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出会いと不穏の兆し
護衛長と稽古
しおりを挟むヴァイスに色々と打ち明け、眠気に負けた日の翌日。今日は兄様と剣の稽古。師範は護衛長のモルヴィスだ。モルヴィスは元は冒険者で、ランクはAだったらしい。そんな彼が冒険者を辞めたのは怪我からの後遺症でらしい。
一体どんな魔物とやり合ったんだろう?
魔物(魔物じゃないけど)といえばヴァイスだ。朝目を覚ましたらベッドで寝ていて、ヴァイスもあの子狐の姿に戻っていた。
「お嬢、気が抜けてますぜ」
「ふぎゅっ」
コツンと木剣の角で小突かれた。軽い力だろうけど角なだけに痛い。
まあ、気が散ってたし集中力が切らした私が悪いんだけど。
「お嬢、ペットが可愛いからって浮かれすぎだと思いますぜ?こんなんじゃ、冒険者にも騎士団にも王宮魔導士にもなれやしねえ」
「むう……ちょっと、かんがえごとしてただけなのに」
「その考えごとが冒険者だと命取りなんだ。それに、兄君が目指そうとしている騎士団は、他国との戦争もあれば内戦の鎮圧、王族の護衛もある。そうなると油断していればそこにあるのは死、のみだ」
確かに冒険者や騎士団は職業柄そうなのかも。冒険者はモンスター相手だし、騎士団はモンスターでもあり国民や敵国でもあるんだよね。
考え事をして油断して殉職、なんて笑えない。
「きを、つける」
「いい心がけだ、お嬢」
「わわっ」
がっはっはっ!と笑うモルヴィスにわっしゃわっしゃと頭を撫でられた。おかげで髪がぐっちゃぐちゃになってしまった。
後で般若メイサに怒られそうだ。
「しっかしお嬢は上達が速え。これなら俺が教えることはねえかもなぁ」
「そうなの?」
「まあ、俺に勝てれば、の話なんだがな?」
「あう……かてるきがしない」
スキルで強くなってるし、神様の配慮でも力は強くなってはいる。でも、彼には実力差で負けるだろう。スキルでの成長とその強さがあっても、実力や経験がなければ意味をなさないから。
必ずしも経験には負ける。モンスターとか存在してないし、内戦や戦争も経験したこともないけれど、これだけはよくわかる。
前世でも仕事だとスキルがあっても経験した方がより優秀だってからね。資格は別としてだけど。
「まあそのうち、狩りとかに連れてってやるし立ち回りとか教えてやるから気落ちするな」
「うん。……でも、とうさま、ゆるしてくれるかな?」
「そこは俺に任せな!兄君の経験のための見学だって言やぁなんとかなる!それに従魔もいれば問題はねえだろ!」
胸を張って言い張るモルヴィス。彼がそういうのなら大丈夫なんだろうけど……。なるようになるかな?
ヴァイスも一緒に連れて行ってもいいと言うし、兄様との時間も作れるから良いか。
「シェリル、いいアドバイスもらったかい?」
いつになるかわからない狩り遠征の話をモルヴィスとしていれば、兄様とヴァイスが来た。他の護衛の人と稽古をしていたようで、兄様は流れる汗をタオルで拭いている。10歳とはいえ顔が整っているからとても様になっている。兄弟贔屓もあるだろうけどね。
ヴァイスは澄ました顔をしてお座りしていて、護衛の人たちの相手はさほど大したことはなかったようだ。
「にいさま!ぼーっとしてたからおこられちゃいました」
「そりゃ怒られるよ」
苦笑を溢しながら頭をあなたを撫でてくれる兄様。モルヴィスとは違って優しい手つきだ。剣胼胝ができて硬く、モルヴィスの手に似てきてるけど。
そんな兄様はもうすでにモルヴィスたちと狩猟に出かけている。 時々食卓にたくさんのお肉が出るのは、兄様が狩猟で獲ってきてくれたからだ。
「にいさまみたいにとれればいいな」
「まだシェリルには早いよ。それに、父上が許可するか……」
「坊っちゃん、そこは俺が説得するから問題はねえ。が、1番の難関はイリス嬢とメイド長だな」
「あ~」
「ですよねぇ?」
やっぱりというか、予想通りというか……。メイサは難敵らしい。
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