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プロローグ:道明寺万理と言う女
ちゃぽーん☆
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「ふぅ~~~っ。」
「気持ちいいでしょ?オズさん♪」
「ああ──と言うかなんで一緒に入っている?心は旦那に…とか言ってなかったか?」
「いやいや…風呂の説明しなかったらオズさんそのまま入ろうとしただろ?」
「…俺みたいな庶民はちょっと大きい街の銭湯くらいしか行かねーんだよ。
それにあんたの故郷みたいな習慣?もないしな」
「掛け湯大事!それにオズさん何日も風呂に入ってないんだろ?汚い!浄化で誤魔化されないよ!?」
…そのまま掛け湯もせずに入ろうとしたオズロンを慌てて押し掛け説明したのが先程だ。
ん?なんで知ってたのか…って?
それは勿論監視──透視スキルで確認して(使い方が分からなかったりした時に説明をするため)慌てて転移で押し掛けたのだ…危なかった。
もう後数分で湯船に入る所だった。
「分かった分かった。…ったく。口煩いお嬢さんだ」
「──オズさん?」
ギロッ、睨まれたオズロンは肩を竦めた。
「…それにしてもこの風呂も万理が作ったとはな~。
万理は故郷で一体どんなことをしていたんだ?」
「モデル──と言っても分からないか…まあ、早い話が流行りの服をプレゼンする仕事かな?そんな事をしていたな…学校に通いながら」
「学校って言うと王立学院とかそう言う…?」
「ああ。
私の故郷は教育に力を入れていてね…庶民から上は皇族、貴族、名のある商人の子女まで学校に通うのが習わしなんだ。」
「それって何歳から?」
「6歳から6年、12歳で小学校を卒業して中学校に上がって3年、15歳から3年間通って高校を卒業…それ以降も学びたい人は大学や専門学校に通う。」
湯船に浸かって、オズロンの逞しい胸板に背中を預けるように腰掛けて万理はざっと日本の教育について説明をする。
中学校を卒業するまでが義務教育で、親は子供を学校に入れないと虐待と見做され児童相談所が介入してくる──とそこまで説明すると驚かれた。
「それだけの事で国が介入してくるのか?」
「うーん、一応国の機関だけど…どちらかと言うと民間なんだよね~。恫喝や脅迫に屈する職員もいるけど……そんなのはマスコミ──情報局が出張って翌日には新聞にその事がつまびらかに書き知らされて…トップの入れ替わりとか、批判とか、社会的抹殺をされるな」
この世界にマスコミもテレビ局もない──が、情報局と新聞は存在する。
情報局はその土地土地に存在する情報を集積し、集約した情報を国へと流す国営の情報機関だ。
…まあ、「新聞」と言う形で庶民へと情報を流す事もする表向き中立とされている。
これら「情報局」は各国にあり、平民でも王立学院へ特待生で通えるほどの一芸に秀でて居れば職員へとなれる。
王宮に勤めるか、「情報局」に就職するのか─…はたまたそれ以外か。
「…農民はどうする?畑や家畜の世話には子供の手も居るだろう。」
「うーん、農家は知らないな~知り合いにも農家の子は居なかったし。
…でも、ま。
そんな子も学校には通うな…それに機械の導入で学校へ通っている間は何とかしているんじゃないかな?
」
「…機械?」
「あー、魔力を必要としない金属と鉄の混合物?かな
…説明が難しいのでパス」
「…パスとは?」
「スルーで」
「……。」
「……。」
説明が面倒、と顔に書いてある。
…オズロンは沈黙した。
パスも機械も通じない──いや、異世界にだって学者はいるはず!…まあ、万理自身も機械には詳しくない。
鉄や金属の塊がどうして動くのかとか説明しろと言われても出来ない。
「自動車」や「飛行機」は知っていてもそれがどのように作られ、動いているのか…とかは説明を求められても答えられない。
…ただ、「魔法」ではなく「科学」が進んだ国、とだけ説明した。
「……それで、万理はなんでその…、故郷からここへ…?」
「出張しろって言われた」
「モデル?」
「あ~、違う。
…まあ、ノーコメントで。」
神との対話を初対面の男に話した所で信じられる訳がない。
目的はあるが「出張」の内容は言えない。
話せないこともないが話すつもりはない──少なくとも、今は。まだ。
故郷に旦那を置いて何らかの仕事をしに来た──しかもこんな魔障の森の奥深くに小屋……コテージを建ててまで。
怪しい。
そう思っても仕方はない─…だからと言って旅の目的も故郷については何処にあるか、とかは口にはしないが。
「…まあ、取り敢えずは冒険者登録、かな?
