エレメンタルサーガ〜不撓無才の魔導剣士〜

アキタ

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第十二話 目覚め

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 想像を絶する力を前にディンは我が目を疑う。

(思ったより成長し過ぎたみたいね……)

  由々しき事態にミザリーは封じ込まねばならない暗黒物質を凝視する。

  元から、ミザリーの懸念はその暗黒物質にあった。

「出てきたね、待ってたよ」

  不意にザイモールが口を開いた。魔獣がどのようにして生まれるか理解しているザイモールはこの事象予測が出来ていた。

  そして、一気に力を高め暗黒物質へと手を翳す。
 ザイモールが放つのは闇の魔力による縛鎖。同じ性質である暗黒物質だけを捕縛し、ディンへ還ろうとする闇オードの隔絶を図る。

  鎖に捕らわれ、暗黒の塊は忽ち形を変貌させる。そしてそれは黒い闇オードを纏う魔獣の姿へと変貌を遂げた。

(あー、ベヒーモスっぽいな。ディン、ちょっとハッスルし過ぎたんじゃないの……?)

  目覚めたばかりの魔獣の力は凄まじい。ディンが三年かけて屠った魔物の残留思念の結晶であり、その闇の力を根源として猛威を奮い、激しく抵抗をする。

 グギャアアアアアアアアアアア(ヤ゛メ゛ロ゛ォオ!!ゴロジデヤル!!)

  魔獣は縛鎖による苦しみの中怒り狂い、とてつもない音圧で大咆哮を放つ。

(めっちゃ怒ってるよ……。しかし、思ってたより力が強いな……。仕方ないか)

  ザイモールは少し笑い、鋭い視線を魔獣に差し向ける。

「これは久々のアバタールだ」

  ザイモールは意を決してアバタールを唱える。これはルブルドシエルでの大戦以降、使われることが無かったザイモールを象徴とする力。それ程の異常事態だとザイモールは認識する。

  ブォン!と力の乗った威圧的な突風が起こり、ザイモールの秘め隠していたオードが放たれ、体が心地の良い高揚感に包まれる。

  そしてザイモールは、畏怖を感じさせる得体の知れないオードを赤黒く燻らす。普通の人間でない力を誇示するかのように隠していた力の片鱗を見せつけた。

  「さて、この魔獣ちゃんをどうしようか?」

  このアバタールこそがザイモールの強さたる所以。過去に人前で力を使う事は殆どしてこなかったが、今回ばかりは力の出し惜しみしている場合ではない。

(これが、大英雄の力なの……!?)

  ミザリーはザイモールの様変わりした姿を見て、自分が楯突く相手を間違えていた事に気付く。

「よし、可愛い魔獣ちゃん。少し大人しくしててね。乱暴はしたくないから、さ!」

  ザイモールはそう言い、更なる力を注がれた鎖は更なる進化を遂げ、黒き魔獣を握り潰すように圧縮していく。

 ガギギギ……と鎖と共にゆっくり潰されていく魔獣。

  ザイモールは「宿主ディンの元へおかえり」そう言って魔獣をディンへ差し出す。ディンは強ばった表情で潰れた魔獣を見つめる。

「さぁ、ディン。君はこの子を受け入れられるのかい? 弱音を吐くなら僕がこの場で処分してもいい。どうする?」

「オレもそいつを待ってたんだ。腕輪を付けている時から生意気にも重くて、息苦しかった。だからそいつはオレが飼い慣らしてやるよ」

「そうか。無事を祈るよ」

  ザイモールはそう言うとディンへと魔獣を軽く投げつけた。

「いてっ!」

  ドスッ、と重い音が鳴る。そして魔獣はディンの胸へと大きく脈を打つようにドクン、ドクンと溶け込み、吸い込まれていく。

  無理矢理ディンをこじ開けて侵入する闇の魔力塊。体の中が焼けるように痛い。熱すぎる。血肉が溶けていると錯覚しそうになる。

「ぎっ……!! がぁあ……っ」

  最早、ここまで来ると心の静謐さを保つ事は不可能だった。そのディンの戦う姿を見るリアナは両手を固く握り締める。

(お願い……。負けないで……)

  闇の魔力がディンの許容量を上回り、他の魔力までを喰らい尽くそうとする。とうとう、許容量を超えた。魔力の器もボコボコと膨れ上がり、外へ外へと行き場を求める。これだけはいくら苦しくても外傷を伴わない。失うとすればは自分の心だけ。

「グアアアアアアァァァッッ!!!!!」

  灼熱に身を焼かれるように魔獣に似た絶叫を上げ苦しむ。ディンはかつてのダークウルフの様に全身から瘴気が漏れ出す。

  瞳は紅に染まり、もはや人間のそれではない。身の毛もよだつ半魔人と化している。中から突き出してくるベヒーモスの角。もがき苦しむ口元の犬歯も鋭さを増す。

(結構やばいかなぁ……)

