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出会いと不穏の兆し
交渉成立
しおりを挟む森の散歩を終え、ケニスと子狐になったヴァイスと一緒に屋敷に帰ってきた。私たちを真っ先に迎えてくれたのはメイド長のメイサだった。
「おかえりなさいませ……って、シェリル様?その狐は一体どうなされたのです?」
「ひろった! かわいーからかう!」
「飼う!?」
私の言動に驚くメイサ。この屋敷で動物=馬しか見たことないから、もしかして飼っちゃダメな感じなのかな?ならばケニスと同じような作戦を──。
「シェリル様。必ず、必ず旦那様に進言くださいませ。このメイサ、お世話役を買って出ます!」
「おせわ、わたしもするよ?」
「勿論でございます!拾い主のあなた様からお世話されたら、この子も嬉しいでしょうから!」
する必要はなかった。どうやらメイサも動物が好きなようで、鼻息を荒くして世話役を買って出てきた。
あの厳格でクールなメイド長のメイサが、ここまで変化するとは思わなかったし驚いた。ケニスもメイサがここまで豹変するとは思わなかったようで、驚きのあまりドン引きしている。
「メイサ、いっしょにきて? ケニスも」
「俺もですか?まあ、護衛なのでどこまでもついて行きますが」
「ええ、ええ、構いませんよ。シェリルお嬢様の頼みでしたら、可能なものは叶えますので」
ふんすふんすとメイサが意気込んでいる。私の腕の中にいるヴァイスは、メイサの言動と行動に遠い目をしていた。
たぶん、あまり人間に関わりがなかったからだろうけど……。しばらく続くだろうから慣れてほしいかな。
まあ、とりあえず父様の許可がないと始まらない。
「とうさま、いつものおへや?」
「おそらくそうかと思います。さあさあ、こうしてはいられませんので、早く行きましょう!」
「メ、メイサ殿!?」
待ちきれないという気持ちを露にしたメイサに背中を押されて、私たち3人は父様がいるであろう執務室の前に来た。いつもは控えめなメイサがここまで積極的なのは、きっとヴァイスの今の姿が可愛いからだろう。
可愛いともふもふは正義だよね。
「とうさま、シェリルです。いまいいですか?」
ヴァイスを一旦置いてとんとん、と執務室のドアをノックする。すると部屋の中から、「入りなさい」と父様の声がした。
ケニスとメイサを見上げれば頷かれたので、背伸びをしてドアノブを掴もうとした。
「……とどかにゃい」
今生の今の私の身長は小さく、ざっと見積もって100数cm。ドアノブはメイドや執事がいるからと高めな場所にある。今の私は幼児。そのため身長が足りず、背伸びをした状態でぷるぷるしている状態だ。
「……シェリル様っ」
「あらあらあら」
ぷるぷるしながら2人を見るとケニスは顔を赤くして顔を逸らし、メイサはニコニコと微笑ましく私を見ていた。眺めるくらいなら助けてほしい。
「我が開けるか?」
「んん、だいじょうぶ」
私の必死さを目の当たりにし、こっそりと小声で声をかけてくれるヴァイスの頭を撫でる。心優しい天狐様が使い魔……いや、家族になってくれて嬉しいよ。
「メイサ、あけて?」
「はい、シェリルお嬢様」
お願いすれば、メイサがにこにこしながらドアを開けてくれて中に入ることができた。執務室の中央には執務をする大きな机が一つあって、そこに父様がいた。
一瞬少し厚めの書類を引き出しの中に入れたような気がしたけど……気のせいかな?
「どうしたんだ、シェリル?」
「あのね、父様にお願いがあるの」
「お願い?それはその狐のことか?」
「うん!まいごになってたのをひろったの。かってもいい?」
ヴァイスを両手で抱きしめ、父様を上目遣いで見上げる。ケニスにしたやつにヴァイスを出した今ならできる技で父様を見る。
なんかぷるぷる震えてるような気がするんだけど……ヴァイスを飼っちゃダメな感じなのかな?
「しっかり世話ができるのなら良いが、できるか?」
「やる!」
「旦那様、このメイサが監督いたします故、心配ないかと」
父様の言葉に即座に頷いく私のフォローをしっかりとしてくれるメイサ。一番はヴァイスのお世話をしたい、触りたいと言う一心でなんだろうけど、父様を説得するには一人では心細かったから助かる。
「旦那様、俺からもお願いします。日頃のシェリルお嬢様はとても楽しげではありましたが、ここまで心を惹かれることはなかったかと思われます。それに、この子狐も懐いていることもあるので引き離すのは、今のシェリルお嬢様のためにはならないかと」
「わかった。許可をしよう。ただし、しっかりと躾と世話をするように」
「はい!」
まさかのケニスからの後押しがあるとは思わなかった。メイサとケニスのお陰でヴァイスと一緒にいられることになったし、後でお礼でもしよう。
「ありがとうとうさま!」
ヴァイスを抱きしめて喜びをあらわにすれば、ほっぺをぺろっと舐められた。さすが狐なだけあって演技が上手い。
父様に一礼してから執務室から出て、私はメイサ殿ケニスを連れて自分の部屋に戻ったのだった。
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