【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第10話 甘い毒

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「……いらっしゃいませ」

朝の光とともに、カフェの扉が静かに開く。
そこには、スーツ姿のリク。

いつもと変わらないはずなのに、彼の纏う気配が
明らかに違っていた。

理性の裏に潜んでいた“獣”の存在。
それが今は、隠せないほど露わになっている。

まるで、なにかの匂いを嗅ぎ取った獣のように、
リクの金の瞳がすっと細められた。

じり……と澪の肌をなぞるように、視線が這う。

(な、なに……?)

喉がきゅっと詰まり、心臓が跳ねる。
脚の奥から、じわ、と熱が湧き上がるのを感じた。

自分でも気づかぬうちに、身体が火照りを帯び始めて
――その感覚が引き金となって、澪の意識に、昨夜の“夢”が蘇る。

喉元に触れた舌先。
熱い息遣い。
甘い声で呼ばれる名前。

そして、首筋に刻まれた熱い印。それら全てが、鮮明な感触で蘇る。

(……ただの夢、なのに……)

頬がかぁっと熱を帯びる。
彼の指や唇の感触が、まだ肌に残っているようで。

リクの視線が、喉元から鎖骨、そして手首へとゆっくり下りていく。
まるで、夢の続きを辿るかのように――飢えた熱を孕んで。

(や、だめ……そんな目で見ないで……)

次第に脚に力が入らなくなる。
身体の奥が、じん、と疼いて夢と現実の境界が、曖昧になっていく。

「……澪。顔が赤い。熱があるのか?」

「えっ……そんな、こと……」

否定しかけたその瞬間、
リクの手が、そっと額に触れた。

熱い――
ただそれだけで、意識が揺らぐ。

さらにもう一方の手が、ためらいなく腰に添えられる。
服越しでと伝わる熱と重み。
包み込まれる感覚に、心臓が跳ね上がる。

(こんなに近くにいたら、だめ……)

「澪、もしかして……」

喉奥で震える、低く甘い声。
熱が込められていて、それだけで耳が痺れた。

「……本能が、目覚め始めてるんだな」

「な、何言って……!私、そんな、別に……!」

口先では否定しようとしても、
身体はすでに――何かを思い出して、反応していた。

呼吸が浅くなり、心が追いつかない。

「信じなくていい。けど……」

リクの瞳が、真っ直ぐに澪を捉える。
その視線には、獣のような熱と、どこか切実なものが滲んでいた。

「澪の身体は……俺を欲しがってる。自分でも、気づいてるだろ?」

「――っ」

ぞくん、と快感が背筋を這い上がる。

言葉ではなく、感覚がそれを肯定してしまう。
自分の中に眠っていた何かが、目を覚まし始めていた。

「……だって……私たち、恋人でもないのに……」

「関係ねぇ。“番”は、魂が決める」

リクの声が深く響く。
その言葉が、澪の奥底にじんと染み込んでいく。

ふらり、と澪の身体が揺れた瞬間――

「……座れ」

短くも優しい声とともに、
リクの腕がすっと澪を支える。

彼の顔がすぐ近くにある。
金の瞳が、柔らかく、けれど狂おしいほどの熱を宿して見つめててくる。

「だ、大丈夫……多分、寝不足で……」

「違う」

きっぱりと、リクが遮る。

「顔が赤い。瞳の潤み方も……匂いも、濃い」

(匂い……)

その一言に、なにかが崩れ落ちた。
言葉の意味よりも早く、身体が、それに応えてしまう。

リクはゆっくりとしゃがみ、目線を合わせた。
睫毛の奥で揺れる金色は、艶めいていて澪の心をかき乱す。

「澪……俺、もう少しで限界だ」

唇のすぐ近く、熱を帯びた吐息がかすめる。

その声は甘く、低く、危うい。
耳の奥に、じんと残って離れない。

(……だめ……これ以上は)

けれど、澪の中の何かが戻れないところまで来ているのを――自分自身が、一番わかっていた。




その日、カフェの隅ではリクが電話をしていた。低く落ち着いた声が空気を震わせ、何気ない会話のはずなのに、澪の胸はざわついた。

(……また、思い出しちゃった)

ただの夢。けれど、熱も声も、まるで現実のようで。
そして今も、その残響がリクの視線に重なって――余計に身体が反応してしまう。

堪らず、澪はそっとスタッフに声をかけ、足早にバックヤードへ向かう。
彼の視線に焼かれた肌が、未だにじんじんと熱い。

扉を閉め、鍵をかける。
壁に背を預け、熱を帯びた頬に手を当てる。

「……はあ……」

さっきの視線と熱。夢と現実の境界が曖昧になるほど、彼の気配が肌に焼きついて離れなかった。
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