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淫欲八姫
第45話 ボクの話し相手になってくれればいいよ。
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無音の世界は少し息をすることが難しかった。全ての動きがゆっくりとしているように見えているのに、俺の心臓の鼓動だけはいつもと同じように脈打っていた。
何もかもがゆっくりに見えるこの世界。何をする事も出来ずに、ただ黙って見ていることしか出来なかった。
アスモちゃんが必死になって何かを言っているようなのだが、俺には何を言っているのかさっぱり伝わってこない。必死になって何かを叫んでいるように見えるのだけれど、その声は俺には全く届いていなかった。
何をそんなに慌てているのかと思っていたのだが、アスモちゃんが指をさしている方を見て見ると、そこには瓦礫が積まれているだけであった。
先ほどまでは立派な街並みがあったと思うのだけれど、そこには家だったと思われる残骸と宙に浮いている数えきれないほどの人がいた。生きているのか死んでいるのかここからでは見分けられない。かすかに動いているようにも見えるような気もするが、単に風によって動いているように見えているだけかもしれない。
風なんて全く感じてはいないけど、あんなにボロボロになった状態で生きているとは思えない。だが、それでも死んではいないような気もしていた。
「“まーくん”!! “まーくん”!! 大丈夫!?」
何度も呼び掛けてくれていただろう、アスモちゃんの声が聞こえるようになった。それと同時に宙に浮いていた人達がゆっくりと降りていき、ゾンビのようにゆっくりと動き出していた。
「やめろって言ったのにあのバカ、本当に試し打ちしちゃったよ。クリーキーはバカだって思ってたけど、あそこまでバカだとは思わなかった。やめろって言っても聞かないとは思ってあえて言わなかったんだけど、普通の感覚だったら言わなくてもわかるようなもんなのにね。それにさ、あんな悪魔とか呼び出しているのに誰も止めないとか、絶対に面白がって自爆するのを見てたに決まってるよ。本当に悪魔って性格悪いよね。もう、珠希ちゃんの家も全部壊れちゃったし、これからどうしたらいいんだろうね」
アスモちゃんの声が聞こえるようになったのは嬉しいのだけれど、俺はアスモちゃんに続いて話をしようとしたのに声が出なかった。呼吸はちゃんと出来ているのだけれど、声が上手く出せなくなっていた。声にならないような音すら出ず、自分の呼吸音しか出せなかった。
「うわ、“まーくん”は無事なのかと思ったけど無事じゃないみたいじゃん。どうしたらいいのかわかんないけど、とにかく病院があればそこに行こう。今のこの状況で建物が残っているか不安だけど、ここでじっとしているよりはいいでしょ」
アスモちゃんに手を引かれて俺は東の町だった場所へと向かう事になった。
見渡す限りの残骸の中に形を保っている建物が無いのは気がかりだが、こんな状況でも希望を失っていないアスモちゃんは強いなと感じていた。
そっと振り返った時に見たのだが、クリーキーがいた岩の反対側は大きなクレーターが出来ていた。俺から隠れて技を試すことによって爆発の衝撃が俺には直接届かなかったみたいなのだが、クリーキーがいた側の岩がガラスのようにキラキラと太陽光を反射していたのを見て恐怖よりも美しいと感じてしまった。
アスモちゃんにぐいぐいと引っ張られながらたどり着いた東の町は見たことも無いような惨状に見舞われていた。
過去に見た災害後の街並みとも違うし、戦争があった街並みとも違う、怪獣が通ったとしてもここまで完璧に破壊される事は無いだろうと思ってしまう程に建物の形が一切原形ををとどめていなかったのだ。爆発による衝撃波と超高温が同時に襲い掛かったとしてもここまで粉々にはならないだろう。一体何が原因でこのような状況になったのか、俺には全く想像も出来なかった。
