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真昼のストレンジャー
第六章 2
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庄野は意識を取り戻した。何か夢を見ていた気がするが、それどころではない。黒マスクに襲われて、どうなった? 体を貫いた恐ろしい痛みは今はないけれど。もしかして死んでしまったのだろうか。だったら自分の人生って何だったのだ。いや猫生か。
「あ?」
まずは死んではいないようだと安堵して、頭をもたげる。ゆっくりと周囲に目をやれば、自分が誰か人に抱かれていることに慌てる。
「気がついた?」
彼だった。
「どうして!?」
両脇に手を入れられて持ち上げられれば、彼の顔が目の前に来た。
「ナオってオレに会いたかったんだ。だったら早くそう言ってくれればいいのに」
えっ、と思った。目の前にいるのは間違いなく彼だ。前髪が一房白く、きれいな顔立ちの。けれどその口調が……。
「まさか、ルイ……?」
「これじゃ、人に戻りたいっていう望みが叶えられないわけだ」
ルイは思い出したように笑みを浮かべる。
「本当にルイなのか!?」
「そうだよ」
目の前には会いたかった彼。それがルイだったなんて庄野は信じられなかった。ここはどこだ? まだ夢の続き?
「うそだ。ルイは猫だろ?」
「猫だけど、言ったろ? 時をかける一族だって。あのバカ猫が言うところの月猫なんだよ。だから人にもなれる」
「あ、そうだ! あの黒マスクは?」
「黒マスク? ああバカ猫な。ぶっ飛ばしてやった」
ルイが視線を向けたその先で、黒白の猫が伸びていた。
「オレのものに手を出しやがって。悪かったな、戻るのが遅くなってさ。ちょっと外野で手間取っちゃったんだ」
もう大丈夫だから、とルイは、庄野の体を人の腕で包むように抱き込んだ。
「外野って? お前、今までどこに行ってたんだ?」
「ここの外だ。おっさんにちび預けてきた。病院で診てもらってる」
ぐったりしていた茶トラの子猫。もうダメだと見捨てられた命だ。ルイが連れて行ったから、てっきり猫の墓場のようなものがあるのだと思っていた。
「ちび……、助かるのか?」
頷いたルイに、よかった、と庄野は息を吐いた。
「じゃあ行こうか。ちゃんとあんたの望み聞いたからな」
「行くってどこだ? 俺の望みって――、おい、ルイ?」
人に抱かれることに慣れず、じたばたと庄野は手足を動かす。
「望みの仕上げをする」
「仕上げ?」
じっとしてな、っとルイが耳に囁けば、ふわりと体が浮いた。驚いて庄野は目を瞑る。
「ここって――」
ぽすっと柔らかな上に置かれた感触で目を開けると、見慣れた部屋だった。それもそのはず庄野の家のベッドだった。
「ここが、あんたんちね。ひとり暮らしの男の部屋だな。でも結構きれいじゃん」
「お前、どうやってっ!?」
「月猫の魔法。まあ、ワケが分かんないときはそういうことにしとけばいいよ?」
「そういうことができるなら初めから――って、おい、ルイっ!!」
ころんと仰向けにされた庄野にルイが被さってきた。
「あんたの望みは、オレに会いたかった。そして笑いかけて触れて欲しいっていうんだろ?」
それが庄野の心からの望み。
「じゃあ、叶ったじゃないか。会えたんだから……あっ」
ぺろりと人の顔で、ルイは猫のように庄野の口を嘗めた。
「だから仕上げ。あんた言葉にしてないけど、笑いかけるのも触れるのも、恋人のように、だろ?」
「それは……、でも!」
かーっと体が熱くなる。ルイにはお見通しだったようだ。しかし一方的な思いだけで恋人にはなれない。
「オレはあんたが好きだよ。前にも話したろ? あんたに会えるのを楽しみにしてたって。あんたが好きだから、あんたと一緒にいたいって、望みを叶えたいって」
真顔で言うルイに庄野の心臓は早鐘のように鳴り始める。
「なあ、猫はいやか? 猫が人に恋したらおかしい?」
「猫って、お前は今、人で……、猫なのは俺で……」
立場が逆転している。
「ナオ、人に戻ろうか。このままじゃ、愛し合えない」
「あ、愛し合う?」
もう、うるさいほど鳴る心臓で胸が壊れそうだった。
「ナオは自分で猫になったんだ。戻りたいって願えば、元の姿に戻れるよ」
そのルイの言葉どおり、戻りたいと強く念じた庄野は、人の姿に戻った。あれほど願っても戻らなかったのにいとも簡単に。
猫になって彼に会いたいという願いが成就したからのようだった。ワケの分からないときは月猫の魔法のせいにしておけばいいとルイは言ったから、そういうことにしておく。もともと魔法なんて人知を超えたところにある力だ。理解できるはずがない。
「何だか変な感じだ」
人の姿が妙に気恥ずかしかった。
そしてルイも、変化を見せた。先ほどまでなかった三角の耳を頭の上に生やし、尻には尻尾。
「ルイ、それ、ミミとシッポ――…」
「やっぱり出たか。人の姿でも興奮してくると出てしまうらしいんだよな。まあ、気にするな」
ルイの手がそっと庄野の首筋を撫でた。ぞくりと体が震える。黒マスクに噛まれたことを思い出した。
「ここ痛むのか? でもあんたの体は傷ついちゃいないよ? もちろんここも。感覚だけ残ってるんだ」
「うわっ、そんなとこ触るな……あ……」
「大丈夫。オレに任せてよ。ちゃんとおっさんがやっているところ見て愛し方分かってるから」
「な、前から思ってたんだけど、そのおっさんて誰だよ?」
「まだ言わない」
「あ?」
まずは死んではいないようだと安堵して、頭をもたげる。ゆっくりと周囲に目をやれば、自分が誰か人に抱かれていることに慌てる。
「気がついた?」
彼だった。
「どうして!?」
両脇に手を入れられて持ち上げられれば、彼の顔が目の前に来た。
「ナオってオレに会いたかったんだ。だったら早くそう言ってくれればいいのに」
えっ、と思った。目の前にいるのは間違いなく彼だ。前髪が一房白く、きれいな顔立ちの。けれどその口調が……。
「まさか、ルイ……?」
「これじゃ、人に戻りたいっていう望みが叶えられないわけだ」
ルイは思い出したように笑みを浮かべる。
「本当にルイなのか!?」
「そうだよ」
目の前には会いたかった彼。それがルイだったなんて庄野は信じられなかった。ここはどこだ? まだ夢の続き?
