ハズレ職? いいえ、天職です

陸奥

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出会いと不穏の兆し

姉との時間

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 稽古を一時中止して話を聞くと、どうやら私に剣術の稽古をすることにはイリス姉様もメイサも大反対だったらしい。それを止め良しとしたのが父様だったらしい。

 それは知らなかった。

「いやぁ、最初はすごかった。オーガかと思っちまったくらいだ」

「おーが?」

「こんなモンスターだよ」

 オーガがなんなのかわからなかったけど、兄様が地面に絵を描いてくれて鬼のことだと分かった。この世界では鬼はオーガとして存在してるようだで、結構恐れられているようだ。

(あやつらの相手は骨が折れる)

(ヴァイスも梃子摺るんだ?)

(力だけはバカ強いからな)

 ヴァイスも手を焼くほど相当な相手らしい。出会ったら真っ先に逃げよう。

「良いか?絶対にオーガを怒らせてはならねえ。地の果てまで追っかけてくる奴もいれば、全てを破壊する奴もいるからな」

「メイサも?」

「あたぼうよ!顔がこんなおっかなくなるんだからな!」

 そう言って目を釣り上げ、さらに人差し指を立てた状態で頭に持っていき鬼のポーズをするモルヴィス。一生懸命にやるもんだから、笑いが込み上げてくる。

 けどなんでだろう?すごい寒気がする。

「ちょっとおはなをつみにいってきます!」

「おいおいシェリル嬢。稽古の途中だぞ?ヴァイスも連れてのサボりはダメだ」

 直感が警鐘を鳴らし始めているから、急いでその場から離れようとトイレへ行くことを告げた。けど、ずっと冒険者だったモルヴィスには全く通じていなかったようで留められてしまった。

 まさかヴァイスもついてこようとするとは思わなかったけど。

「モルヴィス、シェリルはお手洗いに行きたいんだよ。ヴァイスも何かあった時のためについていきたいんだと思うし。シェリル、ヴァイスと行っておいで」

「はい!」

 ごめんなさい兄様。と心の中で謝罪しながらその場からヴァイスと共に急いで離れる。

 きっと兄様やモルヴィスには相当我慢していたんだろうと思われてるんだろう。それでも、自分の身の安全と天秤にかけたらどうってことはない。

「あなたたちはお嬢様に何を教えてらっしゃるのですか!!」

 と、屋敷まであと少し、というところでメイサの雷が落ちるのが聞こえた。

 どうやら私は直感でメイサの逆鱗から逃れられたようだ。良かった、と言うべきなのかわからないけれど。

「シェリル、どうしたの?」

「ねえさま!」

 安堵のため息を吐いていれば姉様がドアを開けて出てきた。どうやら勉学の息抜きをするために出てきたみたいで、いつもの服装から軽装になっている。

 どこにいくんだろう?

「ねえさま、どこいくんですか?」

「お散歩よ。来年のために向けて色々していたから疲れたの。シェリルは剣の稽古?」

「はい!でもモルヴィスとにいさまがメイサにおこられてるからちゅうし?」

 多分だけれど、この説教は長引くだろう。だって今のメイサの顔が般若を通り越して閻魔様だもの。迂闊に近寄れない。

「なるほどね。メイサが怒るんだから、きっと碌でもないことでも言ったんでしょう」

「せいかい!」

 やれやれ、と言った風にため息を吐く姉様。けど何処か羨ましそうにも見える。

 何かあったのかな?

「ねえさま、おつかれですか?」

「ちょっとね。……お父様の考えが徐々に変わってきているの」

「かんがえ?」

 父様は何を考えているのかは私自身よくわからないけど、何やら姉様には色々話をしている様子だ。そのためのストレスかわからないけど、頭が痛むようで頭を抱えている。

「私はもうすぐ13になるでしょう? スキル次第で私を公爵のお家に行くことになるみたい」

「え」

 それって、13歳になってスキルがわかったら公爵にお嫁に行くってことだよね?ちょっと聞いただけだけど、公爵の家の息子って確か40過ぎと30過ぎのおっさんしかいなかったはず。そんな家に嫁に行くということは政略結婚ということだろう。

 姉様はそれで良いの?

「ねえさま、いいの?」

「女に、娘に権限はないもの。仕方がないわ」

 男尊女卑というよりも子供に権限がないから仕方がない。そう言った気持ちが強いのか、落胆している表情が隠しきれないでいる。

 私は姉様に幸せになって欲しい。でも、今の私にはどうすることもできない。けど、一つだけできることがある。

「ねえさま、べんきょうおしえてください!」

「ふふ、良いわ。気分転換になるかもね。そうとなったら部屋着に着替えてらっしゃい」

「はい!」

 姉様との時間をたくさん作る。作ってたくさんの思い出を作る。姉様の気分転換になれるようなことをする。

 それが今の私にできることだ。




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