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プロローグ:道明寺万理と言う女
肉じゃがよりも…
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「んぅ…っ、ぁぁ…っ!ゃぁ……っ!!」
ぐちゃぐちゃ…
「…どうして?気持ち良さそうだよ、万理…」
ポニーテールを揺らす、Tシャツの上から猫のプリントがかわいらしいエプロンを着けた万理が途切れ途切れに悩ましい声を上げる。
短パンは脱がされ、ソファの上に置かれている…勿論、最後の防波堤──薄紫色のパンティも一緒に。
「…万理、かわいいね…ふふ。」
「ぁ…、ぁぁ…っ♡」
くちゅ、くちゅ…っ。
細長い無骨な指が茂みを分け行ってナカへと侵入を果たし、勝手気ままにバラバラと蠢きまわる。
後ろからそっと抱き締める翼の肌は熱く…尻に当たる逸物はもう臨戦態勢だ。
熱く雄々しい塊がグリグリと臀部を擦る。
「愛しているよ…万理…もっといい声を聴かせて。」
「ぃ、ゃ……ぁぁ…っ!」
…肉じゃがを作っている最中に、後ろから“悪戯”されるのも同棲してからは日常茶飯事だ。
触れられるの嫌ではないので…翼の暴走はいつもの事で。
料理しながら翼に料理されるのもいつもの事…この時間もまた欠が得ない想い出の一欠片。
恥ずかしいし、危ないし辞めて欲しいのだけれど──不思議と拒めない自分がいるのも事実で。
「…なあ、もう入れていい?」
「ふ…ぁっ、入れて…いい、よ…?兄、さん……っ♡」
低く掠れたテノールが私を誘う…その声に私が抗える筈などないのだ。
ズブ…ッ。
深く深く熱い…吐息と同じくらいに熱い肉棒が私のナカを埋める。
きゅうっと切なくて…締め付けてしまう私を後ろから抱き締めたまま、抽挿を繰り返す翼に万理は官能と料理をしなくてはいけないと手を動かす。
「ぁ、ぁぁ…っ!はぁっ、兄さんのチンポが…気持ちいいのぉ…っ!!」
浅く深く突かれながらも懸命に肉じゃがの作成に手を動かす万理の健気さに翼は目を細めながらも、心地良いナカの奥へと剛直を突き入れる。
「──ひぁあ…っ!?や、だめ…そこぉ……ッッ!!」
「…うん、ここが気持ちいいんだよね?万理は…ッ。」
ずんずんと突き上げてはカリ首の辺りまで抜くと…また一気に根元まで挿し込む。
「──んぁぁぁっ!!?」
びくびく…っ!
弓なりに仰け反って潮を放つ万理の腰を掴んでピストンを速める翼をはくはくと口を開閉して絶頂に心もナカも顔も蕩かせて…翻弄される。
「…ッ、ああ、かわいいな…万理、俺もそろそろ……ッ!」
パンパンと荒々しく肌がぶつかる音と万理の甘い声、吐息…扇情的な表情にしなやかな肌がほんのりと赤くなる光景に獣欲を大いに刺激され抽挿もより一層深く、濃く、速くなる…。
「出る──ッッ!!」
ドクン、ドクン…ッ!
「───ッッ!!」
びくんびくんっ!!
翼がナカで果てるのと万理の絶頂とは偶然にも重なった。
…肉じゃがは最終段階の弱火でコトコトと煮込む段階になった。
時間にして30分…だったが、エッチな悪戯から段々とエスカレートして…本格的に犯し始めたのが、20分前…遅く浅く速く深く…と緩急付けられてナカを抉られ、その度に万理はかわいい声を上げて何度も果てた。
熱い迸りは万理の子宮深くにビシャビシャと張り付いている。
立ったままシたのに…一滴も垂れる事なく。
抜かれ、パンティを履かされてからも一切垂れて来ない。
「…ふぅ、気持ち良かったよ。続きは後で、な?」
「…ッ、はあはあ…っ。」
まだまだピンと上向いた“それ”を視界に捉えぽっと頬が赤くなる。
「…兄さん…っ、もぅ……っ♡」
…こうして抱かれるのも1度や2度じゃないのに、私はちっとも馴れそうにない。
血の繋がった兄妹だからだろうか?