「うそだ。ルイは猫だろ?」
「猫だけど、言ったろ? 時をかける一族だって。あのバカ猫が言うところの月猫なんだよ。だから人にもなれる」
「あ、そうだ! あの黒マスクは?」
「黒マスク? ああバカ猫な。ぶっ飛ばしてやった」
ルイが視線を向けたその先で、黒白の猫が伸びていた。
「オレのものに手を出しやがって。悪かったな、戻るのが遅くなってさ。ちょっと外野で手間取っちゃったんだ」
もう大丈夫だから、とルイは、庄野の体を人の腕で包むように抱き込んだ。
「外野って? お前、今までどこに行ってたんだ?」
「ここの外だ。おっさんにちび預けてきた。病院で診てもらってる」
ぐったりしていた茶トラの子猫。もうダメだと見捨てられた命だ。ルイが連れて行ったから、てっきり猫の墓場のようなものがあるのだと思っていた。
「ちび……、助かるのか?」
頷いたルイに、よかった、と庄野は息を吐いた。
「じゃあ行こうか。ちゃんとあんたの望み聞いたからな」
「行くってどこだ? 俺の望みって――、おい、ルイ?」
人に抱かれることに慣れず、じたばたと庄野は手足を動かす。
「望みの仕上げをする」
「仕上げ?」
じっとしてな、っとルイが耳に囁けば、ふわりと体が浮いた。驚いて庄野は目を瞑る。
「ここって――」
ぽすっと柔らかな上に置かれた感触で目を開けると、見慣れた部屋だった。それもそのはず庄野の家のベッドだった。
「ここが、あんたんちね。ひとり暮らしの男の部屋だな。でも結構きれいじゃん」
「お前、どうやってっ!?」
「月猫の魔法。まあ、ワケが分かんないときはそういうことにしとけばいいよ?」
「そういうことができるなら初めから――って、おい、ルイっ!!」
ころんと仰向けにされた庄野にルイが被さってきた。
「あんたの望みは、オレに会いたかった。そして笑いかけて触れて欲しいっていうんだろ?」
それが庄野の心からの望み。
「じゃあ、叶ったじゃないか。会えたんだから……あっ」
ぺろりと人の顔で、ルイは猫のように庄野の口を嘗めた。
「だから仕上げ。あんた言葉にしてないけど、笑いかけるのも触れるのも、恋人のように、だろ?」
「それは……、でも!」
かーっと体が熱くなる。ルイにはお見通しだったようだ。しかし一方的な思いだけで恋人にはなれない。
「オレはあんたが好きだよ。前にも話したろ? あんたに会えるのを楽しみにしてたって。あんたが好きだから、あんたと一緒にいたいって、望みを叶えたいって」
真顔で言うルイに庄野の心臓は早鐘のように鳴り始める。
「なあ、猫はいやか? 猫が人に恋したらおかしい?」
「猫って、お前は今、人で……、猫なのは俺で……」
立場が逆転している。
「ナオ、人に戻ろうか。このままじゃ、愛し合えない」
「あ、愛し合う?」
もう、うるさいほど鳴る心臓で胸が壊れそうだった。
「ナオは自分で猫になったんだ。戻りたいって願えば、元の姿に戻れるよ」
そのルイの言葉どおり、戻りたいと強く念じた庄野は、人の姿に戻った。あれほど願っても戻らなかったのにいとも簡単に。
猫になって彼に会いたいという願いが成就したからのようだった。ワケの分からないときは月猫の魔法のせいにしておけばいいとルイは言ったから、そういうことにしておく。もともと魔法なんて人知を超えたところにある力だ。理解できるはずがない。
「何だか変な感じだ」
人の姿が妙に気恥ずかしかった。
そしてルイも、変化を見せた。先ほどまでなかった三角の耳を頭の上に生やし、尻には尻尾。
「ルイ、それ、ミミとシッポ――…」
「やっぱり出たか。人の姿でも興奮してくると出てしまうらしいんだよな。まあ、気にするな」
ルイの手がそっと庄野の首筋を撫でた。ぞくりと体が震える。黒マスクに噛まれたことを思い出した。
「ここ痛むのか? でもあんたの体は傷ついちゃいないよ? もちろんここも。感覚だけ残ってるんだ」
「うわっ、そんなとこ触るな……あ……」
「大丈夫。オレに任せてよ。ちゃんとおっさんがやっているところ見て愛し方分かってるから」
「な、前から思ってたんだけど、そのおっさんて誰だよ?」
「まだ言わない」
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