31 / 44
作戦会議
しおりを挟む
栗宮院家も栗鳥院家も仲は良いはずなのだ。栗鳥院松之助が栗宮院うまな中将を一方的に敵視しているという事がきっかけで始まった“マーちゃん中尉試練の七番勝負”である。
入隊希望試験において圧倒的な強さを見せるイザー二等兵の人気は凄いものの、エキシビションマッチを含めて似たような展開になりがちなため観客も一部飽きてきているという感想が出始めていた頃合いでもあった。
おそらく、そのようなこととは関係なく栗宮院うまな中将が不在という状況を利用して栗鳥院松之助流行ってきたのだと思うのだが、イザー二等兵としてはマーちゃん中尉に一方的にやられてしまうという事に対するストレスも溜まってきていたので気分転換をするにもいい機会だと思って受け入れたと思われる。
「マーちゃんが凄い人だってみんな思い始めてるところだと思うんだけど、その思いを確信に変えるいいチャンスだよ。見てる人だけじゃなく、見ていない人にもマーちゃんの凄さを知らしめる機会なんだからね。松之助みたいに勘違いしているクソガキにはその辺をしっかり分からせて教育してあげる必要があると思うんだ。梅太郎も竹千代もいい人なのに、なんであんなクソガキが同じ血を引いてるんだろうって私は思っちゃうよ。あんな奴が三番隊副隊長補佐をやってるなんてどうかしてるよね」
と、同意を求められたマーちゃん中尉ではあったが、正直なところ栗鳥院松之助がいったいどんな人間なのか理解していないのだ。栗鳥院家が何らかの力を持っている存在だという事はわかっていても、栗鳥院家の人間が多すぎて全く把握出来ていない。マーちゃん中尉が副隊長になってから知り合った栗鳥院家の人間は松之助を含めて三十人にもなるので覚えていられないというのも仕方ないのかもしれない。ましてや、マーちゃん中尉は他の人よりも他人に興味を持っていないので覚えられるはずもないのだ。
「安心してほしいんだけど、マーちゃんが言えない分だけ私が思いをぶつけてきたからね。明日になったらマーちゃんと松之助たちの七番勝負が正式に発表になるからその時を楽しみにしててね。うまなちゃんも楽しみにしてるって言ってくれてたからね」
「何となくなんだけど、凄く嫌な予感がするんだよ。何か企んでるわけじゃないよね?」
「そんなことするわけないでしょ。それに、そんなことする理由がないでしょ。ところで、マーちゃんは何かいいものを見つけたって聞いたんだけど、それを教えてくれるつもりはないのかな?」
良いものと言えるのかわからないがマーちゃん中尉は温泉街から少し離れた場所にある小さな祠にマリモの妖精が住んでいるのを発見していたのだった。マリモの妖精はマーちゃん中尉を見ても逃げることはないけれど、意思の疎通が出来ないのかお互いに黙って見つめあっていただけの時間を過ごしていた。そんな場所にイザー二等兵を連れて行っても大丈夫なのかと思ったマーちゃん中尉ではあったが、その事も全て知っていたうえで聞いてきているのだろうと思って素直に連れていくことにしたのだ。
「結構遠いんだね。こんなに歩くんだったら自転車とか借りてくればよかったよ。私みたいなか弱い女の子が気軽に来れるような場所じゃないね」
マーちゃん中尉は昨日よりも道程が苛酷になっているように思えていた。温泉街から外れた小道を散歩感覚で進んでいた時にたまたま見つけた祠だったと思うのだが、昨日と同じ道を歩いているはずなのにいつの間にか草木一本も生えていない荒れた岩山になっていた。
「昨日来たときはこんな感じじゃなかったと思うんだけど、一本道だったはずなのに道を間違えちゃったかな?」
「マーちゃんは間違えてなんて無いと思うよ。おそらくだけど、私を自分のところに来させたくないって事なんじゃないかな。妖精って自分が招いた人しか自分の場所に呼ばないってのは聞いたことがあるからね。マーちゃんだけなら歓迎だけど、私も一緒だと歓迎は出来ないって事なんだと思うよ。だからって、こんな目に遭ったからって引き返すつもりなんて全くないけどね」
