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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
186話❅カルベラ隊第一軍❅
しおりを挟むそして数日が経ち、カルベラの者達が狩で得た干し肉や毛皮、そしてグラキアを生きたまま連れて帰って来てくれた。
何とか簡単な柵だがグラキアが逃げ出さない様な柵は完成していた。
干し肉は街で売られ、毛皮は街の倉庫に保管し、グラキアは放牧地に放された。
街の者達の中でグラキアの世話が出来る人達を集め街として雇い、管理をお願いした、現状ではまだ国としての機能が整って無い為に、全てパリィのお金で給金が支払われる。
そこでピルトの香油の半分と狩で得た特産品の一部を、クイスと話してテリング国に買い取って貰った。
グラキアの角とピルトの香油を良い値で買ってくれ、二百万クルトで買ってくれた。
極北地域の品は高額で取引される、それは貴重な品に、交易路が確立されて無い為に相場が極めて高い。
セクトリアはテリングとの交易で初めて、街としての収入を得たのだ。
「ようやく、交易が出来ますな。」
クイスが微笑みながら言ってくれた。
「えぇ
これから街が大きくなって
もっと忙しくなります
まだ不定期ですが
定期的に交易できるように
していかないとですね」
パリィのその言葉にクイスは安堵した。
例のオルトロスの旗を掲げる盗賊達を気にしていたのだ、パリィがマルティア国を再建しテリングと強固な同盟関係を結ぶ事が出来れば、テリング国も安泰であるとクイスは考えていた。
それはセルテアも同じ想いでいた。
「パリィ様
北より武装した部隊三百!
此方に接近して参ります!」
見張りの護衛団が慌てて報告に来た。
「旗は⁈」
パリィが聞く。
「掲げておりません!盗賊の様です!」
「カルベラは無事ですか?」
パリィが続けて聞いた。
「はい
争う事なく此方に向かって
進軍してます!」
見張りの護衛団のは焦っている様だ。
「直ぐに全ての作業を中断
護衛団を集結!
守りを固めてください!」
パリィは直ぐに指示を出し、飛び出しピルピーを召喚し北門に急いだ。
クイスもテリングの兵を集め街の守りを固める、流石本職の部隊であり迅速に布陣する。
パリィが北門に来た時、既に盗賊は目と鼻の先にいたが、戦う様子は見られない。
メーテリアも先に来て様子を伺っている、珍しくフードを深くかぶっている、盗賊達はマルティアの旗を見ていた。
「『白き風の女王』よ!
カルベラ隊!第一軍
帰参願いたい!
我ら極北の地にて孤立した者達を
再びマルティアの旗の元にてお使い下さい!」
盗賊の一人が叫び訴える。
「貴方達はどうやって
セクトリアを知ったのですか?」
メーテリアが疑問を投げかけ、その叫んだ者が直ぐに答える。
「グラムから使いが来たのだ!
マルティアが国が再興すると!
パリィ様が生まれ変わられ
この北の大地にマルティア国を
再興しようとされていると!」
その声を聞いてメーテリアが僅かに顔をしかめた、兜を被っているが、体型と肌の色はエルフだ、そこにグラムが急いでやって来て叫び返した!
「お前ら!
カルベラで待てって言ってただろう!
騒ぎを起こすなバカが!」
グラムらしく荒々しく叫ぶ。
「グラム!
カルベラに寄ったんだが
お前が居なかっただろうが!
そもそも本当にパリィ様なら
剣を抜かなければ話を聞いてくれる
そう思って来たんだ!」
その男がグラムに叫び返す。
「あぁ?
パリィ様は剣を抜いても
話を聞いてくれるぞ!
お前らバカにしてんのか!」
グラムが言い返し、荒い言葉で言い合っている、召集された兵達も緊張がほぐれ始めたころ。
「グラムやめなさい……」
パリィが困った顔をしながら、ならず者の様に絡むグラムを止めた。
「カルベラ隊に遣いを出してくれたのには礼を言いますが
連絡は早めにして下さい!
知らなければ今みたいに騒ぎになります!」
「あぁ、すまない……」
パリィがグラムを叱った。
その時、盗賊達にパリィの姿が初めて目に映った。
白い肌に白い髪、全てを見通す様な美しい空色の瞳、千年前と変わらないパリィの姿を盗賊達は声をあげた。
「パリィ様!」
「白き風の女王!」
「我らの女王パリィ様!」
盗賊達が一斉にパリィに反応した。
それと同時に盗賊達がマルティアの旗を掲げ始めた、古びていて、ボロボロになってはいたが紛れも無いマルティア国の旗だった、彼らはマルティア国を忘れてはいなかったのだ。
「カルベラ隊の皆さん
帰参を認めます
再びマルティアの為に
皆さんのお力をお貸し下さい……」
パリィは、許すように言ったが次に優しさに威厳を込めて、続けて彼らに強く言った。
「そう私は心から言いたい……
ですがっ!
今までの盗賊としての行いを
心から恥じて下さい!
生きる為とは言え
剣と力で奪ったことを恥じて下さい!
それを胸に刻み!
昔の様に国と人々の為に働き
人々を守る為に剣を振りなさい!
