15 / 37
15 隣国のリーンハルト
しおりを挟む男性に異常なほど人気が高かったリーンハルトは、アカデミーではいつも居心地が悪かった。その人気はなぜか、異性に向けるようなものだったから。
好きだとか、愛していると書かれた手紙や、女性に贈るような綺麗で可愛いアクセサリーのプレゼント。デートへ誘われたことも何度もあった。
カイと一緒に居られない時間はいつも、男性から逃げ回り、隠れるようにして過ごしていた。
そんな時だった。隠れる場所を提供してくれたのが、このラウレンティウスだった。
初めはラウレンティウスに対しても警戒していたリーンハルトだったが、彼は友人として以上の気持ちを持っていないということに、すぐに気がついた。
彼は人族で、単に異種族である獣人に興味があり、仲良くなりたいだけのようで。話題はもっぱら、獣人と人間の違いについてだった。
なぜ助けてくれるのかと尋ねた際は、「女性のように扱われる気持ちはわかるから」と。
実際ラウレンティウスは、とても綺麗だ。リーンハルトとは異なり、背が高くて魅力的な男性という意味だが。そんなラウレンティウスも幼いころは女の子と間違われ、嫌な思いもたくさんしてきたのだという。
相手が純粋な同性愛者ならば、真摯に向き合い、丁寧にお断りできた。
けれど、リーンハルトやラウレンティウスに好意を向けていた男たちは、少し違う。女性という目線で、二人を見ていた。
二人には女性になりたい願望はないというのに、一方的な押し付けが嫌だった。その感情で意気投合し、二人は密かに親友となった。
「そんなことはないさ。ここへ来てから筋肉もついたようだし、着実に成果が実っているように見えるよ」
「嬉しいです。家族には置手紙だけで別れてしまったので、早く戻って安心させなきゃ」
「そうだね。たくましくなった君を見たら、ご両親はさぞお喜びになるだろう」
ラウレンティウスの勧めでリーンハルトは、剣術を身に着けている最中。立振る舞いが変わり堂々と振る舞うことができれば、相手は勝手な押し付けをしてこないと。
これはラウレンティウスの実体験からくるものだ。
実際、剣術の稽古を始めてから、リーンハルトは自分でも実感できるほど男らしくなれた。
今までは気弱なばかりに、リーゼルの後ろに隠れてばかりで。それがなおさら、なよなよとした自分を作っていた。
堂々と生まれ変わった姿を、早くリーゼルやカイに見せて驚かせたい。
二人が雑談をしているところへ、一人の騎士がやってきた。
「殿下。シャーフ家の調査結果が参りました」
調査と聞いて、リーンハルトは首を傾げた。
「僕の家の調査ですか……?」
不思議そうに書類を見つめるリーンヘルトへ、ラウレンティウスはうなずいた。
「君のご実家から手紙が来ないことを、ずっと気にしているだろう? 急な留学を誘ったのは私だから、状況くらいは把握しようと思ってね」
「そこまでしていただいていたとは……。やはり、家族は怒っている様子でしょうか……」
以前から聞いていたシャーフ家の雰囲気なら、留学を反対したりしないと、ラウレンティウスは考えていた。
けれど、リーンハルトは家族に言い出せず、置手紙だけで出てきてしまった。
家族が混乱しているようなら、支援するつもりで調べさせていたが。報告書を読み進めたラウレンティウスは、眉間にシワを寄せた。
「これはどういうことだ……? リーンハルトは予定どおりに領地を出て、皇宮の官吏叙任式に出席したそうだ。今は皇帝の侍従をしているらしい……」
困惑しながらリーンハルトを見ると、彼は心当たりがあるのか表情が青ざめてる。
「それ、きっとリーゼルです!」
「君の双子の妹という?」
「はい。リーゼルが僕のふりをして、皇宮で働いているに違いありません! どうしてなんだ……。僕のことが信じられなかったのかな?」
家族へは置手紙だけで済ませてしまったが、リーハンルトは正式な嘆願書を皇帝陛下へと送り、許可も得ている。
一方的な嘆願書ではあったが、これくらいのほうが熱意が伝わるとアドバイスしたのはラウレンティウスだった。
ラウレンティウスは留学中に、皇帝ディートリヒと何度も交流したので、それなりに性格は把握している。
獣人の頂点に君臨するディートリヒは国民から恐れられているようだが、獣人ではないラウレンティウスから見れば、ただの生真面目な青年にしか見えなかった。
そしてディートリヒは、真剣な考えに対しては耳を傾け、尊重するタイプだ。
けれど、それを理解している貴族はティア国にどれくらいいるのだろうか。ましてやシャーフ家は、地方貴族。皇帝と会う機会も少ないはず。
「っというよりは、皇帝を恐れたのかもしれないね。済まないリーンハルト。私が直接、ご両親にお話しするべきだった……」
「殿下のせいではございませんよ! 僕が臆病なばかりに、皆に直接言い出せなくて……。しかもリーゼルが陛下の侍従だなんて。すぐにでも戻って、リーゼルと交代しなきゃ!」
おろおろし始めるリーンハルトをなだめるように、ラウレンティウスは彼の肩に手を置いた。
「焦るなリーンハルト。この報告書によると、皇帝に大層可愛がられているようだよ。皇宮内でも人気だとか」
「さすがリーゼル。僕より度胸があるな……」
常日頃、リーンハルトから妹についての話は聞いていたが、これほど大胆な行動を取る女性であったことに、ラウレンティウスも驚きを隠せない。
それと同時に、あの皇帝に恐怖することなく可愛がられているという部分に興味が湧く。
見た目に惑わされることなく、本質を見極められる女性なのか。それとも誰に対しても人当たりが良いのか。
どちらにしても、『会ってみたい』という感情が湧く。
「君は震えているじゃないか。今、帝国へ戻ってもリーゼル嬢と交代できるとは思えないな」
「ですがリーゼルに迷惑が……」
「リーゼル嬢には悪いが、もう少しだけこのままでいさせてもらおう。どちらにせよ近いうちに、帝国へ行く用事がある。それまでに、リーンハルトは度胸をつけるんだ」
142
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
人間嫌いの狐王に、契約妻として嫁いだら溺愛が止まりません
由香
ファンタジー
人間嫌いで知られる狐族の王・玄耀に、“契約上の妻”として嫁いだ少女・紗夜。
「感情は不要。契約が終われば離縁だ」
そう告げられたはずなのに、共に暮らすうち、冷酷な王は彼女だけに甘さを隠さなくなっていく。
やがて結ばれる“番”の契約、そして王妃宣言――。
契約結婚から始まる、人外王の溺愛が止まらない和風あやかし恋愛譚。
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!
カントリー
恋愛
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。
面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜
蝋梅
恋愛
仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。
短編ではありませんが短めです。
別視点あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる