【完結】黒獅子の王は、運命を愛でる【獣人】

Sena

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第21話 胸を抉る、運命という名の刃

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カランコロンとドアベルが鳴り、店内に心地よい音が響く。

現れたのは、リクの親友・ライ。
軽やかな足取りでカウンターに近づくと、澪に屈託のない笑顔を向けた。

「よ、澪ちゃん。まだリクと“番”になってないんだって?」

一瞬、澪の手が止まる。冗談めかした口調だったが、その言葉は今の彼女にはあまりにも重かった。

「あの、番とか、本能とか……正直よくわからなくて……」

曖昧に答えた澪に、ライは「そりゃそうか」と笑いながら肩をすくめた。

「人間と獣人じゃ、恋愛の仕方も感覚も違うしね。オレたちは本能で惹かれる分、気持ちがあとから追いつく感じだし」

その言葉が、胸の奥にじわりと沈んでいく。
“やっぱり、違う”──そう思っていたことが、現実味を帯びて迫ってくる。

(リクさんにとって私は……ただの“対象”なのかも)

胸の奥に広がる鈍い痛み。
もしかしたら、全部“そういう仕組み”だけなのかもしれないという思いが、じわじわと入り込んでくる。

ライは気づかぬまま、笑顔で続けた。

「でもさ、リクから聞いたかもしれないけど──黒獅子って"運命の番"じゃないと子どもできないんだって。つまり、澪ちゃんだけが相手ってこと」

戸惑う澪をよそに、ライは続ける。

「マジで珍しいらしいよ。一生のうちに運命の番に巡り合えないやつも結構いてさ、それで黒獅子の数も減ってるんだって。だからさ、リクは超ラッキーなんだよ、澪ちゃんと出会えて!」

「……え?」

初めて聞く話に、思わず声が漏れた。

「だから、そろそろ番になっちゃえば?リク、澪ちゃんにベタ惚れだし」

気遣いのつもりで言ったのだろう。
けれどその言葉は、澪の世界を足元から揺るがせた。

(……“私だけ”……なの?)

それは、嬉しい言葉になるはずだった。

けれど「ただ子どもを作れるから」だとしたら──その理由が、たまらなく悲しかった。

(私は……“選ばれた”んじゃなくて、“決まっていた”だけ……?)

胸の奥に、冷たいものが流れ込んでいく。

肌の下を這うような違和感。自分が“誰かのために定められた存在”でしかないような感覚に、喉の奥がきゅうっと締め付けられる。

「ま、リクも早く子作りしたいだろうし、時間の問題かな!」

軽やかに放たれた言葉は、鋭い刃となって澪の胸を抉った。

記憶にあるリクの声、瞳、ぬくもり──でも、どこを思い出しても、“好き”という言葉はなかった。

(私のことは……ただ、本能に従っただけの存在なのかもしれない)

苦しさと切なさがごちゃまぜになって、唇をきゅっと噛みしめる。

気持ちで結ばれていたと、信じたかった。
でも、もしかしたら──恋に落ちたのは自分だけだったのかもしれない。
そんな現実が突きつけられたみたいに、胸が痛かった。

「私……何やってるんだろう」

小さく呟いた澪の声が聞こえていなかったのか、ライは気にせずに続ける。

「そうそう、今日はリク来れないって。澪ちゃんのこと気にしてたから、代わりに様子見に来たんだよね。
元気そうだったって伝えとくー!」

カラン、とドアベルが鳴り、ライが店を出ていく。
けれど、その音すら澪には遠く、痛みとして響いた。

(今日は……会わずに済んだ)

胸の内に広がる安堵。
しかし、それがまた違う痛みに姿を変える。

明日になれば、またあの優しさに触れてしまう。
そしてきっと、心を奪われてしまう。

(……逃げたい。あの人の手が、心に触れてしまう前に)

その夜、澪は最低限の荷物をまとめ、祖母の家へ向かう電車に乗った。

リクのもとを離れれば、匂いも、体温も届かない。触れられなければ、揺らがずにいられると思った。
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