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出会いと不穏の兆し
これから先のこと
しおりを挟むあの後、食事どころではなくなったことで私は一口も口に入れずに部屋に帰ってきた。モルヴィスたちと森の中で魔物たちをたくさん狩ったりしたから空腹で仕方がない。でも、この屋敷のを食べるのも恐怖でしかない。まあ、何かあった時のためにモルヴィスやケニスからもらっていた干し肉とかドライフルーツをストックしてあるから問題ないけど。
タンスの底にしまってたからそれを食べよう。確か保存魔法をかけてあるからって言っていたから食べれるはず。
「主人、大丈夫かい?」
「シェリル、外で何か食すか?それとも我が今一度狩りに行ってモルヴィスに託してくるか?」
「おにくはいいかな。ストックしていたのがあるからだいじょうぶ」
えっしょ、と箪笥の奥から干し肉やドライフルーツを入れた麻袋を取り出す。中を確認してみると、腐れた匂いがないし見た目も問題ない。干し肉を口に入れれば、ジューシーで香ばしい匂いが口いっぱいに広がる。
この味は前世でよくお酒の当てに食べていたビーフジャーキーの味だ。成人してお酒飲めるようになったらお酒と一緒に食べよう。
「主人、書類のことはどうするかい?モルヴィスたちと聞くってことだったけど?」
「呼んできますかニャ?」
「そうだね。でも、ユフィがいったらふしんがられるとおもうからケニス、おねがいできる?」
「わかりました。少し待っていてください」
モルヴィスたちを呼びに行くケニスを見送って、私はドライフルーツや干し肉を無駄食いしない程度に堪能した。
───────
─────
───
ケニスがモルヴィスたちを呼びに部屋から出て数分。干し肉の味付けについて色々と思考を巡らせ、今度森に連れて行ってもらった時に自分で作ってみよう、なんて考えていた。
塩気だけってのも食べ続ければ飽きちゃう。
「お嬢、来たぜ?」
「災難だったっスね」
「ほんま、大変やったなぁ?」
「シェリル様のお口に合うかわかりませんが、ボクお手製の差し入れを持ってきましたよ」
「モウスありがとう!」
ドアが開いたと思ったら、食事前にここにいたモルヴィスたちが来た。その中でモウスの手には少し大きめの木彫りでできた器があり湯気が立っていた。かなりいい匂いがするそれは唾液腺を刺激するほどで、ついつい食い入るように見てしまっていた。さらに、ぐぅぅ、とお腹が鳴っていた。
恥ずかしすぎて穴があったら入ってしまいたい。
「ふふふ、余程空腹だったのですね。さ、熱いので気をつけて召し上がってください」
「わあ!ありがとうモウス!!」
差し出されたのはキノコやお芋、お肉などの具がたくさん入ったスープだった。【鑑定】でスープを見れば毒の文字も何もなくて、エリも安心したような顔をしていたからありがたく頂くことに。
「いただきます!」
スープをスプーンで掬い口に入れれば、塩のみの味付けであっさりしたもの。でも、食材の旨みがしっかり出ていてとても美味しくていつも食べている料理人のご飯よりもとても美味しく感じた。
貴族のご飯は私にあってないのかもしれないな。
「お嬢、あの書類のことについてのことなんだが、食いながらでいいから聞いてくれ」
「んぐ?んんっ」
食べながら聞くことなら簡単だし、なんの支障もないから咀嚼しながら頷く。それにしてもこのスープは美味しい。今度作り方教わろう。そう味わいながら思っていれば、あの手紙の話のことを話された。
あの手紙の内容は姉様と兄様のことらしく、欲に目が眩んだ両親が真っ先に飛びつきそうなモノだった。姉様が公爵家へ嫁ぐことが決まったことで、私の存在は必要なくなったらしい。
だからってこの世から抹殺しなくても……。なんて思ったけど、両親は爵位やお金が大事だらしい。
両親には本当にがっかりだ。
「お嬢、どうするんスか?」
「……とりあえず、まもののむれをなんとかしなくちゃ、だね」
空になった器を置いて口周りをハンカチで拭いながら、キースに答える。
魔物の群れが膨れ上がって押し寄せてきたら逃げ切れないだろうし、姉様たちも無事じゃ済まないはず。そうならないためにはまずそれを叩かないと。
「シェリル、その役目我にやらせてはくれんか?」
「ヴァイスだけでだいじょうぶ?」
「大丈夫じゃ。我はまだ全力を出しておらんからな」
「わかった。なら、ヴァイスにおねがいするね」
きっと周りにモルヴィスたちがいたから本領発揮できなかったんだろう。ヴァイスだけでなんとかなるのなら任せよう。
「それが終わったらどうするんだ?」
「きっと、13のしゅくさいのときになにかあるとおもうの」
魔物たちの反乱を逃したら、きっとその時に私を殺しにくると思う。なら、それを利用するのみ。
「わたし、そのときにいえをでようとおもう。それで、ぼうけんしゃにもなろうかなって」
モンスターの大群に襲われた時は怖かったけど、その反面ワクワクして心が弾んだんだ。元の世界では体験できなかったことができる。やってみたかったことができるって。
「お嬢はそれでいいのか?」
「ん。しばられるじんせいよりじゆうなほうをえらびたいから」
「シェリル様、ヴァイス様やエリ様には劣りますが私もお供しますニャ!」
「俺たちも手を貸そう」
「そうですね。ボクたちもあの書類を見てから色々と考えることがありましたので」
「それに、お嬢様と一緒に旅ができるんなら大歓迎っスからね!」
「退屈はせえへんやろ」
「俺たちはシェリル様が一緒ならどこまでもお供しますよ。護衛としてだけではなく友人や家族として」
雇われが何を言っているんだって感じですが。と照れたように呟くケニス。彼らの言葉を聞いてとても嬉しかった。
「……これからも、よろしくね」
これから起こるのはきっと波乱なことだろう。けど、彼らがそばにいてくれるのならきっと大丈夫。
込み上げてくる涙を手で拭いながら、私はそう強く思ったのだった。
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