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別れと始まり
一難からの幸運
しおりを挟む振り上げられた拳。初めての暴力に対する恐怖で目を閉じてしまった。だけど、いつまで経っても痛みや殴られた衝撃は来ない。恐る恐る目を開けてみると、私へと振り上げられていた拳はケニスによって止められていた。
もう私の護衛じゃなくなったのに、この人はいつでも助けてくれるんだね。
「自分の思い通りにならないからって暴力を振るうのは感心しないな」
「だ、誰だよテメェっ!?」
「その子のパーティーメンバーだ」
堂々と答えるケニスはいつもよりかっこよく見えた。それと目の錯覚なのか、心なしかキラキラしているようにも見える。
気のせいかもだけど。
「ワイらもこの子のパーティーメンバーや。あんた、ワイらの可愛い妹分に何してくれてるん?」
「自分の思い通りにならないからって、か弱い少女相手に暴力はいけません」
「うるさいな!何でそいつだけ魔物を、上位の魔獣を従えることができるんだよ!?」
あれ、この人テイマーのこと知らない?いや、そんなことはないでしょ。どこでテイムしたのか、とか聞いてきてたし。
まさか【獣使い】や【魔物使い】とかってメジャーじゃない感じ?司祭様もあまりお目にかかれないって言ってたし……。
「【獣使い】だからっスね。あんた、【#獣使い】か【魔物使い】の職じゃないんスか?」
「俺は召喚士だ!」
召喚士って、ゲームとかで見る召喚陣から召喚獣とかを呼び出す職業の人のことだよね?テイムと何の関係もない職だと思うんだけど……。
呼び出すのにテイムしないといけないのかな?
「召喚士って、召喚に応えてくれる魔物や魔獣と契約して召喚するんやろ?」
「そうだ。専用の召喚陣を使って魔力の波長に合った魔獣が現れるわけなんだがな?」
テイムと全く関係ない職じゃん。なのに私に絡んできたの?
「職が全く違うのに教えても意味ないじゃないですか」
「うるさい!お前だってその魔物がいるからパーティーに入れられたんだろ?だったら──」
「は?そんなわけないだろ。俺たちはユウキが良いからパーティーに入れたんだ」
男の子の言葉を遮ったのはケニスで、とっても嬉しいことを言ってくれた。長年一緒にいたから私やヴァイス、エリのことを知ってるからそう言ってくれたんだろう。
さすが私の元護衛だ。
「そうニャ!それに、私たちは幼馴染ニャ!」
「僕もです」
「俺は義兄だ」
「ワイとキース兄さんは従兄弟や」
「私はこの子の姉さ。腹違いでバラバラに育ったから所作や言葉遣いが違うけどねぇ」
私が知らない間に色々と俗柄を設定していたようだ。まさかモルヴィスとエリが兄様と姉様になってくれるなんて……。今日は災難と幸運がダブルパンチで来る日なのかな?
どこかに占い師さんいないかな~。なんて、ぎゃいのぎゃいのと騒ぐのをBGMに現実逃避する。
私のことを思ってくれるのはとてもありがたい。ありがたいことなんだけど、これ以上幸せすぎるのは今後が怖いような……。まあ、運が悪いよりは良いんだけどね。
「くそっ!覚えてろよ!」
ふと気がつくと悪役のような捨て台詞を言って走り去る男の子。覚えてろよって言っても名前がさっぱりだから覚えていられるかどうか……。たまに人に対しての記憶が朧げな時があるからな~。
まあ、こう言う時にあった人のことは覚えていない確率高いけど。
「ユウキ、お前精神図太いよな」
「前世の年齢も合わせると結構な歳いってるからね」
精神年齢が体に引っ張られてるけど、図太いのは認めるよ。伊達にブラック企業に勤めてなかったからね。
「で、エリから聞いたんだが、お前の適した武器なんだが……一通りやってみるか?」
「良いの!?」
「こう見えて、俺は全武器特化だからな」
我が義兄は思っていた以上に有力な人材だったようだ。
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