肌を重ねる度に敏感に感じてしまう。
愉悦が快楽が…私の柔い所を何度も擽る。
コトコトと煮込んだ肉じゃがが食欲を刺激する。
関西風の牛肉を使った肉じゃが、だ。
今日はこれをメインに明日残りをコロッケにしようと思う。
道明寺家では空豆も一緒に入れる。
じゃがいもと人参、玉ねぎに糸こんにゃく、椎茸と牛肉…それからほどよく切った空豆。さやごと。
良く染み込んだ市販の“すき焼きのタレ”を水で割ってじっくり煮込んだ一品。
灰汁抜きもばっちりの肉じゃがと沢庵、なめこ汁の匂いが鼻腔を刺激する。
「美味しそうだね…我が家の肉じゃがって感じだ。」
「…うん、ちゃんと母さんの味になっていれば良いけれど。」
出汁を吸った具材──取り分け空豆はいい感じなのだ。
肉じゃがに入っていても違和感なく溶け込めていると言うか、なんと言うか…。
ずっとこれで育ってきたので、今更空豆無しの肉じゃがは想像着かない──と言うか、物足りなさを覚える。
ご飯を二人分装って、テーブルに並べて行く翼。
肉じゃがをラーメン丼に大量に盛るのまでが実家仕様である。
5人家族なのでチマチマ入れるのが面倒、とのこと。
祖父母のそのまた曾祖母の代まで連面と続いている、のだと聞いた事がある。
焼き魚以外は基本ラーメン丼や深皿、大皿に富士山の如く盛りに盛ってテーブルの中央に置くのだ。
洗い物が減るのと一度に入れた方が片付けがしやすいから、とも母さんが言っていたので私もその意見を採用したのだ。
「うん、そんなズボラな所も母さんそっくりだよ」
「だって面倒だし」
「…そうだね(笑)」
クスッと笑われて、肉じゃがの入ったラーメン丼をテーブルに持って行かれる。
…たった二人しか居ない一戸建ての家でこんなにも量は要らないだろう、とは思う。
…だけど、便利なのだ。
それに余ったら、明日の朝の分の肉じゃがとコロッケ分を省いた今日の残りはラップして冷凍庫に突っ込めばおかずの備蓄が出来る。
どうしても料理したくない時や、時間がない時にレンジでチンするだけでいいのは楽である。
「…いただきます。」
「…いただきます。」
パンッ、と手を合わせて食前の挨拶の後、早速箸を肉じゃがへと伸ばす。
…結構大量に作れたようで、ラーメン丼山盛り3杯分になった肉じゃがを2皿纏めてラップ掛けた後、冷凍庫に突っ込む。
この冷蔵庫もかなりの広さがある、大容量タイプで…ラーメン丼毎でも普通に入る。下3つの引き出しタイプの冷凍庫が3つと野菜室はその上一つ、大きく左開きの冷蔵庫は色々と食材や飲み物が入っている。
「…それで変な男の子?が居たんだよ、兄さん。」
「男の子…?どのくらいの年の?」
「6歳くらい…小学一年生くらいの子だったよ。短パンから覗く膝小僧がかわいかったなぁ~♡」
と、何気に見ていた万理はそう言ってうっとりと朝の出来事に想いを馳せる。
「それで、なんか邪神がどうの、世界が壊されるだの…って、何の漫画かゲームの話かな?」
「…さあ?
俺はあまりゲームは詳しくないよ。
太宰治先生に関してなら目を瞑ってでも諳じられるけど。」
翼はあまりゲームをしない。
反対に太宰治とか正岡子規とかの本を良く読む。
漫画も少し。
後は釣りなんかも趣味である。
「…まあ、スマホゲームも増えてる昨今、そんな設定もありきたりだよね」
「ああ」
「…それで流石に“ごっこ遊び”には付き合う時間はなくてね…バイトに遅れる」
「そうだね、余裕を持って出たのに遅れたら元も子もない」
「日当1万円、半日で6千円、3時間だと5千円…雑誌の売れ行き次第で+○%の優良バイトだもの、もっと稼ぎたいんだよね~」
和やか?な会話の合間にあったかほかほかの肉じゃがを頬張る。
…う~ん!美味い!!
ご飯と一緒に咀嚼するともう…堪らん!!美味しい!
流石は道明寺家の肉じゃが!手抜きなのに手抜きと思わせない!
「…。」
「…。」
しばらくは食事に専念でひたすら手と口、歯を動かす。
食事中の会話はある程度終わればこのように無言の時間が流れるのも道明寺家では当たり前だった。
…中学を卒業するまでは実家で、両親と姉の茉梨と兄さんとで食卓を囲んだ。
その頃にはとっくに一人暮らしをしていた翼は食事の時間だけはアパートから実家へと一時帰宅していた。
──料理が壊滅的 に出来ないので。
兄の翼は文武両道で品行方正だが…その反面料理が壊滅的に出来ない人なのだ。
カップ麺くらいしかまともに作れない。
煮物は焦がす、砂糖と塩を間違える、1│2カップの所を何をトチ狂ったのか、カップ2杯入れる、と言うボケ?をやらかす。
何とナニを入れたら紫色でヘドロ状で「キェェーーッ!」とかの雄叫び?悲鳴?が聞こえるシロモノが出来るのか…道明寺翼の七不思議である。ミステリーだ。
…掃除や洗濯はそこまでではないのだけれど。
兄が母に料理を習い始めた時は7歳の時で…その頃から料理下手だったようで…砂糖を塩を間違える所から始まって、分量以上に水を入れすぎて薄くなった所にボトボトと何の躊躇いもなく、醤油を流し入れ、“しょっぱいな”と思ったら砂糖をドバドバ…!
それはそれはもう…お母様も怒る訳である。
「食べ物で遊ぶな!」と。
「?」と小首を傾げるちび反町は可愛かった──とデレッとなるお母様に本気で引いたものだ。
監視が居てさえ、それなのだ。
監視も見届け人もいない男の一人暮らし…「キェェーーッ!」って悲鳴が聞こえる料理──否、断・じ・て・!あれは!料理ではない。
もっとこう…おぞましいナニカだ。
地球外生命体──宇宙生物…そんな“ナニカ”である。きっと。
スマホに記録してある…ひえっ!!
夏場に友達に見せると漏れなく“涼”を提供できるシロモノだ。
「失礼な…俺だって美味しいものを作ろうとしただけなんだぞ?誰が地球外生命体を作るか」
「…でも、あれはそうとしか言えないじゃん」
「……。」
「……。」
暫しの沈黙の後。
「…料理は料理上手な奥さんに任せるよ。
代わりに買い出しとか掃除や洗濯とかはやるから」
…まあ、パンケーキを作ろうとして水色の“スライム”を作り出す摩訶不思議な錬金術を見せる兄にしては賢明な判断ではあった。
他にもあるぞ?
素麺を茹でていたら何故かメレンゲになってて…ちょっとしょっぱい生クリーム代わりにショートケーキの上にホイップクリームとして使うことにしたとか(この時は珍しく?食用に耐えたのでお祝いにちょっと豪勢なご馳走にした)。
カレーを作ろうとして紫色の「キェェーーッ!」って悲鳴がヘドロから聞こえたりして…。
肉じゃがやハヤシライスでもこの「キェェーーッ!」状態になる。
オムライスを作った時なんかはボコ、ボコォッ!と気泡?が起きて卵の黄色とケチャップの赤色が混ざって橙色の沼地が出来上がる。
…試しに千切ったパンを放り込んだらジュゥッ!と音を立てて跡形もなく溶けて消え去った。はい、硫酸決定ー!アウト!!
永○園のチャーハンの素を使っての料理なら──そう思った時もありました。ハイ。
卵を溶いて油を引いたフライパンの上でご飯と卵、チャーハンの素を加えて炒めるだけ…そう思っていた。道明寺家の家族の誰もが。
……なんでアンナコトになるのかねー?
