エレメンタルサーガ〜不撓無才の魔導剣士〜

アキタ

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第十一話 呪術解放

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  実際、呪術の解放というものも腕輪の設計した際に理論上可能ということである。

  人はおろか、魔物相手に成功した前例は一度もない。勿論、今回は成功を見越してはいるもののディンは実験体として扱われる。

  ディンを気絶させてからの呪術解放は即死するため、意識のある中で自我を保ちつつ少しの間、莫大なオードの力を自身で抑え込まないといけないという説明がミザリーから伝えられる。

  今までの魔物の実験体を見越す限り、恐らく体の成長が先でその際に成長に伴う激痛に見舞われる。激痛の向こう側に、首輪に溜まる魔物から獲得したオード、ディン自身の成長する分オードが爆発的に増殖。それを抑え込む呪いが無くなればそれは決壊した様に一身に流れ込む。

  流れ込む魔力は、魔力の器の成長を瞬く間に上回るだろうが、それを溢れさせず零さず耐えなければならない。例え、すべて耐えられた所で身を魔物の持つ闇の魔力が濃く流れ込む為に闇の魔力により一気にディンの身は蝕まれ、そのまま侵食されて魔人化する、と言うのがミザリーの見解。

  その為少しずつ、闇の魔力への耐性を付けていく試みとして呪術を使った段階的封印を、三段階施す事となった。

  少なからず体が闇の魔力にも適正がある事が前提に事が進むが、力の源であるオードも一律に段階的封印の対象となる。つまりは、いきなり強い力を手にする事は出来ない、という事になる。

  それに、少しづつ力を付けて行く事が出来れば、初めから強い力を手にする事により引き起こされかねない、自分の力での破滅を防ぐ役割を担う。力を扱うことの出来なかったディンが力に慣れていくために考えられた、非常に理にかなった方法であるのだ。

 ディンの体質である特殊な魔力回路の補助にもなるであろうと。そのようにして力を使い方を覚えれば力の扱い方の要領も覚えらる上に身の程を知る事が出来る。最終的に行使可能な魔力を余すことなく自分のモノにするにあたって焦り過ぎていい事は無い。暫くは我慢して欲しい。

  そう、ミザリーは告げた。

  それと、ザイモールからは協会上層部の庇護の元これから監視をされることになるだろうと告げられる。ディンは特例の実験体であると共に、力を手にした際、その力の暴走が危惧される。それはザイモールから協会を通じて秘匿処理する手筈。その為、冒険者協会所属は勿論、それに手厳しい教育が待ち受ける事になるだろう。

  それらの要求はディンにとってもよんどころない事情である。そもそも、冒険者協会というものに前々から興味があった為、ザイモールの要求にも首を縦に振った。

「じゃあ、頼むよ」

「わかったわ」

  ディンの一言でミザリーが陣を成形する。ザイモールもオードを注ぎ込み補助している。

  すると、前とは比べ物にならない速さで成形され、青白い光量も凄まじいものになっていた。

「目の前が見えねー!」

「当たり前でしょ! ただの呪術解放作業じゃないんだから集中しなさいよ!」

  ミザリーが激を飛ばす。今はおふざけできる余裕が無い。理論上、可能な事であってもより良い成功へと近づく為にも自分の持てる力をふんだんに尚且つ精巧に扱わなければならない。

「わかってる、しっかりやるよ!」

  そして、ディンの周りにはオードが満ちる。恐らく、この力の殆どはザイモールの補助によるもの。ミザリーはあくまでも形枠に過ぎない。

「よし、僕はいつでもいいよ」

「私もいけるわ。ディン!」

「よっしゃああああ!! こい!!」

 ディンは両膝を曲げて脚を開く。曲げた脚の太腿に両拳を叩き付け、己を鼓舞する。気持ちを昂らせる。自分の中にある余計な思惑を吹き飛ばすように。

「じゃあ、いくわよ!」

  そう言ってミザリーが最後の力を与える事により、陣に張り巡らせた力を増長させ、青白い光がディンを完全に覆い隠す。それからして静かに腕輪がパキンと割れた。

  何も出来ずに居るリアナは息を呑む様に見守るだけだった。
 
  そして願う。神様どうか願いを聞いてくれるのならば、ディンをお導き下さいと。

  その時、光の中でディンは体の物理的構造を無視した体躯の肥大化による痛みに歯を食いしばって耐えている。あの時のダークウルフが苦しんでいたのも今となっては頷ける。

(思ってたより、すげぇのが来る……!!)

  体の関節という関節、各神経に激痛が走り骨が悲鳴を上げる。命の危ぶみを知らせ速まる脈がドコドコと打つ度、上下に激しく揺さぶられ脳に響く。目の前がぐわんぐわんと波に飲まれたように揺さぶられる。それらの事象、幾重の痛みにより立っている事、それ事態が非常に困難である。ディンは地に吸い込まれる感覚に襲われる。

  受け入れる事に失敗すればディンの身体は異変形を起こしてしまう。だからこそ、発狂して自分を見失わない様に強い信念で冷静に持ち堪えてみせる。痛みに身を任せることも許されず、かと言って拒絶する事すら許されない。ディンに許されるのはその狭間で耐え忍ぶのみ。

(ここまでして、ダサい姿は見せられないもんな……!!)

  時間にすれば短い出来事ではあるが、ディンには特別長く感じられた。

  それから少しするとディンを覆う光は弱まり、ディンの姿が見え始める。異変形を起こしていないか不安に思うミザリーは唾を飲む。

「よう!戻ってきたぜ!」

  意外にも、涼しい顔をしたディンがそこに居た。
 髪も身体も伸びて、肉付きはあまり良くなかったが顔色も悪くなく健康状態は良さそうであった。良かった、とミザリーは一先ず胸をなで下ろす。

「ディン……!」

  リアナの目には涙が溢れ一歩、二歩、駆け寄りそうになる。

「リアナ! まだよ!」

  残光が薄らとしている中、堰を切るように腕輪から放出される魔力。無数の煌めきが有無に言わさずディンの体に叩き込まれる。

  即座に魔力回路が飲み込まれ、内臓を引き裂くように大破する。

「グウッ!?」

 魔力は怒涛となり、ディンの中から暴力とも言える純然たる力が好き勝手に暴れている。

(さっきよりはマシか……?これなら、いける……)

  ディンの器は恵まれておりそれも遥かに成長している。先程の要領でそのまま冷静を保ち、魔力に順応し続けながら静かに取り込む。

  もはや単純にオードを受け容れる事にはあまり問題がない。

  最後……闇の塊であり、幾多数多の魔物や生命体の残留思念とも言える闇の魔力の権化が現れるまでは。

  そしてそれは突如、おぞましい暗黒となってディンの目の前を塞ぎ、色を奪う。ディンの本能が警鐘を鳴らす。こんなもの、受け入れきれるはずが無いと初めての危機感を抱く。

(こんなのが……!? こいつが、俺の中に……?)
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