そろそろ街に下りようと思っていたんだよね~。
オズさん、明日街まで案内してよ」
「……分かった」
万理との“情交”中ずっと彼女はオズロンを傷つける意図も騙し盗ろうとする意思もなかった。
…そもそもこのコテージの施設の充実っぷりに、オズロンの路銀を狙う必要性も感じない。
魔石に手を翳すと自動で水が出てくる流し台や冷蔵庫と言う食品を冷気で保存する箱型の魔道具や、深く広めの浴槽、シャワー…その全てが魔石に手を翳すだけで温度調整も水量調整も出来るシロモノ。
おまけにベッドはふかふかで清潔な真っ白なシーツが掛けられ、見事に綺麗に繕われた花柄のカバーが掛かった布団もふかふか、すべすべ。
…もう、それだけでこの国の王城レベル。
一体どれだけの金が掛かっているのやら──いや、万理は自分で作ったと言った。
それが本当なら──彼女は凄い魔道具師と言う事になる。
加えて大工作業もお手の物──益々“万理”と言う名の少女の輪郭が朧気になる。
ほんの少し話しただけでも明るく朗らかな性格であること、困った人を放っておけない普通に善良な人柄…だが、目の前の彼女は──恐ろしく、強い。
それはアルラウネ殲滅戦に於いても良く分かるほどだった。
あの時依頼の一角猪を討伐し、気が弛み動転し、気付けば──アルラウネの群れに四方八方を塞がれていた。
『…おお~、すごいねぇ~。お兄さん、大丈夫?』
そんな呑気な掛け声と共にイラプションの魔法が無詠唱で放たれ、苦戦を強いられ、その粘液を大量に飲んでしまったオズロンを万理が救ったのだ。
……。
…実際は“取り寄せ”で日本の家電を購入し、それを魔力と同期させただけ、なのだが。
そうとは知らないオズロンは色々と思考を巡らせるのだった…。
…………。
「…ふぅ~、いい湯だったな?オズさん」
「…ああ」
時刻は20:14分─…ほんのりと暗くなった窓の外…二人仲良く風呂から上がると、乾燥魔法で髪の水気を飛ばす。
身体をタオルで拭いて新たな下着を身に付け、室内用の簡素な服装に身を包み、長い黒髪に櫛を通す。
「…綺麗な髪だな」
「そう?そろそろ切ろうと思っているけど…暑いし」
「切るのか?…勿体ない」
「もう7月だろう?暑くて暑くて敵わん…まあ、森の中に居る限りは涼しくて良いのだが、な」
全ての髪に櫛を通すと黒のヘアゴムでポニーテールにする。
これから晩御飯の準備だ。
手早くエプロンを身に付けてキッチンへと足を向ける。
「…着いてこなくても良いのだぞ?オズさんはお客さんだし」
「いや、色々と世話になったしな…なにか手伝えることはないか?」
「…じゃあ、野菜とか切れる?乱切りで良いのだけど。」
今日はカレーにしよう、と万理は即座に決めた。
無論、日本産カレールーの。ジャ○カレー。辛口。
今日と明日の分、それから兄の(転送)分も。
「お安いご用だ」
「そ。良かった…旦那が邪神級に料理が出来ない人でね…ふふ、助かるよ」
ちらり、と見ただけでも手際よくダイニングテーブルに置かれた野菜──人参やじゃがいも、玉葱の皮を包丁一本でするすると剥いていっている。
「じゃがいもと人参は乱切り、玉葱はくし切りで。出来たらそこのボールに入れといて」
「ああ。任せろ…こう見えて野営の時は自分で毎食作ってたんだ」
「そう」
特に興味はなく、自身は肉の処理に回っていた。
…因みに鍋は使った端から新たなものを毎回無限収納から取り出している。
自宅の冷凍庫や冷蔵庫を圧迫する手前までは鍋単位で作ろうと思う。
…大量に作って1ヶ月の半月ほどは前半で用意した料理を少しずつ消化していくのだ。
手抜きと言うことなかれ。
クックドゥも丸美屋も、マ・マーも等しく使います。
手早くぱぱっと出来るならその方がいい。
その中で野菜を増やしたり酢豚にパイナップルを入れたり、肉じゃがに空豆を入れたり…とほんの少しの冒険だけにする。
くれぐれも兄の翼のように塩を入れすぎたから砂糖を…なんて狂気の沙汰は起こさない。
「…その茶色いのはなんだ?」
「ん?…ああ、私の故郷の郷土料理みたいなものだよ。スパイシーで美味しい」
グツグツと深鍋で煮込む。
徐々に固形ルーが溶けて換気扇で熱気を飛ばしながらも掻き混ぜる手は止めない。
焦がさないように、均等に灯が通るように、と。
ガラムマサラやナツメグ、その他諸々の漢方薬に使用ているような薬の材料が混合されたルーが溶けスパイスのいい匂いが部屋中に広がる。
「…凄く食欲をそそる匂いなんだが…色が…な?」
「まあ、これ──カレーと言うんだけど…こんなものだよ。
各家庭、各店毎にも味も匂いも違うけれど…色々と応用出来るし、漢方薬──薬の原材料も含まれるから通じにも効くんだよ。
風邪くらいならぱぱっと治しちゃうな」
※※カレールーには様々な漢方薬の原材料が使われているので風邪くらいなら治る事もあります─絶対ではないので、内科に罹る事をオススメします─※※
「…お前の故郷って──」
「ノーコメントで。」
──少なくともこの世界にはない。
それを説明する気はない。
「日本」が何処にもこの世界にないのに─…何を説明しろと?