道明寺家の創設以来?の謎である。
ドカーンッ!と爆発しました。
え、なんで!?
油が跳ねた、とか引火したとかのジャンルを飛び越えている!
…味噌汁を作ったときは…ああ、もう恐い……っ!!
…じゃあ、サラダは?
……。
……ふっ。
その場合は包丁がすっ飛ぶんだ。
──え?何言ってるか分からない…?
兄さんが包丁を持って構える→野菜を切ろうとする→すっ飛ぶ。
…いやいや、冗談じゃなくて本当に。
何故かツルッと滑って壁に刺さっているのだ。
最早、芸術的なほどに。
家庭科の授業でもしばしば同様の事態が起きて…学生時代は悪い意味でその名は知れ渡っていた。
“破壊神”とか、“混沌創造者”とか…変な二つ名を付けられて。
友達は多い方で…妹としては安心したものだが…そんな“やらかし”を聞かされる度に恥ずかしい思いを幾度もした。
料理さえしなければ他は優秀なのだ。
運動も勉強も出来る方。
昔から身体を動かすことも本を読むのも好きだった兄さんはそれはそれは多趣味であったが──まあ、最近は釣りとボーリングに付き合ってその帰りにレストランに寄ったりとデートしたり、友人と出掛けたり…と活動的だ。
…それは万理も同様だが。
剣道部と水泳部の兼任でほぼ幽霊部員の万理だが…先方の都合でその日の撮影が流れる時も稀にあるので─…その時に時々剣道部へ行ったり、水泳部に行ったりしている。
本に関しては兄の翼ほどではないがそこそこに嗜む。
ジャンルは雑食。
冒険モノや恋愛モノ、ロングセラー本、反対にマイナー本も読破数は少ないがハードカバーだろうとソフトカバーだろうと関係なく読む。ラノベや漫画も好き。
友人にテイルズ厨の腐女子が多く、新作のソフトが出ると良く布教される。ので、ゲームもそこそこ嗜む。
運動神経抜群の同級生に“お姉様”呼びされる173㎝の長身に兄の翼同様好成績であり、情が深くお茶目な一面もある黒髪美少女…その顔立ちは中嶋美伽似の正統派美人。
彼女を16歳の頃に戻した顔立ちで…兄妹並ぶと眼福眼福☆なのだか。
……。
ぐちゃぐちゃ…
「…どうして?気持ち良さそうだよ、万理…」
ポニーテールを揺らす、Tシャツの上から猫のプリントがかわいらしいエプロンを着けた万理が途切れ途切れに悩ましい声を上げる。
短パンは脱がされ、ソファの上に置かれている…勿論、最後の防波堤──薄紫色のパンティも一緒に。
「…万理、かわいいね…ふふ。」
「ぁ…、ぁぁ…っ♡」
くちゅ、くちゅ…っ。
細長い無骨な指が茂みを分け行ってナカへと侵入を果たし、勝手気ままにバラバラと蠢きまわる。
後ろからそっと抱き締める翼の肌は熱く…尻に当たる逸物はもう臨戦態勢だ。
熱く雄々しい塊がグリグリと臀部を擦る。
「愛しているよ…万理…もっといい声を聴かせて。」
「ぃ、ゃ……ぁぁ…っ!」
…肉じゃがを作っている最中に、後ろから“悪戯”されるのも同棲してからは日常茶飯事だ。
触れられるの嫌ではないので…翼の暴走はいつもの事で。
料理しながら翼に料理されるのもいつもの事…この時間もまた欠が得ない想い出の一欠片。
恥ずかしいし、危ないし辞めて欲しいのだけれど──不思議と拒めない自分がいるのも事実で。
「…なあ、もう入れていい?」
「ふ…ぁっ、入れて…いい、よ…?兄、さん……っ♡」
低く掠れたテノールが私を誘う…その声に私が抗える筈などないのだ。
ズブ…ッ。
深く深く熱い…吐息と同じくらいに熱い肉棒が私のナカを埋める。
きゅうっと切なくて…締め付けてしまう私を後ろから抱き締めたまま、抽挿を繰り返す翼に万理は官能と料理をしなくてはいけないと手を動かす。
「ぁ、ぁぁ…っ!はぁっ、兄さんのチンポが…気持ちいいのぉ…っ!!」
浅く深く突かれながらも懸命に肉じゃがの作成に手を動かす万理の健気さに翼は目を細めながらも、心地良いナカの奥へと剛直を突き入れる。
「──ひぁあ…っ!?や、だめ…そこぉ……ッッ!!」
「…うん、ここが気持ちいいんだよね?万理は…ッ。」
ずんずんと突き上げてはカリ首の辺りまで抜くと…また一気に根元まで挿し込む。
「──んぁぁぁっ!!?」
びくびく…っ!
