真壁優志は結婚に向いていない

ちょろぎ

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真壁視点

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 賃貸営業なんて、やって来たお客様に内見のご案内をして契約する仲介業務がメインかと思っていた。
 実際にはクレーム対応、物件の維持管理、勉強会に資格の取得等多岐に渡る。
 別に事務仕事が苦手な訳ではない。営業だって出来ない訳ではない。ただ、やる事が多すぎるだけなんだ。
 同時に様々なお客様に対応しなければならない。いい物件は奪い合いになる。繁忙期は物件オーナーに内見希望の電話を掛けるのすら戦争だ。
 タイミングが悪いと全然繋がらなくて、お客様が苛々するのを感じて焦る。小さな焦燥が積み重なって、新人の頃はよく眠れなかった。

 満員電車に揺られ、今日も朝から疲れきりながら職場へ向かう。
 せめて都内に住んでいられたらもう少し余裕があるのに。
 家族に「実家に住め」と命令され、反抗するのも面倒で従ったせいだ。

 付き合いで購入した分譲マンション。古いけれどフルリフォームされていてお気に入りだった。
 通勤途中で必ずそのマンションの前を通る。
 見上げても、もう何処が自分の家だったか分からない。
 投資物件として利回りがいいのがせめてもの救いだ。



 元々一人称は「俺」だったのを、営業になった時に「僕」に変えた。

 仕事中は「私」を使うが、うっかり「俺」と言わないように普段の生活では「僕」を使うようになった。
 同じくうっかりなら「僕」の方が印象がいい。
 最初は違和感もあったが、徐々に慣れてきて今では柔らかい口調も板についた気がする。


 今日はモタモタしていたら、イチオシの物件を他店に横取りされてしまった。
 先週、上京するお子様の為に物件探しに来られて、残念ながらその時はご縁がなく、「また来ます」とお帰りになったお客様。

「オススメの物件みつかりました」と連絡し、わざわざ県外から足を運んでくださったのに。
 結局他の物件をご契約いただけたけど、あれは申し訳ない事をしてしまった。クレームに発展してもおかしくはない失態。
 こんなミスは久しぶりだ。
 失敗をいつまでも引き摺ってしまう僕は営業に向いていない。

 あぁ、久しぶりに山に登りたい。

 でも連休取れないとキツいし
 思い切り遊びたいが、男一人で何処で何をすればいいのだ。
 恋人でもいれば何処へでも出掛けられるが、そこは多分僕の行きたい所ではない。

 水族館に行ったとしても僕が見たいのはイルカのショーではなく深海魚だ。
 映画だって流行りの邦画に興味はない。
 ひたすら建築物が見たいし喉が渇いて休憩するのにわざわざカフェに入るのも面倒。
 そもそも恋人の分も支払いをする位なら一人の方がいいんじゃないか?でも一人だと行きづらい所もいっぱい⋯頭の中は堂々巡り。

 友達。そう友達が欲しいんだ。   
 出来れば休みが一緒で趣味と体力と金銭感覚が合う友達。
 一緒にいて気が楽で、喋らなくても気まずくならない人がいい。

 無理か。5億円欲しいって言っているのと変わらない位の無謀。
 誰かと出掛けたいのに絶望的に向いていない。
 一人になりたいのに一人でいたくない。

♢♢♢

 家で持ち帰りの仕事をしているが、どうにも捗らない。
 眠気を覚ますためにいつ購入したか覚えていない煙草を手に取り、スウェットのまま外に出た。

 寒さが緩んで新芽が出てきたな。
 今住んでいる実家は無駄に植物が生い茂っていて煩わしいったらない。
 僕には植えた草なのか雑草なのか区別がつかないから手入れにも時間がかかる。

 ぼんやりしていたらよく家の前をランニングしている男性が通り過ぎて行った。
 この先にある公園を一周してUターンしてくるのがお決まりのルートらしい。
 
 雑草を眺めているうちにさっきの男性が戻って来てうちの前で足を止めた。
 いつもの癖で思わず「こんにちは」と声を掛けてしまった。
 スマートウォッチを見つめてこちらなど無視。
 女性は会釈なんかを返してくれるが、男性は完全無視する人が多い。
 
 ま、そりゃそうかと煙草を灰皿に押しつけようとしたタイミングで男性が顔を上げ、周りを見廻しこちらに振り向いた。

「こんにちは」

 これが、瀬戸口涼くんとの出会いだった。
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