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04 真夜中の約束
1 逃げ出すチャンス
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その夜。リズは、新しく与えられた部屋の大きなベッドの中にいた。
アレクシスは一日中リズと買い物をしていた間に、リズ専用の部屋を整えさせていたらしい。夕食後に、この部屋へ案内されたリズは驚いた。
なぜなら、昼間に買い物をした際に、可愛いと思って眺めていた雑貨類が、全て部屋に並べられていたのだから。
「公子様は……、私の心が読めるのですか?」
「心は読めないけれど、表情は読めたみたいだね。リズは可愛いものを見ると、愛おしそうに蕩けたような瞳になるんだ」
出会ってまだ一日しか経っていないのに、そこまで観察されていたことにリズは驚いたが、それと同時に自分がそんな表情をしていたとは、思いもしなかった。
魔女のリズでは、貴族が出入りするようなお店には入れなかったので、久しぶりに目の保養を楽しめたが。気を抜いたら、過保護な義兄が店ごと買い占めてしまいそうだ。これからは顔に出さないよう気をつけようと、リズは心に誓った。
(それにしても、これからどうしよう……)
今日はすっかりと、アレクシスのペースに乗せられてしまったが、リズは義兄との生活を楽しみたいのではなく、火あぶりの未来を変えたいのだ。
それなのに、未来を変えると宣言したアレクシスは、リズを甘やかして楽しんでいるだけのように見えた。アレクシスに任せておくのは、不安が残る。
(やっぱり、自分でも計画を進めなきゃダメだよね)
当初の予定どおりローラントを味方につけて、逃亡計画を進めなければ。まずはローラントに、本気で逃亡についてきてくれるのか、意思確認をする必要がある。
それからローラントには、ほうきを乗りこなせるようになってもらい、長旅への準備を備えよう。
そこまで考えたリズは「……あれ?」と辺りを見回した。
ローラントに、逃亡の手助けをしてもらいたいと思った理由は、主に二つ。一人では宮殿から逃げ出せないと思ったのと、魔女の森で育ったリズよりは、ローラントのほうがこの世界に詳しいと思ったからだ。
しかし後者はさて置き、前者はどうだろう?
リズに新しく付けられた侍女達は、リズを寝間着に着替えさせたら部屋から出て行ったので、監視の任務を受けているとは思えない。
護衛騎士としてローラントはまだ着任していないし、他の騎士が見張っている気配もない。
(もしかして私……、今は誰にも監視されていないんじゃない?)
それを確かめるため静かにベッドから出たリズは、足音を立てないよう注意しながら、部屋の扉へと近づいた。
そっと扉に耳を当ててみたが、廊下から物音は聞こえない。
ゆっくりと扉を開けて顔を廊下に覗かせてみたが、リズが思ったとおり、廊下には誰もいなかった。
(やっぱり、監視がいない……!)
はやる気持ちを抑えながら、再びゆっくりと扉を閉めたリズは、メルヒオールのもとへ駆け寄る。ほうきの柄を揺すりながら、小声で呼びかけた。
「メルヒオール起きて! 今なら逃げられそうなの!」
ゆさゆさ揺すられたメルヒオールは、さも気だるそうな雰囲気で、寝ていた長椅子から起き上がるように、ほうきの柄を垂直にさせる。
この長椅子は、過保護にもアレクシスがメルヒオールのために用意したもので、人間らしい行動を好むメルヒールに大いにウケたのだ。
リズの家では、適当な壁に寄りかかって休んでいた彼だが、今夜は初めてのフカフカな長椅子で、極上の眠りを得ていたようだ。リズに起こされたが、ぼーっとした様子。
リズは、そんな相棒の様子に構わず、クローゼットから魔女の帽子とローブをひっぱり出す。着替える時間が惜しいので、寝間着の上から身に着けた。そして荷解きがされていなかった旅の荷物を持ち出して、メルヒオールに括りつけようとしたが。
「ちょっ……、また寝ないでよ~! 今すぐ出発するんだから!」
再び長椅子に横たえたメルヒールを起こそうとするも、ぴくりとも動いてくれない。
せっかくのチャンスなのに、非協力的な相棒にムッとしたリズは、寝ている相棒に荷物を括りつけると、強制的にほうきを持ってバルコニーへと出た。
「メルヒオールだって、燃やされたくないでしょう? お願いだから起きて! ねっ?」
外へ出されてさすがに目が覚めたのか、メルヒオールはリズの手から離れて、垂直に浮かび上がった。これで逃げ出せると、リズはほっと息を吐く。