弓なりに仰け反って潮を放つ万理の腰を掴んでピストンを速める翼をはくはくと口を開閉して絶頂に心もナカも顔も蕩かせて…翻弄される。
「…ッ、ああ、かわいいな…万理、俺もそろそろ……ッ!」
パンパンと荒々しく肌がぶつかる音と万理の甘い声、吐息…扇情的な表情にしなやかな肌がほんのりと赤くなる光景に獣欲を大いに刺激され抽挿もより一層深く、濃く、速くなる…。
「出る──ッッ!!」
ドクン、ドクン…ッ!
「───ッッ!!」
びくんびくんっ!!
翼がナカで果てるのと万理の絶頂とは偶然にも重なった。
…肉じゃがは最終段階の弱火でコトコトと煮込む段階になった。
時間にして30分…だったが、エッチな悪戯から段々とエスカレートして…本格的に犯し始めたのが、20分前…遅く浅く速く深く…と緩急付けられてナカを抉られ、その度に万理はかわいい声を上げて何度も果てた。
熱い迸りは万理の子宮深くにビシャビシャと張り付いている。
立ったままシたのに…一滴も垂れる事なく。
抜かれ、パンティを履かされてからも一切垂れて来ない。
「…ふぅ、気持ち良かったよ。続きは後で、な?」
「…ッ、はあはあ…っ。」
まだまだピンと上向いた“それ”を視界に捉えぽっと頬が赤くなる。
「…兄さん…っ、もぅ……っ♡」
…こうして抱かれるのも1度や2度じゃないのに、私はちっとも馴れそうにない。
血の繋がった兄妹だからだろうか?
肌を重ねる度に敏感に感じてしまう。
愉悦が快楽が…私の柔い所を何度も擽る。
コトコトと煮込んだ肉じゃがが食欲を刺激する。
関西風の牛肉を使った肉じゃが、だ。
今日はこれをメインに明日残りをコロッケにしようと思う。
道明寺家では空豆も一緒に入れる。
じゃがいもと人参、玉ねぎに糸こんにゃく、椎茸と牛肉…それからほどよく切った空豆。さやごと。
良く染み込んだ市販の“すき焼きのタレ”を水で割ってじっくり煮込んだ一品。
灰汁抜きもばっちりの肉じゃがと沢庵、なめこ汁の匂いが鼻腔を刺激する。
「美味しそうだね…我が家の肉じゃがって感じだ。」
「…うん、ちゃんと母さんの味になっていれば良いけれど。」
出汁を吸った具材──取り分け空豆はいい感じなのだ。
肉じゃがに入っていても違和感なく溶け込めていると言うか、なんと言うか…。
ずっとこれで育ってきたので、今更空豆無しの肉じゃがは想像着かない──と言うか、物足りなさを覚える。
ご飯を二人分装って、テーブルに並べて行く翼。
肉じゃがをラーメン丼に大量に盛るのまでが実家仕様である。
5人家族なのでチマチマ入れるのが面倒、とのこと。
祖父母のそのまた曾祖母の代まで連面と続いている、のだと聞いた事がある。
焼き魚以外は基本ラーメン丼や深皿、大皿に富士山の如く盛りに盛ってテーブルの中央に置くのだ。
洗い物が減るのと一度に入れた方が片付けがしやすいから、とも母さんが言っていたので私もその意見を採用したのだ。
「うん、そんなズボラな所も母さんそっくりだよ」
「だって面倒だし」
「…そうだね(笑)」
クスッと笑われて、肉じゃがの入ったラーメン丼をテーブルに持って行かれる。
…たった二人しか居ない一戸建ての家でこんなにも量は要らないだろう、とは思う。
