悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちぁみ

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2章

魔窟

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「シアン、どのコースで行く?」

ビケの森へ入り、イブリンが地図を広げて聞いてきた。

「…2コースで行こう」

「えっ…2コース?…分かった」

「行くぞ」

「待って。シアン、手」

イブリンは手を前に出してきた。

「?」

「ここからは手を繋ごう。はぐれないようにって言うのもあるけど、いざって時そのほうが魔法も使いやすい」

「…わかった」

周りに人がいたが、イブリンの言うことも最もなので言うことを聞いて彼の手に自分の手を重ねた。

そして、俺とイブリンは2コースを辿り歩みを進めた。




-----------------------


森の中は日中にも関わらず、日の出前のような暗さが続き、どこもかしこも木に覆われている。それに、まだ8月にも関わらず、白い息が出るほどの寒さもある。本当にまるで別世界のようだ。

「寒くない?」

「大丈夫だ」

「手、震えてる。ちょっと待って」

イブリンはブレザーを脱いで俺の肩に掛けてきた。

「要らない。お前だって寒いだろ」

「大丈夫。知らないの?エルネは比較的寒い国なんだ。だからこれくらいの寒さどうって事ない」

「……はぁ。どうせ何言っても押し通すんだろうな」

「ふっ…そう思うなら、もう何も言わずに着ておいてください」



<ガサガサッ>

後ろの草むらから音がした。
魔獣かと思い構えたが、違った。

「久しぶりだな!シアン…と、イブリンも」

「オーリーもこの大会に参加していたのか」

「そ。2年に早く進級できんなら、いい事尽くしだろ」

「ペアは誰なんだ?」

「…ご無沙汰しております。シアン様」

オーリーの隣に現れたのは、ハルノだった。どうやらこの2人で今回は組んだらしい。

「そうか…。俺がイブリンと組んだから…。ハルノ、悪いな」

「いいえ。ペアは強制するものではありませんから。それに、幸いとして身近に相性が合う方がいましたし」

「そうだ、気にするな!」

オーリーはハルノの肩に腕を置いて言った。

「…かと言って、相手の選定を間違えてしまったかもしれませんが」

ハルノが小声で呟いたことは、聞かない振りをした。

「お前たちも2コースで行くのか?」

「ああ。1番手っ取り早いコースだしな」

俺が聞くと、すかさずオーリーが答えた。

「だが、魔獣の頻出率が高い」

イブリンが言う。

「そこで、だ。君たちは優勝を狙っている訳じゃないよな?それなら一緒に協力して外へ出ないか?」

「シアンがいいなら」

「……いい考えだ。そうしよう」

俺はオーリーの提案に乗ることにした。
そうして、俺とイブリン、オーリーとハルノの4人で協力して外へ出ることになった。

俺たちは、しばらく5分程道なりに歩いてきたが…

「なんだかかなり不穏な空気になってきたな」

眉間に皺を寄せ、オーリーが言う。

「今のところ魔獣に出くわしてはいないが、さすがにそろそろ出てくるだろう。いずれも俺たちは魔獣と渡り合ってきた経験なんてないんだから、現れたらとにかく落ち着いて行動しよう」

イブリンが真剣な口調で言い、俺たちは揃って頷いた。その時…


<ドッシドッシドッシドッシ>

背後から地面が揺れるような大きな足音が聞こえ、俺たちは一斉に後ろを見た。
5頭の魔獣が凄まじい勢いでこちらへ向かってきていた。体つきは熊のようだがそれよりも大きな図体で顔は狼に似ており、目は獲物を逃がすまいと赤く光らせている。

