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淫欲八姫
第24話 月が二つある!?
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バルコニーにあるベンチで二人夜風に当たりながら景色を眺めていた。
やたらと眩しいネオンもいつの間にか控えめな光量になっており、先ほど感じていた怪しさはそこまで気にならなくなっていた。
ネオンサインだけではなく街灯も半分ほど消灯しているのが見えることから、夜の時間になると節電でもしているのかもしれない。そのおかげなのか、空を見上げると月と月の間にいくつもの星が瞬いているのが見える。
「月が二つある!?」
初めて見た光景にオレは驚いて思わず声をあげてしまったが、アスモちゃんはそんな俺を見て不思議そうにしていた。月が二つあることなんて珍しくないだろうとでも言いたげなのだが、俺にとっては月も太陽も一つしかないのが当たり前なのだ。
もしかして、太陽も二つあったりするのだろうか?
それとなく疑問に思ったことをアスモちゃんに尋ねてみたところ、見た目と年齢が偽りなのではないかと思えるくらいに豊富な知識で月が二つある理由を説明してくれた。
「あっちの大きい方の月は名も無き神の軍勢に抗えなくてこの星を捨てて移住した人たちが住んでいる月だよ。その月の隣にある少し小さいほうの月は人工的に作られた月の月なんだって。さすがに太陽を新しく作ることは出来なかったらしいんだけど、新しい月を作る技術があるんだったら名も無き神の軍勢と戦えばいいのにね」
「名も無き神の軍勢って、この国以外にも進攻しているって事なの?」
「あいつらはこの世界を自分たちの物だと勘違いしているんだよ。自分たちの教義に反するものは全部異教徒で粛清対象なんだってさ。この星に残っているのはこの国の他にはいくつかの独裁国家と文明を捨てた野人と呼ばれる集団だけみたいだよ。みんな名も無き神の軍勢が怖くて外の世界に出ていったんだ」
「外の世界にって、そんな連中は月まで追いかけていきそうなもんだけど」
「オレもその辺はよくわからないんだけど、名も無き神の軍勢は天に近付くことを固く禁止されているみたいだよ。あいつらの神が空に住んでいるらしくて、その聖域を穢すことを赦さないんだってさ。それを逆手にとって、月に逃げたって事らしいんだけど、空を飛びながら爆弾でも落としてやれば簡単に終わらせられそうなのにね」
「空爆ってやつか。それは流石にやり過ぎだって思ったんじゃないかな。それよりも、当たり前みたいに言ってるけどさ、月ってそんなに簡単に暮らせるようなものなの?」
「どんな過酷な環境でもなれるんじゃないかな。深海に住んでる人だっているくらいだし、もしかしたら、火山の中に住んでいる変わり者もいるかもしれないね。住めば都って言う言葉もあるくらいだし、どんな環境でもそれなりに暮らせるようになるって事なんだろうね」
住めば都はそういう意味ではないと思うのだが、この世界ではそういった諺の意味も自分が知っているモノと微妙に異なるのかもしれない。
環境が違えば文化も異なるだろうし、こんなに小さくて可愛らしいアスモちゃんが自分の何倍もありそうな大男を圧倒的な力で蹂躙することが出来ていたし、俺の事もほんの少しの力で完全に押さえていたのだ。見た目も中身も自分が知っているヒトとは異なる存在なのかもしれない。それだけは忘れないでおこうと心に秘めていた。
「“まーくん”が月に行ってみたいって言うんだったらさ、八姫なんて無視していったん月に行くってのもありかもしれないよ。だって、イザーちゃんのいる艮までの道はしばらく嵐がおさまらなさそうだもんね」
「でも、こうして見ていると、この時間帯は嵐がおさまっているように見えるんだよね。もしかしたら、太陽が出ている時間帯だけ砂嵐が凄いのかもしれないよ」
「さすが“まーくん”。よく気付いたね。でも、夜にあの道を通るのはやめておいた方が良いよ。たぶん、オレも“まーくん”も無事では済まないから」
「無事では済まないって、そんなに危険なの?」
「危険も危険。大危険だよ。オレは夜の街道を絶対に歩かないって決めてるんだよ。“まーくん”の頼みだとしても、それだけは譲れないからね」
大危険というのは初めて聞いた言葉なのだが、おそらく聞いた通りのニュアンスなんだろう。
あんなに強いアスモちゃんがそこまで言うという事は、力では乗り切れない恐ろしいものがあるという事なのかもしれない。あんなに強くて普段は誰よりも落ち着いているアスモちゃんが取り乱しているところを見ると、余程恐ろしいものが存在するのだろう。
ただ普通の男子高校生である俺がそんなモノに太刀打ちできるとは思えないので、大人しくアスモちゃんの指示に従うしかないのだ。
「ここはちゃんとしたホテルなんで結界もしっかりして大丈夫なんだけど、安い宿とかだとあいつらの侵入を赦してしまうかもしれないからな。それだけは気を付けないといけないんだよ」
「あいつらって、いったい何にそこまで怯えているの?」
バルコニーに出てからのアスモちゃんはやたらと周りをキョロキョロと見ていると思っていたのだが、景色を見ているのではなく何かに警戒しているからだと気付いたのは、アスモちゃんが怯えているように見えたからだ。
何に怯えているのかわからないが、きっと油断も出来ない恐ろしい存在がこの近くにいるという事なのだろう。
やたらと眩しいネオンもいつの間にか控えめな光量になっており、先ほど感じていた怪しさはそこまで気にならなくなっていた。
ネオンサインだけではなく街灯も半分ほど消灯しているのが見えることから、夜の時間になると節電でもしているのかもしれない。そのおかげなのか、空を見上げると月と月の間にいくつもの星が瞬いているのが見える。
「月が二つある!?」
初めて見た光景にオレは驚いて思わず声をあげてしまったが、アスモちゃんはそんな俺を見て不思議そうにしていた。月が二つあることなんて珍しくないだろうとでも言いたげなのだが、俺にとっては月も太陽も一つしかないのが当たり前なのだ。
もしかして、太陽も二つあったりするのだろうか?
それとなく疑問に思ったことをアスモちゃんに尋ねてみたところ、見た目と年齢が偽りなのではないかと思えるくらいに豊富な知識で月が二つある理由を説明してくれた。
「あっちの大きい方の月は名も無き神の軍勢に抗えなくてこの星を捨てて移住した人たちが住んでいる月だよ。その月の隣にある少し小さいほうの月は人工的に作られた月の月なんだって。さすがに太陽を新しく作ることは出来なかったらしいんだけど、新しい月を作る技術があるんだったら名も無き神の軍勢と戦えばいいのにね」
「名も無き神の軍勢って、この国以外にも進攻しているって事なの?」
「あいつらはこの世界を自分たちの物だと勘違いしているんだよ。自分たちの教義に反するものは全部異教徒で粛清対象なんだってさ。この星に残っているのはこの国の他にはいくつかの独裁国家と文明を捨てた野人と呼ばれる集団だけみたいだよ。みんな名も無き神の軍勢が怖くて外の世界に出ていったんだ」
「外の世界にって、そんな連中は月まで追いかけていきそうなもんだけど」
「オレもその辺はよくわからないんだけど、名も無き神の軍勢は天に近付くことを固く禁止されているみたいだよ。あいつらの神が空に住んでいるらしくて、その聖域を穢すことを赦さないんだってさ。それを逆手にとって、月に逃げたって事らしいんだけど、空を飛びながら爆弾でも落としてやれば簡単に終わらせられそうなのにね」
「空爆ってやつか。それは流石にやり過ぎだって思ったんじゃないかな。それよりも、当たり前みたいに言ってるけどさ、月ってそんなに簡単に暮らせるようなものなの?」
「どんな過酷な環境でもなれるんじゃないかな。深海に住んでる人だっているくらいだし、もしかしたら、火山の中に住んでいる変わり者もいるかもしれないね。住めば都って言う言葉もあるくらいだし、どんな環境でもそれなりに暮らせるようになるって事なんだろうね」
住めば都はそういう意味ではないと思うのだが、この世界ではそういった諺の意味も自分が知っているモノと微妙に異なるのかもしれない。
環境が違えば文化も異なるだろうし、こんなに小さくて可愛らしいアスモちゃんが自分の何倍もありそうな大男を圧倒的な力で蹂躙することが出来ていたし、俺の事もほんの少しの力で完全に押さえていたのだ。見た目も中身も自分が知っているヒトとは異なる存在なのかもしれない。それだけは忘れないでおこうと心に秘めていた。
「“まーくん”が月に行ってみたいって言うんだったらさ、八姫なんて無視していったん月に行くってのもありかもしれないよ。だって、イザーちゃんのいる艮までの道はしばらく嵐がおさまらなさそうだもんね」
「でも、こうして見ていると、この時間帯は嵐がおさまっているように見えるんだよね。もしかしたら、太陽が出ている時間帯だけ砂嵐が凄いのかもしれないよ」
「さすが“まーくん”。よく気付いたね。でも、夜にあの道を通るのはやめておいた方が良いよ。たぶん、オレも“まーくん”も無事では済まないから」
「無事では済まないって、そんなに危険なの?」
「危険も危険。大危険だよ。オレは夜の街道を絶対に歩かないって決めてるんだよ。“まーくん”の頼みだとしても、それだけは譲れないからね」
大危険というのは初めて聞いた言葉なのだが、おそらく聞いた通りのニュアンスなんだろう。
あんなに強いアスモちゃんがそこまで言うという事は、力では乗り切れない恐ろしいものがあるという事なのかもしれない。あんなに強くて普段は誰よりも落ち着いているアスモちゃんが取り乱しているところを見ると、余程恐ろしいものが存在するのだろう。
ただ普通の男子高校生である俺がそんなモノに太刀打ちできるとは思えないので、大人しくアスモちゃんの指示に従うしかないのだ。
「ここはちゃんとしたホテルなんで結界もしっかりして大丈夫なんだけど、安い宿とかだとあいつらの侵入を赦してしまうかもしれないからな。それだけは気を付けないといけないんだよ」
「あいつらって、いったい何にそこまで怯えているの?」
バルコニーに出てからのアスモちゃんはやたらと周りをキョロキョロと見ていると思っていたのだが、景色を見ているのではなく何かに警戒しているからだと気付いたのは、アスモちゃんが怯えているように見えたからだ。
何に怯えているのかわからないが、きっと油断も出来ない恐ろしい存在がこの近くにいるという事なのだろう。
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