【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第5話 無自覚な番と、王の執着

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それからも、リクはほとんど毎日姿を見せた。
澪の好きな花や、好みのスイーツを携えて。

開店前の店先で澪を待ち伏せることも、もはや日常の風景と化していた。

「……どうして、いつも私の好みわかるんですか」

呆れて尋ねる澪に、リクはいつもと同じ言葉を返す。

「番だから」

「……また、それ……」

何度言われても慣れないのに、リクの表情はまったく揺らがない。
むしろ確信に満ちた目で、まっすぐに澪を見つめてくる。

カウンター越しに差し出される贈り物の数々。
リクの指先が、そっと澪の手をかすめるたび――空気が、ほんのり甘く湿る。

(……これって、やっぱりアプローチ、だよね)

澪はふっと小さく笑った。
呆れながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。

(この人、本当に……一途なんだ)

そして、リクのアタックは、日を追うごとに甘く、猛烈さを増していった。



ある日の午後。
いつものように花束を差し出したあと、リクの手がふいに澪の腕に触れた。

「澪。……今日も、たまらなくいい匂いがする」

囁くような声と同時に、澪の腕をそっと引き寄せる。
そして自分の鼻先へと導き、深く、吸い込むように息を吸う。

熱い吐息が、肌にふわりとかかる気配と一緒に、かすかな唸り声のような音が聞こえた気がした。

「リクさん……っ」

周囲の視線が気になる。
でも、彼の動きは止まらない。

リクの指が澪の腕の内側を、ゆっくりと撫で上げる。その指先が触れるたび、身体にびりっと走る痺れ。
彼の瞳はじっと澪を見つめ、その瞳の奥には、獲物を見定めた獣の執着が宿っている。

「……もっと、触れたい。全然足りない」

切実な熱が指先から、声から、滲み出ていた。

澪の手を取り、自分の頬にそっと押し当てる。
ざらりとした感触。けれど温かくて、どこか安心する温もり。

リクの視線は、澪の瞳から決して逸れない。
その熱は、じわじわと澪の中に広がって――
気づけば、胸の奥がきゅっと高鳴っていた。

(なに、これ……どうして、こんなに……)

「これで、今日も頑張れるな」

満足げに囁いたリクは、ふいに澪の手の甲に口づけた。
まるで“自分の番”だと、他者に知らせるような深い意味があることを、澪は本能で悟る。

リクが店を後にしてからも、手の甲には彼の温もりと、甘くて濃密な匂いが残っていた。



カフェには落ち着いた時間が流れ、澪がカウンターで軽く息をついたそのときだった。

「……疲れてるのか?」

突然耳元に落ちた、聞き慣れた声。
はっと振り返ると、すぐそこにはリクの顔。

「リクさん……っ!」

いつの間に現れたのか。物音ひとつ立てず、まるで影のように忍び寄ってくる気配のなさに、思わず後ずさる。

だがリクは気にも留めず、わずかに身を屈めて澪を覗き込んだ。

すん、と鼻先を近づけると、彼の匂いがふわりと澪の鼻腔をかすめる。

「いえ……大丈夫です。ただ、少し立ちくらみしただけで」

「座れ。……水、持ってくる」

淡々と告げると、リクはすぐに給水機へ向かい、グラスを手に戻ってきた。

そして自然な動作で、澪の指先を包み込むようにそっと握る。

「……ありがとう、ございます」

礼を言った澪の手を、リクの親指がそっと撫でる。

「……お前の匂いが変わってきてる」

「え……?」

リクの瞳がすうっと細められる。
澪を捉えるその目の奥に、明らかな熱が宿っていた。

「甘い匂いで……身体が、俺を求め始めてる」

「っ……」

胸の奥が、じんわりと熱を持ち始める。
頭では否定したいのに、身体の反応はあまりにも正直だった。

「番の身体は、心より先に反応する」

「……なに、それ……」

信じたくないのに、信じてしまいそうになる。
彼の声も、眼差しも、あまりに真摯で――強い。

「俺は、いつまででも待つつもりだ……でも、限界はある」

彼の瞳が、ふいに欲望の色を帯びる。
獣が、牙を研ぐような静かな予感。その視線は、澪のすべてを見透かしているようで――甘く、危うい予告だった。
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