…だけど、便利なのだ。
それに余ったら、明日の朝の分の肉じゃがとコロッケ分を省いた今日の残りはラップして冷凍庫に突っ込めばおかずの備蓄が出来る。
どうしても料理したくない時や、時間がない時にレンジでチンするだけでいいのは楽である。
「…いただきます。」
「…いただきます。」
パンッ、と手を合わせて食前の挨拶の後、早速箸を肉じゃがへと伸ばす。
…結構大量に作れたようで、ラーメン丼山盛り3杯分になった肉じゃがを2皿纏めてラップ掛けた後、冷凍庫に突っ込む。
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「…それで変な男の子?が居たんだよ、兄さん。」
「男の子…?どのくらいの年の?」
「6歳くらい…小学一年生くらいの子だったよ。短パンから覗く膝小僧がかわいかったなぁ~♡」
と、何気に見ていた万理はそう言ってうっとりと朝の出来事に想いを馳せる。
「それで、なんか邪神がどうの、世界が壊されるだの…って、何の漫画かゲームの話かな?」
「…さあ?
俺はあまりゲームは詳しくないよ。
太宰治先生に関してなら目を瞑ってでも諳じられるけど。」
翼はあまりゲームをしない。
反対に太宰治とか正岡子規とかの本を良く読む。
漫画も少し。
後は釣りなんかも趣味である。
「…まあ、スマホゲームも増えてる昨今、そんな設定もありきたりだよね」
「ああ」
「…それで流石に“ごっこ遊び”には付き合う時間はなくてね…バイトに遅れる」
「そうだね、余裕を持って出たのに遅れたら元も子もない」
「日当1万円、半日で6千円、3時間だと5千円…雑誌の売れ行き次第で+○%の優良バイトだもの、もっと稼ぎたいんだよね~」
和やか?な会話の合間にあったかほかほかの肉じゃがを頬張る。
…う~ん!美味い!!
ご飯と一緒に咀嚼するともう…堪らん!!美味しい!
流石は道明寺家の肉じゃが!手抜きなのに手抜きと思わせない!
「…。」
「…。」
しばらくは食事に専念でひたすら手と口、歯を動かす。
食事中の会話はある程度終わればこのように無言の時間が流れるのも道明寺家では当たり前だった。
…中学を卒業するまでは実家で、両親と姉の茉梨と兄さんとで食卓を囲んだ。
その頃にはとっくに一人暮らしをしていた翼は食事の時間だけはアパートから実家へと一時帰宅していた。
──料理が壊滅的 に出来ないので。
兄の翼は文武両道で品行方正だが…その反面料理が壊滅的に出来ない人なのだ。
カップ麺くらいしかまともに作れない。
煮物は焦がす、砂糖と塩を間違える、1│2カップの所を何をトチ狂ったのか、カップ2杯入れる、と言うボケ?をやらかす。
何とナニを入れたら紫色でヘドロ状で「キェェーーッ!」とかの雄叫び?悲鳴?が聞こえるシロモノが出来るのか…道明寺翼の七不思議である。ミステリーだ。
…掃除や洗濯はそこまでではないのだけれど。
兄が母に料理を習い始めた時は7歳の時で…その頃から料理下手だったようで…砂糖を塩を間違える所から始まって、分量以上に水を入れすぎて薄くなった所にボトボトと何の躊躇いもなく、醤油を流し入れ、“しょっぱいな”と思ったら砂糖をドバドバ…!
