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03 公子様は当て馬
6 親しくなれた証拠?
しおりを挟むアレクシスは宣言どおり、リズのドレスはもちろんのこと、靴やアクセサリーに至るまで、リズが身につけるものを全て買い揃えてくれた。
悪い魔女スタイルで出発したリズだったが、夕方になって帰る頃にはすっかりと、お姫様ような雰囲気に変身を遂げたのだった。
一日中連れまわされ、やや疲れ気味で馬車に乗り込んだリズは、改めて着替えたドレスに目を向ける。
淡い水色を基調としたこのドレスは、ふんだんに使われているフリルが白なので清楚さがる。魔女のドレスとは雲泥の差。今のリズしか知らない者なら、まさか彼女が魔女だとは思わないだろう。
(アレクシスは、ヒーローの入る余地をなくすって言っていたけれど、確かにヒーローの役目を奪ってしまったみたいね)
アレクシスが初めに選んだこのドレスは、不思議なことに小説の表紙で、ヒロインが着用していたドレスと同じものだった。
小説の中でも、ヒーローがヒロインに大量のドレスやアクセサリーを贈る場面があったので、アレクシスはそのエピソードをヒーローから奪ったことになる。
「そのドレス、気に入ってくれた?」
「あっ……はい。こんなに可愛いドレスを着たのは初めてです。他にもたくさん買っていただいたので、申し訳なくて……」
「気にしないで。ドレスやアクセサリーが大量にあれば、あいつからの贈り物を堂々と拒否できるだろう? これは、あいつに近寄らせないための盾だと思って」
「……恐れ入ります」
(でも……。ヒーロー好みのドレスを選んでしまったとは、アレクシスも思っていないよね)
小説の中では、ヒロインを取り合う仲なので、アレクシスとヒーローは好みが同じなのかもしれない。
アレクシスが選んだドレスを着たところで、ヒーローを喜ばせるだけな気がする。しかし、ヒーローを嫌っているアレクシスには、言いにくい。
「ところで小説では、他にもヒロインに好意を寄せるキャラがいるんじゃない?」
「いますけど……。よく、おわかりになりましたね?」
「あいつがヒーローの小説はどれも、脇役の男を何人も出して、最後に自分が美味しい部分を持っていくんだ」
アレクシスは、眉間にシワを寄せて嫌悪感を露わにする。
(脇役としては、気に入らない設定なのかな。でもその設定は作者が考えたわけで、ヒーローに文句を言うのもねー)
それに、小説ではよくある設定だ。リズは特に気にすることなく、アレクシスの質問に答える。
「他にヒロインへ想いを寄せるのは、近衛騎士団長のカルステン様ですけど……、彼との出会いは最悪でしたよ」
騎士団とのやり取りは、すでにアレクシスも報告書を読んで知っているので、リズは説明を省いた。あの時の、盗賊のようなカルステンの笑みまでは、報告書に書かれていなかったが、わざわざ教える必要もない。
「いや、今からでも気をつけて。彼は、守ってあげたくなるような子が好きなんだ。性格はどうであれ、庇護欲をそそられる容姿に惹かれるんだ」
あの出会を経て、どう庇護欲が沸いてくるのか疑問でならないが、それよりもアレクシスの引っかかる言い方に、リズは口を尖らせた。
「……そこ、強調するところですか?」
「リズの性格は、庇護欲とは無縁そうだし。そもそも君は、小説のヒロインとは性格が異なるんじゃないの?」
鋭い指摘を受けて、リズはぐうの音も出ない。
確かに小説のヒロインは、ひたすら虐めに耐え、魔女に生まれた不幸を、人知れず悲しむような子だった。
なぜ、魔女は嫌われるのか。
どうして、悪魔の末裔だなんて嘘を信じるのか。
ヒロイン自身の言動には目を向けてくれず、すでに出来上がっている虚像ばかりが注目されることに、いつも悩み、苦しんでいた。
一方でリズは、それらをただの『小説の設定』としか思っていない。自分が魔女であることに対して悩む必要がないので、現状をどう乗り切るかということだけに専念できた。
「確かに前世の記憶があるせいか、たくましく育った自覚はあります」
「やはり」と真剣に納得するアレクシス。
またも引っかかる言い方に、リズは頬を膨らませた。
「もしかして……。公子様の好みではないと、おっしゃりたいのでは?」
「どうだかね」
アレクシスは、意地の悪い笑みを浮かべてはぐらかすと、人差し指でリズの膨らんだ頬を突いて楽しみ出した。
(アレクシスが少し、意地悪になった気がする……)
今朝までのアレクシスは、ガラス細工でも扱うように、優しくリズに接していたが、今はクッションでも弄ぶかのような、遠慮のなさだ。
どうしてこうなったのか疑問でいっぱいのリズだが、とりあえず一方的にやられるのは嫌なので、頬を固くしてアレクシスの指に対抗する。
しかし終いには、アレクシスが両手でぐにっと、リズの頬を潰したのだった。
(遠慮がなさすぎるよ……、アレクシス!)
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