【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第19話 揺れる心

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澪は、背中にふれるざらりとした感触に、ふわりと意識を浮上させる。
くすぐったいような、でも心地よくて背筋にぞくりと甘さが走る。

「……ふ……んっ……」

寝ぼけた声が漏れてしまうほど、背中を這うその舌は少し荒くて、まるで猫の舌ようなザリザリとした感触。

繊細な場所を丁寧になぞられるたび、微かな快感が肌に染み込んでくる。
舌先でゆっくり味わうように、肩甲骨の内側、背中の窪みまで執拗に舐められていた。

「リク、さん……朝から……なにしてるんですか……」

ようやく目を開けた澪が、寝返りを打って彼を見ると、リクは微笑んだまま、澪の頬へぴとりと唇を寄せた。

「おはよう。澪の匂いが、夜より甘くて……つい」

「……つい、って……」

思わず頬を染めると、リクは澪の髪をそっと撫で、今度は額にちゅ、と音を立ててキスを落とす。

「ごめん。でも、朝になると余計に触れたくなる。まだ俺の匂いがついてるか……確かめたくなるんだ」 

リクはさらに続ける。

「それに……目が覚めても澪がいるなんて、夢見たいで。現実か確かめたくなった」

低く掠れたその声は、心の奥までしみ込んでくる。
まるで、触れ合うたびに“好き”だと囁いてくるよう。

澪は何も言わず、彼の胸に顔をうずめる。この熱が、自分にとって、なくてはならないものだと、悟った瞬間だった。

けれど——
胸の奥にある小さな不安が、ふいに顔を覗かせる。

リクの深く優しい眼差しも、この温もりも……それが「感情」ではなく、ただの「本能」だとしたら?
彼の腕に包まれ、その温かさに満たされているはずなのに、胸の奥がひどく寂しい。

澪はそっと身じろぎをして、リクの腕の中から彼の顔を見上げる。

「……リクさん」

掠れた声で呼ぶと、彼の金色の瞳がふわりと開く。
眠気の残るその瞳は、一瞬で澪を捉え、優しく細められた。

「どうした、澪。……まだ、眠いか?」

「あの……その、番って……」

声に出した途端、言葉が途切れる。

"番って、好きとは違うの?"
"私は、本能の対象でしかないの?"

本当は聞きたい。
けれど言葉にできなくて、澪はふるふると首を振る。

「……ううん。なんでもないです」

無理に笑った唇が少し震えていたような気がする。
リクは、一瞬だけ眉を寄せたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
代わりに、澪の額へ静かにキスを落とす。

「……じゃあ、もう少しだけ、こうしていよう」

そう言って、再び澪を自分の胸元に抱き寄せた。
その体温に、安らぎと切なさがないまぜになる。
あたたかくて、優しくて、心地良いのに——
胸の奥に、小さな棘のような不安が残ったまま抜けない。

彼の胸に耳を当てると、鼓動の音が静かに響いていた。
それは、昨夜からは想像もつかないほどの穏やかさで、静かな愛情そのもののようだった。

(……"本能"じゃなくて、ちゃんと“好き”だったらいいのに。欲張りすぎかな……)

そんな想いが胸を掠める。
言えなかった言葉は、まるで小さな羽音のように心の中を舞っていた。
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