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別れと始まり
武具屋前で
しおりを挟む冒険者登録を済ませ、晴れて冒険者となった私はモルヴィス達と離れてヴァイスとエリと共に村を探索していた。本当にこの村は私がいたとこよりも自然に囲まれた長閑な村だ。
「平和な村だね」
「そうじゃな」
「ほんとねぇ。冒険者ギルドがあるのが不思議なくらいだ」
それでもこの村にギルドがあるのは、村の周りに魔物がいるからなんだろう。被害がないのは村に冒険者がいるからだろう。彼らがここを離れずにいるのは、まだ発表していない、もしくはほとんど無力化したダンジョンがあるからなのかもしれない。
「冒険者になったわけだけど、これから何しよう?」
「そうさねぇ。妾たちはFランクだ。討伐はあまりないと考えて、薬草などの採取や何かの探し物がメインになるんじゃあないかねぇ?」
「探し物なら我に任せろ。我の鼻で探してやる」
「あはは、その時はよろしくね」
「妾の鼻や目も頼りにしておくれ」
幼少期から共にいた相棒たちが頼もしい。これも転生した時にもらったステータスのおかげと、アルテイル様の指導があったおかげだよ。
「これからどうするのじゃ?探索は良いが、他にもせねばならんことがあるのではないか?」
「そうなんだよね」
冒険者といえば武器や防具なんだろうけど、私にはその知識がからきしだ。一応モルヴィスたちから色々と教わってはいたけど、私自身に見合った武器はよくわからない感じだ。
一通り試してみたい気持ちはあるけれど、使い方わからない武器を手にして怪我をする。もしくは怪我をさせてしまう。可能性としては前者だけど、どちらとも怒ってしまった場合保護者からの過保護が発動、及び冒険者生活に終止符を打つ可能性が高い。
自分の見聞を広めるために出てきた(という程の逃亡ではあるが)のに、そんな事態は絶対に避けたい。
「……モルヴィスたちと合流しよう」
「うむ、そうじゃな」
「懸命な判断だねぇ」
ヴァイスとエリも賛成のようだし、モルヴィスがいる場所へ向かおう。
「【探知】では、向こうにいるみたい」
可能な限り頭の中で見える範囲を広げて視ると、モルヴィスたち5人が同じ場所にいるようだ。 この5人が揃って同じ場所にいてくれているのなら、私が扱える武器がなんなのかよりわかるはずだ。
「善は急げ、だ。ヴァイス、主を乗せて走りな。妾はこのまま走る」
「わかった。ユウキ、我に乗れ」
「うん、お願いね!」
そう声をかけて跨り、首のところを軽く叩けば走り出すヴァイス。
ヴァイスのもふもふな毛がが気持ちいい。けど、長時間彼に跨っての移動することを考えると鞍を作らないといけないかも知れない。それも一緒に相談してみよう。
「ヴァイス、あの建物にモルヴィスたちがいるみたい」
「わかった」
指示を出せばすぐに向かってくれ、次第に建物が近づいてくる。周りには冒険者だろう人たちがちらほらといて、私たちを指差して何かを言っていた。
きっとヴァイスのことを言ってるんだろうけど、まあ問題はないでしょ。
「ありがとう、ヴァイス」
人前である為に言葉を出さないヴァイスの首元を撫でてから建物を見る。看板にはこの世界での文字で“武具屋”と書いてあった。モルヴィスたちも装備を揃える為に来てたのかも。
いいタイミングだったかも。
「あの、君……このモンスターは?」
中に入ってモルヴィスとお話を、なんて思っていたら私と同い年か少し年上くらいの男の子が話しかけてきた。ずっとヴァイスを、注視しているようだけど……。危険視でもしてるのかな?
エリの方を見るともうすでに中に入ったようで私の隣にはなく、代わりにドアのベルが鳴っていた。
なんていうタイミングだ。
「あ、ごめんなさい。この子は私の従魔なんです」
「そうなの?えっと、どこでテイムしたんだい?」
「ええと……」
なんかすんごい目がギラついてるんだけど……。これは素直に答えた方が……いや、答えちゃいけないような気がする。
「なんでこの子のテイムにこだわるの?」
「強そうだからに決まってるだろ?それに、強そうなモンスターを従えていれば強いパーティーに加えられるはず!」
そんなことのために?従魔は仲良くなるための道具なんかじゃないし、仮にその従魔にした子がいなくなっちゃったらどうするの?
「……もし、従魔にした子がいなくなっちゃったら?あなたはどうするの?」
「そんなこと簡単だろ?新しいのを探すさ」
なんて最低な人なんだろう。そんな人に魔獣たちを従える資格なんてないし、教えたくもない。
そんな私の心境を悟ったのか、ヴァイスが隣で唸り声を上げて威嚇していた。
「……あなたなんかに教えません」
「は?」
「従魔を道具としか見てない人に、居場所なんか教えません!」
「てめぇっ!!」
私の言葉に激昂した男の子が拳を振り上げる。怖い気持ちもあるけれど、ここで負けちゃ、【獣使い】のスキルが廃れるだろうし従魔となるであろうモンスターたちが可哀想だ。
だから絶対に教えるもんか。
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