それよりも、俺がこの爆発と同じことが出来るという事を思うと、心の底から震えがきて何も考えられなくなってしまった。
ゾンビのように力なく歩いている人たちをかき分けて登場したひときわ美しい女性は俺とアスモちゃんを見てから盛大にため息をついていた。
「君たちは一体なんてことをしてくれたんだい。ボクが一生懸命計画してコツコツと積み上げてきたこの街を一瞬で壊してしまうなんて、君たちに対して何か悪い事でもしたとでもいうのかな?」
「ちょっと待ってよ。この状況を作ったのはオレ達じゃなくてクリーキーだよ。珠希ちゃんもそれはわかってるよね?」
「わかってはいるよ。実際に爆発したクリーキーも見てたし、あの悪魔たちが良くないことを企てているのも知っていたよ。でもさ、あの爆発の原因を作ったのって“まーくん”だし、そうするように仕向けたのはアスモちゃんだよね?」
俺の技を使ったのはクリーキーなので間違ったことは言ってないように思えるのだが、そうなるとクリーキーが俺の技を使うようにアスモちゃんが誘導したという事になるのではないか。この女の人の言う事を信じるのであればそうなると思うけど、アスモちゃんを見ていると明らかに動揺しているのだから真実なのだろう。
ひょっとしたら、アスモちゃんはイザーちゃんだけではなく他の八姫に対しても何か恨みでもあるのかもしれない。
俺にはわからないが、そう感じても仕方ないだろう。
「オレは別にそんなつもりじゃなかったし。そもそも、あそこにクリーキーがいるとは思いもしなかったさ」
「嘘つくんじゃないよ。君がそんな無計画に行動するわけが無いでしょ。それくらいボクにだってわかるさ。わかってはいたからこそ泳がせていたんだけど、ここまで被害が大きくなるなんて聞いてないからね。アスモちゃんにはこの街が復興するまでの間、必死になって働いてもらう事にしたから。これは決定事項だから」
「まあ、それは仕方ないよね。甘んじて受け入れるよ。でも、その間“まーくん”はどうすればいいのさ?」
「そんなの決まってるよ。ボクの話し相手になってくれればいいよ。それ以上の事は望まないから」
話し相手になるのは問題無いと思うけど、今の俺はお話をすることが出来ないのだ。
それを理解したうえで言っているのだろうか?
たぶん、何も理解してはいないんだろうな。
何もかもがゆっくりに見えるこの世界。何をする事も出来ずに、ただ黙って見ていることしか出来なかった。
アスモちゃんが必死になって何かを言っているようなのだが、俺には何を言っているのかさっぱり伝わってこない。必死になって何かを叫んでいるように見えるのだけれど、その声は俺には全く届いていなかった。
何をそんなに慌てているのかと思っていたのだが、アスモちゃんが指をさしている方を見て見ると、そこには瓦礫が積まれているだけであった。
先ほどまでは立派な街並みがあったと思うのだけれど、そこには家だったと思われる残骸と宙に浮いている数えきれないほどの人がいた。生きているのか死んでいるのかここからでは見分けられない。かすかに動いているようにも見えるような気もするが、単に風によって動いているように見えているだけかもしれない。
風なんて全く感じてはいないけど、あんなにボロボロになった状態で生きているとは思えない。だが、それでも死んではいないような気もしていた。
「“まーくん”!! “まーくん”!! 大丈夫!?」
何度も呼び掛けてくれていただろう、アスモちゃんの声が聞こえるようになった。それと同時に宙に浮いていた人達がゆっくりと降りていき、ゾンビのようにゆっくりと動き出していた。
「やめろって言ったのにあのバカ、本当に試し打ちしちゃったよ。クリーキーはバカだって思ってたけど、あそこまでバカだとは思わなかった。やめろって言っても聞かないとは思ってあえて言わなかったんだけど、普通の感覚だったら言わなくてもわかるようなもんなのにね。それにさ、あんな悪魔とか呼び出しているのに誰も止めないとか、絶対に面白がって自爆するのを見てたに決まってるよ。本当に悪魔って性格悪いよね。もう、珠希ちゃんの家も全部壊れちゃったし、これからどうしたらいいんだろうね」
