ハズレ職? いいえ、天職です

陸奥

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出会いと不穏の兆し

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 私の中で警鐘が鳴る中、みんなが食べ進めているのを見てどうするべきか悩む。このまま食べてみるのもいいけど、状態異常無効のスキルが効かなかったらと思うと恐怖でしかない。だけど食べないことで不審がられるのも困る。

 こうなったら勇気を出して食べるしかない。

 女は度胸だ。

「──おやめな!」

 かちゃりとスープをスプーンで掬った瞬間にエリに叩き落とされ、カランと音を立ててスプーンが床に落ちた。掬ってあったスープは奇跡的にドレスには付かなかった。

 エリってばすごいコントロールしているね。

 じゃなくって!

「エリ?」

「旦那、あんたこれわざと出したのかい?それとも毒見をさせないで出させたのかい?まさか毒見役がいないとか言わないよねぇ?」

 父様を睨みつけるかのように眼光を鋭くして見るエリ。その言動の中に毒の文字があったけど、まさかスープに入れられてた?

 恐る恐る【鑑定】を使ってみよう。

スープ【毒】:根菜を使ったスープに神経毒が混入した食べ物。治療法や処置が間違えれば死に至る。致死率70%

 わあ、なんて素敵な毒殺メニュー。一体誰が仕込んだのかな?なんて現実逃避をしてみる。そうでもしていないとやっていられない。

「いったいどうしたというんだ?」

「毒が仕込まれているんだよ。誰だい?シェリル様に毒を盛ったのは?」

 この中に仕込んだやつが絶対にいる、というように周りをぎろりと睨むエリ。その眼光は人間に変化する前のグリフォンのように鋭く、今にも変化を解いて襲いかかりそうだ。

「リリ、給仕をしている者たちを連れてきてちょうだい」

「かしこまりました」

 姉様が食事を途中で止め、リリに給仕をしているメイドたちや料理人たちを呼ぶように伝えれば表情ひとつ変えることなくリリが動く。冷静沈着っていうのはこういうことなんだろうけど。初めて会った時から思っていたんだけど、リリは現代世界にあったAI搭載のロボットみたいだ。

「イリス!何勝手なことを!?」

「あら、勝手なことではありませんわ。私の大事な可愛い妹のシェリルに毒が盛られていたんですから当然のことですわ。ロベルト、そう思わない?」

「確かに姉上の言う通りだな。父上も母上もシェリルが死んでもいいのか?」

「良いわけないでしょ?けど、なぜ給仕をしている者たちを呼ぶのです?」

「簡単ですわ。誰が盛ったのかを見分けるためです。シェリルの新しい護衛は人を見る目が良いみたいですから」

「そうみたいだな。……俺たちが食っているのには毒が含まれていなかったということはシェリルが狙い。父上も母上もシェリルが可愛がっていたろ?なんで見過ごすようなことをするんだ?」

「そ、それは……」

 顔を赤くしたり青くしたりと大忙しな両親に、姉様と兄様が追い討ちをかけて2人はタジタジになっている。両親の対応が残念に思うけど、姉様たち2人が私の味方でいてくれようとしているのがとても嬉しい。

 しかし、2人ともまだ10代前半なのによくそこまで思考が回るよね。私が知る10代前半は遊びまわって馬鹿騒ぎをしていることが多いんだけど……。これは2人が特殊だってことかな?

「ゔぅぅ~っ」

「ヴァイス?」

 突然ですがヴァイスの唸り声が聞こえてきたと思ったら、一人のメイドに対して臨戦態勢を取るヴァイスがいた。その横にはエリもいて、腕組みを組んでメイドを睨んでいる。

 どうやらリリが今日の給仕当番のメイドと料理人が来たようで、瞬時に匂いで毒を盛った人を特定したようだ。ヴァイスに唸られエリに睨まれているそのメイドの子は姉様より少し年上くらいの女の子で、どう対応すれば良いのかわからずオロオロしていた。その顔色は悪く、血の気がはいていた。

 何かをやらかした様子だけど、これは十中八九私のスープに毒を仕込んだことだろう。

「あなたは確か、一昨日雇われた新しいメイドの……」

 どうやらこの子は新しいメイドだったみたい。そのメイドはヴァイスやエリはともかく、姉様にも睨まれたことで先程よりも顔面蒼白になり体をガタガタと震わせている。今にも失神しそう、否、もはや失神寸前というような感じだ。

「さて、なぜ妹のシェリルに毒を盛ったのか教えてくださる?」

「私も聞きたいねぇ」

 そんなにプレッシャーをかけないであげてください。今にも失神して倒れてしまいそうだよ。

「あ、たおれた」

 あまりのプレッシャーに耐えきれなくなり、そのメイドの子はその場にひっくり返って気絶してしまった。


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