しかしそれも束の間、メルヒオールは『嫌だ』とばかりに、ほうきの柄を左右に大きく振るではないか。
アレクシスは一日中リズと買い物をしていた間に、リズ専用の部屋を整えさせていたらしい。夕食後に、この部屋へ案内されたリズは驚いた。
なぜなら、昼間に買い物をした際に、可愛いと思って眺めていた雑貨類が、全て部屋に並べられていたのだから。
「公子様は……、私の心が読めるのですか?」
「心は読めないけれど、表情は読めたみたいだね。リズは可愛いものを見ると、愛おしそうに蕩けたような瞳になるんだ」
出会ってまだ一日しか経っていないのに、そこまで観察されていたことにリズは驚いたが、それと同時に自分がそんな表情をしていたとは、思いもしなかった。
魔女のリズでは、貴族が出入りするようなお店には入れなかったので、久しぶりに目の保養を楽しめたが。気を抜いたら、過保護な義兄が店ごと買い占めてしまいそうだ。これからは顔に出さないよう気をつけようと、リズは心に誓った。
(それにしても、これからどうしよう……)
今日はすっかりと、アレクシスのペースに乗せられてしまったが、リズは義兄との生活を楽しみたいのではなく、火あぶりの未来を変えたいのだ。
それなのに、未来を変えると宣言したアレクシスは、リズを甘やかして楽しんでいるだけのように見えた。アレクシスに任せておくのは、不安が残る。
(やっぱり、自分でも計画を進めなきゃダメだよね)
当初の予定どおりローラントを味方につけて、逃亡計画を進めなければ。まずはローラントに、本気で逃亡についてきてくれるのか、意思確認をする必要がある。
それからローラントには、ほうきを乗りこなせるようになってもらい、長旅への準備を備えよう。
そこまで考えたリズは「……あれ?」と辺りを見回した。
ローラントに、逃亡の手助けをしてもらいたいと思った理由は、主に二つ。一人では宮殿から逃げ出せないと思ったのと、魔女の森で育ったリズよりは、ローラントのほうがこの世界に詳しいと思ったからだ。
しかし後者はさて置き、前者はどうだろう?
リズに新しく付けられた侍女達は、リズを寝間着に着替えさせたら部屋から出て行ったので、監視の任務を受けているとは思えない。
護衛騎士としてローラントはまだ着任していないし、他の騎士が見張っている気配もない。
(もしかして私……、今は誰にも監視されていないんじゃない?)
それを確かめるため静かにベッドから出たリズは、足音を立てないよう注意しながら、部屋の扉へと近づいた。
そっと扉に耳を当ててみたが、廊下から物音は聞こえない。
ゆっくりと扉を開けて顔を廊下に覗かせてみたが、リズが思ったとおり、廊下には誰もいなかった。
(やっぱり、監視がいない……!)
はやる気持ちを抑えながら、再びゆっくりと扉を閉めたリズは、メルヒオールのもとへ駆け寄る。ほうきの柄を揺すりながら、小声で呼びかけた。
「メルヒオール起きて! 今なら逃げられそうなの!」
ゆさゆさ揺すられたメルヒオールは、さも気だるそうな雰囲気で、寝ていた長椅子から起き上がるように、ほうきの柄を垂直にさせる。
この長椅子は、過保護にもアレクシスがメルヒオールのために用意したもので、人間らしい行動を好むメルヒールに大いにウケたのだ。
リズの家では、適当な壁に寄りかかって休んでいた彼だが、今夜は初めてのフカフカな長椅子で、極上の眠りを得ていたようだ。リズに起こされたが、ぼーっとした様子。
リズは、そんな相棒の様子に構わず、クローゼットから魔女の帽子とローブをひっぱり出す。着替える時間が惜しいので、寝間着の上から身に着けた。そして荷解きがされていなかった旅の荷物を持ち出して、メルヒオールに括りつけようとしたが。
「ちょっ……、また寝ないでよ~! 今すぐ出発するんだから!」
再び長椅子に横たえたメルヒールを起こそうとするも、ぴくりとも動いてくれない。
せっかくのチャンスなのに、非協力的な相棒にムッとしたリズは、寝ている相棒に荷物を括りつけると、強制的にほうきを持ってバルコニーへと出た。
「メルヒオールだって、燃やされたくないでしょう? お願いだから起きて! ねっ?」
外へ出されてさすがに目が覚めたのか、メルヒオールはリズの手から離れて、垂直に浮かび上がった。これで逃げ出せると、リズはほっと息を吐く。
しかしそれも束の間、メルヒオールは『嫌だ』とばかりに、ほうきの柄を左右に大きく振るではないか。
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