じばく男と肉欲処女

釧路太郎

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淫欲八姫

第25話 だって、横で寝るって言ったでしょ?

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 何かに怯えるアスモちゃんを見て不思議な気持ちになっていた。
 あれほど強い力を持っているのにもかかわらず、怖いものがあるのかという意外性が不思議と可愛らしく見えていた。どんなに強くても、怖いものがあるもんなんだなと思えばあんなに恐怖を感じさせるような力持ちでも、ちょっと可愛く見えてしまう。
 そう言えば、小学生の時にクラスが一緒だった暴力女子が蝶を異常に怖がっていたのを思い出したが、きっとそれと似たようなものなのだろう。夜にこんなに怖がるなんて、アスモちゃんはオバケが苦手なのかな?

「そんなに怯えてどうしたの? アスモちゃんはオバケとか怖いの?」
「オバケなんて何とも思わないよ。そんなモノよりも怖いものがあるでしょ。オレみたいな男の中の男だからこそ怖いものがあるんだよ。“まーくん”はこの世界の事をあまり詳しくないだろうし、他の人達からも聞いてないから知らないだけかもしれないけど、こういった歓楽街には悪魔よりも恐ろしいあいつらが出てくる可能性が高いんだよ」

 男の中の男という言葉を聞いてアスモちゃんには関係ないんじゃないかなと思ったのだが、そんな事を軽く口に出してしまうと後々酷い目に遭いそうなのでグッとそれを飲み込んでおく。余計な一言を言ってしまったがために、とんでもない目に遭っている人を何度か見たことがあるのがいい教訓になっていた。
 残念なことに俺は男の中の男として認定される事は無いと思うので困ることはないのだけれど、そういった意味では俺とアスモちゃんの二人ならそんなに恐ろしい存在に相手にされないのではないかという疑問が俺の中に沸いていた。
 ただ、オバケではないというのが多少引っかかってはいたのだが。

「歓楽街にいる恐ろしいあいつらって、いったい何?」
「何って、サキュバスだよ。サキュバス。あいつらは男を手玉に取って精気を吸い取って徐々に力を奪っていくらしいよ。オレもまだ噂でしか聞いたことが無いんだけど、こんな歓楽街にはサキュバスが多く生息していて、夜な夜な獲物である強い男を探しているって話なのさ」
「サキュバスって、八姫と関係のある伝説の肉欲処女サキュバスと関係あるって事?」
「サキュバスと肉欲処女サキュバスは違うモノだよ。サキュバスは人間に限らず多くの種族を対象として精気を奪い取るみたいだよ。肉欲処女サキュバスの方は、よくわかってないけど、とにかく八姫と関係しているって事らしい。オレはまだ年齢的に肉欲処女サキュバスについて詳しく教えて貰えないんだけど、きっと八姫全員に会ったら教えて貰えるんじゃないかな。多分だけど、八姫が肉欲処女サキュバスを呼び出すときには教えて貰えると思う」

 サキュバスと肉欲処女サキュバスの違いはよくわからないが、俺の知っているサキュバスが本当にいるのだとしたら、アスモちゃんは何の問題もないだろう。自分の事を男だと思っているだけのアスモちゃんはきっとサキュバスから見向きもされる事は無いと思う。ここまで怖がっているので真実を教えてあげた方が良いのかもしれないが、それをこのタイミングで伝えるのは人として間違っているようにも思える。
 いつか、適切なタイミングで教えてあげるべきだろう。
 きっと、今までアスモちゃんの周りの人が積み重ねてきたものもあるだろうし、真実をしっかりと見つめる機会は俺が作ってあげる必要なんてないはずだ。

 そうなると、アスモちゃんよりも俺の方がサキュバスに対して何か対策をとらないといけないんじゃないだろうか。
 と言っても、俺に出来ることなんて何もないし、本当にサキュバスがやってきたとしても対処なんて出来やしないのだ。

「そう言えば、城を出る時に渡されたサキュバス対策のこのお守りを“まーくん”に渡しておくよ。それを持っているとサキュバスが出てきたとしても大丈夫みたいだからね。中身が何なのかわからないけど、絶対に中を確認したらダメだって言ってたよ」
「ありがとう。アスモちゃんにサキュバスが何かしようとしたら俺がこのお守りで助けてあげるよ」
「そうしてくれると助かるよ。じゃあ、今日はたくさん歩いて疲れただろうし、そろそろ寝ようか。“まーくん”は明るくても寝れる人?」
「あんまり気にしたことはないけど、いつもは電気を消して寝てるかな」

「そっか。それなら電気を消さないとね。オレが電気を消してくるから、“まーくん”は先に横になってていいからね」
「いや、俺が消してくるよ」
「ダメだって。“まーくん”は電気の消し方を覚えてないんだからオレがやらないといけないの!!」

 ここまで熱く言われると俺は何も言えなかった。
 何か特別な手順でもあるのかと思って上体を起こしたまま見ていたのだけれど、アスモちゃんがやったことは入り口横の壁にあったスイッチを切り替えただけだった。
 それ以外に何か特別なことをやっていた様子もなかったし、本当にスイッチを切り替えただけで他には何もしていなかった。

 カーテンの無いこの部屋に外の明かりがうっすらと入り込んではいるのだけれど、眠りの邪魔をするほどの光量は無いので落ち着いて寝ることは出来そうだ。
 電気が消えて暗くなっている中を歩いているアスモちゃんは両手を前に出して何かを確かめているようで足取りも少しフラフラとしている。もしかしたら、暗い場所が苦手なのかもしれない。

 アスモちゃんがベッドに入るまでは見守っていようと思って見ていると、そのまま近付いてきたアスモちゃんはなぜか俺のベッドの隣ではなく俺のベッドに潜り込んできた。
 どうして俺のベッドに入ってきたのだろうか。その疑問をぶつけると。

「だって、横で寝るって言ったでしょ?」

 そう言って俺にくっついてからすぐに眠りに落ちていた。
 悪い気はしないけれど、本当に一緒に寝てもいいのだろうか?

 そう思いながらも、アスモちゃんの少し高い体温と爽やかな匂いが心地よくてリラックスしているのも事実だった。
 何となくアスモちゃんの体に触れないように手を上へと伸ばしていたのだけれど、アスモちゃんが俺の手を枕にしてしまったので背中を向ける事も出来なくなってしまった。
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