 とザイモールは俯瞰する。

「あともう少しね。ディンの奴、持つのかしら……」

 ミザリーはそう、呟いた。

「ディンは大丈夫だって言っていたもの……」

  既に自我を保っているか判断も出来ない、呻き声を上げる恐らくディンである者をリアナはじっと見つめていた。

 ーーーーーーーー

「貴様は何故、俺の力を欲する」

「強くなる為だ。当たり前だろ」

「強くなってどうする。過ぎた力は自分を破滅させる事を知らぬか」

「今更言ったって遅いぜ」

「それもそうか」

「今はまだ、大人しくしていてくれ。いつかその狭い所から出してやるからな」

「期待はせず待っているとするか」

 ーーーーー

 ディンは半魔人のまま深く目を閉じる。次第に収まる闇の気配。どうやら、意識朦朧の中魔獣を取り込む事に成功したらしい。直後、力の封印をミザリーによって施され、そのまま地面に倒れ込み突っ伏す。

  力の封印の呪印を刻み込まれたディンの体から、呪印は波に掻き消されていくように少しづつ姿を消す。

  それから、不安定だったディンの魔力オード、それと共に闇の瘴気、魔人の力も徐々に押さえ込まれていき、呪印に連られるように落ち着きを取り戻していく。

 ミザリーは重い息を漏らした後、「何とかなったわね」と呟いた。

  それから少しするとディンは目覚めた。

「うわっ、オレ寝てた?」

  ディンはガバッと起き上がり、「うっ!」と頭を軽く抑える。記憶も曖昧で我を忘れていたのだろう。

  その言葉に、リアナはハッとした顔でパチクリと瞬きをし、そばに居るディンを見つめ確かめる。

「寝てたじゃないわよ、気絶してたんじゃないの? 情けないわね」

  ミザリーは安堵し、面白おかしく茶化す。

「あのまま壊れちゃうかと思った…。これ以上心配させないで…」

  起きがったばかりのディンを抱擁するリアナ。

「つっ! 大丈夫だって言ってたろ?相変わらず心配性だな」

  そう言って多少潮らしくなるディン。そして、リアナはディンの感触を確かめる。

「なんか…信じられないけど、本当に大きくなったね」

  微笑みながら言うリアナの頬には涙が伝っていた。

「何だよ、大きくなって悪いかよ……。でも、心配させて悪かった。ミザリー、それとザイモール、ありがとう」

  うん、と言葉に頷き返すリアナ。だが、ザイモールはあまり面白くなさそうな顔をしていた。少し思う所があるようだ。

「にしても湿気た顔してるわね、ザイモール! あんたのあれはなんだったわけ!? あんなのあるなんて聞いてないわよ。」

「うん。あのー、その事で、こんな時に言うのも何だけど、僕のした事は内緒で頼むよ」

 どうやら、行き過ぎた庇護をした自覚が有るらしい。ザイモールから見ても、ディンの中にとても強い闇の魔力が入り込んでしまった。流石にそっちの責任まで負いたくは無いらしい。監視業務の命令が下る可能性がかなり濃厚になる。

「は? 何言ってんの? 私あんなこと出来ないわよ?」

「じゃー、どうしようか。ディンはどう思う?」

「オレ!? オレに言われてもなあー、オレが何とかすりゃいいってことか?」

 とりあえずディンは無い頭で考えた結果、未来の自分が何とかするでしょ的な逃げに丸投げする。

「おっ、いいね! そうしようか」

 この事は後を引く大事となると、解りきっているため苦しくともひとまず責任から下りようとするザイモール。

「あの、ザイモールさん、ディンに変な事は任せない方が良いかと……」

  リアナが注意を促す。

「じゃあ、リアナちゃんが付いていればいいんじゃない?」

 ザイモールはあっけらかんに言い捨てる。リダズの娘だ。親父の権限でどうにでもなるだろう。ザイモールはそれを見越している。そして淡くも期待している。

「そんな、私になんとかしろって!? 適当は困ります!」

「頼むよ~。僕はこれでも忙しいんだ。色々やる事があるのさ~」

  ザイモールはそう言いながら後退りを始める。

「ちょっとザイモール! あんたホントにどーするつもり!?」

「うん? 何のこと?」

  ミザリーの抑止は全く気にしない。やいのやいの言う二人の女性をよそ目にザイモールは口をとがらせ口笛を吹いて見せる。

「ピュウゥ~♪ 聞こえないなぁ」

  こいつ(ミザリー)が騒いだ所でまた武力行使すればいいやとしか思っていなかった。

  それを見て、ザイモールっておもしれーな、と笑っているディン。これから自分の事で大変に事になるとも知らずに。

「そんじゃ、またねぇ」

  逃げた所で無意味だと知らずに逃避するザイモール。やる事はやったが、後味の悪い去り方であった。

 ブゥオンッ!! と翼を広げて凄まじい速度で飛び立っていくザイモール。

(あの人……信じられないっ!)

  そこでリアナは一つの決断を下す。ザイモールの愚行を父へと報告するのだ。
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