「あれはグリアンという魔獣ですね。非常に気性が荒く、一頭でもそこそこ強い魔獣です」

「冷静に言ってる場合か。もう少しでここまで来るぞ」

ハルノの冷静な説明にオーリーが突っ込みを入れる。

「どうする?戦う?逃げる?」

「そりゃ戦うだろ!」

イブリンの問いかけにオーリーが元気よく答えた。

「逃げないし、戦いもしない」

「はぁ!?どういう事だ?シアン」

オーリーがすかさず問いかけてきた。

「グリアンは気性は荒いが、人間への執着はそこまでない。俺たちが視界から見えなくなれば済む話だ」

「いや、でも視界から見えなくなるってどうやって?」

「俺に策がある。言う通りにしてくれ」



俺とイブリン、オーリーとハルノは杖を振るい呪文を唱えた。


「「コルター」」


魔法を使うと、一斉に周りの木の幹に傷が入り幹肌が剥がれていった。
すると、辺りを埋め尽くす程の甘い香りが充満した。

「この香りは…」

オーリーがハッとするように言った。

凄まじい勢いで追ってきていた5頭の魔獣グリアンはこの香りがすると、急に走りを止め俺たちには目もくれずに木の方へ擦り寄っていった。

「ここら辺にクゥイの木があって助かった」

「クゥイの木…!?そうだ、この香りはクゥイの香り…」

オーリーが言った。

「クゥイの木の樹液は、非常に魔獣に好まれる。香りを嗅いだだけでも、魔獣たちは惹き付けられ樹液のことしか考えられなくなる。これでしばらくは俺たちが見えない。他の魔獣の足止めにもなるだろう。行こう」

「さすがだね、シアン」

イブリンがまるで初めから分かってたみたいに綺麗に笑った。

「でも、よく周りにあるのがクゥイの木だって分かったな。クゥイの木の特徴って驚くほどないから、一般的な木と見分けはつきにくいって聞いたぞ」

「…ただの勘」

なんて言うのは嘘だ。
ここら辺がクゥイの木に囲われていることは知っていた。なぜなら、俺は今シュレイと同じシナリオを辿っているから。そう、これはまさに前世の時にシュレイ視点でやったゲームの通りのことをしているのだ。

と、なるとこの後もそこまで難しいことをする訳ではない。自分がシュレイに置きかわって進んでいると思えば上手くいくはずだ。








------------------------------



ポタポタと僅かな水滴が落ちる音がどこからか聞こえる。手足を縛られ自由がきかず、僅かに灯る火のみで視界は保たれている。

「…なぜ、シアンさんがここに?」

後ろで同じような状況に陥っているシュレイが尋ねてきた。

「さぁな」

ここは魔窟だ。
俺とシュレイは共に魔窟に閉じ込められたのだ。




_______遡ること30分前。


俺とイブリン、オーリーとハルノは順調に道を進んでいた。

「ここまで、確かにあまり魔獣に出くわさなかったな」

「そうですね。現れたのは、小さくて比較的弱い魔獣ばかりで助かりました。クゥイの木の香りのおかげもあるでしょう」

オーリーとハルノが言った。

「でも、せっかくの魔獣討伐大会だから強くてデカい魔獣と戦いたい気持ちもあるところだが」

「そもそも、俺たちが勝手に魔獣たちの住処を荒らしに来てるんだ。出来れば戦わないに越したことはない」

俺がそう言うと、「それもそうだ」とオーリーは小さく頷いた。

「…ところで、なんだか霧が濃くなってきましたね」

ハルノが辺りを見回して言った。
確かに先程から霧が少しずつ濃くなってきて、先の道が見えにくい。

そう思っていると、グイッと腕を引っ張られた。

「シアン、絶対離れないで」

イブリンが真剣な口調で囁いた。

(…こいつは気づいてるんだな。でも…悪い)

俺はイブリンの腕を振り解き、すぐに木々の中へ入った。

「シアン!?どこだ!?…シアン!!」

イブリンは辺りを見回して叫んだが、この濃い霧の中だ。それも鬱蒼とした木々に入ってしまえば、探すことは難しい。

俺は呼ばれる声を背に、ひたすら獣道を走った。霧は酷かったが、事前に用意していた方位磁針で方向感覚を失わずになんとか魔窟まで来ることが出来た。

「ゲームでみた通りだな…」

どう見ても入ってはいけないオーラが出ている洞窟だった。
そして、予想していた通り洞窟の前には手足を縛られているシュレイと4人の男たちがいた。

本来のストーリーであれば、あそこにオーリーと俺がいたはずだがあの4人に置きかわっているというわけか。

俺がやらなければシナリオ通りにいかないかと心配になったが、結局は誰かに置きかわってシナリオは進んでいくという訳か…。シナリオで、2コースを進んだのはシュレイと攻略対象の1人、そしてシアンとオーリーの2組だけだった。2コースでは、オーリーと悪役令息シアンは霧を発生させてシュレイと攻略対象を離れ離れにする。そうして、魔窟の前までおびき寄せるとシュレイを魔窟の中へ閉じ込めてしまう。だが、今回シュレイたちは3コースを選び、2コースを選んだのは俺とイブリンたちだった。すると、案の定ゲームの通りに魔獣を足止めし、何故か分からないが霧も発生した。

しかし、今シュレイが縛られている状況を見るに、置き代わることができたとしても、結局はシナリオ通りに進むし人物の役割も変わらないということなのか?