…今後パーティーに加わるかどうかも分からない赤の他人にそこまで話す気はない。
「…もうすぐ出来上がるから食器棚からオムライス皿を出して」
この世界に「オムライス」と言う料理はあった。
──但し王都の、貴族街に近い高級店のみ、だが。
卵は生鮮食品だ。
浄化魔法も個々人でばらつきがあるのだ。
衣服の汚れを落とすだけの者と風呂上がりかのような仕上がりに出来る者、食品や物の目に見えない毒素を完全消滅させられる強力な者と──かなりの振り幅がある。
それらは知識の量とイメージ──まあ、総じて幼少の頃より専属の家庭教師が就く貴族の子供の方が平民の子供よりも学がある。加えて貴族は幼少の頃より魔法を専属の魔術師から学ぶのでどうしても差が出る。
浄化の魔法が上手く扱えない平民は浄化の魔法が付与された魔道具を魔道具店からレンタルしたり、余裕のある店は購入したりするしか道はない。
レンタルする方が安く、買うと高い。
魔道具はちょっと質の良い家電(10万円~15万円くらい)、と思ってくれれば良いだろう。
…オムライスは平民向けの所にもレストランにもメニューとしてあるが、資金力の差と抱える浄化魔法を扱える料理人の質の差でもある。
味に差はそんなにない──と言いたい所だが。
未だ森からも出ていない森に籠りきりな万理にこの世界のレストランの味は例えオムライスでも与り知らぬ所である。
「気持ちいいでしょ?オズさん♪」
「ああ──と言うかなんで一緒に入っている?心は旦那に…とか言ってなかったか?」
「いやいや…風呂の説明しなかったらオズさんそのまま入ろうとしただろ?」
「…俺みたいな庶民はちょっと大きい街の銭湯くらいしか行かねーんだよ。
それにあんたの故郷みたいな習慣?もないしな」
「掛け湯大事!それにオズさん何日も風呂に入ってないんだろ?汚い!浄化で誤魔化されないよ!?」
…そのまま掛け湯もせずに入ろうとしたオズロンを慌てて押し掛け説明したのが先程だ。
ん?なんで知ってたのか…って?
それは勿論監視──透視スキルで確認して(使い方が分からなかったりした時に説明をするため)慌てて転移で押し掛けたのだ…危なかった。
もう後数分で湯船に入る所だった。
「分かった分かった。…ったく。口煩いお嬢さんだ」
「──オズさん?」
ギロッ、睨まれたオズロンは肩を竦めた。
「…それにしてもこの風呂も万理が作ったとはな~。
万理は故郷で一体どんなことをしていたんだ?」
「モデル──と言っても分からないか…まあ、早い話が流行りの服をプレゼンする仕事かな?そんな事をしていたな…学校に通いながら」
「学校って言うと王立学院とかそう言う…?」
「ああ。
私の故郷は教育に力を入れていてね…庶民から上は皇族、貴族、名のある商人の子女まで学校に通うのが習わしなんだ。」
「それって何歳から?」
「6歳から6年、12歳で小学校を卒業して中学校に上がって3年、15歳から3年間通って高校を卒業…それ以降も学びたい人は大学や専門学校に通う。」
湯船に浸かって、オズロンの逞しい胸板に背中を預けるように腰掛けて万理はざっと日本の教育について説明をする。
中学校を卒業するまでが義務教育で、親は子供を学校に入れないと虐待と見做され児童相談所が介入してくる──とそこまで説明すると驚かれた。
「それだけの事で国が介入してくるのか?」
「うーん、一応国の機関だけど…どちらかと言うと民間なんだよね~。恫喝や脅迫に屈する職員もいるけど……そんなのはマスコミ──情報局が出張って翌日には新聞にその事がつまびらかに書き知らされて…トップの入れ替わりとか、批判とか、社会的抹殺をされるな」
この世界にマスコミもテレビ局もない──が、情報局と新聞は存在する。
情報局はその土地土地に存在する情報を集積し、集約した情報を国へと流す国営の情報機関だ。
…まあ、「新聞」と言う形で庶民へと情報を流す事もする表向き中立とされている。
これら「情報局」は各国にあり、平民でも王立学院へ特待生で通えるほどの一芸に秀でて居れば職員へとなれる。
王宮に勤めるか、「情報局」に就職するのか─…はたまたそれ以外か。
「…農民はどうする?畑や家畜の世話には子供の手も居るだろう。」
「うーん、農家は知らないな~知り合いにも農家の子は居なかったし。
…でも、ま。
そんな子も学校には通うな…それに機械の導入で学校へ通っている間は何とかしているんじゃないかな?
」
「…機械?」
「あー、魔力を必要としない金属と鉄の混合物?かな
…説明が難しいのでパス」
「…パスとは?」
「スルーで」
「……。」
「……。」
説明が面倒、と顔に書いてある。
…オズロンは沈黙した。
パスも機械も通じない──いや、異世界にだって学者はいるはず!…まあ、万理自身も機械には詳しくない。
鉄や金属の塊がどうして動くのかとか説明しろと言われても出来ない。
「自動車」や「飛行機」は知っていてもそれがどのように作られ、動いているのか…とかは説明を求められても答えられない。
…ただ、「魔法」ではなく「科学」が進んだ国、とだけ説明した。
「……それで、万理はなんでその…、故郷からここへ…?」
「出張しろって言われた」
「モデル?」
「あ~、違う。
…まあ、ノーコメントで。」
神との対話を初対面の男に話した所で信じられる訳がない。
目的はあるが「出張」の内容は言えない。
話せないこともないが話すつもりはない──少なくとも、今は。まだ。
故郷に旦那を置いて何らかの仕事をしに来た──しかもこんな魔障の森の奥深くに小屋……コテージを建ててまで。
怪しい。
そう思っても仕方はない─…だからと言って旅の目的も故郷については何処にあるか、とかは口にはしないが。
「…まあ、取り敢えずは冒険者登録、かな?
そろそろ街に下りようと思っていたんだよね~。
オズさん、明日街まで案内してよ」
「……分かった」
万理との“情交”中ずっと彼女はオズロンを傷つける意図も騙し盗ろうとする意思もなかった。
…そもそもこのコテージの施設の充実っぷりに、オズロンの路銀を狙う必要性も感じない。
魔石に手を翳すと自動で水が出てくる流し台や冷蔵庫と言う食品を冷気で保存する箱型の魔道具や、深く広めの浴槽、シャワー…その全てが魔石に手を翳すだけで温度調整も水量調整も出来るシロモノ。
おまけにベッドはふかふかで清潔な真っ白なシーツが掛けられ、見事に綺麗に繕われた花柄のカバーが掛かった布団もふかふか、すべすべ。
…もう、それだけでこの国の王城レベル。
一体どれだけの金が掛かっているのやら──いや、万理は自分で作ったと言った。
それが本当なら──彼女は凄い魔道具師と言う事になる。
加えて大工作業もお手の物──益々“万理”と言う名の少女の輪郭が朧気になる。
ほんの少し話しただけでも明るく朗らかな性格であること、困った人を放っておけない普通に善良な人柄…だが、目の前の彼女は──恐ろしく、強い。
それはアルラウネ殲滅戦に於いても良く分かるほどだった。
あの時依頼の一角猪を討伐し、気が弛み動転し、気付けば──アルラウネの群れに四方八方を塞がれていた。
『…おお~、すごいねぇ~。お兄さん、大丈夫?』
そんな呑気な掛け声と共にイラプションの魔法が無詠唱で放たれ、苦戦を強いられ、その粘液を大量に飲んでしまったオズロンを万理が救ったのだ。
……。
…実際は“取り寄せ”で日本の家電を購入し、それを魔力と同期させただけ、なのだが。
そうとは知らないオズロンは色々と思考を巡らせるのだった…。
…………。
「…ふぅ~、いい湯だったな?オズさん」
「…ああ」
時刻は20:14分─…ほんのりと暗くなった窓の外…二人仲良く風呂から上がると、乾燥魔法で髪の水気を飛ばす。
身体をタオルで拭いて新たな下着を身に付け、室内用の簡素な服装に身を包み、長い黒髪に櫛を通す。
「…綺麗な髪だな」
「そう?そろそろ切ろうと思っているけど…暑いし」
「切るのか?…勿体ない」
「もう7月だろう?暑くて暑くて敵わん…まあ、森の中に居る限りは涼しくて良いのだが、な」
全ての髪に櫛を通すと黒のヘアゴムでポニーテールにする。
これから晩御飯の準備だ。
手早くエプロンを身に付けてキッチンへと足を向ける。
「…着いてこなくても良いのだぞ?オズさんはお客さんだし」
「いや、色々と世話になったしな…なにか手伝えることはないか?」
「…じゃあ、野菜とか切れる?乱切りで良いのだけど。」
今日はカレーにしよう、と万理は即座に決めた。
無論、日本産カレールーの。ジャ○カレー。辛口。
今日と明日の分、それから兄の(転送)分も。
「お安いご用だ」
「そ。良かった…旦那が邪神級に料理が出来ない人でね…ふふ、助かるよ」
ちらり、と見ただけでも手際よくダイニングテーブルに置かれた野菜──人参やじゃがいも、玉葱の皮を包丁一本でするすると剥いていっている。
「じゃがいもと人参は乱切り、玉葱はくし切りで。出来たらそこのボールに入れといて」
「ああ。任せろ…こう見えて野営の時は自分で毎食作ってたんだ」
「そう」
特に興味はなく、自身は肉の処理に回っていた。
…因みに鍋は使った端から新たなものを毎回無限収納から取り出している。
自宅の冷凍庫や冷蔵庫を圧迫する手前までは鍋単位で作ろうと思う。
…大量に作って1ヶ月の半月ほどは前半で用意した料理を少しずつ消化していくのだ。
手抜きと言うことなかれ。
クックドゥも丸美屋も、マ・マーも等しく使います。
手早くぱぱっと出来るならその方がいい。
その中で野菜を増やしたり酢豚にパイナップルを入れたり、肉じゃがに空豆を入れたり…とほんの少しの冒険だけにする。
くれぐれも兄の翼のように塩を入れすぎたから砂糖を…なんて狂気の沙汰は起こさない。
「…その茶色いのはなんだ?」
「ん?…ああ、私の故郷の郷土料理みたいなものだよ。スパイシーで美味しい」
グツグツと深鍋で煮込む。
徐々に固形ルーが溶けて換気扇で熱気を飛ばしながらも掻き混ぜる手は止めない。
焦がさないように、均等に灯が通るように、と。
ガラムマサラやナツメグ、その他諸々の漢方薬に使用ているような薬の材料が混合されたルーが溶けスパイスのいい匂いが部屋中に広がる。
「…凄く食欲をそそる匂いなんだが…色が…な?」
「まあ、これ──カレーと言うんだけど…こんなものだよ。
各家庭、各店毎にも味も匂いも違うけれど…色々と応用出来るし、漢方薬──薬の原材料も含まれるから通じにも効くんだよ。
風邪くらいならぱぱっと治しちゃうな」
※※カレールーには様々な漢方薬の原材料が使われているので風邪くらいなら治る事もあります─絶対ではないので、内科に罹る事をオススメします─※※
「…お前の故郷って──」
「ノーコメントで。」
──少なくともこの世界にはない。
それを説明する気はない。
「日本」が何処にもこの世界にないのに─…何を説明しろと?
…今後パーティーに加わるかどうかも分からない赤の他人にそこまで話す気はない。
「…もうすぐ出来上がるから食器棚からオムライス皿を出して」
この世界に「オムライス」と言う料理はあった。
──但し王都の、貴族街に近い高級店のみ、だが。
卵は生鮮食品だ。
浄化魔法も個々人でばらつきがあるのだ。
衣服の汚れを落とすだけの者と風呂上がりかのような仕上がりに出来る者、食品や物の目に見えない毒素を完全消滅させられる強力な者と──かなりの振り幅がある。
それらは知識の量とイメージ──まあ、総じて幼少の頃より専属の家庭教師が就く貴族の子供の方が平民の子供よりも学がある。加えて貴族は幼少の頃より魔法を専属の魔術師から学ぶのでどうしても差が出る。
浄化の魔法が上手く扱えない平民は浄化の魔法が付与された魔道具を魔道具店からレンタルしたり、余裕のある店は購入したりするしか道はない。
レンタルする方が安く、買うと高い。
魔道具はちょっと質の良い家電(10万円~15万円くらい)、と思ってくれれば良いだろう。
…オムライスは平民向けの所にもレストランにもメニューとしてあるが、資金力の差と抱える浄化魔法を扱える料理人の質の差でもある。
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