アスモちゃんの声が聞こえるようになったのは嬉しいのだけれど、俺はアスモちゃんに続いて話をしようとしたのに声が出なかった。呼吸はちゃんと出来ているのだけれど、声が上手く出せなくなっていた。声にならないような音すら出ず、自分の呼吸音しか出せなかった。
「うわ、“まーくん”は無事なのかと思ったけど無事じゃないみたいじゃん。どうしたらいいのかわかんないけど、とにかく病院があればそこに行こう。今のこの状況で建物が残っているか不安だけど、ここでじっとしているよりはいいでしょ」
アスモちゃんに手を引かれて俺は東の町だった場所へと向かう事になった。
見渡す限りの残骸の中に形を保っている建物が無いのは気がかりだが、こんな状況でも希望を失っていないアスモちゃんは強いなと感じていた。
そっと振り返った時に見たのだが、クリーキーがいた岩の反対側は大きなクレーターが出来ていた。俺から隠れて技を試すことによって爆発の衝撃が俺には直接届かなかったみたいなのだが、クリーキーがいた側の岩がガラスのようにキラキラと太陽光を反射していたのを見て恐怖よりも美しいと感じてしまった。
アスモちゃんにぐいぐいと引っ張られながらたどり着いた東の町は見たことも無いような惨状に見舞われていた。
過去に見た災害後の街並みとも違うし、戦争があった街並みとも違う、怪獣が通ったとしてもここまで完璧に破壊される事は無いだろうと思ってしまう程に建物の形が一切原形ををとどめていなかったのだ。爆発による衝撃波と超高温が同時に襲い掛かったとしてもここまで粉々にはならないだろう。一体何が原因でこのような状況になったのか、俺には全く想像も出来なかった。
それよりも、俺がこの爆発と同じことが出来るという事を思うと、心の底から震えがきて何も考えられなくなってしまった。
ゾンビのように力なく歩いている人たちをかき分けて登場したひときわ美しい女性は俺とアスモちゃんを見てから盛大にため息をついていた。
「君たちは一体なんてことをしてくれたんだい。ボクが一生懸命計画してコツコツと積み上げてきたこの街を一瞬で壊してしまうなんて、君たちに対して何か悪い事でもしたとでもいうのかな?」
「ちょっと待ってよ。この状況を作ったのはオレ達じゃなくてクリーキーだよ。珠希ちゃんもそれはわかってるよね?」
「わかってはいるよ。実際に爆発したクリーキーも見てたし、あの悪魔たちが良くないことを企てているのも知っていたよ。でもさ、あの爆発の原因を作ったのって“まーくん”だし、そうするように仕向けたのはアスモちゃんだよね?」
俺の技を使ったのはクリーキーなので間違ったことは言ってないように思えるのだが、そうなるとクリーキーが俺の技を使うようにアスモちゃんが誘導したという事になるのではないか。この女の人の言う事を信じるのであればそうなると思うけど、アスモちゃんを見ていると明らかに動揺しているのだから真実なのだろう。
ひょっとしたら、アスモちゃんはイザーちゃんだけではなく他の八姫に対しても何か恨みでもあるのかもしれない。
俺にはわからないが、そう感じても仕方ないだろう。
「オレは別にそんなつもりじゃなかったし。そもそも、あそこにクリーキーがいるとは思いもしなかったさ」
「嘘つくんじゃないよ。君がそんな無計画に行動するわけが無いでしょ。それくらいボクにだってわかるさ。わかってはいたからこそ泳がせていたんだけど、ここまで被害が大きくなるなんて聞いてないからね。アスモちゃんにはこの街が復興するまでの間、必死になって働いてもらう事にしたから。これは決定事項だから」
「まあ、それは仕方ないよね。甘んじて受け入れるよ。でも、その間“まーくん”はどうすればいいのさ?」
「そんなの決まってるよ。ボクの話し相手になってくれればいいよ。それ以上の事は望まないから」
話し相手になるのは問題無いと思うけど、今の俺はお話をすることが出来ないのだ。
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