悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちぁみ

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2章

あの日の風

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シュレイ・アデスは、特異性の魔力を持ちながらも別の能力の覚醒をする。
その覚醒が起こるのが、ビケの森の魔獣討伐大会だ。
シナリオでは2年生に進級して少し経った後に参加することになっていた。
いつも底ぬけに明るくひたむきな主人公であったが、この討伐大会には胸にある決意を抱えていた。それは、なんとしても大会で優勝を果たすこと。
実は、シュレイは母が亡くなった後しばらく貧民街で孤児となっていたが、教会で助けられ何度も命拾いをした。母からのささやかな愛情と教会からの親切を受けて、彼は女神の教えの生き写しのように人を憎むことを嫌い、どんな人やものにも愛を向けるようにと真っ直ぐに育った。最も、彼自身はそんな自覚はないだろうが…。
つまり、何が言いたいかというとシュレイは孤児の頃に世話になった教会に恩を感じているのだ。その教会は常に孤児が押し寄せ貧困が続き、切り盛りしていくのがやっとである。学園へ通っていても彼の心の中には、いつも教会の神父と家族と呼べる孤児たちがいた。
自分には何が出来るのか考えあぐねていた時、シュレイは大会の存在を知ることになる。魔獣討伐大会は、優勝…つまり最も早く森を出たペアは褒美が与えられる。それは、国王と謁見し2人の望みは1つずつ何でも叶える、というものだ。
シュレイは、自分が世話になった教会の支援をしてほしい、という望みを叶えて貰うために優勝を目指す。
しかし、シュレイは攻略対象の1人とペアを組み順調に進むかと思いきや、悪役令息シアンがみすみす見ているだけで終わるはずもなく…。
シアンはオーリーと協力してシュレイを1人にさせ、魔窟に閉じ込めてしまう。いくら主人公でも、1人で魔法を使うことも出来ないとなると絶対絶命だと思われた。だが、その出来事がきっかけでシュレイ・アデスの能力は覚醒する。

そう、つまり…シナリオ通りであれば悪役として自分はシュレイを魔窟に閉じ込めなければいけない。そうしないと最悪、シュレイの能力は永遠に覚醒しない可能性があるのではないか?
そこまでシナリオが変わると、流石にこの世界は全く別物のストーリーが出来てしまう可能性も考えられる…。それは果たして俺に良い効果をもたらすのか、それとも…?

