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新しいイザー
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自分がやってきたことをやり返されてもどうすればいいのかわかっているはずなのに、ルーちゃんはイザー二等兵が送り込んできた虫たちをいなすことは出来なかった。何がダメなんだろうと必死に考えようとしていたルーちゃんではあったが、服の上から容赦なく噛みついてくる虫たちに何の抵抗も示さずに全てを受け入れて己の敗北を認めていたのだ。
「私の虫とは違う種類の虫をどこから手に入れたんだ。なんて聞いてみたけれど、それを知ったところで私にはどうすることも出来ないんだよな。『うまな式魔法術』に頼らない方法で勝負を挑もうと思っていたけれど、私みたいな中途半端な魔力の持ち主じゃ最初から相手にならなかったんだな。本当はその事に最初から気付いてはいたけれど、自分の今までの努力を否定するみたいで認めたくなかっただけなのかもね。それに気付かせてくれたことに感謝するよ。自分の得意な方法でやり返すってのはさ、ちょっと酷いとは思うけどね」
「おれもやられて嫌だと思ったからやり返してみただけだからな。そこまで深い意味はなかったんだよ。それに、おれの場合はあんたみたいにスムーズな感じに出来なかったけどね。おれの奴はあんたに触れた時点ですぐにバレちゃったみたいだし、あんたがおれにやった時みたいにおれが気付いた時には何も出来なくなってるってのは素直に凄いと思ったよ。自分でやってみて、あらためてあんたがどれだけ努力したのかなってわかったよ」
お互いに健闘を称えあっている姿は美しいと思うのだが、画面に映し出されているルーちゃんは腰から下が虫によって無残な姿になっていた。ほとんどの人が腰から下を映していない映像を見て感動しているのであった。
今回ばかりはダメかと思っていたマーちゃん中尉もあっという間の逆転劇に我を忘れて喜んでいた。その姿を真顔で見ていた栗宮院うまな中将に気付いてからは大人しくなっていたけれど、その心の奥底では大はしゃぎしていたに違いない。
「うまなちゃんの言ったとおりに凄い逆転劇だったね。いや、うまなちゃんはイザーちゃんが一度もリードされないって言ってたから逆転じゃないって言うかもしれないけど、そんなのは気にしないであの反撃を喜ぼうよ」
少し困惑した表情を浮かべている栗宮院うまな中将ではあるが、それはマーちゃん中尉がいつもと違うテンションでおかしくなっているからだけではない。イザー二等兵が別人のようになってしまっているとしか思えないからだ。
「あの虫って本物の虫だったのかな?」
「アレは本物ではなかったよ。どこかの世界から呼び出した虫なんじゃないかな。少なくとも、この世界には存在しない種類の虫だと思うよ」
試験会場から戻ってきたイザー二等兵がそう答えたのだが、違う世界がどこにあるのか虫を呼び出していたルーちゃんも知らないという事らしい。それが本当なのか嘘なのか調べようがない以上信じるしかないのだが、ルーちゃんは何か重要なことを隠しているように感じていたイザー二等兵であった。
「そんなに見つめてどうしたのかな。おれの顔に何か付いてたりする?」
「別にそういうつもりで見てたんじゃないわ。何となくだけど、イザーちゃんはまた新しい人格が出てきたのかなって思ってね」
「そういう事になるかな。もともとのイザーはまだ気を失ってるんだと思うよ。おれはいざという時に出てきてイザーの代わりに窮地を切り抜けるために作られた人格だからね。どんなに強い人たちでも一応は女の子だから自分の体の上をあれだけの数の虫が自由に動き回ってるのに耐えられなかったんじゃないかな。おれも本当は虫が嫌いだから嫌だったんだけど、おれまで逃げちゃったらどうすることも出来なくなっちゃうからね。ちなみに確認したいだけなんだけど、うまなちゃんっておれの事を知ってたのかな?」
イザー二等兵ではあるが我々の知っているイザー二等兵とは少し違うイザー二等兵の質問を受けて栗宮院うまな中将は考えをまとめているようだった。普段であればこれほど悩んでいる栗宮院うまな中将の姿を見ることなんて出来ないのだが、この場にいる誰もがその事に気付いてはいなかった。イザー二等兵やマーちゃん中尉だけではなく栗宮院うまな中将自身も答えを即答せずに悩んでいることが珍しいことなんて思いもしなかったのだ。
「知っているというには物事を知らなすぎるし、知らなかったという程無知という事でもないんだよね。イザーちゃんの事を鍛え上げた人から聞いた話なんだけど、今みたいにもしもの時に出てくる人格がまだ他にもいるみたいなんだよ。私も何度かちょっかいを出したりしたんだけど、私程度の攻撃力じゃどうすることも出来なかったんだよね。なので、今回みたいに精神的に攻撃をして追い詰めて気絶させればいいのかという答えにたどり着いたよ」
「おれの事を知っていたとしても知らなかったとしてもどっちでもいい話なんだけどね。せっかくこっちの世界に出てきたわけだし、他のイザーちゃんたちが起きる前にちょっとだけやりたいことがあるんで付き合ってほしいな」
イザー二等兵はマーちゃん中尉の目の前までゆっくり歩いていくと、そっとマーちゃん中尉の目を見て真っすぐに見つめていた。
あまりにも二人の距離が近いため既に結婚しているのではないかという噂もあったのだが、これは本人たちも否定しているけれど信じているものはそれほど多くなかった。
「次にいつどのタイミングでおれが出てこられるかわからないってこともあってマーちゃんにお願いがあるんだ」
「お願いってどんなことなのかな?」
「軽くでいいから。本当に軽くでいいんでおれと勝負してほしいな。虫とかは使わないようにするから、一回だけおれとやってくれよ。な、この通り頼むから」
イザー二等兵は深々と頭を下げていたのだ。その行動はマーちゃん中尉が戦いを受け入れるその時まで続いていた。
「私の虫とは違う種類の虫をどこから手に入れたんだ。なんて聞いてみたけれど、それを知ったところで私にはどうすることも出来ないんだよな。『うまな式魔法術』に頼らない方法で勝負を挑もうと思っていたけれど、私みたいな中途半端な魔力の持ち主じゃ最初から相手にならなかったんだな。本当はその事に最初から気付いてはいたけれど、自分の今までの努力を否定するみたいで認めたくなかっただけなのかもね。それに気付かせてくれたことに感謝するよ。自分の得意な方法でやり返すってのはさ、ちょっと酷いとは思うけどね」
「おれもやられて嫌だと思ったからやり返してみただけだからな。そこまで深い意味はなかったんだよ。それに、おれの場合はあんたみたいにスムーズな感じに出来なかったけどね。おれの奴はあんたに触れた時点ですぐにバレちゃったみたいだし、あんたがおれにやった時みたいにおれが気付いた時には何も出来なくなってるってのは素直に凄いと思ったよ。自分でやってみて、あらためてあんたがどれだけ努力したのかなってわかったよ」
お互いに健闘を称えあっている姿は美しいと思うのだが、画面に映し出されているルーちゃんは腰から下が虫によって無残な姿になっていた。ほとんどの人が腰から下を映していない映像を見て感動しているのであった。
今回ばかりはダメかと思っていたマーちゃん中尉もあっという間の逆転劇に我を忘れて喜んでいた。その姿を真顔で見ていた栗宮院うまな中将に気付いてからは大人しくなっていたけれど、その心の奥底では大はしゃぎしていたに違いない。
「うまなちゃんの言ったとおりに凄い逆転劇だったね。いや、うまなちゃんはイザーちゃんが一度もリードされないって言ってたから逆転じゃないって言うかもしれないけど、そんなのは気にしないであの反撃を喜ぼうよ」
少し困惑した表情を浮かべている栗宮院うまな中将ではあるが、それはマーちゃん中尉がいつもと違うテンションでおかしくなっているからだけではない。イザー二等兵が別人のようになってしまっているとしか思えないからだ。
「あの虫って本物の虫だったのかな?」
「アレは本物ではなかったよ。どこかの世界から呼び出した虫なんじゃないかな。少なくとも、この世界には存在しない種類の虫だと思うよ」
試験会場から戻ってきたイザー二等兵がそう答えたのだが、違う世界がどこにあるのか虫を呼び出していたルーちゃんも知らないという事らしい。それが本当なのか嘘なのか調べようがない以上信じるしかないのだが、ルーちゃんは何か重要なことを隠しているように感じていたイザー二等兵であった。
「そんなに見つめてどうしたのかな。おれの顔に何か付いてたりする?」
「別にそういうつもりで見てたんじゃないわ。何となくだけど、イザーちゃんはまた新しい人格が出てきたのかなって思ってね」
「そういう事になるかな。もともとのイザーはまだ気を失ってるんだと思うよ。おれはいざという時に出てきてイザーの代わりに窮地を切り抜けるために作られた人格だからね。どんなに強い人たちでも一応は女の子だから自分の体の上をあれだけの数の虫が自由に動き回ってるのに耐えられなかったんじゃないかな。おれも本当は虫が嫌いだから嫌だったんだけど、おれまで逃げちゃったらどうすることも出来なくなっちゃうからね。ちなみに確認したいだけなんだけど、うまなちゃんっておれの事を知ってたのかな?」
イザー二等兵ではあるが我々の知っているイザー二等兵とは少し違うイザー二等兵の質問を受けて栗宮院うまな中将は考えをまとめているようだった。普段であればこれほど悩んでいる栗宮院うまな中将の姿を見ることなんて出来ないのだが、この場にいる誰もがその事に気付いてはいなかった。イザー二等兵やマーちゃん中尉だけではなく栗宮院うまな中将自身も答えを即答せずに悩んでいることが珍しいことなんて思いもしなかったのだ。
「知っているというには物事を知らなすぎるし、知らなかったという程無知という事でもないんだよね。イザーちゃんの事を鍛え上げた人から聞いた話なんだけど、今みたいにもしもの時に出てくる人格がまだ他にもいるみたいなんだよ。私も何度かちょっかいを出したりしたんだけど、私程度の攻撃力じゃどうすることも出来なかったんだよね。なので、今回みたいに精神的に攻撃をして追い詰めて気絶させればいいのかという答えにたどり着いたよ」
「おれの事を知っていたとしても知らなかったとしてもどっちでもいい話なんだけどね。せっかくこっちの世界に出てきたわけだし、他のイザーちゃんたちが起きる前にちょっとだけやりたいことがあるんで付き合ってほしいな」
イザー二等兵はマーちゃん中尉の目の前までゆっくり歩いていくと、そっとマーちゃん中尉の目を見て真っすぐに見つめていた。
あまりにも二人の距離が近いため既に結婚しているのではないかという噂もあったのだが、これは本人たちも否定しているけれど信じているものはそれほど多くなかった。
「次にいつどのタイミングでおれが出てこられるかわからないってこともあってマーちゃんにお願いがあるんだ」
「お願いってどんなことなのかな?」
「軽くでいいから。本当に軽くでいいんでおれと勝負してほしいな。虫とかは使わないようにするから、一回だけおれとやってくれよ。な、この通り頼むから」
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