それを誓って下さるのならば……
私は貴方達をかつての様に
見捨てはしません……
ですが!
誓えないのであれば
南方に立ち去りなさい!」
パリィの言葉にグラムは驚いた。
グラムの時は、自らの非も口にしようとしていたが今回は違う。
だが、パリィは強い意志を込めた瞳のまま涙を目に溜めながら、流さない様に耐えていた。
グラムもメーテリアもクイスも気付いた、パリィが心から誓って欲しいと、願っていたのだ。
それはグラムとは剣を交えて、グラムの心の叫びをパリィは聞いた、だから心から許し信頼することも出来た。
だが今来た彼らは生活しか考えてないのでは?その上にグラムの指示を聞かずにカルベラで待機せずに、ここまで来た。
それは傲慢な態度にしかパリィは見えなかった、軍として考えれば重大な命令違反である、それを踏まえて苦しさを抑えパリィが決めた事であった。
国として形を作らねばならない、様々な思いでパリィはカルベラ第一軍を見つめていた。
彼らも動揺した、南方に立ち去れと言うことは追放を意味する、彼らが誓わずに、この地域に居座れば討伐すると言うことだ。
「グラム!騙したのか⁈」
リーダーだろうか最初から叫んでいた者がグラムに叫んでいる。
「いや!
騙してなどいない!
考えてみろ!
カルベラ隊はパリィ様に
返しても返し切ない恩があるだろう!
全てを失った俺達に……
仕事をくれたんだ!
生活をくれたんだ!
幸せをくれたんだ!
それをパリィ様が居なくなってから
俺達はまた放り出された……
だが!
手を出しちゃならないものに!
俺らは手を出しちまったんだ!
パリィ様が大切にしていた
マルティアの民達に
剣を向けちまったんだ!
解ってくれ!
パリィ様が許したくても……
簡単に許せない気持ちを解ってくれ!」
グラムは必死にパリィの気持ちを変わりに伝えようと叫ぶと、彼らにも伝わった様だ、叫んでいた者がひざまづき、ダガーを抜いて強く叫んだ。
「この千年に及ぶ我らの罪
このガイザスの命をもってお許しを!」
パリィはそれを聞き、本当にこれで良かったのか、自分が傲慢になってはいないのか、僅かに目に涙をため様々なことを考えた。
ガイザスがそう叫び、そのダガーを喉に突き付けた時、そのダガーが凍りつき、一瞬の眩い光を放ちダガーは砕け散った。
メーテリアがガイザスに向けて手をかざしていた。
「これは……リオミアの力
メーテリア様……」
ガイザスが囁き、兜をとりメーテリアを見た、メーテリアは微笑みながらフードを脱ぎ話し出した。
「貴方が私に伝えた愛は
そんなものだったのですか?
もとから私は
受け取る気はありませんでしたが
貴方をふって正解でしたね」
メーテリアが言った瞬間、パリィもグラムもクイスも驚いた顔をしてメーテリアを見た、いや全ての者がメーテリアに視線を送ったメーテリアは皆に構わず話を続ける。
「あれだけのあつい想いを伝えて来たのに
盗賊になっていたなんて
貴方の気持ちを疑いますね
パリィ様のいる場所で
堂々と愛を語った貴方は
どこに行ったのですか?」
パリィは思い出した、セディナの木の下で二人でお喋りしていた時に来た男だった。
いいんじゃない?とパリィも茶化した覚えがある。
「あの時の想いを忘れていないなら
その想いを国の為に
人々の為に注ぎ生きてください
パリィ様は貴方の命など
これっぽっちも望んでいません
私もパリィ様が望まない物を
望むことはありませんから」
ガイザスは涙を流し、メーテリアに想いを伝えた時を思い出していた、懐かしい日々、全てが満たされた時に、ガイザスはメーテリアに恋をした、その日を思い出していた。
そしてメーテリアはパリィに向かい礼を取り願い出た。
「ガイザスと
そのカルベラ隊第一軍の帰参
このメーテリアに免じてお許し下さい
パリィ様も
かの者を覚えておいでかと存じます
慈悲と思いこのメーテリアに免じ
お許し下さい……」
メーテリアのその姿は美しく慈愛に満ち溢れている。
メーテリアの願いはパリィを苦しみから救った、それだけで無くガイザスとその部下の未来に希望の光を指し示した。
カルベラ隊第一軍は全員がひざまづき、武器を前に置きパリィとメーテリアに臣下の礼を取った。
パリィの側近であったメーテリアはパリィを深く理解している。
そしてそれは、パリィが生まれ変わった今も変わらなかった。
「いいでしょう……
メーテリア貴女の顔を立てましょう
ですが……忘れないで下さいね
メーテリアの優しさに救われた事を……」
パリィはそう言うと、ガイザス達はメーテリアに救われた事をそのまま理解した、今後彼らが問題を起こした場合、メーテリアにも責任が生じる可能性もある。
ガイザスはこの後、様々な想いでメーテリアの為に尽力していくのである。
この言葉には、パリィ自身も救われたと言う意味もある事を気付いたのは、やはりメーテリアだけであった。
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