「シアン、大丈夫?ボーッとして」

「…大丈夫だ」

「参加届、書けた?」

「ああ」

「ユラ先生、これお願いします」

「はーい、確かに」

魔獣討伐大会への参加届をイブリンが俺の分も集めて実技担当のユラ先生に渡すと、先生はいつもの溌剌とした声で返事した。
無事に参加届を出し、俺たちは職員室を出る。

「シアン、1限自習になったんでしょ?」

「なんで知ってるんだよ…」

「まぁ風の噂?」

「お前の風の噂って何処からくるんだ」

「自習ならさ、サボっちゃおうよ」

「いや、しばらく停学になってたのに復帰早々サボるのはさすがに…」

「あーもー、シアン頭硬すぎ!もう決定ね!」

そう言ってイブリンは、俺の肩を掴みあろう事か急にお姫様抱っこをして走り出したのだ。

「おっおい!おまえっこのっ…!離せっ!おい!!!せめてこの抱え方はやめろっ!!!!!」

まるでこいつは聞く耳をもたず、どこへ向かっているのか…笑って走り続けた。

学園の校舎から離れて、連れて来られた場所は、いつだったか来たことのある草原だった。

草原の中心には大木が1本立っていて、その影になっているところにようやく体を下ろしてもらえた。

「ふぅ…やっぱりさすがにお姫様よりかは重いな」

「ふん、勝手に抱えてきたくせにどこぞの女と比べるとは喧嘩売ってるのか?」

「あっ、いや、違う違う。お姫様っていうのは俺の妹。よくこう抱えて遊んでたから」

「そうか。…いや、だとしても失礼だなお前…」

「ふっ…あはは。そっか、ごめんね。あははっ…」

何故か分からないがこいつのツボにハマったのか、急にイブリンが笑った。ごめんね、と言いつつ笑っていた。

「お前、変な奴」

「いやね、嬉しくて…。シアンは怒ってるけどさ、なんかそれが俺は嬉しいんだよ。不思議だよなぁ…」

「…ああ、ほんとに変な奴だ」

「これからもたくさん、見せてね。怒ったり、喜んだり、笑ったり、悩んだり…そういう色んな表情、見たいんだ。好きな人なら尚更」

俺の両頬を大きな手で包んで、イブリンはそう呟いた。

「…何悩んでるの?」

「分かるのか?」

「分かるよ。見てたらね」

見てわかるのは、俺が好きな人ってやつだからなのか…?
そう考えると、また胸の中に気持ち悪いような気持ちいいような生暖かさが溢れてきた。

「……お前、言ったろ?俺が求めたら、何だって手伝うって。だから、俺が…お前を呼んで助けを求めたら、その時にそうしてくれ。今は、大丈夫だから…。勝手かな?」

「…ううん、勝手じゃないよ。シアンにしては及第点かな。それに、危なくなったら否応なしに助けるから大丈夫」

「お前…」

「まぁ落ち着いて!はい、気持ちいい風だから少し寝ようね。子守り唄歌ってあげるよ」

そう言って、イブリンは俺の肩を抱いて横に寝転がせた。

「いらん。別に眠くないし」

「でも気持ち良くない?シアンと出会ったあの日もこんな風に気持ちいい日だったよね」

左腕を枕にして空を見る俺の右隣にイブリンも寝転がった。

「そうだったか?覚えてない」

「ふふっおかしいな。シアンは記憶力いいはずなのに。そういえば、右目、眼帯外さないままなんだね」

「ん?まぁな。目立つし」

「残念。俺は綺麗で好きだから…」

イブリンは砕けた笑顔を見せて、左手で俺の右手を握った。

「おい、手…」

「ダメ?」

「……はぁ」

じっと目を見られて、なんだか俺は気まずくなって目線を外した。ダメとは言えなかった。

「頑張ろうね、大会」

「ああ…」







------------------------------


魔獣討伐大会当日。

ビケの森へやってきて、早速ユラ先生の話が始まった。

「皆さん、おはようございます!今日は、魔獣討伐大会当日です!ご存知の通り、今年は特例として1年生が例年よりも早く当大会に参加することになりました。なんと、勇気あることに1年生からは3分の2の生徒が参加することとなりました。怖気付くことなく、挑戦する姿勢…本当に素晴らしい限りです!さて、私からは当大会の説明をさせていただきます。今各ペアにお渡ししているものは、地図と魔石です。地図には、コースが3つ書かています。出口に早く着くコースほど魔獣が多いので、どのように向かわれるかはペアでじっくりお話ください。もちろん、このコース以外に自分たちで自主経路を見出すも良しです♪また、星マークが書かれている所に注目してください。星マークの場所には魔法陣が貼られており、棄権する場合は魔法陣の中で呪文を唱えてください。直ぐに森の外へ移動することが可能です。そして、1番注意していただきたいことなのですが、近寄ってはいけない場所があります。見てわかる通り、ドクロマークが書かれてあるところです。ここは、非常に強力な魔獣が眠っている魔窟なので、絶対に入らないように注意してください」

(いわゆるフラグか…?この魔窟がシアン・シュドレーがシュレイを閉じ込めたって場所だよな…)

「そしてそして!大会では特別、魔石の使用が認められています。皆さん、1つしかお渡しいたしませんので使うときは慎重にお使いくださいね。また、ルールに関しては至って簡単です。棄権することなく、森から外へ出ること!早いもの順で順位は決まりますよ。1年生に関しては、今回の大会は試験でもあります。棄権したとしても進級できないことはありませんが、出来るだけ頑張ってみましょうね!」

ユラ先生が絶好調でそんな話をしていると、俺とイブリンの元に魔石が入った袋が回ってきた。

「一応…持っておくか?」

俺はチラッとイブリンの顔を見て言った。

「必要ないよ。持ってたら危ないし」

「危ない?」

「目、弾け飛んだら大変」

「あ、あぁ…なるほど。別に近くに置いてるだけなら問題ないけどな」

「でも結局必要ないから」

そう言ってイブリンは他のペアに魔石の袋を回した。

「では、今年も優勝者へのご褒美のお話をしましょう!例年通り、大会優勝者へは国王陛下との謁見と陛下から2つの望みを叶えて頂けるという、大変光栄なご褒美を頂けますー!あっ、そろそろお時間ですね。皆さん、森の入口の前に並んでください。カウント始めます!」

入口と言われた付近にぞろぞろと人が集まる。森を囲うように魔法陣が貼りこまれているが、スタートする時は入れそうな空間だけ魔法陣を解除するのだろう。ざっと見て、参加人数は250人くらいは居そうな感じだ。大勢を見ていると、たまたまシュレイを見つけて目が合ってしまった。横にはユーリアスがいて、やはり2人で組んだのだなと思った。

「シアン、絶対に俺から離れないでね」

イブリンは俺の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。俺は身を任せるように力を抜き、軽く頷いた。

「3、2、1!スタート!」

どこからかゴーンゴーンと鐘の音が鳴ると、魔法陣が一定の間隔だけ解除され、生徒たちが中へどんどん入っていく。
いよいよ魔獣討伐大会イベントが始まる。




















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