一歩一歩足を進めていくイザー二等兵は半ばムキになっているようにも見えていた。自分が拒絶されているという事を受け入れたくないからなのか、マーちゃん中尉が妖精に気に入られているのが嫌だからなのか判断はつかないけれど、どんなに険しい道のりだって負けずに突き進むつもりでいるのだ。
前を見ると諦めて帰りたくなるような道が続いているのだが、後ろを振り返るとすぐそこに温泉街が広がっていた。あれだけ歩いていたのにちっとも進んでいなかったという事に多少はショックも受けていたけれど、それ以上にこんな嫌がらせをしてくる妖精に対して溜まっていた怒りの感情が一気に爆発してしまったイザー二等兵は妖精に向かってあの時の虫を差し向けることにしたようだ。
止めようとするマーちゃん中尉の意見を無視したイザー二等兵は妖精の気配を探りあててその方向へと虫たちを一斉に進軍させていた。前回と違うのは、虫たちの存在に気付かれないようにする必要がないという事もあって最速で最短距離を進むようにと命令している事であった。
虫たちが進行を開始してからほんの数秒後に絶叫が温泉街まで響いていたのだけれど、妖精の声を聴くことが出来る人間は限られているので問題はなかった。
「ねえ、今の声ってマーちゃんが聞いていた妖精の声かな?」
「どうだろう。声を聴いたことがないからわからないかも」
「ふーん、そうなんだ。でもさ、今まで私に意地悪をしていたのを後悔しているみたいだよ。ほら、道も真っすぐになってるし、その先に祠も見えてるもんね」
祠のすぐ横に黒い塊がうねうねと動いているのが目に入ったのだが、マーちゃん中尉はあえてそれを見ないようにしていた。助けを求める声と悲鳴が定期的に阿寒湖に響いていたのだけれど、誰も助けに来ることはなかったのだった。
入隊希望試験において圧倒的な強さを見せるイザー二等兵の人気は凄いものの、エキシビションマッチを含めて似たような展開になりがちなため観客も一部飽きてきているという感想が出始めていた頃合いでもあった。
おそらく、そのようなこととは関係なく栗宮院うまな中将が不在という状況を利用して栗鳥院松之助流行ってきたのだと思うのだが、イザー二等兵としてはマーちゃん中尉に一方的にやられてしまうという事に対するストレスも溜まってきていたので気分転換をするにもいい機会だと思って受け入れたと思われる。
「マーちゃんが凄い人だってみんな思い始めてるところだと思うんだけど、その思いを確信に変えるいいチャンスだよ。見てる人だけじゃなく、見ていない人にもマーちゃんの凄さを知らしめる機会なんだからね。松之助みたいに勘違いしているクソガキにはその辺をしっかり分からせて教育してあげる必要があると思うんだ。梅太郎も竹千代もいい人なのに、なんであんなクソガキが同じ血を引いてるんだろうって私は思っちゃうよ。あんな奴が三番隊副隊長補佐をやってるなんてどうかしてるよね」
と、同意を求められたマーちゃん中尉ではあったが、正直なところ栗鳥院松之助がいったいどんな人間なのか理解していないのだ。栗鳥院家が何らかの力を持っている存在だという事はわかっていても、栗鳥院家の人間が多すぎて全く把握出来ていない。マーちゃん中尉が副隊長になってから知り合った栗鳥院家の人間は松之助を含めて三十人にもなるので覚えていられないというのも仕方ないのかもしれない。ましてや、マーちゃん中尉は他の人よりも他人に興味を持っていないので覚えられるはずもないのだ。
「安心してほしいんだけど、マーちゃんが言えない分だけ私が思いをぶつけてきたからね。明日になったらマーちゃんと松之助たちの七番勝負が正式に発表になるからその時を楽しみにしててね。うまなちゃんも楽しみにしてるって言ってくれてたからね」
「何となくなんだけど、凄く嫌な予感がするんだよ。何か企んでるわけじゃないよね?」
「そんなことするわけないでしょ。それに、そんなことする理由がないでしょ。ところで、マーちゃんは何かいいものを見つけたって聞いたんだけど、それを教えてくれるつもりはないのかな?」
良いものと言えるのかわからないがマーちゃん中尉は温泉街から少し離れた場所にある小さな祠にマリモの妖精が住んでいるのを発見していたのだった。マリモの妖精はマーちゃん中尉を見ても逃げることはないけれど、意思の疎通が出来ないのかお互いに黙って見つめあっていただけの時間を過ごしていた。そんな場所にイザー二等兵を連れて行っても大丈夫なのかと思ったマーちゃん中尉ではあったが、その事も全て知っていたうえで聞いてきているのだろうと思って素直に連れていくことにしたのだ。
「結構遠いんだね。こんなに歩くんだったら自転車とか借りてくればよかったよ。私みたいなか弱い女の子が気軽に来れるような場所じゃないね」
マーちゃん中尉は昨日よりも道程が苛酷になっているように思えていた。温泉街から外れた小道を散歩感覚で進んでいた時にたまたま見つけた祠だったと思うのだが、昨日と同じ道を歩いているはずなのにいつの間にか草木一本も生えていない荒れた岩山になっていた。
「昨日来たときはこんな感じじゃなかったと思うんだけど、一本道だったはずなのに道を間違えちゃったかな?」
「マーちゃんは間違えてなんて無いと思うよ。おそらくだけど、私を自分のところに来させたくないって事なんじゃないかな。妖精って自分が招いた人しか自分の場所に呼ばないってのは聞いたことがあるからね。マーちゃんだけなら歓迎だけど、私も一緒だと歓迎は出来ないって事なんだと思うよ。だからって、こんな目に遭ったからって引き返すつもりなんて全くないけどね」
一歩一歩足を進めていくイザー二等兵は半ばムキになっているようにも見えていた。自分が拒絶されているという事を受け入れたくないからなのか、マーちゃん中尉が妖精に気に入られているのが嫌だからなのか判断はつかないけれど、どんなに険しい道のりだって負けずに突き進むつもりでいるのだ。
前を見ると諦めて帰りたくなるような道が続いているのだが、後ろを振り返るとすぐそこに温泉街が広がっていた。あれだけ歩いていたのにちっとも進んでいなかったという事に多少はショックも受けていたけれど、それ以上にこんな嫌がらせをしてくる妖精に対して溜まっていた怒りの感情が一気に爆発してしまったイザー二等兵は妖精に向かってあの時の虫を差し向けることにしたようだ。
止めようとするマーちゃん中尉の意見を無視したイザー二等兵は妖精の気配を探りあててその方向へと虫たちを一斉に進軍させていた。前回と違うのは、虫たちの存在に気付かれないようにする必要がないという事もあって最速で最短距離を進むようにと命令している事であった。
虫たちが進行を開始してからほんの数秒後に絶叫が温泉街まで響いていたのだけれど、妖精の声を聴くことが出来る人間は限られているので問題はなかった。
「ねえ、今の声ってマーちゃんが聞いていた妖精の声かな?」
「どうだろう。声を聴いたことがないからわからないかも」
「ふーん、そうなんだ。でもさ、今まで私に意地悪をしていたのを後悔しているみたいだよ。ほら、道も真っすぐになってるし、その先に祠も見えてるもんね」
祠のすぐ横に黒い塊がうねうねと動いているのが目に入ったのだが、マーちゃん中尉はあえてそれを見ないようにしていた。助けを求める声と悲鳴が定期的に阿寒湖に響いていたのだけれど、誰も助けに来ることはなかったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる