32 / 53
齋藤奈々未編
齋藤さんのケーキと金髪の勇気 第7話(全8話)
しおりを挟む
「そう言えば、ナナの悩みって何なの?」
齋藤さんはカバンの中から大学の資料を出すと机の上に広げだした。
資料は結構読み込まれているようで、同じ資料も何点かずつ用意されているようだった。
「ナナはどこの大学に行きたいの?」
齋藤さんは腕を組んで少し悩んでいたようで、ソフィアさんの質問から答えを聞くまでは少しの間があった。
「私は多分、大学にはいかないと思うんだ。弟が運動よりも勉強が好きな子で、大学に行って勉強したいって言ってるのね。でもさ、うちってそんなにお金持ちじゃないから、二人も大学に通わせるのは無理だと思うのね。なので、私は社会人になって家計を助けようと思っているの」
齋藤さんは一学期の進路希望調査でも進学ではなく就職を希望していた。
出来ることなら陸上が出来る実業団のある企業がいいらしいのだけれど、そのような企業に就職するのは勉強だけでなく部活も相当努力しないといけないだろう。
「せっかく陸上続けているんだから、大会で活躍していいとこに入れるといいね」
「うん、それが一番の理想だけど、私程度の成績じゃそんなのは無理だって知っているんだよね。でも、中学の時にアリスと一緒に走ってて思ったんだ。記録も大事だけど、誰かと一緒に頑張ったって思い出の方が大事だなって」
「記録よりも記憶だね」
「………アリスもナナと一緒に部活出来るの楽しいって言ってたし、うちの高校を目指してるって言ってたよ」
「アリスなら陸上の強い高校にも入れそうだけど、この学校を選んでくれるなら私も嬉しいな」
「記憶に残る高校生活だね」
「………今度顧問に頼んでアリスも練習に参加してもらおうかな。それがダメだったらソフィーも一緒に河川敷を走ろうね」
「二人のペースについていけないから自転車使ってもいいかな?」
「その方が私たちも走りやすそうだけど、前みたいに犬とか追いかけるのやめてね。ソフィーってふらふらしやすいから、探すの大変なんだよ」
ソフィアさんは昔から一人ではぐれてしまうことが多かったけれど、今でもそれは変わらないらしい。
アリスは一人で行動することが多かったけど、みんなといる時はなるべく離れないようにしていた気がする。
いつでも誰かと一緒にいたソフィアさんと、ほとんど一人でいたアリスの違いかもしれない。
「それでね、私は出来ればお菓子とかケーキを作る仕事がしたいんだけど、結構我流でやっちゃってるから専門学校とか行った方がいいのかな?」
「どうなんだろう、ナナのケーキとかお菓子は美味しいんだけど、お店のとはちょっと違う素朴な感じだもんね」
「僕が思うに、食材とか調理方法とかは間違っていないと思うし、お店で出しているやつよりも丁寧に作っていると思うよ」
僕が口を開いても普段はあまりリアクションを返してくれない齋藤さんが珍しく反応した。
「じゃあ、先生は何が違うと思うんですか?」
「火力じゃないかな?」
「火力なら家のオーブンでもお店のとそんなに変わらないと思うけど、そんな繊細な管理が必要なのかな?」
「わからないけど、中華とかも家と店じゃ全然違うからね」
「マサ君、ナナは真剣に悩んでるんだから真面目に考えようね」
真面目に考えていたのに、きっと答えは違うんだなと思って新しいお茶をみんなに淹れることにした。
「火力じゃないかもしれないけれど、食べ比べて見なくちゃわからないんだし、この中でお店のケーキを一番食べているソフィアさんにたくさん試食してもらって違いを見つけてもらおう。ちょうどまだ余っているしね」
新しいお茶と齋藤さんの作ったケーキをソフィアさんの前に置いてみる。
ソフィアさんは齋藤さんには見えないようにお腹をさすってアピールしているが、友達の悩みを解決するために少しでも違いを見つけてもらわなくちゃ。
心なしかフォークを持つソフィアさんが小刻みに震えているような気がしているのだけれど、ちゃんと味わって食べてもらいたい。
「ナナのケーキは美味しいんだけど、今はちょっとお腹いっぱいなんだよね。実はさっき家庭科部の人達にお菓子たくさんもらっちゃって」
「なんだ、それならそうと早く言ってくれたらよかったのに。先生はお腹空いてます?」
「あ、マサ君先生は少ししか食べてないから大丈夫だと思います。私がマサ君先生の分まで取って食べたから」
「先生の分まで食べるくらい美味しかったの?」
「美味しいのは美味しかったんだけど、すごくお腹空いてたから」
「私も今度ケーキ持って家庭科部に行ってみようかな。そうすれば何かわかるかもしれないし」
「道具と掛かりて一緒に作ってみたらいいんじゃないかな?」
僕の発言は時々ではあるが、二人の心に届いてはいるらしい。
「なによ、マサ君先生なのに良い事言うじゃない」
「本当、先生ってそういう発想も出来るんだ」
結構酷いことを言われているような気がしているけど、この二人だけだとそう言うことが多いって前から思っていた。
二人がお茶を飲みながら今後について相談していると、扉がゆっくりと開いて鈴木さんが入ってきた。
「会長がさっき来ていたみたいだけど、何か変なこと言っていなかった?」
鈴木さんは普段は人前ではかけていない眼鏡を外しながらそう言って中を覗いていた。
齋藤さんはカバンの中から大学の資料を出すと机の上に広げだした。
資料は結構読み込まれているようで、同じ資料も何点かずつ用意されているようだった。
「ナナはどこの大学に行きたいの?」
齋藤さんは腕を組んで少し悩んでいたようで、ソフィアさんの質問から答えを聞くまでは少しの間があった。
「私は多分、大学にはいかないと思うんだ。弟が運動よりも勉強が好きな子で、大学に行って勉強したいって言ってるのね。でもさ、うちってそんなにお金持ちじゃないから、二人も大学に通わせるのは無理だと思うのね。なので、私は社会人になって家計を助けようと思っているの」
齋藤さんは一学期の進路希望調査でも進学ではなく就職を希望していた。
出来ることなら陸上が出来る実業団のある企業がいいらしいのだけれど、そのような企業に就職するのは勉強だけでなく部活も相当努力しないといけないだろう。
「せっかく陸上続けているんだから、大会で活躍していいとこに入れるといいね」
「うん、それが一番の理想だけど、私程度の成績じゃそんなのは無理だって知っているんだよね。でも、中学の時にアリスと一緒に走ってて思ったんだ。記録も大事だけど、誰かと一緒に頑張ったって思い出の方が大事だなって」
「記録よりも記憶だね」
「………アリスもナナと一緒に部活出来るの楽しいって言ってたし、うちの高校を目指してるって言ってたよ」
「アリスなら陸上の強い高校にも入れそうだけど、この学校を選んでくれるなら私も嬉しいな」
「記憶に残る高校生活だね」
「………今度顧問に頼んでアリスも練習に参加してもらおうかな。それがダメだったらソフィーも一緒に河川敷を走ろうね」
「二人のペースについていけないから自転車使ってもいいかな?」
「その方が私たちも走りやすそうだけど、前みたいに犬とか追いかけるのやめてね。ソフィーってふらふらしやすいから、探すの大変なんだよ」
ソフィアさんは昔から一人ではぐれてしまうことが多かったけれど、今でもそれは変わらないらしい。
アリスは一人で行動することが多かったけど、みんなといる時はなるべく離れないようにしていた気がする。
いつでも誰かと一緒にいたソフィアさんと、ほとんど一人でいたアリスの違いかもしれない。
「それでね、私は出来ればお菓子とかケーキを作る仕事がしたいんだけど、結構我流でやっちゃってるから専門学校とか行った方がいいのかな?」
「どうなんだろう、ナナのケーキとかお菓子は美味しいんだけど、お店のとはちょっと違う素朴な感じだもんね」
「僕が思うに、食材とか調理方法とかは間違っていないと思うし、お店で出しているやつよりも丁寧に作っていると思うよ」
僕が口を開いても普段はあまりリアクションを返してくれない齋藤さんが珍しく反応した。
「じゃあ、先生は何が違うと思うんですか?」
「火力じゃないかな?」
「火力なら家のオーブンでもお店のとそんなに変わらないと思うけど、そんな繊細な管理が必要なのかな?」
「わからないけど、中華とかも家と店じゃ全然違うからね」
「マサ君、ナナは真剣に悩んでるんだから真面目に考えようね」
真面目に考えていたのに、きっと答えは違うんだなと思って新しいお茶をみんなに淹れることにした。
「火力じゃないかもしれないけれど、食べ比べて見なくちゃわからないんだし、この中でお店のケーキを一番食べているソフィアさんにたくさん試食してもらって違いを見つけてもらおう。ちょうどまだ余っているしね」
新しいお茶と齋藤さんの作ったケーキをソフィアさんの前に置いてみる。
ソフィアさんは齋藤さんには見えないようにお腹をさすってアピールしているが、友達の悩みを解決するために少しでも違いを見つけてもらわなくちゃ。
心なしかフォークを持つソフィアさんが小刻みに震えているような気がしているのだけれど、ちゃんと味わって食べてもらいたい。
「ナナのケーキは美味しいんだけど、今はちょっとお腹いっぱいなんだよね。実はさっき家庭科部の人達にお菓子たくさんもらっちゃって」
「なんだ、それならそうと早く言ってくれたらよかったのに。先生はお腹空いてます?」
「あ、マサ君先生は少ししか食べてないから大丈夫だと思います。私がマサ君先生の分まで取って食べたから」
「先生の分まで食べるくらい美味しかったの?」
「美味しいのは美味しかったんだけど、すごくお腹空いてたから」
「私も今度ケーキ持って家庭科部に行ってみようかな。そうすれば何かわかるかもしれないし」
「道具と掛かりて一緒に作ってみたらいいんじゃないかな?」
僕の発言は時々ではあるが、二人の心に届いてはいるらしい。
「なによ、マサ君先生なのに良い事言うじゃない」
「本当、先生ってそういう発想も出来るんだ」
結構酷いことを言われているような気がしているけど、この二人だけだとそう言うことが多いって前から思っていた。
二人がお茶を飲みながら今後について相談していると、扉がゆっくりと開いて鈴木さんが入ってきた。
「会長がさっき来ていたみたいだけど、何か変なこと言っていなかった?」
鈴木さんは普段は人前ではかけていない眼鏡を外しながらそう言って中を覗いていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる