
王妃の声が大きくなり始めた。
レオ殿下は抑えて抑えて、みたいな手振りをしている。
「だからこそ殿下です。殿下は、不世出の黒の魔法使い。白の魔法の武器である幻覚、幻聴なんか、気づきもしないでしょう」
「そうなの? アレク?」
王妃が、今度はアレクに向かって叫んだ。
アレクはつぶやくように言った。
「幻覚とか幻聴があるはずだったの?」
ローザとアリスは冷めた目で王太子を見ていた。
知っている。感性がないどころか、鉄壁のゼロ。指輪がなければ、あるいはローザの手を握っていなければ、魔女も門も城も完全スルーだったろう。
「ねっ? お聞きください。こちらの王子様には、まるでシャッター下ろしたみたいに、白の魔法が効かないんです。あとに残るのは力技だけですよ。私には全部わかっていました! 完璧な計画です」
レオ殿下は、自説の正しさを証明出来て嬉しそうだった。
王と王妃も、事情は大体理解できたようだった。つまり、アレクとローザのチームの魔法力とやらは相当に強力で、息子に危険はなかったらしいと。
しかし、同時に完全にレオ殿下の魔法話には興味を失ってしまった。
これ以上詳細を聞く必要はないからと断って、そのうしろをローゼンマイヤー先生が揉み手をしながら付き従って行った。
国王も王妃も、遅咲きの彼らの幸せに影を落とすような真似はしないだろう。
魔法の城だなんて、呆れはしたが、それより行方不明だったアリスが帰って来て幸せそうにしているレオ殿下に、最後にチラリと王妃が笑みを見せたのが印象に残った。
アレクとローザは外に出ると、どちらからともなく、レオ殿下の話は嘘だと結論づけた。
「絶対、出たとこ勝負だったと思う」
「そう! だって、装備品の中で役に立ったの、缶詰だけだった」
「だよなあ。わかってりゃ、もう少し別な武器を用意できそうなもんだよ」
「しかも、計画がせっかち過ぎた。もうちょっと、私たちにちゃんと説明してくれたらよかったのに。もうちょっと頭を使うべきだと思うわ!」
ローザがプンスカ怒って意見を述べた。
頭を使うべきとか、お前が言うか?とアレクは思った。
「なんで、門を見つけても近寄るなと、あれほどエドワードに言われてたのに近づいた?」
「行かずにはいられなかったのよ」
ローザは反論した。
「レオ殿下はわかっていたと思うわ。私は白の魔女。あの誘いには逆らえなかった」
アレクは目を光らせた。やっとレオ殿下の本当の罠に気が付いたからだ。
叔父は、魔力の強いローザなら、あの城の魔女たちに必ず引き込まれると知っていたのだろう。
アリスが言っていた。魔力のない者は招かれないと。ローザの魔力は、あの魔女たちにとって、とても魅力的だったろう。
そして、もしそのことをアレクが知っていたら、絶対に彼はローザがあの門に近寄ることを止めただろう。力ずくで。
今になって、不安と恐怖で胸がチリチリした。
叔父は計ったのだ。アレクに真実を教えたら、アリスを救えないからだ。だから、何も説明せずに二人を門に近寄らせた。魔法の城にアレクを入れるために。魔女と戦わせるために。
アレクは唇を噛んだ。
そしてさらにもうひとつ。
あの時、門に行きたがるローザを見捨てて宿に帰れば、彼はあの魔法の城を見ることはなかった。
ババア魔女と戦うこともなかったろう。
だが、アレクはローザを見捨てなかった。
そんなことは絶対に、絶対になかった。なぜなら、アレクは……
「あー、バカバカしい」
アレクは声に出してそう言い、ローザをびっくりさせた。
「全部、叔父上に乗せられただけか。俺も陛下も」
両親はレオ殿下の説明に満足して帰って行った。
そう。レオ殿下の説明の通り、アレクだけは何があっても安全だった。
彼は白の魔法に気が付かない。影響を受けないから完全に安全だ。魔女と戦う羽目に陥っても、最悪、殴れば済んだ話だ。魔女は物理攻撃に弱い。
でも、ローザは違う。
アレクが彼女を見捨てたら、ローザは……アリスの二の舞いだった。あの世界にとらわれて、二度と会えなくなる。行方不明になる。今更不安でドキドキしてきた。
「そのようでございますね」
珍しく渋い顔をしたエドワードが現れた。
もし、あの時、見捨ててしまっていたら、アレクはローザを失うことになる。エドワードにもわかってきた。
アレクがローザを見捨てないことが前提だった。見捨てたら、アリス救出計画は失敗だ。
レオ殿下は、アレクがローザを見捨てないと知ったのだろう、多分、あの親善パーティで確信したのだ。
「意外にそこは読みの深いお方でございました。しかし、今後は、魔法にも魔女にも関心をお持ちにならないかもしれません。アリス様を取り戻されたのですから」
「真実の愛ね!」
そこまで深読みしなかったローザが嬉しそうに言った。
「すてきだわ。うらやましいわ!」
「ローザ様」
エドワードは、すっかり元のもの柔らかで穏やかな側近の顔に戻って、にこやかにローザに向かって言葉をかけた。
「真実の愛は珍しいものではございませんよ?」
ローザはキョトンとした顔をした。
「相手を思いやる心、大事にする心、それがあれば良いのです。意外に身近にあるものでございます」
「でも、ロマンチックだと思いましたの! 失った恋人を何年も想い続けるなんて」
ローザは両手を組んで、目を空に泳がせてうれしそうに言った。
「たまたまそんな形で証明されただけでございましょう。きっと、ローザ様も、そのような方にすぐに巡り会えますとも」
エドワードは今度はアレクの顔を見つめてにっこり笑った。
「人に向かってバカとか、バカとか、バカとか言わないで、尊敬していることもキチンと伝えさえすれば、きっと上手くいきますとも」
「ですって! アレク様!」
ローザがアレクに向かって、ちょっと嬉しそうに気恥ずかしそうに言った。
「だから、側近の紹介の話、よろしくお願いします。忘れないでね!」
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