だとしたら、なんという面倒くささだ。
自分の悪役という役割は結局回り回ってついてくるということだ。このままでは、また何らかの方法で自分のせいになる可能性が大いにある。


「今から魔窟に入れる。死んで恨むんならシアン・シュドレーを恨むんだな」

(うぁぁぁやめろぉ…シアン・シュドレーって言っちゃってる…)

思わず眉間に手を当てた。

「はぁ…」

俺は1つ息を吐いて、立ち上がり木の影から出た。

「君たち、一体何をしているんだ?」

「…なっ…シアン様!」

4人の男たちの顔を見ると、なるほど反逆派で前回の事件の時も見ていた顔ぶれだった。彼らは一斉にまずい、という顔つきをしていた。

「何故彼を縛っているんだと聞いている」

「そっ…それはマウロ様の指示で!」

「ほう…。では先程、私の名を使っていたのは何だったのだ?恨むなら、シアン・シュドレーを…と言っていたが聞き間違いか?」

「当たり前です!私たちはそんなこと…」

「直ちにシュレイ・アデスの手足を解け。そして、マウロにもう余計なことはするなと伝えろ」

「はっはい!分かりましたっ!…なーんて、言うこと聞く訳ねーだろ」


「「カプトゥーラ」」


2人組が魔法を使い、俺の動きを封じた。


「くっ…」

そして、手際よくもう1人の男が俺の懐から杖を抜き取り、縄で腕と足を縛る。

「おい、いいのかよ。シアン・シュドレーまで魔窟に入れるのか?マウロ様にはそんなこと指示されてねぇだろ」

「いいんだよ。こいつだけは許せねぇ」

4人の中で1番ガタイのいい男が俺を憎々しげに見てきた。

「でもよ…」

仲間内で意見があっていないようだ。
1人が気に食わない様子で口篭る。

「まぁ許してやれよ。ほら、あいつ…シアン・シュドレーが彫刻損壊事件で嘘の証言したから恋人が処分食らっちまって恨んでんだよ」

(なるほど…あの6人のうちの1人のね…。いや、逆恨みにも程があるだろ…)

「はぁ…もういいから、魔窟に放り込むならさっさとやれば?」

俺は煽り立てるように、ガタイのいい男を睨みつけた。

「はっ、ならお望み通りにしてやる。お二人さん、さようなら」

「なっ…いっ、いやっ!やだ!」

シュレイは震えながら抵抗する。
そして、思った通り俺はシュレイと一緒に魔窟の中に入れられ、唯一の出口は彼らが大きな岩を魔法で持ち上げ塞いでしまった。

幸いにも、男たちが松明を壁に立てかけたので火によって視界は良好だ。しばらくシュレイはめそめそと泣いていたが、俺はこれからのことを色々と考えた。

狙い通り俺も魔窟へ閉じ込められたから、後はシナリオ通りこの主人公が覚醒するのをただ指を咥えて見ていればいいだろう。
そうやって無事に脱出できれば、どうやっても俺がシュレイを閉じ込めたとか、悪役にでっち上げられることはないだろうし…。

(捨て身だったがまぁここからは安全だろう。頼むぞ、主人公…)

「で、泣き止んだか?」

「うっ…グスッ…はい……」

「お前、ナイフ持ってるよな?」

「あっ!そういえば、サイラスから護身用のナイフ持たされてたんだ」

「じゃあ、早くそれで縄を切れ。私のも頼む」

「はい!」

シュレイはそう言って、パンツの裾を上げてソックスガーターからナイフを取り出し、縄を切り始めた。


<ヒュウウウ~~>

後ろから不穏な風が吹き、俺は後ろを見た。どこまでもどこまでも暗い闇が広がっており、俺はゴクリと唾を飲んだ。

このポケポケ主人公とやっていくのは不安で仕方ないが、何とかこのイベントを成功させなければいけない。



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