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虫と虫
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体にまとわりついていた虫たちを取り除いたイザー二等兵はゆっくりとルーちゃんに近付いて足元にある影に手を伸ばしていた。
何度も何度も確認するようにルーちゃんの影を触っているけれど、満足できるような答えが見つからなかった。そのまま視線をルーちゃんの影から顔へと移すとじっと目を見つめたまま黙っていた。
先ほどとは違う緊張感のある沈黙が続いていた。息をすることも忘れてしまうくらい張り詰めた空気が二人の間にあったのだ。そして、その空気を壊したのはイザー二等兵だった。
「色々と考えてみたんだけど、なんで虫なのかってのがわからないんだ。あんただったら虫以外にも色々と集めることが出来るんだろ。どうして虫を選んだんだ?」
「どうしてって、私にとって一番身近だからって理由だけど。それに、その辺を探せばいくらでもいるってのも理由の一つだけど。それがどうかしたのかしら?」
「別に。なんであんたみたいに綺麗な人が虫なんだろうって思っただけだからな。純粋な疑問ってやつだよ。でも、虫を選んだってのはいいと思うよ。虫の事を大好きって人間は少ないと思うし、あれだけの量の虫が自分の体の上を好き勝手に移動しているのを心地よいと思う人もほとんどいないだろうな。あんたは自分の体に虫がついてても気にしないだろうけど、おれみたいな普通の人は気になっちゃうんだよな」
ルーちゃんは少しずつ距離をあけて逃げ出すタイミングを計っていたけれど、全く隙を見せないイザー二等兵から視線を外すことが出来ずにいた。段々と呼吸も荒くなっているのが自分でもわかっているのだが、ルーちゃんは自分の心を落ち着かせることが出来ずにいたのだ。
「逃げたくなったんだったら逃げてもいいよ。おれはあんたの事を追いかけまわしたりなんてしないからさ。あんたのおかげでおれが表に出てくることが出来るようになったんだし、そのお礼って事で見逃してやってもいいよ。でもさ、あんたはおれに対してまだ攻撃ってしてないと思うんだけど、それじゃ試験に合格なんて出来ないと思うんだよね。あの虫が攻撃だったって言われれば見てる人たちは納得するかもしれないけどさ、おれとしてはあんなのはその辺にある小石をぶつけられたくらいにし感じてないけどな。だけど、他の奴らはみんなあんたの虫たちを怖がってたと思うよ」
「あの、一つだけ確認したいんだけど、あなたってイザーちゃんでいいのよね?」
「もちろん。おれはあんたの試験官のイザー二等兵だよ。でも、みんなが知ってるイザー二等兵とはちょっと違うかもな。わかりやすく言うんだったら、イザー二等兵の別人格ってところかな。気付いてる人も多いと思うけど、他にも何人かおれの他にいるからな。どれが主人格でってのは知らんけど、ずっと封印されていたおれではないと思うよ。そんな事はどうでもいい話だけどな」
イザー二等兵の体を覆っていた虫がいなくなったことで画面を直視することが出来るようになった観客たちは映し出されてる人物にわずかではあるが違和感を覚えていた。見た目は完全にイザー二等兵だと思うのだけど、醸し出している雰囲気が先ほどまでのイザー二等兵と違うように思えていた。具体的にどこが変わったのかは言えないけれど、画面いっぱいに映し出されているイザー二等兵はどこか別人になっているように感じていたのだ。
「あれって、イザーちゃんだよね?」
誰かが言った一言で周りの人達もそれぞれ思っていたことを口にしていた。
本当にあの人はイザー二等兵なのか。虫に襲われていたことで何かが変わってしまったのか。以前も別人のように見えたことがあったけれど、イザー二等兵は多重人格者なのか。見た目は変わっていないように見えているが、画面に映っている人物はやっぱり別人ではないだろうか。
様々な意見があるようなのだが、誰一人として先ほどまで映し出されていたイザー二等兵と同じ人だと思っている観客はいないようだった。
「そっちから攻撃してこないんだったら、おれから攻撃しちゃってもいいよね。別にあんただっておれに勝てるなんて思ってないだろうし、そのまま時間稼ぎでもされたらたまったもんじゃないな。だから、おれから攻撃しちゃうけど、大丈夫だよね?」
「ちょ、ちょっと待って。私が攻撃するまで待っててくれるんじゃないの。今までの試験でもそうだったでしょ。ある程度は受験者に好きなように攻撃をさせておいてから反撃するってのがお約束なんじゃないの?」
「今まではそうだったかもしれないけどさ、それっておれが決めたことじゃないんだよね。あいつらが勝手にやってるだけの話なんだよ。自分が相手よりどれだけ強いかってのを示したいから好き勝手に攻撃させてただけの話なんだよ。でも、おれはそんなことしなくても問題ないんじゃないかなって思うんだ。だって、あんたはおれを表の世界に引きずり出したんだよ。その功績だけでも十分合格に値すると思うな。だからさ、おれが一瞬であんたを消したとしても気にするなよ。ちゃんとこの世界に呼び戻してやるからさ」
イザー二等兵の言葉を聞いて逃げ出そうとしたルーちゃんではあったが、いつの間にか自分の目の前に立っていたイザー二等兵に行く手を遮られてしまい身動きが取れなくなってしまった。
そのまま黙って見つめあっていたのだが、イザー二等兵の足元からゆっくりと影が伸びていた。イザー二等兵と目を合わせたまま固まっていてその事に気付いていないルーちゃんの足に影が重なってしまっていたのだ。
ゆっくりとルーちゃんの体を包み込むように伸びる影は不気味な形にうねうねと動いているのであった。
何度も何度も確認するようにルーちゃんの影を触っているけれど、満足できるような答えが見つからなかった。そのまま視線をルーちゃんの影から顔へと移すとじっと目を見つめたまま黙っていた。
先ほどとは違う緊張感のある沈黙が続いていた。息をすることも忘れてしまうくらい張り詰めた空気が二人の間にあったのだ。そして、その空気を壊したのはイザー二等兵だった。
「色々と考えてみたんだけど、なんで虫なのかってのがわからないんだ。あんただったら虫以外にも色々と集めることが出来るんだろ。どうして虫を選んだんだ?」
「どうしてって、私にとって一番身近だからって理由だけど。それに、その辺を探せばいくらでもいるってのも理由の一つだけど。それがどうかしたのかしら?」
「別に。なんであんたみたいに綺麗な人が虫なんだろうって思っただけだからな。純粋な疑問ってやつだよ。でも、虫を選んだってのはいいと思うよ。虫の事を大好きって人間は少ないと思うし、あれだけの量の虫が自分の体の上を好き勝手に移動しているのを心地よいと思う人もほとんどいないだろうな。あんたは自分の体に虫がついてても気にしないだろうけど、おれみたいな普通の人は気になっちゃうんだよな」
ルーちゃんは少しずつ距離をあけて逃げ出すタイミングを計っていたけれど、全く隙を見せないイザー二等兵から視線を外すことが出来ずにいた。段々と呼吸も荒くなっているのが自分でもわかっているのだが、ルーちゃんは自分の心を落ち着かせることが出来ずにいたのだ。
「逃げたくなったんだったら逃げてもいいよ。おれはあんたの事を追いかけまわしたりなんてしないからさ。あんたのおかげでおれが表に出てくることが出来るようになったんだし、そのお礼って事で見逃してやってもいいよ。でもさ、あんたはおれに対してまだ攻撃ってしてないと思うんだけど、それじゃ試験に合格なんて出来ないと思うんだよね。あの虫が攻撃だったって言われれば見てる人たちは納得するかもしれないけどさ、おれとしてはあんなのはその辺にある小石をぶつけられたくらいにし感じてないけどな。だけど、他の奴らはみんなあんたの虫たちを怖がってたと思うよ」
「あの、一つだけ確認したいんだけど、あなたってイザーちゃんでいいのよね?」
「もちろん。おれはあんたの試験官のイザー二等兵だよ。でも、みんなが知ってるイザー二等兵とはちょっと違うかもな。わかりやすく言うんだったら、イザー二等兵の別人格ってところかな。気付いてる人も多いと思うけど、他にも何人かおれの他にいるからな。どれが主人格でってのは知らんけど、ずっと封印されていたおれではないと思うよ。そんな事はどうでもいい話だけどな」
イザー二等兵の体を覆っていた虫がいなくなったことで画面を直視することが出来るようになった観客たちは映し出されてる人物にわずかではあるが違和感を覚えていた。見た目は完全にイザー二等兵だと思うのだけど、醸し出している雰囲気が先ほどまでのイザー二等兵と違うように思えていた。具体的にどこが変わったのかは言えないけれど、画面いっぱいに映し出されているイザー二等兵はどこか別人になっているように感じていたのだ。
「あれって、イザーちゃんだよね?」
誰かが言った一言で周りの人達もそれぞれ思っていたことを口にしていた。
本当にあの人はイザー二等兵なのか。虫に襲われていたことで何かが変わってしまったのか。以前も別人のように見えたことがあったけれど、イザー二等兵は多重人格者なのか。見た目は変わっていないように見えているが、画面に映っている人物はやっぱり別人ではないだろうか。
様々な意見があるようなのだが、誰一人として先ほどまで映し出されていたイザー二等兵と同じ人だと思っている観客はいないようだった。
「そっちから攻撃してこないんだったら、おれから攻撃しちゃってもいいよね。別にあんただっておれに勝てるなんて思ってないだろうし、そのまま時間稼ぎでもされたらたまったもんじゃないな。だから、おれから攻撃しちゃうけど、大丈夫だよね?」
「ちょ、ちょっと待って。私が攻撃するまで待っててくれるんじゃないの。今までの試験でもそうだったでしょ。ある程度は受験者に好きなように攻撃をさせておいてから反撃するってのがお約束なんじゃないの?」
「今まではそうだったかもしれないけどさ、それっておれが決めたことじゃないんだよね。あいつらが勝手にやってるだけの話なんだよ。自分が相手よりどれだけ強いかってのを示したいから好き勝手に攻撃させてただけの話なんだよ。でも、おれはそんなことしなくても問題ないんじゃないかなって思うんだ。だって、あんたはおれを表の世界に引きずり出したんだよ。その功績だけでも十分合格に値すると思うな。だからさ、おれが一瞬であんたを消したとしても気にするなよ。ちゃんとこの世界に呼び戻してやるからさ」
イザー二等兵の言葉を聞いて逃げ出そうとしたルーちゃんではあったが、いつの間にか自分の目の前に立っていたイザー二等兵に行く手を遮られてしまい身動きが取れなくなってしまった。
そのまま黙って見つめあっていたのだが、イザー二等兵の足元からゆっくりと影が伸びていた。イザー二等兵と目を合わせたまま固まっていてその事に気付いていないルーちゃんの足に影が重なってしまっていたのだ。
ゆっくりとルーちゃんの体を包み込むように伸びる影は不気味な形にうねうねと動いているのであった。
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