それはそれはもう…お母様も怒る訳である。
「食べ物で遊ぶな!」と。
「?」と小首を傾げるちび反町は可愛かった──とデレッとなるお母様に本気で引いたものだ。
監視が居てさえ、それなのだ。
監視も見届け人もいない男の一人暮らし…「キェェーーッ!」って悲鳴が聞こえる料理──否、断・じ・て・!あれは!料理ではない。
もっとこう…おぞましいナニカだ。
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「……。」
「……。」
暫しの沈黙の後。
「…料理は料理上手な奥さんに任せるよ。
代わりに買い出しとか掃除や洗濯とかはやるから」
…まあ、パンケーキを作ろうとして水色の“スライム”を作り出す摩訶不思議な錬金術を見せる兄にしては賢明な判断ではあった。
他にもあるぞ?
素麺を茹でていたら何故かメレンゲになってて…ちょっとしょっぱい生クリーム代わりにショートケーキの上にホイップクリームとして使うことにしたとか(この時は珍しく?食用に耐えたのでお祝いにちょっと豪勢なご馳走にした)。
カレーを作ろうとして紫色の「キェェーーッ!」って悲鳴がヘドロから聞こえたりして…。
肉じゃがやハヤシライスでもこの「キェェーーッ!」状態になる。
オムライスを作った時なんかはボコ、ボコォッ!と気泡?が起きて卵の黄色とケチャップの赤色が混ざって橙色の沼地が出来上がる。
…試しに千切ったパンを放り込んだらジュゥッ!と音を立てて跡形もなく溶けて消え去った。はい、硫酸決定ー!アウト!!
永○園のチャーハンの素を使っての料理なら──そう思った時もありました。ハイ。
卵を溶いて油を引いたフライパンの上でご飯と卵、チャーハンの素を加えて炒めるだけ…そう思っていた。道明寺家の家族の誰もが。
……なんでアンナコトになるのかねー?
道明寺家の創設以来?の謎である。
ドカーンッ!と爆発しました。
え、なんで!?
油が跳ねた、とか引火したとかのジャンルを飛び越えている!
…味噌汁を作ったときは…ああ、もう恐い……っ!!
…じゃあ、サラダは?
……。
……ふっ。
その場合は包丁がすっ飛ぶんだ。
──え?何言ってるか分からない…?
兄さんが包丁を持って構える→野菜を切ろうとする→すっ飛ぶ。
…いやいや、冗談じゃなくて本当に。
何故かツルッと滑って壁に刺さっているのだ。
最早、芸術的なほどに。
家庭科の授業でもしばしば同様の事態が起きて…学生時代は悪い意味でその名は知れ渡っていた。
“破壊神”とか、“混沌創造者”とか…変な二つ名を付けられて。
友達は多い方で…妹としては安心したものだが…そんな“やらかし”を聞かされる度に恥ずかしい思いを幾度もした。
料理さえしなければ他は優秀なのだ。
運動も勉強も出来る方。
昔から身体を動かすことも本を読むのも好きだった兄さんはそれはそれは多趣味であったが──まあ、最近は釣りとボーリングに付き合ってその帰りにレストランに寄ったりとデートしたり、友人と出掛けたり…と活動的だ。
…それは万理も同様だが。
剣道部と水泳部の兼任でほぼ幽霊部員の万理だが…先方の都合でその日の撮影が流れる時も稀にあるので─…その時に時々剣道部へ行ったり、水泳部に行ったりしている。
本に関しては兄の翼ほどではないがそこそこに嗜む。
ジャンルは雑食。
冒険モノや恋愛モノ、ロングセラー本、反対にマイナー本も読破数は少ないがハードカバーだろうとソフトカバーだろうと関係なく読む。ラノベや漫画も好き。
友人にテイルズ厨の腐女子が多く、新作のソフトが出ると良く布教される。ので、ゲームもそこそこ嗜む。
運動神経抜群の同級生に“お姉様”呼びされる173㎝の長身に兄の翼同様好成績であり、情が深くお茶目な一面もある黒髪美少女…その顔立ちは中嶋美伽似の正統派美人。
彼女を16歳の頃に戻した顔立ちで…兄妹並ぶと眼福眼福☆なのだか。
……。
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澤谷弥(さわたに わたる)
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